福島 フクシマ FUKUSHIMA

津波被害と原発震災に立ち向かう人々とともに

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【論考】 被ばくとガン 福島第一原発の現場から 第1回


  【論考】 被ばくとガン

   福島第一原発の現場から 【Ⅰ】




 既に報道されているように、東京電力福島第一原子力発電所の収束・廃炉作業に従事した作業員のガン発症が明らかになっている。2011年の7月から約4カ月作業に従事したAさん(現在57歳/札幌市)は膀胱ガン、胃ガン、結腸ガンを相次いで発症。また2012年10月から1年3カ月作業に従事したBさん(現在41歳/北九州市)が白血病を発症した。
 Aさん、Bさんはそれぞれ労災を申請したが、Aさんは申請が認められず、今年9月、損害賠償を求める訴訟を起こしている。また、Bさんは今年10月、労災の認定を受けている。
 Aさん、Bさんを含め、福島第一原発事故後の収束・廃炉作業に従事してガンを発症し、労災の申請に至ったのは8人。その内訳は認定1、不認定3、取り下げ1、審査中3となっている。〔2015年10月末時点〕

            ・          ・          ・ 

AさんとBさんの作業内容や被ばく履歴は、厚生労働省の発表や関連する報道によれば下表のようになる。

                                                                                                  ◎ Aさん(57)の作業内容・被ばく履歴など
〔北海道新聞9/1付、朝日新聞9/2付など〕
作業期間2011年7月4日から10月31日の4カ月弱
作業内容ガレキの撤去 高線量ガレキを直接抱える作業なども
累積線量56.41mSv ただし線量計を外して作業したときも
病名/診断時期膀胱ガン/12年6月、胃ガン/13年3月、結腸ガン/13年5月
労災申請の結果不認定
提訴時期2015年9月1日
   

◎ Bさん(41)の作業内容・被ばく履歴など〔朝日新聞10/21付など〕

作業期間九電玄海 2012年に約3カ月
合計約1年6カ月
福島第一 12年10月から13年12月の約1年3カ月
作業内容福島第一 4号機オペフロのクレーン台の設置作業
       3号機脇で、倒壊したクレーンの切断
累積線量九電玄海  4.1mSv
合計19.8mSv
福島第一 15.7mSv
病名/診断時期急性骨髄性白血病/2014年1月
労災申請の結果認定/2015年10月20日

          ・          ・          ・

さて、本稿では、福島第一原発の収束作業における被ばくと健康被害の問題について、【Ⅰ】から【Ⅳ】の4回に分けて考えて行きたい。
 【Ⅰ】では、「(福島第一原発の)全労働者の被ばく線量の総計は高止まりしている」[1] と厚生労働省も認めざるを得ない厳しい被ばく環境が続いており、Bさんの労災認定は氷山の一角に過ぎないという点についてだ。さらに100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでもガン死リスクが確実に上昇することを実際の観察で確認したという最新の知見についても見て行きたい。
【Ⅱ】では、上で見たBさんの被ばく線量は法定の被ばく線量限度より少ないが、それにもかかわらず白血病を発症している点についてである。この点について厚生労働省は、「防護基準を守っていても労災は起こる」[2と説明しているが、そうだとすれば、作業員の健康を守らない線量限度とは何のための基準なのかという疑問が発生するだろう。
【Ⅲ】では、上で見たAさんの場合は、法定の線量限度を超えて作業を行ってガンを発症しているが、労災認定を受けられていないのはどういうことなのかについてである。労災認定の基準と実情について見て行きたい。
【Ⅳ】では、Bさんの労災認定が決定されたことに対して、東京電力が行った、「労災申請は雇用主か本人が行い、認定は労基署が行うもので、コメントする立場にない」[3というコメントについてである。事故を起こしたのは東京電力であり、作業を発注しているのも東京電力であるにもかかわらず、東京電力はこのような態度を取っている。被ばくと健康被害を下請作業員に押しつける重層下請構造の問題について見て行きたい。


cnc001.jpg 



  (一) 被ばく線量が高止まり―厚労省
 

厚生労働省が8月、福島第一原発の安全衛生管理に関するガイドラインを示し、それに関して、「月別の平均被ばく線量は減少傾向にあるものの、被ばく線量が5ミリシーベルトを超える労働者数は横ばいであり、全労働者の被ばく線量の総計は高止まりしています」[4]と述べている。
では、実態はどうなっているのか。東京電力作成の資料「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について」(2015年9月30日)をもとに見てみよう。
 【表Ⅰ‐1】は、「2011年3月以降の累積被ばく線量」。【表Ⅰ‐2】は最近3カ月(2015/6~8)の月別平均と年換算の被ばく線量。(「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について」をもとに筆者が作成)
 
                 
【表Ⅰ‐1】  2011年3月以降の累積被ばく線量
(外部被ばくと内部被ばくの合算値 2011/3~2015/8)

平均
5mSv超
10mSv超
50mSv超
100mSv超
東電社員
22.58mSv
 2,521人
 2,024人
  787人
150人
協力企業
11.33mSv
18,678人
13,478人
1,799人
 24人
合計
12.48mSv
21,199人
15,502人
2,586人
174人
                                    (総作業者数44,841人)


表Ⅱ‐2】
最近3カ月(2015/6~8)の月別平均と年換算の被ばく線量(外部被ばく)
6月平均7月平均8月平均年換算
東電社員0.25mSv0.26mSv0.18mSv2.79mSv
協力企業0.72mSv0.66mSv0.39mSv7.14mSv

 
【表Ⅰ‐1】によれば、福島第一原発事故が発生した2011年3月以降の総作業者数が約4万5千人。そのうち、累積被ばく線量が10ミリシーベルトを超えている者が約1万6千人、総作業者数の3分の1以上。50ミリシーベルトを超える者も2千6百人、100ミリシーベルトを超える者も174人。
また、【表Ⅱ‐2】によれば、発災直後に比べれば現場の放射線量率はだいぶん下がってきているものの、最近の数値で、下請の作業員の平均の被ばく線量は年換算で7.14ミリシーベルトになる。
作業員にとってはこのような被ばくが常態化しており、「事故の直後に比べたら大したことではないのでは」という声も聞かれる。しかし、次に見る最新の知見を踏まえると深刻に受け止めるべき数値だということがわかるだろう。



cnc002.jpg 


  (二) 低線量・低線量率でもリスク上昇




 今年7月と10月、仏・米・英・スペインの国際的な研究チーム(以下、国際研究チーム)が、職業被ばくとガンにかんする2つの論文を発表した。
 ひとつは、放射線被ばくと白血病との相関性に関するランセット論文[5]、いまひとつは、放射線被ばくと固形ガンとの相関性に関するBMJ論文[6]。いずれもThe International Nuclear Workers Study(INWORKS)[7]という疫学調査を元にしている。INWORKSは原子力施設の作業員に対して60年以上にわたって行われている追跡調査。2つの論文はそのうちの約30万人の作業員のデータを統計的に解析したものだ。
 2つの論文が示した新たな点を挙げてみよう。
 
● ランセット論文
・ 被ばく線量の増加に比例して、白血病を発症するリスクが上昇する。
・ 極めて低い被ばく線量・線量率でもこの関係は成り立つ。
・ 被ばくがない場合の白血病リスクを1とすると、被ばく線量が1ミリグレイ蓄積するごとに、白血病リスクは1.003に上昇する。
・ 低線量の放射線によって累積する慢性的な外部被ばくと白血病リスクとの間には線量反応関係があるという強力な証拠が得られた。
 
● BMJ論文
・ 白血病以外のガン(胃、肺、肝臓など)について、被ばく線量に応じてガンによる死亡リスクが直線的に増加する。
・ 被ばくがなくてもガンで死亡するリスクを1とすると、被ばく量が1グレイ蓄積するごとに、ガンの死亡リスクが1.48に上昇する。
・ 100ミリグレイ以下の被ばくでも、線量に応じたリスクの増加は、高線量の被ばく(原爆被爆者の調査)と同じような傾向を示した。
 
 
 一言で言えば、この研究は、国際放射線防護委員会(ICRP)などの「公式の見解」が依拠してきた土台を覆している。その点を若干解説しよう[8]
① 「公式の見解」は、Life Span Study(LSS)[9]と呼ばれる 広島・長崎で被爆し生存した人びとに対する追跡調査を元にして行われてきた。しかしこの調査は、被爆から5年後に生存していた人を対象にしているなど偏りがあり、また、個人の被ばく線量が正確には特定できないことなどの問題があった。
それに対して、INWORKSは、原子力施設の作業員であり、被ばく線量が管理されており、60年以上にわたる長期のモニタリングが行われている。
また、LSSの母集団が約12万人であるのに対して、INWORKSを元にした国際研究チームでは約30万人と大きいことだ。
② 「公式の見解」では、LSSは高線量の被ばくの集団であり、低線量域については<わからない>とし、そこから、高線量域のデータ解析において採用した理論モデルを、低線量域にも当てはめる「外挿」というやり方が取られてきた。
しかし、<わからない>というのはデータがないのではない。低線量域のデータは存在している。むしろ低線量域の方が単位線量あたりの被ばくの影響は大きいという結果も出ている[10]。ただデータのばらつきも大きい。そのために理論モデル通りには行かない。だとすれば、高線量域の解析において採用した理論モデルはそのままでは低線量域では使えないとするべきだ。ところが、逆に、低線量域のデータの方を切り捨てて、理論モデルの方を優先するというやり方を取ってきた。このやり方には疑問が提起されてきた[11]
それに対して、INWORKSに基づく国際研究チームの場合は、全作業員30万人の積算被ばく線量が20.9ミリシーベルトという低線量被ばくを直接観察することによっている。この点で信頼性がはるかに高い。
③ そして、次の点がもっとも重要な点だが、「公式の見解」は、高線量域で採用したモデルを低線量域に外挿する際に、<低線量被ばくのリスクは高線量被ばくのリスクの2分の1に換算する>[12]という数字の補正を行っている。これは<同じ100ミリシーベルトの被ばくでも、低線量率でじわじわと長時間にわたって被ばくする場合と、高線量率で一挙に被ばくする場合とでは、その影響は高線量率の場合の方が大きいはずだ>という考え方にもとづいている。2分の1の根拠は動物実験や理論モデルなどから導出されたとしている。
 しかし、その考え方は、低線量被ばくの影響を実際よりも過小に評価するものだという批判を受けてきた。
今回の国際研究チームの成果では、「被ばく線量の増加に比例して、白血病を発症するリスクが上昇する」「極めて低い被ばく線量・線量率でもこの関係は成り立つ」(ランセット論文)、「被ばく線量に応じてガンによる死亡リスクが直線的に増加する」「100ミリグレイ以下の被ばくでも、線量に応じたリスクの増加は、高線量の被ばく(原爆被爆者の調査)と同じような傾向を示した」(BMJ論文)。つまりICRPの「公式の見解」で採用されている<低線量被ばくのリスクは高線量被ばくのリスクの2分の1に換算する>というやり方は間違いであるという結果が出たのだ。
 
◇100ミリで3.8%上昇

 さて「公式の見解」と国際研究チームの結果とを、具体的な数字で比較してみるとどうなるか。ガン死亡リスクで見てみよう。
まず、現在の日本の男性について(男女に差があるので男性の場合で検討する)、ガンに罹患する確率(生涯ガン罹患リスク)は62%、ガンで死亡する確率(ガン死亡リスク)は26%[13]。これは被ばくのない場合のリスクである。
 ICRPの1990年勧告、2007年勧告などの「公式の見解」では、<ガン死亡リスクは、1シーベルト被ばくするごとに5%上乗せされる>としてきた。
 これに対して、BMJ論文では、<被ばくがなくてもガンで死亡するリスクを1とすると、被ばく量が1グレイ蓄積するごとに、ガンの死亡リスクが1.48に上昇する>としている。(グレイとシーベルトは違う単位だが、便宜上、ここではシーベルトと同じとみなす)
 計算過程は省くが、公式の見解のガン死亡リスクとBMJ論文のガン死亡リスクを累積100ミリシーベルトと累積1シーベルトでそれぞれ比べると、【表Ⅰ‐3】以下のようになる。
            
 【表Ⅰ‐3】  ガン死亡リスク計算の比較

    公式の見解    BMJ論文
被ばくなし               26%
100mSv26.5% (+0.5%)
29.8% (+3.8%)
1Sv31.0% (+5.0%)
38.5% (+12.5%)


 公式の見解とBMJ論文とでは、ガン死亡リスクの上乗せ分(被ばくによってリスクが上昇した分)が一桁も違う。100ミリシーベルトでは、「公式の見解」では26%が26.5%に0.5%の上昇としていたが、BJM論文では、26%が29.8%に3.8%も上昇する。被ばくがなくてもガン死亡リスクが26%あるということ自体が問題だが、それが被ばくによって確実に上昇することがわかる。
こうして見ると、<100ミリシーベルト以下の被ばくは影響がない><影響はあっても他の要因に隠れてしまう>ということが専門家と称する人びとによって流布されてきたが、全く誤った見解だったということだ。
以上のように、国際研究チームによる新たな知見に踏まえると、福島第一原発の収束・廃炉作業に従事している作業員の累積被ばく線量が、白血病や固形ガンのリスクをかなりレベルに上昇さていると見る必要がある。また、政府が進める年間20ミリシーベルトを基準にした住民に対する避難解除と帰還促進の方針は、住民の健康被害のリスクをもたらす危険な行為だということは明らかだ。そして、次の章で述べるように、ICRPの防護基準やそれに基づく法定の線量限度が大幅に見直されなければならないということだ。

〔【Ⅱ】に続く〕



[1] 2015年8月26日 厚生労働省・報道発表資料「東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理を強化します」
[2] 2015年10月20日 厚生労働省会見(朝日新聞10/21付)
[3] 河北新報2015年10月21日
[4] 2015年8月26日 厚生労働省・報道発表資料「東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理を強化します」
[5] 英医学誌ランセット・ヘマトロジーに今年7月掲載
「放射線作業者における電離放射線と白血病並びにリンパ腫死亡のリスク:国際コホート研究」
[6] 英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに今年10月掲載
「低線量電離放射線被ばく後のがんリスク-15カ国における後向きコホート研究」
[7] 15カ国が共同して行っている疫学調査。この調査には日本の厚生労働省も資金提供をしている。
[8]この項は主に津田敏秀岡山大教授が出したコメントを参照した。津田教授のコメント全文はサイエンス・メディア・センターウェッブサイト(http://smc-japan.org/)に掲載
[9] LSSとは原爆生存者の「寿命調査」。原爆傷害調査委員会(ABCC)が開始し、放射線影響研究所が引き継いでいる。原爆生存者は晩発性の影響に苦しめられ続け、しかもそのデータは都合よく処理されている。疫学上の論争として見る以前に、被爆者を何重にも冒涜するものであることを踏まえる必要がある。
[10] Radiation Research 2012.3「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14報、1950-2003、がんおよび疾患の概要」/崎山比佐子「放射線教育の問題点」(『科学』2012年10月号)
[11] 最近では、崎山比佐子「放射線教育の問題点」(『科学』2012年10月号)/濱岡豊「放射線被曝関連データの再分析」https://m.sc.niigata-u.ac.jp/~hirukawa/seminar/niigata2014_program/Yutaka_Hamaoka.pdf
[12] 正確には線量線量率効果係数(DDREF)。ICRPは2を採用し、LSSで得た値をそのまま採用せず、2で割るという補正を行っている。
[13] がん情報サービス「がん登録・統計」 http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
累積罹患リスクは2011年データに基づく。累積死亡リスクは2013年データに基づく。

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  1. 2015/12/19(土) 12:00:00|
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