福島 フクシマ FUKUSHIMA

津波被害と原発震災に立ち向かう人々とともに

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「大丈夫」とくり返す甲状腺説明会

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 福島県が実施している子どもを対象にした甲状腺検査について、福島県と福島県立医大の主催する住民説明会が、11月4日郡山市内、10日には福島市内で行われた。
 〔写真上:超音波による甲状腺検査を実演する鈴木眞一福島県立医大教授。被験者はスタッフ〕

 以下、甲状腺検査をめぐるこの間の経緯を概観しつつ、県と県立医大の説明内容について検討してみたい。 〔11/19に一部加筆〕




【Ⅰ】 ヨウ素と甲状腺がん



未解明のヨウ素の流れ


 昨年3月の福島第一原発事故によって大量の放射性物質が放出され、住民の多くが被ばくし、健康被害の危険にさらされている。
 中でも放射性ヨウ素については、半減期が8日と短いことから、一方で、事故後2~3カ月以内にはほとんど消滅しているが、他方で、半減期の短さゆえに放出される放射線の線量が強く、人体に与える危険度は大きい。とりわけ成長期の子どもが甲状腺にとり込みやすく、甲状腺がんになる危険がある。
 事故で放出された放射性セシウムの動きについては、原発から北西方向に広がる汚染地図がよく知られている。ところが、放射性ヨウ素の動きについては、事故直後に調査が行われていないため、実態はわかっていない。
 国が明らかにしているSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)によれば、下図のように、原発から北西方向への流れとともに、いわき市など南方向への流れがあったと推測されている。


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 事故当時、原発から北西方向の浪江町津島地区には、多くの住民が1~2週間、避難をしていた。また、いわき市では、水や食糧を求める行列に、親とともに子どもたちも並んでいた。そこに大量の放射線性ヨウ素が降り注いでいた。多くの住民が、「金属の味がした」「皮膚がピリピリした」などの特徴のある証言をしている。
しかし、このとき、住民には、放射性ヨウ素の情報はまったく届けられていない。それどころか、ヨウ素剤を配布しようとした自治体に対して、県が配布を止めようとしたという事実さえあった。
 このために多くの住民が被ばくを余儀なくされている。とくに子を持つ親たちは、強い不安と後悔の念に苛まれている。

 
甲状腺検査の結果


 こうした中で、昨年10月から、福島県健康管理調査の一環として、福島県と県立医大によって、甲状腺検査が始められた。対象は、原発事故当時に0~18歳の県内の子どもたち約36万人。一次検査は超音波画像による専門家の判定。その後、必要に応じて、より詳細な検査を二次検査で行うとしている。昨年10月に開始され、今年8月現在で約8万人が検査を受けた。
 県と県立医大が9月11日に行った県民健康管理調査・検討委員会で公表した検査結果を簡単にまとめると以下の通り。


◇一次検査の結果(8月24日現在)

2011年度2012年度
実施総数38,114人42,060人
結節なし嚢胞なし64.2%56.3%
5ミリ以下の結節や20ミリ以下の嚢胞35.3%43.1%
5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上の嚢胞 0.5% 0.6%
直ちに二次検査を要する 0.0% 0.0%


                
◇二次検査の結果(8月31日現在)

二次検査対象者検査終了甲状腺がん良性腫瘍
186人38人1人27人



検査実施対象地域:福島市、南相馬市、伊達市、田村市、川俣町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、飯舘村
 

鈴木教授の説明


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 上記のように、「5.0ミリ以下の結節や20ミリ以下の嚢胞を認めたもの」が、昨年度で35.3%、今年度では43.1%になっている。そして、1人の甲状腺がん発症が確認された。この結果を受けて、11月4日、郡山での甲状腺検査・説明会となった。
 説明に当たったのは、県民健康管理調査・検討委員会の鈴木眞一県立医大教授。福島県立医大病院の乳腺・内部分泌・甲状腺外科部長で、甲状腺検査の中心を担っている人物。
 鈴木教授の説明の概要は以下のようなものであった。

・一般(成人)の甲状腺がんは、固形がんの中でも最も予後がいい。
・甲状腺がんは、年齢が上がるほど、生存率は下がる。若いほど進行は遅い。
・チェルノブイリ事故の場合、汚染された牛乳等を摂取したために内部被ばくをしたことが原因。福島事故の場合、牛乳を廃棄したのでその心配はない。
・日本の場合、海草類を食べるなど日常的なヨウ素の摂取が多いので、チェルノブイリとは違う。
・小児甲状腺がんは、欧米の統計で年間100万人あたり1~2名に発生。きわめて少ない。日本の統計は取っていない。 
・チェルノブイリの知見から、事故による放射線の影響が出てくるのは4~5年後。今回の二次検査で見つかった甲状腺がんは、事故との因果関係はない。
・放射線被ばくによる発がんリスクは、より若いことと、100ミリシーベルト以上の線量ということが影響している。
・現時点では子どもに甲状腺がんの増加が起こる可能性は低い。
・検査体制が整うことによって、一時的に早期発見され、より若年で発見される可能性がある。たとえ発症してとしても、成人より進行が速いとは言えない。
・甲状腺がんの目的は、保護者の不安の解消と、甲状腺がんの増加がないことを確認するため。




【Ⅱ】 秘密会と放影研の系譜



 ここで、教授の説明内容の検討に入る前に、県民健康管理調査を巡って生起している問題とその背景を見ておきたい。

 県民健康管理調査とは、全県民を対象に、今後30年以上にわたって、原発事故後の健康状態の調査を行うというもの。
 その検討委員会とは、県立医大が実施する健康管理調査について、専門家の立場から助言するもの。山下俊一県立医大副学長を座長に、放射線医療総合研究所、広大原爆放射線医科学研究所、放射線影響研究所(放影研)、環境省、内閣府、文科省、厚労省などの担当者、県立医大の教授など、総勢19名で構成され、昨年5月から今年9月までに計8回開催されている。


医師に圧力


 山下氏は、甲状腺学会に所属する医師に宛てて、甲状腺検査に関して、以下のようなメールを送信している。〔田中隆作ジャーナル 2012年6月2日〕
「異常所見を認めなかった方だけでなく、5ミリ以下の結節や20ミリ以下の嚢胞を有する所見者は、細胞診などの精査や治療の対象とならないものと判定しています。先生方にも、この結果に対して、保護者の皆様から問い合わせやご相談が少なからずあろうかと存じます。どうか、次回の検査を受けるまでの間に自覚症状等が出現しない限り、追加検査は必要がないことをご理解いただき、十分にご説明いただきたく存じます」
 診療をするなという圧力とも受けとれる内容である。医師法では、<医師は診療を拒否してはいけない>とされているのだが、実際に、母親が市内の5病院に電話をかけたが断られたという事実が報告されており、このメールの影響と指摘されている。


秘密会の発覚


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 さらに、10月3日付の『「毎日新聞』〔写真上〕が、この県民健康管理調査・検討委員会をめぐって、重大な事件を報道した。
 この検討委員会の開催にあたって、事務局を務める県保健衛生部の担当者が呼びかけて、事前に委員らを集め、秘密裏に準備会を開いていた。会場は、検討委員会とは別で、配布した資料も回収、議事録も残さず、委員への口止めも行われ、存在自体を隠していた。
 9月11日の検討委員会直前の秘密会では、甲状腺検査で甲状腺がんの発症がはじめて確認されたことを受け、「原発事故と甲状腺がん発症との因果関係はない」との見解を確認、さらに検討委員会の場で委員が事故との関係を質問し、調査を担当した県立医大がその質問に答えるというシナリオまで話し合っていた。
 そして、検討委員会の場では、シナリオ通りに因果関係を問う質問が出され、鈴木教授が、<チェルノブイリ事故で甲状腺がんの患者が増加したのは事故から4年以降だった>として今回の甲状腺がん発症と原発事故との因果関係を否定した。
 県民健康管理調査・検討委員会をめぐって、県が主導して、秘密会を持って、意志一致を行い、想定問答まで用意していた事実は、国や県の意図を端的に示していると言わざるを得ない。
 浪江町の馬場町長の次のような指弾が、的を射ているだろう。
「議論を誘導したい県の意図が明らかだ。健康被害を過小評価する結論が先にあるからで、結論ありきで会議をまとめるには秘密会が必要なのだろう」


「100ミリまで安全」の山下氏


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 検討委員会座長の山下県立医大副学長は、周知のように、事故直後から福島に入り、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとして各地で講演して回った人物。
「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは明確な動物実験でわかっています。笑いが皆様方の放射線恐怖症を取り除きます」、「毎時10マイクロシーベルトを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、昨日もいわき市で訊かれました。『今、いわき市で外で遊んでいいですか』『どんどん遊んでいい』と答えました。福島も同じです」、「影響があるのは100ミリシーベルト以上の放射線量を1回で受けたときで、将来、がんになる可能性が1万人に1人ぐらい増える」
 このような発言を繰り返している山下氏だが、ここには根深い背景がある。
 かつてチェルノブイリ事故後の1991年、IAEA(国際原子力機関)が、「事故後の白血病や甲状腺がんの顕著な上昇は証明されなかった」という報告書をまとめたが、その調査の責任者が放影研の初代理事長の重松氏。そして、放影研の二代目理事長の長滝氏は、「チェルノブイリの放射能による死者は、急性放射線障害の28人と小児甲状腺がんの15人だけ」と発表した人物。そして、この長滝氏の指導下で研究していたのが山下氏。
 山下氏も、チェルノブイリの健康調査に携わり、世界中の科学者が合意した唯一の症状が小児甲状腺がんの増加のみで、「現地では貧血や好酸球増加が多く見られ、免疫不全を示唆するデータの報告もあるが、いずれも放射線に起因する確かな証拠はない。当然、白血病の増加も確認されていない」と見解を発表している。


ABCC=放影研の歴史


 ところで、山下氏を指導した長滝氏が理事長を務めた放影研という組織の出自と歴史に注目しておく必要がある。

 放影研とは、ABCC(原爆傷害調査委員会)を引き継いだ日米共同の機関。ABCCは、アメリカが原爆投下後の1947年に広島に設立(翌年に長崎)、原爆による放射線の人体への影響を調査してきた。
 原爆生存者のうち12万人を母集団として、その人たちが被爆した場所やその放射線量を調べあげ、長期にわたって健康を調査し、死亡すればその死因を追跡する。こういうことを今日も続けている。世界に類例のない疫学調査だ。
 その調査の目的は、核兵器の威力を確認し、核戦争に備えるため。だから、ABCCは、被爆者の治療は一切行っていない。収拾した資料やデータもアメリカに持ち帰っていた。(その後に返還)
「(被爆者である妻のところに)ABCCが何度も呼びに来て、最後はMP(米軍の憲兵)と一緒に来て、強制的に比治山の施設に連れて行かれた。抵抗すると軍法会議にかけると脅され、泣きながら採血され、脊髄液も取られた。また、死産した奇形児などの胎児を渡すと、ABCCから、内緒で報酬がもらえた」〔元国鉄職員で講談師の久保浩之さんの証言〕


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〔ABCCによる調査〕
 

モルモット


 実は、いま福島県で行われている県民健康管理調査は、この放影研などが事故直後の昨年4月に打ち出したものだった。県立医大はそこに後から参加し、実務的には県立医大が中心になっているが、そもそもABCCの流れを引き継ぐ放影研などが、多数の住民の被ばくという事態に、疫学上の価値を見出して打ち出した調査なのだ。
 県民健康管理調査・問診票の回収率は、今年8月末現在で22.9%にとどまっている。それは、少なからぬ住民が、「自分たちはモルモットにされている」と感じているからだ。
 そういう背景の中で、山下氏が県放射線健康リスク管理アドバイザーになり、県立医大副学長になり、県民健康管理調査の指揮を執っているということを見ると、秘密会議などこの間の異様な事態も説明がつくだろう。



【Ⅲ】 健康被害を過小評価



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 さて、上記のような鈴木教授の説明にたいして、説明会に参加した住民から、「『大丈夫だ』というという結論に向かって進められているように感じられる」と、不信や疑問が次々と出された。教授の説明、教授と住民の質疑応答に踏まえて、問題点を以下に整理する。


「予後がいい」のウソ


教授:一般(成人)の甲状腺がんは、固形がんの中でも最も予後がいい。


 教授は報告で、<甲状腺がんは予後がいいから、心配しなくていい>と繰り返している。
 しかし、よく見ると、教授の報告は、成人の甲状腺がんと小児甲状腺がんとを意図的に混同し、また、チェルノブイリ事故によって、ウクライナやベラルーシで実際に発症している小児甲状腺がんの実態には触れないで、一般的な甲状腺がんの話をすることで済ましている。
 ウクライナやベラルーシで実際に発症している小児甲状腺がんの実態について、IAEAとWTOによる健康被害の隠ぺいを告発し続けるミッシェル・フェルネックス博士が、次のように告発している。
「(小児甲状腺がんは)小児の病気ですが、以前には存在しなかったといってよいものです。西ヨーロッパで普通に見られる甲状腺癌とはまるで反対で、たいへん悪性のものです。80%の症例では、最初の診断の時に、既に転移があるんです。リンパ節とか、肺とかにです。・・・・
 実際には、この癌はとても悪性のもので、患者本人にも家族にも実に大変なことになっていくわけです。それが、診断を受けたその日から始まるのです。どれだけ手術がうまくいき、処置が適切だったとしても、子供は健康にはなりません。この腫瘍に関しては手術や沃素131の投与が、どういう予後になっていくのかということは、本当には分からないですよね。まだ検証ができるほどの時間が立っていないですから。内分泌に関して言えば、何らかの代替物質を注入する処置を、一生続けていくしかありません。患者たちが子供だからといって、自分たちの将来が分からずにいるわけではありません。ベラルーシのいろいろな病院で調査をして、ミンスクの小児科専門病院で分析したものによりますと、『私たち、大人になっても、子供を作ることってできるの?』というのが、子供たちの一番の心配事です。患者の三人に二人は女の子です。彼女たちのこの質問に『正しく』答えるなんてできやしません」


「4年後から」の解釈


住民:甲状腺がんが一人見つかったと報道されて、親たちは本当に心配している。どうしてもっと徹底した公表をしないのか。
教授:まだ正確なデータが出ていなかった。理由はそこだけだ。
教授:チェルノブイリの知見から、事故による放射線の影響が出てくるのは4~5年後。今回の二次検査で見つかった甲状腺がんは、事故との因果関係はない。


 教授は、二次検査で確認された1人の甲状腺がんについて、「チェルノブイリの知見から、事故による放射線の影響が出てくるのは4~5年後。今回の二次検査で見つかった甲状腺がんは、事故との因果関係はない」と説明した。
 教授が示したグラフからもわかることは、<被ばく4~5年後から甲状腺がんが急速に増加した>という事実だ。しかし、このことをもって、<被ばくから4年以内には甲状腺がんは発症しない>と断定することはできないだろう。
 もちろん被ばくの影響ではないかもしれない。しかし、現時点で「事故との因果関係はない」とするのは恣意的だ。


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〔ベラルーシにおける小児甲状腺がんの増加を示すグラフ〕

 
内部被ばくを軽視


住民:今日の説明では、一般的な甲状腺がんと放射線による甲状腺がんとの区別がわからない。また、ヨウ素による被ばくが重要だと言いながら、ヨウ素の問題とセシウムの問題が判然としない。
教授:放射性ヨウ素は半減期が短いのでリアルタイムで測定するのは非常に難しい。
チェルノブイリで小児の甲状腺がんのリスクが高まるのが100ミリシーベルト以上。
福島の子どもについて、SPEEDIから推計した被ばく量が、最大23ミリシーベルト、99.3%が10ミリシーベルト未満・・・
住民:それは外部被ばくの話では。甲状腺に関しては内部被ばくの方が問題では。
教授:私は、内部被ばくの専門家ではないので、そこは僕はよく分からない。


 住民から批判されている通り、教授のデータの示した方は次のような問題がある。
 ひとつは、発がんリスクが上昇するのは100ミリシーベルト以上で、100ミリシーベルト以下は心配ないとしている点。山下氏らの一貫した主張だ。
 いまひとつは、甲状腺への被ばくを問題にしていながら、外部被ばくに偏っており、内部被ばくについて、「専門外」と逃げてしまう点。内部被ばくを軽視していることがありありとしている。


被ばくの実態に向き合わない


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〔小児甲状腺がんの摘出手術を受けたベラルーシの子ども〕

 
住民:3月15日に放射性ヨウ素が大量に降り注いだといわれるいわき市で、いまだ検査をやっていないのはおかしい。
教授:検討はしている。

住民:チェルノブイリの例で、「汚染された牛乳の摂取等」となっており、福島では原乳が廃棄されたから不安は少ないという話だったけれども、東京でペットボトルが配られたように、水道水など牛乳以外の食物からの摂取という不安は拭えない。
教授:その通りだが、その点については、違う先生がやっていますから。われわれは線量を見ながらやっているというのではない。


 放射性ヨウ素が降り注ぐ中に長時間にわたって滞在し、とくに子どもをそういう状態にさらしてしまったという取り返しのつかない不安と後悔を訴える住民はたくさんいる。
 住民の側が、切実な思いで、放射性ヨウ素の拡散の実態に引き付けながら、被ばくの影響がどのように出てくるのかという点について、専門家にたいして知見を求めているにもかかわらず、その訴えに向き合わず、「それは別の先生がやっていますから」とかわしてしまう。
 教授は、日本内分泌外科学会の学会賞を受賞するなど、その分野での専門家なのだろうが、しかし、現実に起こっている被ばくとそれがもたらす事態、そこで苦しんでいる人びとにはまったく向き合おうという姿勢がない。

  
権威におもねる

 
住民:甲状腺の調査をしたとき、セシウムの沈着も認めたという文献を読んだことがあるが、先生は知っているか。
教授:セシウムの文献は知らない。われわれは、すべての論文を採用しているわけではないし、山下先生の文献だから採用したわけではなくて、私もいま憧れているけど、「ランセット」(世界の五大医学雑誌の一つ)は、われわれにとって、非常に権威のあるいいペーパーだ。そういうところに出たものは非常に重要視している。
 科学的な事象が山ほどあっても、このくらいの安全だというエビデンス(証拠)の高いものから選択する。いま質問をいただいたようなことを全く否定しているわけではないが、目にも止めたけどやはりあまり僕らとしては重要視しなくていいと見ている。
 情けない話だが、ここでの話は、エビデンスのしっかりしたものを出したいということがある。


 教授は、「たくさんの事象がある中で、エビデンスの高いものを選択する」と述べている。
 一般的には、信頼できるデータや報告に依拠するのは当たり前だ。
 ところが信頼と権威とは大違いだ。チェルノブイリ事故の被害実態をめぐっても、IAEAとWTO(世界保健機関)が、その権威でもって支配し、「健康被害はない」という報告を繰り返してきた。これにたいして、ウクライナやベラルーシの少なからぬ医療者が、被ばくした人びとに向き合い、その人びとともに真実を追究する姿勢を貫いてきた。そのために、IAEAやWTOの権威との衝突も辞さず、身の危険も覚悟して医療に携わった。
 ところが、鈴木教授の発する言葉は、現に被ばくしている住民とともに真実を追究するのではなく、学会で認められた権威に依拠してそれを事実に当てはめるという姿勢に終始している。そのことを隠そうともしない。
 真実に向き合い、患者とともにあり続けた水俣の原田医師のような人がいま必要だと痛感する。

なお、教授が「憧れている」という医学雑誌『ランセット』は、チェルノブイリ事故後の小児甲状腺がんの発症を報告した論文がいつくも寄稿されながら、それをことごとく撥ねつけて掲載しないということやっている。小児甲状腺がんの急増という事実を否定・隠ぺいするのに加担しているのだ。


真実が知りたい


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 郡山市から参加した女性が感想を語ってくれた。
「鈴木教授はお医者様なのですが、なんか官僚と話し合いをしているような感覚に追い込まれてしまって、悲しい思いをしました。
 結論ありき。安心安全をそのままさらっと言って、部分的なものだけを提示して、深いところまで追究しないで終わってしまうという、いつもの通りの話でした。
 『不安の解消』ではなく、私たちは事実、真実を知りたいのです。そのために足を運んでいるのです。ここで真実を聞いたことによって、それぞれ各自が判断をして、ここに留まるのか、疎開をするのか、避難をするのか、これからの人生を考えていかなければいけないのです。
 もう1年8カ月もたった時点で、遅いのかもしれないですけど、まだ間に合うという希望を持っています。事実を、真実を知り、伝えてほしいという要望はつよく続けて行きたいと思います」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 
 以下に、参考資料として、〔1〕IAEAとWTOによるチェルノブイリ事故後の健康被害の実態の隠ぺいを告発し続けるミッシェル・フェルネックス博士(医学者、バーゼル大学名誉教授)の報告の一部抜粋、〔2〕ウクライナのエフゲーニャ・ステパノワ博士(ウクライナ放射線医学研究センター放射線・小児・先天・遺伝研究室長)が昨年12月に福島市内で行った報告の一部抜粋、および〔3〕ユーリ・I・バンダジェフスキー博士(元ゴメリ医科大学学長)の論文の一部抜粋を掲載する。


〔1〕フェルネックス博士の報告(一部抜粋)


(チェルノブイリ事故による)甲状腺の癌は、初めの数年間、ずっと否認されていました。けれども余りにも明白になってきてしまったので、存在を認めるしかなくなりました。『ランセット』にはこの話題を扱った論文が何本も寄稿されていたのですが、すべて撥ねられていました。が、とうとう、この癌と様々な地域での汚染の度合いとの相関関係を示す研究を、何本か掲載することになりました。ケンブリッジ大学のウィリアムズ教授という絶大な権威ある研究者が、IAEAの専門家たちの中でも、この問題に関してスポークスマンだったのですが、甲状腺癌の存在をついに認めました。
 小児の病気ですが、以前には存在しなかったといってよいものです。西ヨーロッパで普通に見られる甲状腺癌とはまるで反対で、たいへん悪性のものです。80%の症例では、最初の診断の時に、既に転移があるんです。リンパ節とか、肺とかにです。ところがIAEAの報告書は「善良な癌です」と言って締め括るんです。まあ、推進派の専門家たちというのは、私が聞いた限り、同じようなことを言いますね。手術が適切で、薬も適切なら、患者の命は助かる確率が高いというわけです。私の隣には、代表団に正規に選ばれた女性がいたんですが、私にこう言いました。「私の二人の娘たちには、その善良の癌とやらに罹って欲しくないわね」と。
 実際には、この癌はとても悪性のもので、患者本人にも家族にも実に大変なことになっていくわけです。それが、診断を受けたその日から始まるのです。どれだけ手術がうまくいき、処置が適切だったとしても、子供は健康にはなりません。この腫瘍に関しては手術や沃素131の投与が、どういう予後になっていくのかということは、本当には分からないですよね。まだ検証ができるほどの時間が立っていないですから。内分泌に関して言えば、何らかの代替物質を注入する処置を、一生続けていくしかありません。患者たちが子供だからといって、自分たちの将来が分からずにいるわけではありません。ベラルーシのいろいろな病院で調査をして、ミンスクの小児科専門病院で分析したものによりますと、「私たち、大人になっても、子供を作ることってできるの?」というのが、子供たちの一番の心配事です。患者の三人に二人は女の子です。彼女たちのこの質問に「正しく」答えるなんてできやしません。

             『終わりのない惨劇 ―チェルノブイリの教訓から』
                  竹内雅文訳  2012年3月 緑風出版


 
〔2〕 ステパノワ博士の報告(一部抜粋)


一) 1989年から甲状腺ガンが増加


 ウクライナ医学アカデミーの内分泌・物質代謝研究所のデータによると、子どもの甲状腺ガンの疾患率は、事故から3年後の1989年から上昇が始まった。

◎90年~2009年まで、疾患例数は次第に増加

・09年の疾患例数・・・・・・・・・・・・・・・・ 463例

・86年~08年までに同研究所で、 甲状腺ガンで手術を受けた患者数
             ・・・・・・・・・・・・・・ 6049人

◎その中の子どもと未成年者の割合

・事故当時、子ども(0~14歳)
            ・・・・・・・・・・・・・・・ 4480人=74.1%

・事故当時、未成年者(15~18歳)
            ・・・・・・・・・・・・・・・ 1569人=25.9%


二) 1992年から機能障害が慢性病へ移行


 30キロ圏内から避難した子どもおよび、汚染地域の住民において、事故6年後の92年から、機能障害が慢性病に移行した。 この傾向は、子どもが18歳になるまで見られた。

◎最も悪い傾向を示しているのは、甲状腺に高い被ばく線量を受けた子どもたち。
甲状腺に2・0グレイ〔※〕以上被ばくした子どものうち、
  健康な子どもの割合・・・・・・・・・・・・  2.8%未満
        
        〔※グレイ: 放射線をあびた物質が、吸収するエネルギーの量を示す単位〕
 
◎健康な子どもの割合が、86年から2005年で、大幅に減少
・86~87年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27.5%
・2005年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   7.2%

◎慢性疾患を持つ子どもの数が、86年から05年で、大幅に増加
・86年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   8.4%
・05年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  77.8%

◎プリピャチ市から避難してきた子どもは、比較的汚染の少ない地域に住んでいる子どもに比べ、疾患率は、ずっと高い。2003年の健康管理システムによる調査で、疾患率は3倍に。

◎89年から2003年で、下記の疾患が増加
・消化器官の疾患
・神経系の疾患
・血液循環系の疾患
・呼吸器の疾患(慢性気管支炎・喘息・気管支炎)


                   ◎報告全文は、下の関連記事の欄へ



〔3〕 バンダジェフスキー博士の論文(一部抜粋)


 免疫系の状態は、これ(内臓器官の異常)とは別に考慮しなければならない。従来の実験結果は、体内の放射性セシウムで引き起こされた変化の明確な姿を明かにしていない。病理的な変化がどこかに発生すれば、免疫系にもかならず病理学的変化が現れる。免疫グロブリンと甲状腺ホルモンとの正の相関は、それがまさに事実であえることを証明している。
 このことから、私たちは、チェルノブイリ事故後の甲状腺異常は、放射性ヨウ素だけでなく、生体内や甲状腺に持続的に取り込まれた放射性セシウムと、甲状腺ホルモンに結合するさまざまな免疫グロブリンの能力にも関連すると考えられる。
 甲状腺ホルモンが代謝系列から排除されると、脳下垂体-甲状腺系の機能が乱れる。その結果、多量の甲状腺刺激ホルモンが分泌され、濾胞上皮細胞を増殖させ、腫瘍形成の状況をつくり出す。
 このように、放射性セシウムが甲状腺に与える影響は、異常の性格を考慮し、生体の各器官や組織が持つ免疫調節の乱れと疾患の性質の視点から検討されるべきである。
 セシウム137が常に体内に取り込まれていると、甲状腺は十分に修復できず、細胞分化が阻害され、細胞の構成要素が免疫系に抗原として認識される事態を引き起こすもととなる。
 免疫反応の亢進に伴って、自己抗体と免疫適格細胞が甲状腺を傷つけ、自己免疫性甲状腺炎や甲状腺がんが発症する。

     『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響
           チェルノブイリ原発事故 被曝の病理データ』 
            久保田護 訳 2011年12月 合同出版

                                               
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(了)





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  1. 2012/11/14(水) 14:32:57|
  2. 健康被害
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
<<東電告訴 1万3262人の告訴・告発状を提出 | ホーム | 偽りのモニタリングポスト>>

コメント

甲状腺異常検査報告消える

昨年10月に8月中旬までに検査した8万人の一次検査報告がありましたが、昨年暮れ県民調査室のホームページを見たら昨年前半の報告が消えていました。
1名がんで、後からの1名の女児は癌の検査をするということで、まだ確定報告もありません。昨年ブログにも書きましたが、二次検査で陽性であっても、病理学的検査をなかなか実施しので、癌が特定されないだけの可能性が高いと思います。それにもかかわらず、福島県の住民が全く関心がないように見えることです。謎の多い伊藤病院の甲状腺異常に関する新聞報道に安心してしまったのでしょうか?
  1. 2013/01/06(日) 14:45:47 |
  2. URL |
  3. sakuradorf #vdRbyGI2
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