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津波被害と原発震災に立ち向かう人々とともに

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【論考】  IAEAと福島  〔その2〕








 【論考】  IAEAと福島  〔その2〕 




【Ⅰ】IAEAが福島に拠点
【Ⅱ】原発再稼働とIAEA安全基準
【Ⅲ】除染ミッションの指摘
【Ⅳ】低線量被ばくとロシャール
【Ⅴ】IAEAが健康調査を支援
【Ⅵ】改めてIAEAとは
【Ⅶ】IAEAと福島県当局



以下のように3つに分けて掲載
【Ⅰ】【Ⅱ】【Ⅲ】‥‥〔その1〕
【Ⅳ】【Ⅴ】‥‥‥‥〔その2〕
【Ⅵ】【Ⅶ】‥‥‥‥〔その3〕


・〔人物について敬称は省略した〕
・〔参照・引用した資料は末尾に掲載〕



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【〔その1〕から続く】




【Ⅳ】 低線量被ばくとロシャール
 



 昨年3月の事故発生来、福島の住民が国に対して抱く不信の中でも最大の問題は、被ばくと健康被害の問題だろう。山下俊一の「100ミリシーベルト以下は健康には影響ない」という宣伝、避難を求める住民の要求を拒む国や県、20ミリシーベルト以下で学校を再開させるとした文科省の基準、20ミリシーベルトを基準に行われている避難区域の再編などである。
 国は、何とか住民の要求を抑えつけようとするが、住民の強い不安・不信と切実な訴えに繰り返し押し返されている。


(一)「阻止すべきである」


 この福島の現状を見て、IAEAが抱いている最大の問題意識も、低線量被ばくの領域で後退を許さないということだろう。念のために言っておくと、彼らの言う低線量被ばくとは、積算被ばく線量で100ミリシーベルト以下のことだ。
 IAEAが、住民対策で手を焼く当時のソ連政府の要請を受けて、1990年にチェルノブイリの現地に入って作成されたレポートに、以下のようなくだりがある。

 「(放射線防護の基準に関して)ある国で取られた判断が、他の国の判断に大きな影響を及ぼすということを認識する必要がある。ある場合、国の当局は、隣国の基準に合わせることで、公共の安全が保たれると考える。しかし往々にして、各国は、社会的政治的な圧力を受け、国民の信頼を得ようとして、互いに、他の国より低い基準を採用しようとする。しかし、それは、互いに低い基準を採用し合う悪循環となり、究極的には国民の信頼を喪失することになる。したがってそれは阻止されるべきである」〔IAEA国際チェルノブイリ・プロジェクト テクニカルレポート *19〕

 これは、そのまま、今の日本にあてはまる。政府が後退すれば、それは他国に波及し、原子力産業にブレーキとなるから、断固として阻止しなければならないということになる。


 ▽ ICRPとは


 冒頭でも紹介したように、IAEA福島会議の第3セッションでは、ICRPからクレメントとロシャールという二人が基調報告を行う。ICRP(国際放射線防護委員会)とは何かということと、基調報告者のクレメントとロシャールについて先に説明しておく必要があるだろう。
 ICRPは、世界に250人ほどの委員がいる非政府の組織。
 しかし、ICRPが出す勧告は、国際的な権威とされ、IAEAの安全基準、各国の放射線防護に関する法令の基礎にされている。
 ICRPの前身は1928年に作られ、1950年に現在の名称になっている。その際、原爆製造のマンハッタン計画にかかわった米国の物理学者らが中心となった。
 主委員会と4つの専門委員会からなり、組織の中心をなす主委員会のメンバーは十数人。主委員会のメンバー補充は、委員会自身が行う。勧告を決めるのも主委員会。かなり私的で、閉鎖的かつ集権的な組織だ。 
 委員はとくに各国を代表しているわけではないが、核保有国や各国の原子力機関・研究機関の専門家や官僚たちで、自国の放射線防護基準の策定に関わっている。そのために、単なる私的組織の見解が、世界基準のように扱われている。
 財政は、WHO、IAEA、OECD原子機関および、米、加、英、仏、日などの国内機関からの拠出によって成り立っている。

 ◇クリストファー・クレメント
 ICRP科学事務局長。カナダ人でオタワ在住。ICRPの専従はクレメントとその助手の2人だけで、各国250人の専門家のネットワークを仕切っている。

 ◇ジャック・ロシャール
 ICRP主委員会委員 第四委員会(勧告の適用)委員長。フランス人。放射線防護が専門で経済学者でもある。フランス放射線防護協会の会長を務めた。放射線防護の基準に、リスクと利益を比較する考え方を持ち込んだ。
 1990~91年のIAEA国際チェルノブイリ・プロジェクトに参加。その後もバラルーシで長くプロジェクトを担った。

 
(二) 「線量について誤解が蔓延」


 ロシャールは、福島原発事故以降、いわき市や伊達市などで住民との対話集会を行うなど、福島に深く関わり始めている。
 そして、昨年11月末に開催された「第5回 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」で、クレメントとロシャールが報告を行っている。〔*20〕
このワーキンググループは、政府・官僚や有識者が集まって、毎回、内外の専門家に報告をしてもらい、低線量被ばくに関する理論や対策を研究しようというもの。昨年11月から12月にかけて、6回にわたって開催されている。
 ここでは、クレメントとロシャールが行った報告について以下で立ち入って検討したい。
 というのも、クレメントが、ICRPの問題意識を次のように述べているからだ。 
 「ICRPとしては、<(福島の)親御さんたちは子どもたちの防護が十分ではないと感じている>という感触を得ている。線量ということに関して誤解が蔓延している。防護システムに関して、十分に理解されていない。問題点を洗い出して、それを解決していこうということだ」〔*21〕
 そして、「最終報告書を1年以内に策定する」と、昨年11月段階で述べている。つまり、IAEA福島会議で、これから行う報告が、その内容になるだろうということだ。1年前のワーキンググループでのクレメントとロシャールの報告が、その原形をなしていると見て間違いないだろう。
 

 ▽ 5年後に5ミリシーベルト

 
 ロシャールは、厳しい線量基準を取ることを戒めて、チェルノブイリの事故の際の例を示している。

 「(チェルノブイリ事故の被災地域で採用された避難基準の)年間5ミリシーベルトということに関して、事故から5年近く経ってから採択されたということをまず念頭に置いていただきたい。
 初年度(1986年)にソ連で採択された基準は100ミリシーベルト。2年目は30ミリシーベルト。3年目に25ミリシーベルト、4年目も同じ。
 それから選択が迫られた。『5ミリシーベルトはかなり野心的だ』と言われる一方で、『いや、1ミリシーベルトにすべきだ』という意見もあった。かなり時間がかかった。そして、歩み寄りがあがって、91年初頭、ソ連が崩壊し三つの共和国になって同じアプローチが採択されて、『長期的には5ミリシーベルトまで下げていく。それが可能でないならば退去された方がいい』となった」〔*22〕

 日本政府に、ソ連の例を引き合いに、<1年目は100ミリシーベルト。5年目でも5ミリシーベルト。だから日本政府も、1ミリシーベルトという要求に屈してはならない>と叱咤しているのだ。
 

 ▽ 歩み寄りではなく抗議の圧殺
 


 ところで、チェルノブイリ事故後の避難基準の変遷は、結論だけを見ればロシャールの言っていることで誤りではないが、その結論に至るプロセスはかなり違う。
 チェルノブイリ事故後、ソ連の体制の行きづまりと相俟って、次第に、事故原因の解明、汚染対策、責任の追及な度を求める運動がソ連の各地で広がっていた。汚染地域である白ロシア(のちに独立してベラルーシ)やウクライナの共和国政府もそれに突き動かされて、ソ連中央政府に対策を求めた。窮地に陥ったソ連中央政府がIAEAに助けを求めた。そこで実施されたのが、IAEA「国際チェルノブイリ・プロジェクト」という調査。その委員長は当時・放影研理事長の重松逸造。91年5月に提出されたその報告書は、上でも述べたように、「他国より低い線量レベルを導入(するのは、)断固として阻止すべき」とした上で、「放射線への被ばくと関係するいかなる健康被害も認められなかった」と結論づけた。
 この結論に対して、このプロジェクトに参加した白ロシアやウクライナの専門家たちが、「ウクライナや白ロシアの健康機関は・・・甲状腺がん、循環器系、呼吸器系、消化器系の病気、さまざまな炎症、生殖機能障害、免疫系機能低下、染色体異常の増加などについて、十分に信頼できるデータを得ている」「(報告書の)結論には、われわれは到底同意できない」という抗議声明を出している。〔*23〕しかしIAEAはこの抗議を全く無視した。
 その間にソ連の崩壊(1991年12月)が進行し、各共和国が独立していく。だが、独立によって財政危機がいっそう深刻化し、各共和国は移住や補償の費用を用意できない。そういう事情を背景に、5ミリシーベルトという基準が受けいれられていくことになる。
 ロシャールの説明では、あたかも多様な意見が戦わされ、議論の末に歩み寄ったかのように聞こえるが、事実は、抗議を圧殺し、窮状に付け込んで押し付けたということだ。
 日本においても、同じやり方がなされようとしている。
 

(三) 放射能と共存する文化


 さらに、ワーキングループ報告でクレメントとロシャールは、厳しい基準を阻止するための論理と戦術を提起している。


 ▽ 科学ではなく価値判断


 「放射線の影響を科学的に理解するのも重要だが、価値観ということが重要だ。科学だけでは答えることができない。放射線防護の科学というのは一部に過ぎない。環境的な要因、経済的、社会的、心理的、文化的、政治的、そして倫理的なこともある」(クレメント)〔*24〕

 放射能汚染を原因として健康被害が発生している。これは科学的に解明されている問題だ。ところが、クレメントは、それを否定しないが、相対化する。
 たとえば、<健康被害は、放射線の線量に比例的に対応して起こるわけではないだろう><原因は放射能だけではない。また防護も数字にとらわれているだけではだめだ><線量が高いからと、汚染を問題にする住民がいるが、それは科学的な根拠があって言っているのではない。経済的社会的な要求を言っているのだ>と。
 こういう風に焦点を放射能以外の問題にずらしながら、汚染地域にだって、住民の価値観次第では生活できるのだという方向に導いている。
 なお、この考え方を戯画的に表現したのが、「ニコニコしている人には放射能はきません」という山下発言。エキセントリックだが、歴としたICRPの考え方なのだ。
 

 ▽ リスクとプラスのバランス


 クレメントは、次に「防護戦略を最適化する」ということを提起する。
 「最適化」について既に上で扱ったが、改めてクレメントの説明によれば次のようになる。
「現状でできる限りのベストを尽くすのが最適化だ。必ずしも最も低い線量を目指すということではない。リスクとプラスの面とのバランスを取るということだ。
健康や環境の保護、社会の要求といったすべてが、参考レベル(線量の基準)を下げようという圧力として働く。
 しかしながら、現実も考えなければならない。除染のコストも考えなければならない。仕事や自宅、学校に戻りたいという希望もある。考え方としては、放射線のリスクと、経済の正常化というメリットを勘案することだ」(クレメント)〔*25〕

 まず、放射線のリスクと健康被害を問題にすることを「圧力」として扱い、厄介なもの、不当なものとして見ている。
 そして、そういう「圧力」に対して、「除染のコスト」「戻りたいという希望」「経済の正常化」などをメリットとして対立させる。たしかにどれも一概に否定はできない事柄だ。住民の要求という面もある。
だが、このように問題を対立させたとき、どういうことが起こるか。住民同士の対立である。地域間、業種間、世代間、家族内の果てしない対立だ。これは、福島において、1年9カ月の間、いやというほど経験してきたことだ。
 クレメントは、このように、住民同士の対立を意図的につくり出し、それを利用して、放射線のリスクと健康被害を問題する「圧力」を抑え込んで、厳しい基準が導入されないようにする方法を指南している。

 ◇本当に得をするは誰か
 ところで、こうして、本当にメリットを受け取るのが誰かと言えば、原子力を推進する側だけ。住民は、対立だけがもたらされ、誰も大したメリットは受けられない。
 ところが、放射能汚染と健康被害の問題は、メリットがあるかどうかで受けいれられるようなものではない。健康被害を被った者やその家族にとって、それは深刻な問題だ。
結局、リスクもあるがメリットもあるという言い方で、あたかも同じ住民においてリスクもメリットもあるように聞こえるが、実際のところは、リスクは一方的に住民に、そして、メリットは全部、原子力を推進する側にということになっている。
この核心問題を誤魔化して、リスクとメリットと言うのが「最適化」なのだ。


 ▽ 「住民自身で」
 


 さらにロシャールは、住民が抱いている政府や行政に不信や怒りを別の方向に逸らす手立てを示している。
  
 「住民と当局との間に大きなギャップがあった。遺棄されてしまったという気持ちが支配していた。『政治家はウソをついている。真実を語っていない』という不信感があった」(ロシャール)〔*26〕

 これはチェルノブイリで起こったことであり、いま福島で起こっていることだ。当然にも、原子力施策を推進してきた政府・行政に怒りが向かう。
 これにたいしてロシャールはこのように説いたという。

 「被害者ぶるのはやめよう」「来ない資金援助を待つのはやめよう」「自分たちは自助努力をしなければいけない」(ロシャール)〔*27〕

 そして、放射線の測定、食品の測定、除染、汚染の少ない農産物の工夫など、「汚染地域における生活の改善」を、住民の参加で、住民の自助努力で行うようにしたことが重要だったと述べている。

 「数値上の黒白ではなく、住民が、自助努力で放射線防護に取り組み、状況を改善するすることで、住民は、基準値より上か下かということをそれほど気にしなくなる」(ロシャール)〔*28〕

 こうして、政府・行政への信頼も回復されたと述べている。
 「住民が自身で」という文言は、これだけを取り出せば耳触りの良い言葉だ。たしかに、こういうことが課題として存在するということも確かだ。実際、線量の測定に始まり、住民自身で放射能汚染を対象化し、防護策を講じて行こうという動きは各地であるし、それは大事なことだ。
 ただ、これを説いているのが、誰なのかだ。原子力を推進してきた側、原因者であり、加害者の側、そちらの側に立つ者だ。加害者が、被害者に向かって、「自助努力を」と説く意図は何なのか。
 それは、<国や行政にたいする責任追及や賠償請求をやめよう>という呼びかけに他ならない。そして、「生活改善」を取り組む方向に、住民の怒りをそらしていくということだ。

 そして、ロシャールは報告のまとめで、「放射線防護の文化」といっているが、以上を通して見てみるならば、ロシャールが説いているのは、「放射能と共存する文化」だと言うべきだろう。

 ▽ エートス・プロジェクト

 以上の報告、とくにロシャールのそれは、「国際チェルノブイリ・プロジェクト」(1990~1991)に関わった後、ロシャール自身が、ベラルーシで主導した「エートス・プロジェクト」(1996~2001)、および「COREプログラム」(2004~2008)の実践に基づいている。
そのプロジェクトの結果は悲惨だ。子どもたちの健康被害に改善が見られなかったばかりか、被害は悪化し慢性化している。
 すでに、ロシャールが福島に深く関わり始め、それに呼応する住民の動きもあるが、IAEA福島会議以降、IAEAと県が共同のプロジェクトがどういう方向に進むかは、以上の分析から明らかだろう。




【Ⅴ】  IAEAが健康調査を支援 

 

(一) チェルノブイリから福島へ


 IAEAは、チェルノブイリ事故の後、専門家を現地に動員して、繰り返し疫学調査を行っている。その結論は、ことごとく放射能汚染による健康被害を過小評価するものであった。
1991年の「IAEA 国際チェルノブイリ・プロジェクト報告」では「汚染に伴う健康影響はない」、1996年のIAEAチェルノブイリ10周年総括会議でも「小児甲状腺がんの影響のみで、その他の影響はない」。
 IAEAにとって、福島原発事故においても、「健康被害はない」という結論が必要なのだ。
 これに応える形で動いたのが、日本財団であり、また福島県立医大だ。
 事故から半年の昨年9月、日本財団と県立医大が、国際専門家会議「放射線と健康リスク-世界の英知を結集して福島を考える」を福島市内で開催している。国際専門家会議と称しているが、その実態は、国連科学委員会(UNSCEAR)、WHO(世界保健機関)、IAEA、ICRPなど、原子力推進の立場から低線量被ばくの健康影響を事実上認めない専門家に限られている。
 そして、この会議のまとめとして出された「結論と提言」〔*29〕という発表で重大なことが言われている。

 ▽ 日本財団とチェルノブイリ調査

 会議の「結論と提言」を見る前に、この会議を主催した日本財団とチェルノブイリのかかわりについて先に言及しておこう。
 日本財団の創始者である笹川良一の評価や競艇ビジネスの是非は措くとして、日本財団(日本船舶振興会、笹川記念保健協力財団など)のチェルノブイリとの関わりは古い。IAEA「国際チェルノブイリ・プロジェクト」が1990年5月から1年だったが、笹川記念保険協力財団が組織したチェルノブイリでのプロジェクトは、1990年8月に始まり、2001年まで10年にわたって健康調査などを行っている。潤沢な財力で、述べ450人の専門家を派遣し、機材を提供している。
 日本財団のプロジェクトの最初の団長が、IAEAのプロジェクトの委員長でもあった放影研の重松理事長(当時)。重松は、広島原爆の黒い雨について<人体への影響は認められない>という1991年の調査結果を出した人物であり、それにとどまらず、水俣病、イタイイタイ病、スモンなど、公害や薬害において、常に原因者を擁護する調査結果を発表してきた人物。
 そして、この日本財団のプロジェクトに、放影研、放医研、長崎大、広島大の研究者が送り込まれ、多数の論文を書いている。今日、IAEAの側に立って活動している久住静代(元・原子力安全委員会委員)、柴田義貞(長崎大学教授)、長瀧重信(元・放射線影響研究所理事長)、山下俊一(福島県立医大副学長)などの人物たちもここで育てられたといって過言ではない。
 この日本財団のプロジェクトを総括する座談会が2004年に行われているが、そこでの発言から、このプロジェクトの意味を理解することができるだろう。

 「長瀧先生はチェルノブイリを千載一遇のチャンスだととらえて尽力されていました」(山下俊一の発言)
 「(日本財団の10年のプロジェクトを総括して言えることは)fall‐outの影響というのは、科学的には甲状腺がんしかないということです。fall‐outとしては白血病は全然増えていない、他の病気も増えてない、ということを、社会に、日本全体としてあるいは世界にアピールすることは、いままでかかわった人たちの大きな任務」(長瀧重信の発言)〔*30〕  ※fall‐out 放射性降下物

 まさに、山下をはじめとする人びとは、このような意気込みでいま福島に乗り込んできているということだ。
 さて、この日本財団「結論と提言」を以下で検討したい。
 
 ▽ 日本財団「結論と提言」

 ◇「健康影響は小さい」と予断

 「住民の避難、屋内退避や食の安全規制は適切に実施された。・・・甲状腺被ばく線量は比較的低かったとされており、必ずしも(安定ヨウ素剤の)服用の必要はなかったと考えられている。・・・・避難民も含めて、一般住民への直接的な放射線被ばくによる身体的健康影響は、チェルノブイリに比べて限定的で非常に小さいと考えられる」  〔*31〕

 まだ県の健康調査が始まったばかりだというのに、すでに「健康影響は、限定的で非常に小さい」という結論を打ち出してしまっている。
 さらに、次のように言う。

 ◇ABCC-放影研の成果を

 「過去60年の長きにわたり、保健関連の専門家や科学者による広島と長崎の被爆者への医療支援と研究を通じて、日本は世界でも最高の放射線に関する経験や知識を有している。この専門知識は福島原発事故により被災した住民に対して還元すべきである」〔*32〕

 一見もっともらしいが、ここで言う「長きにわたる研究」とは、ABCC(原爆傷害調査委員会)から放影研(放射線影響研究所)に受け継がれてきた疫学調査のことだ。
 それは、原子爆弾の威力でどれだけの人間の戦闘能力を失わせることができるかという計算を行うための基礎データをそろえる研究だった。広島・長崎で被爆した人の外部被ばく線量と爆心地からの距離だけに着目し、死の灰による内部被ばくと長期にわたる健康被害については無視するという歪んだ研究だった。
 こうして割り出された結果が、ICRPのリスク評価モデルになっており、チェルノブイリ事故による汚染で被ばくした人びとの判定の基礎になっている。
 しかし、チェルノブイリでも問題になっているのは、低線量被ばく、内部被ばくによる健康被害なのだ。ところが、ABCC-放影研の研究結果に依拠したモデルで見たとき、それはまったく切り捨てられ、「放射線の影響ではない」とされてしまう。
 このモデルを今度は福島にも適用しようとしている。

 ◇治療はなく「理解してもらう」

 「保健関連の専門家と科学者は、放射線影響の可能性とその有無についての理解促進に努め、現在の情報をできるだけわかりやすく福島県住民と住民以外でも危惧している人々に理解してもらうよう心がけるべきである」〔*33〕

 この「結論と提言」には、疾患が出たら治療を行うという領域がほとんど触れられていない。「健康影響は、限定的で非常に小さい」という予断をもっているわけだから当然ともいえるが、最大の取り組みが、「継続した健康モニタリング」と「影響の有無の理解促進」になっている。
 
 ◇「災害から学んで利用」

 「日本政府と国際機関は、長期的な協力関係を効果的に継続するために、この災害から学んだことをいかに最大限利用できるかという課題を解決すべきである」〔*34〕

 この災害から多くの人が学んだことは、<放射能と人間は共存できない。原子力は直ちにやめるべきだ>ということだろう。それは「利用」するような事柄ではない。
 ここで「利用できるか」という文言の含意は、<事故が起こっても、影響を小さく抑えることができる方策>ということになる。原子力推進する立場でないとそれは利用できない。

 ◇「国際機関の支援」

 「放射線関連事項に関する幅広い経験を生かしたICRP、WHO、IAEA、UNSCEARなどの諸機関による長期にわたる支援が重要である」「政府と地方自治体、他の関係者、関係する地域出身の市民代表者、そして国際機関などからなる福島原発事故に関するタスクフォースの組織化に着手することである」「福島で計画される種々なプログラムについて、国内および国際的機関から出される助言・勧告の積極的な調整」「管理者や専門家らの一連の会議を組織し、それらを通して、事故から起こされる放射線による環境影響と健康影響について『信頼のおける統一見解』のとりまとめ」〔*35〕

 健康調査などのプログラムは、IAEAなどの支援の下で、その基準に則り、助言・勧告に従って、行われなければならないという意味だ。
 政府、地方自治体、市民代表までが、ひとつのチームとなることを要求し、そこで出される「見解」が唯一の「信頼のおける統一見解」でなければならないとしている。

 ▽ 県の正式の方針

 この日本財団「結論と提言」が、一部の集団による勝手な見解として出されているのなら、無視すればいい。
 しかし、この日本財団「結論と提言」は、県民健康管理調査・検討委員会(第4回 10/17)で配布され、議事の一番目に取り上げられている。このことからもわかるように、山下副学長の下で、県と医大の正式な方針として確認され、県民健康管理調査のこの間の進め方、そして山下副学長を中心とした県民健康管理調査・検討委員会の議論のやり方に反映されているのだ。
 それは、恐ろしいことだが、IAEAが、チェルノブイリにもたらした事態を、再び福島で繰り返そうというのだと言わざるを得ない。
 
 
(二) 県民健康管理調査と医大の体制 


 日本財団「結論と提言」で示された通りの方向で、「県民健康管理調査」が進められ、県立医大の新しい体制づくりが行われている。

 ▽ 「影響ないことを解明」「不安除去に貢献」

 全県民を対象にした県民健康管理調査が昨年から行われているが、県立大の倫理委員会に提出された研究計画書が、その目的を端的に語っている。

 「原子力発電所の大規模事故における周辺一般住民の外部被ばく線量の実測を早期に実施した事例はなく、今後の低線量被ばくに対する健康管理影響解明における学術的な貢献度は高い。・・・県民の放射線に対する不安除去に貢献することができる」〔*36〕
「本格調査においては、・・・現時点で予想される外部及び内部被ばく線量を考慮するとその影響は極めて少ないことを明らかにできる」〔*37〕

 健康調査は、「(被ばくの)影響は極めて少ないことを明らかにできる」ことが目指されており、もって、「県民の放射線に対する不安除去に貢献する」ためのものだと明記している。そして、「影響がない」という結論を得ることが、「低線量被ばくに対する健康管理影響解明における学術的な貢献」になるというのだ。
 しかも、「原子力発電所の大規模事故における周辺一般住民の外部被ばく線量の実測を早期に実施した事例はなく、今後の低線量被ばく・・・」というように、今後も原発事故が起こるという見地から、事故が起こっても低線量被ばくの対策は取らなくても大丈夫だというのだ。それは、原発事故を繰り返しても原発を推進し、犠牲者が出てもそれを省みないということに他ならない。
 まさにIAEAに貢献する県民健康管理調査なのだ。
 

 ▽ 医大に新体制が続々

 県立医大では、昨年来、以下のような部門、講座などが続々と新設されている。
 ・放射線生命科学講座(2011年11月)
 ・放射線健康管理学口座(2011年10月)
 ・国際連携部門(2012年4月)
 ・ふくしま国際医療科学センター(2012年11月)

 ◇「不安解消」

 ここでも、その目的は一貫している。
 「当講座は福島原発事故後の福島県民の低線量被ばくによる人体への影響の調査研究を目的に2011年11月に新設されました。・・・福島県民の皆様が持つ放射線被ばくへの不安を解消するため・・・」(放射線生命科学講座)〔*38〕
 「長崎・広島の原爆被爆者、チェルノブイリ原発事故後の周辺住民等の疫学調査の結果等から得られた科学的知見をもとに、福島における低線量被ばくの健康影響やリスク管理について、県民の長期にわたる心身両面の健康に役立つ新たな知見を蓄積することを使命と考えています」(放射線健康管理学口座)〔*39〕
 放射線生命科学講座には、神谷研二副学長がついており、放射線健康管理学口座の大津留晶主任教授は、長崎大で山下修一教授の元にいた人物。

 ◇IAEAから教授

 国際連携部門では、「世界の英知を結集する必要があるとともに、世界に向けて発信していく必要がある」「国際機関、海外大学、海外研究機関から専門家を招聘する」として、IAEAから専門家を教授にすえた。
 IAEAのヒューマンヘルス部長のレティ・キース・チェム。放射線医学を専門とする医師で、IAEAと日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、広島大学、長崎大学などをつなぐ窓口となっていた人物。
 山下によれば、「県民健康管理調査に関する専門的な見地からの支援を行う」(2012年3月1日 記者発表)という。県民健康管理調査が、IAEAの考え方と方法で行われるということを明言している。

 ◇「人類の財産」

 「ふくしま国際医療科学センター」は、放射線医療や県民健康管理調査の拠点。既存の「県民健康管理センター」に加え、「先端医療臨床研究支援センター」「先端診療部門」「医療産業リエゾン支援センター」「教育人材育成部門」の5つの機能を設けるという。
 「先端医療臨床研究支援センター」は、被ばく線量モニターの開発など最先端医療機器の整備。「医療産業リエゾン支援センター」は企業と協力して新薬の開発。「教育人材育成部門」は放射線被ばくを含む災害医療に関する人材育成。
 菊地臣一学長は、「低線量被ばくのデータを明らかにして、人類の財産にしたい」(2012年7月22日 共同通信)としている。「人類の財産」というが、原発事故を繰り返すということが前提として成立する研究ばかりと言わざるを得ない。



【以下は、〔その3〕に続く】


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【参照引用注】


〔*19〕 IAEAホームページ
      The International Chernobyl Project. Technical Report.(国際チェルノブイリ・プロジェクト テクニカルレポート)
〔*20〕 内閣官房HP 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ
〔*21〕 内閣官房HP 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ
      第5回会合(2011年11月28日) 議事録(※引用部分は要約)
〔*22〕 ⇒〔*21〕
〔*23〕 原子力安全研究グループHP  「IAEA報告への反論」今中哲二・訳 『技術と人間』1992年9月号 
〔*24〕 ⇒〔*21〕
〔*25〕 ⇒〔*21〕
〔*26〕 ⇒〔*21〕
〔*27〕 ⇒〔*21〕
〔*28〕 ⇒〔*21〕
〔*29〕 福島県ホームページ 県民健康管理調査検討委員会  第4回検討委員会(2011年10月17日) 当日配布資料
〔*30〕 笹川記念保健協力財団HP 「笹川チェルノブイリ医療協力事業を振り返って」
〔*31〕 ⇒〔*29〕
〔*32〕 ⇒〔*29〕
〔*33〕 ⇒〔*29〕
〔*34〕 ⇒〔*29〕
〔*35〕 ⇒〔*29〕
〔*36〕 情報公開クリアランスHP 県民健康管理調査 福島県立医大倫理委員会資料
〔*37〕 ⇒〔*36〕
〔*38〕 福島県立医大ホームページ
〔*39〕 ⇒〔*38〕








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