福島 フクシマ FUKUSHIMA

津波被害と原発震災に立ち向かう人々とともに

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【論考】  区域再編、中間貯蔵施設、賠償問題をめぐって   ~フクシマの現局面~

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(政府説明会で示された2012年3月31日時点の大熊町の線量分布図。黄色が年間20ミリシーベルト以上、黄土色が年間50ミリシーベルト以上、赤色が年間100ミリシーベルト以上)



 


大熊町民を対象に政府説明会


「原発3キロ圏内で有機農業をやっていました。顧客一人ひとりとつながってやってきました。それが、この事故で全部、駄目になりました。
 私たちを、人間として扱っているのですか?『共存共栄』と東電は言ってきたけど、それがこの仕打ちですか?
 課税評価額と同額の補償で、新しい家が得られますか?いつまで待てばいいのですか?どこに行けばいいのですか?どこを故郷にすればいいのですか?
 賠償なんかじゃない。元の生活に戻してほしいのです。
 この上、なぜ原発の再稼働なのですか?これ以上、犠牲者を出してはいけないのです」

 5月12日に郡山市内、13日にいわき市内と会津若松市内で、大熊町民を対象にした、中間貯蔵施設設置などにかんする政府主催の説明会が行われた。

 いうまでもなく、大熊町は、福島第一原発の地元中の地元であり、もっとも大きな被害を受けた地域だ。この人びとを前に、政府が何を語るか、そして、町民が何を訴えるかが注目された。
 12日の説明会には、細野環境相、福島県立医科大の神谷副学長、さらに、復興庁、原子力災害対策本部、環境省、文部科学省、資源エネルギー庁などの役人が出席、それぞれの説明を行った。説明の大要は、①避難指示区域の見直し、②除染の現状と方針、③中間貯蔵施設の設置、④賠償の考え方の4つ。
 政府側が一通り説明をした後、住民からの質問や意見が受け付けられた。この日の町民の参加は220人。15人の町民が発言した。冒頭に紹介したのは、原発3キロ圏で有機農業を営んでいた60代の男性の発言。このように、厳しい発言が相次いだ。

 原発事故で大きな被害を受けた福島県の中でも、原発立地地域である双葉郡の人びとは、避難を余儀なくされ、家も土地も故郷もすべて失うという筆舌に尽くしがたい苦しみを受けている。しかし、同時に、長きにわたる原子力村の支配があり、しかも、被災後は散り散りバラバラになり、そのために、声を挙げることも難しい状態にあった。
 しかし、事故から1年と2か月、いまようやく、その地域から、原発事故の加害者を追及する怒りの声があがり始めている。大熊町民を対象にした政府説明会が、そのことをはっきりと示した。


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(写真上:答弁に立つ細野環境相
 写真下:意見を述べる町民)
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 以下では、まず、【Ⅰ】区域再編、【Ⅱ】除染、【Ⅲ】中間貯蔵施設、【Ⅳ】賠償について、政府側が行った説明と、それにたいする町民の側の意見を整理した。
 さらに、それに踏まえ、【Ⅴ】では、フクシマをめぐる現局面と課題について検討した。



【Ⅰ】  棄民に向かう区域再編



 昨年12月、政府は、「原子炉は冷温停止状態に達し、発電所の事故そのものは収束に至った」と宣言、それにもとづいて、避難指示区域(警戒区域、計画的避難区域)の再編を進めている。すでに4月1日に田村市、川内村、4月16日に南相馬市で、警戒区域の解除が行われるなど再編が先行して行われた。
 政府は、引き続き、楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘などの各町村について、避難指示区域の再編を進めたいとしている。
 この日の説明会で政府は、避難指示区域再編についての考え方を示すとともに、大熊町の汚染状況を示した線量分布図〔冒頭の図〕を出し、大熊町についての区域再編の基本方向を説明した。


町民の95%が「帰還困難区域」


【避難指示区域再編についての政府説明の要旨】

・避難指示区域を、「避難指示解除準備区域」「居住制限区域」「帰還困難区域」の3つに再編する。
・区域設定の基準は、以下のようにする。
▽ 年間の積算線量20ミリシーベルト以下を「避難指示解除準備区域」
▽ 20ミリシーベルト以上で50ミリシーベルト以下を「居住制限区域」
▽ 50ミリシーベルト以上を「帰還困難区域」
・区域再編は、行政区、大字・小字の単位で設定する。
・大熊町(人口1万1500人)の場合、「帰還困難区域」に町民の95%が該当、残りの5%が、「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」になる。

 このような区域再編の説明にたいして、町民は、疑問と不信をぶつけた。


4号機燃料プールの危険

 
「そもそも、再び原発事故が起こらないという保証はないのではないか?」

 たとえば、第一原発4号機の燃料プールには約1500本の燃料集合体が水中に保管されているが、これが再度の地震などで冷却できなくなれば、今回の事故をはるかに超える深刻な事態になりかねないということが十分想定される。
 政府の「収束宣言」自体が疑わしいものであり、その「収束宣言」にもとづいて避難指示区域の再編が進められ、「安全ですよ」「帰っていいですよ」というのは、全く信用できないという意見だ。
 このような町民の不信にたいして、細野環境相が再度、答弁に立ったが、具体的な根拠を示すことなく、「そういう心配はない」と繰り返すだけだった。


再び20ミリシーベルト基準


 
「20ミリシーベルト以下は、避難を『解除』といっているが、20ミリシーベルトに根拠はあるのか?そこは、赤ちゃんから老人まで、暮らせるところなのか?」

 昨年4月以来、問題となってきた点だ。
 昨年4月、除染はおろか、モニタリングも十分にされていない時期に、文科省が、学校などの利用の目安として、年間20ミリシーベルトという基準を打ち出した。これにたいして、母親をはじめ多くの県民が強く抗議し、撤回を要求した。
 ところが、政府は、避難区域再編に当たって、この20ミリシーベルト基準を適用している。
 この点について、神谷副学長は、「20ミリシーベルトは国際基準」と説明した。


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(神谷福島県立医大副学長が講演)


 これは、昨年来、さんざん論争されてきたことだ。
神谷副学長のいう「国際基準」とは、国際放射線防護委員会(ICRP)がつくった基準のことだ。ICRPは、「事故継続等の緊急時の状況における基準」として年間20~100ミリシーベルト、「事故収束後の復旧時の基準」として年間1~20ミリシーベルトとしている。昨年4月段階の山下長崎大教授(当時、現・福島県立医大副学長)の発言や今回の神谷副学長の発言は、このICRP基準を忠実に復唱しているに過ぎない。
 もっとも、低線量被ばくによる健康被害の研究や知見はたくさんあるのであり、ICRPも「健康被害はない」とは断言していない。
 大事なことは、ICRPが核政策と原子力産業の推進団体であり、ICRP基準の土台には、核政策と原子力産業を守り・推進するという立場が据えられていることだ。
つまり、ICRPの出した20ミリシーベルト基準とは、放射線被ばくから健康を守ることを第一義に考えた基準ではなく、「何がしかの健康被害はある。しかし、その健康被害よりも、核政策・原子力産業の推進という利益の方が大きい。だから、ある程度の健康被害は我慢してほしい」という考え方に基づく基準だ。

 そういう基準を町民に押しけて「戻れ」ということにたいして、町民は反発をしているのだ。
 町民の批判を受けて、政府側の役人は、「20ミリシーベルトはスタート。すぐに戻れとは言わない」とかわした。
 その含意は、ひとつに、「除染すれば下がるから」という誤魔化しであり、いまひとつは、「戻らないのは自由だが、補償はなくなりますよ」という脅しだ。


生活の困難と住民の分断


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(意見を述べる町民)


「たった5%の住民だけが帰還しても、町として成り立つわけがない。生活もできない。住民を分断するのか」
 
 政府の説明によれば、大熊町民の95%が「帰還困難区域」に入り、5%だけが「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」に入るという。
しかし、住民の5%だけに、「戻れますよ。戻って下さい」と言われても、生活はできない。町のインフラもコミュニティーも破壊されてしまっている。そんなところに戻れるはずがない。
 これは、被ばく問題とともに、忽せにできない大きな問題だ。放射能による被ばくとともに、地域が破壊されるという被害もある。これも取り返しのつかない被害だ。
 それにもかかわらず、政府が「解除」を強行すれば、同じ被害を受けているはずの町民の間に、賠償問題もからんで、分断が持ちこまれてしまう。町民がもっとも恐れることだ。

 このような住民の意見にたいして、政府側の役人は、「大熊町全体がまとまって行動したいという町の判断を尊重する。一部だけ早急に解除や帰還を求めることはしない」と言わざるを得なかった。


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(大熊町の大野駅。この付近は年間100mSvを超える。写真は昨年10月)


帰れないのはわかっている


 区域再編についての説明を受ながら、町民はいら立ちを募らせていった。「帰れない」という残酷な事実だけを突きつけられて、「では、どうするのか」という話がまったくないからだ。

「帰れないのはわかっている。だったらどうするのか。そのグランドデザインを出してほしいのだ」

 町民は、このように詰め寄った。
 しかし、政府側役人の答えは、「早急に検討します」というだけだった。


少なくとも2万人以上が「帰還困難」
 

 大熊町が「帰還困難区域」であると政府が認定した。これは、大変に重い事柄である。
 「帰還困難区域」について、政府は、「5年以上は帰還できない」としているが、実際は、5年で済むかどうかわからない。何十年の単位で、自宅・故郷に帰れないということも覚悟しなければならない。それが、大熊町と双葉町の大部分、さらに、浪江、富岡、葛尾、飯舘、南相馬などにもかかり、対象となる住民は少なくとも約2万2千人。
 政府は、帰還できないという現実をなかなか認めようとしなったが、「帰還困難区域」の指定をせざるを得なかった。
 原発事故の被害が、こういう深刻な事態なのだということを突きつけている。


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(線量分布図を見て考え込む)



【Ⅱ】  行きづまる除染



 昨年8月、政府・原子力災害対策本部が「除染に関する緊急実施基本方針」を決定、当初の計画では、昨年内に実証実験を終え、年明けから本格除染が始まるはずだった。
 しかし、計画は大幅に遅れている。
 この日、大熊町の除染について、政府が説明を行った。

【大熊町の除染についての政府説明の要旨】

・「年間20~50ミリシーベルトの地域」について、「平成25年度内の完了」を目途にする。
・「年間50ミリシーベルト以上の地域」については、「除染技術の確立及び作業員の安全性の確保のための除染モデル実証事業を実施し、その結果等を踏まえて対応の方向性を検討する」

 住民からは、除染の効果や費用についての疑問が相次いだ。


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(大林組が受注し飯舘村で行われた除染。昨年12月)


除染への疑問


 「大熊町役場の除染実験をやったが、除染しても線量は下がっていない。一時的に下がってもすぐ戻る。
 こういうことに1兆円もかけるのか?そんなカネがあるなら、町の構成を大きく変えるとか、補償に回すとかするべきではないか。わざわざゼネコンにやるのか」

 昨夏に除染計画が打ち出されたばかりの段階なら、除染の実態もまだ明らかになっていない中で期待や幻想もあったが、いまやそういう人はかなり少なくなっている。この日の発言でも、厳しい意見ばかりだった。
 しかも、除染の遅れについて、政府から、事情説明は何もされなかった。
 さらに、「年間20~50ミリシーベルトの地域」について、一応、除染完了の目途が示されているが、実際のところは、大熊町の町民の95%が、「年間50ミリシーベルト以上の地域」で、その地域については、今に至っても、まだ「技術の確立」といい、「方向性を検討する」というに留まっている。
 これについて、細野環境相は、「こうやったら確実に下がるといえる段階ではないのは確か」と行きづまりを認めざるを得なかった。しかし、なお、「一歩一歩やっていくしかない」と、展望の見えない除染計画を続けるというのだ。
 成果が上がらなくても、ゼネコンにとっては、莫大なお金が入ってくるわけだからおいしい話だろうが、町民にとっては、「除染したら帰れる」という期待と幻想を煽られたた挙句、大きく裏切られ、再び絶望に叩き込まれているのだ。


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(除染の実証実験が行われた大熊町役場。写真は昨年10月)



【Ⅲ】  核のゴミ捨て場にする中間貯蔵施設



 除染計画に裏切られる中で、さらに、大熊町をはじめ双葉郡に、除染で出た廃棄物を保管する中間貯蔵施設の設置する計画が打ち出されている。
 この日の政府説明会の最大の狙いも、「中間貯蔵施設の設置について、住民に説明する」ということだった。
 中間貯蔵施設とは、除染によって発生する大量の汚染廃棄物を保管する施設。政府は、それを、双葉・大熊・富岡・楢葉の各町につくるという案を打ち出している。とりわけ、大熊町には、他の町よりも規模の大きい施設を造りたいと打診している。

【中間貯蔵施設設置についての政府説明の要旨】

・除染などによって大量の放射性廃棄物が発生する。その量が膨大のため、現時点で最終処分の方法を示すことは無理だ。
・そこで、最終処分までの間、管理・保管する施設が必要だ。そこで、貯蔵だけでなく、減容化や分離技術の研究開発を行う。
・30年以内に、福島県以外で最終処分を完了する。


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(説明会で示された中間貯蔵施設のイメージ図。谷を大規模に埋めている)


 町民は、この説明に強く反発した。


格好だけの話は信じられない

 

「中間貯蔵施設は、誰が決めたのか?住民の意見なのか?」
「福島が、日本全体の核廃棄物の最終処分場になるのではないか?」
「30年で最終処分場に移すというなら、まず最終処分場を決めて、それから、中間貯蔵施設の話をすべきではないのか?こういう格好だけの話は信じられない」
「中間貯蔵施設は、東京に持って行ってもらいたい」

 政府の説明では、「30年以内に県外で最終処分する」としているが、誰も信じていない。最終処分の技術も場所もはっきりさせないまま、「中間」という言葉でごまかして、処分場を永久に押し付けようとしている。
 政府の言い草は、まるで、「原発は駄目になったけど、代わりに原発事故のゴミ処理の仕事はどうですか」ということだ。

 住民の強い反発を受けて、各自治体も、温度差はあるが、簡単には受け入れない態度を取っている。そして、受け入れ反対で確固とした姿勢をとる井戸川双葉町長が、双葉地方町村会(双葉郡8町村)を取りまとめる形で、政府と対峙している。
政府は、4月に入って、各自治体の分断を狙って、町議会ごとに個別の説明と要請を行った。それに続いて、住民への説明に踏み込んできた。この日の大熊町民を対象にした説明会は、住民にたいする政府による最初の説明の場として、政府にとっても住民にとっても焦点となっていた。
 説明会終了後の会見で、細野環境相は、「(中間貯蔵施設設置の説明のつもりだったが)、住民の生活を考えれば、まずは賠償が優先だ」と、中間貯蔵施設の押し付けが容易でないことを認めざるをえなかった。


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(意見を述べる町民)



【Ⅳ】  遅々として進まない賠償



 避難生活がすでに1年以上経っている。8万人以上の住民が、強制的な避難の対象となり、住み慣れた土地・除去を追われ、いまも、仮設住宅や借り上げ住宅で生活している。こういう状態が何年続くかの先行きも定かでない中、経済的にも精神的にも非常に不安定な生活が続いている。
 しかも、迅速に行われるべき被害者への賠償は、遅々として進んでいない。
 文科省の原子力損害賠償紛争審議会が、昨年8月、賠償に関する「中間指針」を公表、その翌月から東電が、賠償請求の受付を開始した。しかし、5月11日現在の実績は、請求件数が、個人・法人を合わせて、74万3000件、合意件数が12万5000件で、約17%。〔ただし、自主避難にかんする請求の合意件数の公表がないので、合意件数の中に入っていない〕
 とくに、避難区域の土地や建物などの賠償について、東電は、いまだ、支払いの工程表や損害の算定方式さえも示していない。そのために、強制的に避難させられた住民は、いまだ、土地や建物の賠償の目途も見えず、生活の再建や事業の再開の見通しも立たない状況におかれている。
 このような事態にたいして、福島県が、賠償を進めるように要望する書面を出したが、東電は、それにたいしても、「検討する」と答えただけで、事実上、無視している。

 このような不誠実な態度を東電が取り続けるのも、それを政府が容認しているからに他ならない。


切り捨てを匂わせる


 政府の説明は、以下のようであった。

【賠償についての政府説明の要旨】

・精神的損害=慰謝料について、月額一人10万円。
・賠償の対象となる期間は、今後の状況を踏まえて判断する。
・「帰宅困難区域」の家・土地については、全損=価値減少率100%とする。
・「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」の家・土地については、解除になるまでの期間を考慮して価値減少率を推認する。
・新しい住居を取得する場合、再取得価格を考慮する。


10万円の価値しかないのか


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(いわき市内にある広野町民の仮設住宅)


「3月12日に着の身着のままで避難。それから1年2か月。その慰謝料が月10万円か?
 家も畑も仕事も故郷もすべてなくなった。われわれの生活は、そのくらいの価値しかなかったということなのか?」
「何にも悪いことをしていないのに、突然、『逃げろ、逃げろ』って、警察にでも追われているようにして逃げた。
 この地図(冒頭の線量分布図)を見ると、真っ赤だ。しかも、除染はうまくいっても50~60%の効果。もう川で釣りもできないし、山で山菜取りもできない。説明では、50ミリシーベルト以上は、除染の方法が見つかっていないと。1年以上たっているのに。
 慰謝料月10万というのは、バカにしている。交通事故の慰謝料の一番下のヤツだ。交通事故のケガは治るけど、われわれは、1年経っても避難。このストレスはとてつもない。国の最低基準にたいして、納得のいく基準にしてほしい」

 文字通り着の身着のままで避難を余儀なくされ、すべてを失うという被害を受けているのに、その慰謝料が月額一人10万円。この扱いに納得いないという声が相次いだ。
 月額10万円という算定は、交通事故の自賠責保険の賠償の最低額に準じている。自賠責保険に、ケガの場合、慰謝料と治療費が1日あたり4200円という最低額の規定がある。この規定から、さらに、「交通事故は負傷しているが、避難は負傷していない。だから、自賠責の少し下にした」(政府側の役人の説明)というのだ。
 交通事故と原発事故とを比較する自体どうかと思うが、家も土地も地域の繋がりも故郷も、すべて失ったことにたいして、「負傷していないでしょ」という政府の言い草に、町民たちは、涙を流して悔しがった。
 これが、原発事故の被災者にたいする国の見方なのだ。

 この日、政府は、多くの批判にもかかわらず、現行の慰謝料・月額一人10万円を修正しないとした。それどころか、「今後の状況を踏まえて」と、除染の進捗や避難指示区域の再編をもって、慰謝料の打ち切りの可能性も示唆した。


人間扱いされていない


「課税評価額と同額の補償で、新しい家が得られますか?いつまで待てばいいのですか?どこに行けばいいのですか?どこを故郷にすればいいのですか?」

 この地域で農業を営んでいた人びとは、代々受け継いできた土地や建物に住んでいたという人も少なくない。ところが、福島市など都市部に避難した人は、失った土地や建物の課税評価額と同額の補償では、同じものは住めなくなってしまう。
 しかし、政府の説明は、そういうことも「考慮」するというものでしかない。
 また、「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」の家・土地については、解除になるまでの期間の価値減少率で算定するという。例えば2年間で解除になったとしても、高線量のみならず雨風の中に放置された家屋を、「はい、解除しました。2年分の価値減少率は・・・」と言われても、それがすぐに住める状態ではないし、納得できる話でもない。
 町民は、このような政府の姿勢に、「自分たちが人間として扱われていない」と感じ、憤っているのだ。
 
 説明会の終了後、福島市内の借り上げ住宅に家族で避難し、この日も、家族で説明会に参加した30代の男性に感想を聞いた。
「国は、東電のやり方を全く擁護している。誰も何も反省なんかしていない。国は、被災地のことなど考えていない。『福島の復興なくして、日本の復興なし』なんて言っていたけど、『そんなのウソだ』ということが、よくわかった。それが今日の感想です」
 男性は、このように吐き捨てるように言った。


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(2歳の孫と90歳の祖母。政府を追及する発言に拍手)



【Ⅴ】  フクシマをめぐる現局面



「収束宣言」と棄民


 政府は、昨年12月に「収束宣言」を出した。しかし、それは、「冷温停止」ではなく「冷温停止状態」という言葉のごまかしにも現れているように、危機を糊塗しようとしたものに過ぎない。
 政府は、国策として原子力政策を死守し、停止した原発の再稼働を図るために、「危険は去った」「事故は収束した」と、とにかくアピールする必要があった。そして、原発事故の深刻な被害も、できるだけ小さく見せる必要があった。
 そういう意図で、避難指示区域の再編を進め、中間貯蔵施設設置を打ち出し、賠償問題の値切りと打ち切りを目論んでいる。
 それは、事故とその被害の深刻さに向き合い、被害を受けた人びとの救済と支援に全力を挙げようという姿勢ではない。国策の大失敗と犠牲を、棄民をもって終わりにしようとしているとしか言いようがない。そして、残るのは、中間貯蔵施設という巨大な核のゴミ捨て場なのだ。

 
加害者の責任が問われぬ理不尽 


 それにしても、これほど大きな事故を起こしながら、国や東電の態度には、反省や責任の自覚が皆目感じられない。
それは、賠償問題で端的に表れている。東電は、「国策を遂行していたのだから、何も悪いことはしていない」と傲然としている。
本来なら、東電は、土下座をして、身ぐるみ全部を賠償に差し出しても足りないくらいなのだ。ところが、実際は逆で、加害者である東電は慇懃無礼な態度に終始し、被害者が膨大で煩雑な賠償請求の書類に四苦八苦させられ、あげく、東電の都合で、理由も示さず冷たく撥ねつけられている。
 中間貯蔵施設でもそうだ。原発から放出された放射能によって、大きな被害が出ている。ところが、原因者である東電は、「放射能は無主物」〔※〕と主張して責任をとらず、一方、その放射能で汚染された土壌や廃棄物を回収し捨てる中間貯蔵施設が、もっとも大きな被害を受けた双葉郡の人たちに、押し付けられようとしている。
加害者・犯罪者は全く責任を拒否し、被害者だけが何重にも犠牲を強いられる。この構図は、あまりにも理不尽だ。
 この理不尽な構図を、依然として許してしまっているところに、フクシマをめぐる現局面の課題があると痛感する。
 賠償問題や中間貯蔵施設の問題に限らない。被ばくの問題から生活の問題、地域の再生の問題など、フクシマをめぐる問題は、多岐にわたるが、加害者・犯罪者と被害者の逆転した構図をひっくり返すことが、あらゆる課題の前進にとって要になるだろう。

〔※ ゴルフ場経営者が、東電にたいして除染を求めた仮処分申し立ての裁判での東電側の主張〕


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(昨年12月3日に開催された双葉地方総決起集会)


双葉郡の人びとが声を挙げ始めた


 福島の中でも、原発立地地域である双葉郡の人びとは、長らく原子力村の支配のもとにあった。家族や親せきの中で、誰かが原発関連産業で働いているという地域だ。
 そういう地域の人びとが、ある日突然、着の身着のままの避難を余儀なくされた。家も土地も地域の繋がりも故郷もすべて失った。そして、各地にバラバラになり、生きるのがやっとの日々を過ごしてきた。警戒区域・計画的避難区域とされた住民の数は、飯舘村や川俣町・山木屋地区など含めると約8万人。少なくとも、8万人の人が、そういう境遇にあってきた。
 事故以降、双葉郡の人びとは、もっとも大きな被害を受け、もっとも理不尽な扱いを受けながら、もっとも声の挙げづらい状態にあったともいえる。
 事故から1年と2か月、そういう人びとが、この間、ようやく、怒りを言葉にし、繋がりを回復し、行動を始めている。その一端が、政府説明会で厳しい意見を突きつける大熊町の人びとであり、井戸川町長を押し立てて政府と対峙する双葉町の人びとだ。
この人びとの存在は、国と東電の犯罪を告発・糾弾してやまない。ここに、加害者・犯罪者が罪に問われないでいる構図をひっくり返す力がある。
 そしていま、福島では、先進的な人びとの呼びかけで、「福島原発告訴団」が結成され、国・東電・原子力村の処罰を要求する運動も始まっている。ここに、もっとも深刻な被害を受けた双葉郡の人びとの動きが合流したとき、この運動は、大きな力を発揮するだろう。


再稼働阻止のために


 全国の原発の停止・再稼働阻止から廃炉へ向かう行動が、大飯原発の再稼働問題を焦点として、大きなうねりになろうとしている。
 しかし、ここでもまた、同じ課題があるだろう。国・東電・原子力村は、自分たちが、罪を犯したという自覚を持っていない。だから、「再稼働で、同じ過ちを繰り返すのか」という警告にも、聞く耳を持たない。
 やはり、この構図を叩き折る必要がある。そして、そのテコは、やはり、国・東電・原子力村の犯罪を告発してやまない双葉郡の人びとの存在と行動に結びつくことだろう。

 最後に、福島で生きる知人の言葉を紹介して、この論考を締めたい。
「国や東電の責任を追及してやりたい。デモでもやってやりたい。
 しかし、心のうちで憤りが渦巻いているが、それを表現したり、行動したりすることがなかなかできない。もどかしい思いだ。
 だけど、外の人から、『福島の運動はどうなっているのだ』って言われたりすると、『ちょっと違うよな』って思う。
 福島では何も解決していないし、はるかに複雑で、重いテーマに悪戦苦闘している。それをわかってほしい」。 (了)






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  1. 2012/05/19(土) 21:30:49|
  2. 中間貯蔵施設
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