福島 フクシマ FUKUSHIMA

津波被害と原発震災に立ち向かう人々とともに

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甲状腺がんの患者・家族が声をあげた —家族の会の設立

「『放射線の影響ではない』というなら、何が原因なのかを知りたい。『原発事故の影響ではない』と証明できるなら、はっきり証明をしてほしい」

 小児甲状腺がんの患者と家族が声をあげた。
 東京電力福島原発事故後の県民健康調査で小児甲状腺がんと診断された5人の子どもとその親(5家族7人)が、「311甲状腺がん家族の会」を結成した。
 3月12日、都内で行われた記者会見には、患者の父親2人がインターネット中継で福島から訴えを行い、また、都内の会場では、同会の世話人である河合弘之(弁護士)、千葉親子(ちかこ/元会津坂下町議)、牛山元美(医師)の三氏が会の設立の趣旨について報告した。


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(左から、牛山元美氏、河合弘之氏、千葉親子氏)

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(インターネットで中継し会場のモニターに映し出された2人の父親)


 2人の父親の会見は、氏名も顔も明かさず、音声も変換して、インターネット中継という形で行われた。父親の話は控え目で、告発や抗議のような言葉もほとんど聞かれなかった。
 ここに患者や家族が置かれている福島県内の状況が示されている。
 「絆」、「復興」、「風評被害」―これらの言葉がメディアから流され、有力者の口から語られ、地域社会の中で唱和される。それが言葉の圧力となり、放射線や健康被害の問題を口にすることが、あたかも「風評被害」を助長し、「復興」の足を引っ張り、「絆」を壊す行為としてはばかられる空気が作り出されていく。
 県民健康調査・検討会議の専門家たち、一部の医師たちが発する「原発事故の影響とは考えにくい」という言葉も同じことだ。患者や家族は被害者であるにもかかわらず、被害を訴えるどころか、自分たちが何か間違ったことをしたかのように思わされ、自分たちを責めてしまっている。そして、誰にも相談することができず、孤立を強いられている。
 患者と家族は、がんを発症するという苦しみ、そして、手術や後遺症の苦しみ、さらに再発の不安の上に、被害者なのに自分を責め、誰にも相談できずに孤立するという二重三重の苦しみを強いられている。
 だからこそ、「『放射線の影響ではない』というなら、何が原因なのかを知りたい。『原発事故の影響ではない』と証明できるなら、はっきり証明をしてほしい」という患者と家族の訴えは重い。 河合弁護士は次のように指摘する。「国や福島県のやり方は、放射能による病気という核心部分を否定することだ。そうすることで、原発事故の損害・被害の全体をなきものにしようとしているのだ。だから、この核心部分を絶対に否定させてはならない。まさに、病気発生という核心部分の事実を明らかにして、『因果関係がある』ということをはっきりさせることが、被害者の救済にも、原発をなくしていくという点でも重要なのだ」(発言要旨は後段で紹介)
 「考えにくい」という言葉を繰り返す星北斗・県民健康調査検討委員会座長(福島県医師会副会長)や鈴木眞一福島県立医大教授らは、患者・家族の訴えに正面から答える義務がある。

 以下は、3月12日の記者会見から、患者家族である2人の父親、牛山医師、河合弁護士の冒頭発言と質疑応答の要旨を掲載する。〔わかりやすくするため、順序は入れ替え、また趣旨を変えずに構成した〕


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(超音波による甲状腺検査を実演する鈴木眞一福島県立医大教授。〔被験者役はスタッフ/2012年11月4日郡山市内の甲状腺検査住民説明会〕。鈴木教授は原発事故後に多発する甲状腺がんの検査と手術を担当。
 原発事故当時18歳以下だった約38万人を対象に福島県が行っている甲状腺検査で、これまでに166人が甲状腺がんまたはその疑いと診断。通常に比べて数十倍高い発生率。手術を受けたのは117人〔うち1人は良性〕)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【Ⅰ】「何が原因なのか究明を」
        ―患者の父親



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(左側の白い服がAさん。Aさんは10代の女子を持つ父親。右側の黒い服がBさん。Bさんは当時10代の男子を持つ父親。いずれも中通り在住/写真は家族の会より提供)


 がん宣告のショック

―小児甲状腺がんと宣告されたときのお気持ちは?

Aさん:10代の子どもががんと言われまして、私も妻も大変ショックでした。
 それ以上に本人もショックで、大泣きしたというのが事実でございます。

Bさん:うちの場合も、先生からダイレクトに「あなたはがんです」って言われまして、息子も、顔面蒼白になって、椅子に座っていられないぐらい血の気が引いちゃったような感じになりました。
 私も、がんと言われて正直、気が遠くなるような感じで、ひどい思いをしましたけど、息子は、ショックで数日間かなりふさぎ込んでおりました。

―誰かに相談するとかそういうことは?

Aさん:自分の子どもががんであるということは誰にも言えませんでした。子どもも友達には言えません。学校には伝えてはいますが、誰に相談していいかというのもわからなくて、家族だけで悩むということがずっとありました。病院にいったときにちょっと先生と話すくらいで、その他ではもう甲状腺がんの話を出すということが正直できなかった状況です。

Bさん:孤立と言いますか、自分の子どもが実際にがんと診断されて他人に相談できるかと言ったら、たぶんできる人はいないと思います。正直。
 がん、イコール死というイメージが強かったものですから、とにかくもう、本当に恐ろしいというか、怖かったです。

 「放射線の影響は考えにくい」

―県立医大の対応や説明についてどう感じていますか?

Aさん:「放射線の影響とは考えにくい」と言われて、では何が悪かったのかを知りたいというのが本当のところです。
 「考えにくい」というのに何度も検査しているわけで、何でなのかなという思いがあります。
 原因がはっきりわからないので、今後、再発しないかとか、他に転移はしないかとか、それが一番心配なところです。

Bさん:息子の目の前で「あなたはがんですよ」って言われたのは、ものすごくショックでした。10代の思春期の子どもに、ちょっとあの言い方はきつかったという感じがします。
 私たちは、当然ながら甲状腺がんの知識はないので、とにかく藁にもすがる思いで、先生の言うことを聞いて、治療すれば大丈夫なのかなと思っておりました。
 ただ再発ということが払しょくできないのが不安です。

―がんの宣告を受けたとき、医師から、セカンド・オピニオンについての知らせはありましたか?また、がん患者には患者会があるのですが、その紹介はありましたか?さらに、がんの状態についての説明は何分ぐらいでしたか?

Aさん:セカンド・オピニオンについてはっきりした説明はなかったと記憶しております。
 患者会については、甲状腺がんも全部含めた(がん一般の)案内はいただきました。診察時間が10分ぐらいだったので、説明もそれくらいだったと思います。
 医大に紹介された患者会に妻が行ってきました。患者会というより、先生の説明会という感じで、甲状腺がんを持つ親というのは見受けられなかったようです。

Bさん:セカンド・オピニオンについては何の説明もありませんでした。患者会についても知りませんでした。説明の時間は10分以内だったと思います。

―放射線の影響に関してどういう言葉で説明されましたか?

Aさん:診察の時、「放射線の影響はあるのですか?」と訊きましたら、「影響はない」ではなかったのですけど、「考えにくい」という表現で言われました。

Bさん:私の場合は、当然、原発の影響かなと思いまして、訊ねてみたところ、先生は「ありません」とはっきりおっしゃいました。

―小児甲状腺がんが多発していることについて、「過剰診断をしているからでは」という専門家もいますが?

Aさん:確かに検査の精度も上がって、従来なら見つからなかった小さながんも見つかるようになったとは思います。しかしうちの娘の場合、比較的大きな状態で見つかりました。明らかにがんだとわかる形で見つかっていますので、過剰診断とかではないと思います。

 患者・家族を孤立させる圧力

―顔も隠して音声も変えてという形でしか話をすることができない状況についてどう感じていますか?

Aさん:甲状腺がんの原因がはっきりしていませんので、今のところ原因がわからないのでこういう状態になっていると思います。原因がはっきりわかっていれば、いいのですけど。
 それから、福島県では、放射能による風評被害というのもかなり大きくて、放射線とかその辺の言葉を言うと、さらに風評を高めてしまうとか、農産物が売れなかったりとか、非常にその辺が・・・。だから無意識のうちにそういった言葉を言いづらくなってしまっていると思います。

 ◇ケアと原因究明

―政府や福島県、あるいは東京電力に対して訴えたいことは?

Aさん:「放射線の影響とは考えにくい」というのが今の見解ですので、放射線の影響ではないとするならば、他の原因が何なのか、(小児甲状腺がんと診断された)166名の方々の原因を探っていただきたいと思います。

Bさん:放射線との因果関係は極めて低いという見解が出されていますけど、では一体何が本当なのかを知りたいです。

―東京電力に関しては?

Aさん:今のところちょっと思い当たることはありません。

Bさん:東京電力さんが原因だという確たる証拠があるわけじゃないので、そこのところはすいません、控えさせてもらいます。

―患者と家族にとって何が必要ですか?

Aさん:やはり10代の子どもががんと言われまして、非常に落ち込んでしまいまして、それが家族としては一番心配するところです。精神的なケアを充実してもらいたいと思います。

Bさん:今後望むのは、メンタルのケアをやっていただきたいと思います。

― 一番の要求は原因をはっきりさせるということですか?

Aさん:原因はわかっていないのですけれども、原発事故の当時福島で生活していたこと(は事実)。「放射線の影響が考えにくい」というのであれば、それ以外の原因は何があるのかを知りたいです。
 「原発事故の影響ではない」と証明できるのであれば、はっきり証明をしてほしいと思います。(救済というより)まずは原因を知りたいと思います。

Bさん:私も、最初に、根本的な原因が何かを知りたいです。

 家族の会ができて

Aさん:いままで子どもの病気のことは、周りの誰にも言えずに、病院の先生と孤独に話すだけでした。「甲状腺がん家族の会」ができまして、同じ病気の子どもさんを持つ親と、子どもの普段の様子、手術前後の体調のこと、またいろいろな悩み事など、いままで誰にも言えなかったことを話すことができて、本当によかったと思っております。同じ境遇の人たちと話すことで、気持ちが大変楽になりました。私たち家族にとって力強い味方です。世話人の方々の存在も大変力強いと思っております。
 定期的に集まり、情報・意見の交換などができればよいと考えております。同じ立場にある方が多くいると思います。是非、この会を広めていっていただければと思っております。

Bさん:気持ちの分かり合えるみなさんとお話ししただけでも、本当に救われた気持ちでいっぱいです。
 まだまだ大変多くの方々が悩んでいると思いますが、勇気を振り絞ってこの会に参加していただけたらと思います。


【Ⅱ】腫瘍の大きさと
  転移の事実、再発の可能性 
         ―牛山医師



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(牛山医師は神奈川県内の病院で内科医として勤務。福島県内などで健康相談会に参加、また福島県内の病院で当直支援。2013年にはベラルーシの医学アカデミーで研修も)


 「甲状腺がんは進行も遅く、命に関わることのない悪性度の低いがんだ」と言われていました。しかし、それは中年以降の女性に見られる甲状腺がんの話です。福島原発事故以前、小児甲状腺がんは非常に稀でした。
 チェルノブイリ原発事故後に増えたとされる小児甲状腺がんは、腫瘍が小さくても、リンパ節や肺に転移を起こしやすく、進行しやすいと言われています。
 今回ほとんどの方を手術された福島県立医大の報告を見ると、手術を受けた方の90%以上は、腫瘍の大きさが手術適応(手術をするべきかどうかを判断する)基準を超えていたり、小さくてもリンパ節転移や肺転移を起こしていたり、甲状腺の外に広がりを見せて進行したもので、すぐ手術をしてよかったという症例だったということでした。
 このような事実からすると、甲状腺がんが多数見つかっていることについて、「検診をした所為だ」「スクリーニング効果だ」「過剰診断だ」という意見は、事実にそぐわないと思います。

 「考えにくい」が患者を苦しめている

 では、なぜこれだけ多くの甲状腺がんが福島の子どもたちに見つかったのか。それはまだ全く解明されていません。放射線の影響かどうかも、県の検討委員会の中でさえ意見の相違があり、「影響とは考えにくい」とか、「影響を否定するものではない」と、非常にあいまいな表現をされています。
 患者さんやご家族は、今回診断された甲状腺がんがなぜ起こったのか、とても悩んでおられます。患者さんのお母様は「あの頃の食事が悪かったんだ」「放射能汚染を気にせず食べさせたから」「外で遊ばせたから」、子どもは「自転車で通学したのがいけなかった」と、あるいは「遺伝的なものなのか」とか。みなさん、自分がいけなかったのかと悩んでいます。
 
 セカンド・オピニオンが閉ざされている

 実は手術を受けてそのあとに再発された方も複数おられます。再手術の前に、治療方法についてセカンド・オピニオンを希望される方も当然いらっしゃるわけですが、福島県内では、県立医大に行くようにと言われて、相談に応じてくれる医療機関もほとんどなく、セカンド・オピニオンの実現が困難な状態です。よりよい医療を受けたいという、患者や親の当然の願いを実現させたいと思っております。
 担当医師とのコミュニケーションもうまく取れていない。それをうまく取れるようにもっていっていただきたいと思っております。
 甲状腺がんについて、忌憚のない意見の交換や適切な情報共有をして、できるだけ不安を取り除きたいと思っています。

―県立医大のやり方は、患者を置き去りにしている感じがしますが?

牛山医師:県立医大からは、あまりにも情報が出てきません。では患者さんには心のケアとかをされているのかと思っていましたが、ご家族からお話を伺うと、決してそうではない。いろんな問題点があると思います。家族会で改善していければと思います。

―一般には「甲状腺がんは取ってしまえば大丈夫」といわれていますが、再発とか、後遺症とかがあるのでしょうか?

牛山医師:県立医大の手術では、ほとんどが片側の甲状腺しか取っていません。もう片方は残してあるわけです。そうすると薬を飲まないで済むのですね。でも、残っている方の甲状腺に多くは再発があります。すでに再発している方や再発が疑われている方がいます。
 ベラルーシでも、片方だけ取って、結局、もう片方も取らなくてはならなくなったという方がたくさんいたと聞いています。それは再発しているからです。
 そして手術をされたときは、大体は喉に違和感があったり、物を飲み込みにくいとか、声がかすれるということが多く出てきます。
 再発は、断端(だんたん/切った端)からではなくて、切り取った部位とは離れたところから出ていると聞いています。
 乳腺や甲状腺の場合、最初にがんが出た時点で、どこからがんが出てもおかしくないのです。それは遺伝子の異常が起きているからと言われています。だから組織を残しておくとまたそこからがんが出てくる可能性はあるわけです。甲状腺も最初から全部取った方が安全は安全ですけど、それでは傷が大きくなったり、後遺症を残しやすいので半分は残しておきたい。だけどチェルノブイリの例では、半分残した人が続々と再発して、結局、2回目の手術を余儀なくされて傷も大きくなった。そこは医者として非常に難しいところです。
 では今の環境でなぜ再発が起こっているのか。今の生活の中で新たに放射性ヨウ素によって甲状腺にがんが発生するような条件にはない。セシウムなど他の放射性物質の問題はありますが。とにかく最初に被ばくした時点で、遺伝子レベルで変化が起きている。それがひとつ、またひとつと時間をずらして出てくれば、最初は片方を取ったけれども、また片方に出てくるという形で再発するのだと思います。

―県立医大は「予後(病後の経過)がいい」と説明していますが、それは違うということですか?

牛山医師:いや、(必ずしもそうではなく)チェルノブイリの場合もそうなのですけど、例えば肺への転移の場合、放射性ヨウ素を使った放射線治療をするのですが、それでがんが抑えられ、消えていきます。だから、リンパ腺や肺に転移していると言うと、普通のがんであれば非常に重篤で末期の状態ということになりますが、放射線(由来の甲状腺がん)の場合、そうではないと言われています。
 そこが、「甲状腺がんは楽な、安全な、安心ながん」と言われるところなのですが、しかしがんはがんなのです。放置しておけば命に関わるものになるし、チェルノブイリでも死者は出ています。「安全で放っておいてもいいがん」ではありません。
 何よりも10代の子どもががんだと言われるショックを考えてみてください。

―とくに福島県内の医者の協力はどうでしょうか?

牛山医師:福島の中で、同じように憂いている医者たちはいます。
 ただそういう方たちは、県民健康調査の委託医という資格をとっていて、実際に県立医大の先生方といっしょに検診をされています。そういう方が発言すると、ご自身がやっている仕事がやりにくくなったり、県立医大との信頼関係が難しくなるということで、残念ながら福島の医者の方たちは名前を出すことができません。ただ仲間ですので相談をし合っています。


【Ⅲ】「因果関係がある」と認めさせる
          ―河合弁護士



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(河合氏は、数々の大型経済事件を逆転勝利に導いてきた弁護士。現在は脱原発弁護団全国連絡会共同代表。東電の旧経営陣らを告訴・告発し、2月末に旧経営陣3人の強制起訴を勝ち取った福島原発告訴団)

 ◇核心が否定されている

 3・11以降、深刻で大きな被害が出て、ADR(裁判外紛争解決手続)や訴訟が全国で争われています。1万人が訴訟を起こしています。でもそれはぜんぶ財物損害(家屋などの損害)と精神的慰謝料だけです。
放射能被ばくの被害・損害の核心は、放射線から発生した病気です。健康被害などという甘い表現を私は使いません。放射線による病気、とりわけ小児甲状腺がんや白血病が被害の核心です。
 図で書くと〔下の写真参照〕、大きい丸が放射線被害の全体です。その大半を占めるのが財物損害と精神的慰謝料です。でも財物損害も精神的慰謝料も、元は、病気すなわち甲状腺がんや白血病などになるということから発生します。


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 だからこの核心部分が否定されると、原発の大きな損害の全体がわからなくなります。
放射能の高いところにいると病気になるから避難するわけです。精神的苦痛も、放射能で病気になるのではないかと不安に感じるからです。だから財物損害も慰謝料も元は放射線による病気というところに核心があります。
 ところが、膨大な損害の核心部分がスポッと抜けて、否定されています。それが大問題なのです。
 核心部分がスポッと抜けるとどうなるか.全部、底抜けになります。「放射能との因果関係は考えにくい」「病気が発生するかどうかわかんない」となると、「家が放射能で住めなくなることもはっきりしない」ということになり、財物損害も慰謝料も根拠がなくなります。それは、結局、「放射能は怖くない」「原発の再稼働をどんどんやろう」という論理になっていくのです。
 すべての被害・損害は放射能による病気というところから発生しているわけですが、その核心部分を否定してしまおうというのが今のやり方だと私は考えています。
 だからこの核心部分を絶対に否定させてはならない。まさに、病気発生という核心部分の事実を明らかにして、「因果関係がある」ということをはっきりさせることが、被害者の救済にも、原発をなくしていくという点でも重要なのだというのが私の考えです。
 「因果関係がある」ということをきちんと社会的にも政治的にも立証していかなければならないとのです。ここはまさに天下分け目の戦いです。

 ◇患者の深刻な分断

 では、なぜこの核心問題が抜けているのか。
 患者の皆さんは、お互いに顔も名前も知らず、団結もなく、完全に分断されてきました。また、現代医療において当然認められるべきインフォームド・コンセント(十分な説明を受けた上で治療に同意すること)やセカンド・オピニオンということが、この間の甲状腺がんの治療過程では、完全に否定された状態にあります。
 「あなたはこういうわけで病気になった。だからこういう治療をする」というふうにやっていくのが今の医療でしょう。ところが、「はい、あなたはがんです。はい、切ります」と。そこで「原発事故が原因なのでしょうか?」と訊いたら、「違います」と言われてしまう。
 そこには、問答無用で恩恵的家父長的な治療はあっても、インフォームド・コンセントはないのです。不安だからセカンド・オピニオンを求めようと思っても、とんでもないことになるという恐怖でそれができない。さらに、セカンド・オピニオンを求められた医者も、福島県立医大や福島県と後で面倒なことになるので、やはり「県立医大に行ってください」となります。
 こうして、患者はセカンド・オピニオンも求められず、完全に分断され、抑え込まれていているわけです。
 僕たちも、何とかアプローチをしようと県立医大や福島県に訊いてみましたが、「とんでもない。個人情報ですから教えられない」と。こうして、166人という数はわかっても、どこの誰か全くわからなかったのです。
 これは本当に憂慮すべき事態だと考えていたところに、カミングアウトしてくれる人たちが出てきてくれました。これはもう抑えきれないのだと思います。
 だから、すべては何から始まるかというと、患者さん同士がお互いに知り合い、どういう状態かという情報を交換し合うところから、始まるということです。

 ◇立証責任の転換を

 現在の国際的な合意は、放射線量と白血病その他の発病率は「しきい値なし」ーここから下は安全というしきい値がないー、それから「直線モデル」ー放射線量と発病率は正比例するーこれが国際的な合意です。IAEAも認めています。
 そして、ある原発から大量の放射性物質が放出されて、その範囲に住んでいる人間が甲状腺がんになったら、原則として、その甲状腺がんはその原発の事故の所為だと認定すべきです。
 もちろん、その甲状腺がんが別の理由だときちんと立証できたら、話は別ですが。例えば、レントゲン検査で、誤って甲状腺に大量の被ばくをしてしまったとか。それは医療ミスです。
 そういう別の理由がキチンと立証されない限り、原則として、原発事故により放出された放射性物質と因果関係があると認定すべきです。
 そもそも<福島原発から発生した放射性物質が、こういう風に乗って流れていって、それがこの子どもの甲状腺にくっついて、そこからがんが発生した>ということを立証するのは不可能です。そういう不可能な立証ができていないということを理由に、「考えにくい」として否定するのは法律的に間違いです。法律的には、因果関係は被害を訴える側が立証しなければならないのですが、本件や公害の場合には、立証責任が転換されるということになっています。
 まさに、「考えにくい」と否定する側が、因果関係を否定する例外的な事由を立証しなければいけないという考え方、そういう判断枠組みを変えないと、被害者は全く救済されないということを私は強く訴えたいのです。

 ◇患者・家族が団結して

 やはりご家族の方が言われたように、因果関係を認めさせることが大事だと思います。
 因果関係が認められないとき、損害賠償ということはおよそないわけです。「治療だけはしてやる」と言うけど、その治療も極めて恩恵的な家父長的な治療になります。それではダメなのです。
 まず「因果関係を認めなさい」と政策要求を出していく。「国と東京電力に責任があることを前提に対策をとってください」と。何かものを頂戴とか、情けをかけてくださいと言っているのでないのです。
 そして、正当な要求を認めてくれということを通すには、被害者が団結しないとダメなのです。個人が孤立している限り、親が訴えても本人が訴えてもダメなのです。患者・家族が結束して申し入れや発言をすると、それは社会的勢力による発言と見なされます。そこではじめて注視され、尊重されるようになるのです。そういうための家族の会だということです。
 もちろん、その基礎にまずはお互いが知り合って情報を交換し、慰め合い、団結する必要があり、それが第一目的です。そうした後に来るものが社会的勢力として自分たちの正当な要求を政策に反映させていくことだと考えています。   (了)






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テーマ:「原発」は本当に必要なのか - ジャンル:政治・経済

  1. 2016/03/16(水) 16:00:00|
  2. 健康被害
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「大丈夫」とくり返す甲状腺説明会

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 福島県が実施している子どもを対象にした甲状腺検査について、福島県と福島県立医大の主催する住民説明会が、11月4日郡山市内、10日には福島市内で行われた。
 〔写真上:超音波による甲状腺検査を実演する鈴木眞一福島県立医大教授。被験者はスタッフ〕

 以下、甲状腺検査をめぐるこの間の経緯を概観しつつ、県と県立医大の説明内容について検討してみたい。 〔11/19に一部加筆〕




【Ⅰ】 ヨウ素と甲状腺がん



未解明のヨウ素の流れ


 昨年3月の福島第一原発事故によって大量の放射性物質が放出され、住民の多くが被ばくし、健康被害の危険にさらされている。
 中でも放射性ヨウ素については、半減期が8日と短いことから、一方で、事故後2~3カ月以内にはほとんど消滅しているが、他方で、半減期の短さゆえに放出される放射線の線量が強く、人体に与える危険度は大きい。とりわけ成長期の子どもが甲状腺にとり込みやすく、甲状腺がんになる危険がある。
 事故で放出された放射性セシウムの動きについては、原発から北西方向に広がる汚染地図がよく知られている。ところが、放射性ヨウ素の動きについては、事故直後に調査が行われていないため、実態はわかっていない。
 国が明らかにしているSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)によれば、下図のように、原発から北西方向への流れとともに、いわき市など南方向への流れがあったと推測されている。


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 事故当時、原発から北西方向の浪江町津島地区には、多くの住民が1~2週間、避難をしていた。また、いわき市では、水や食糧を求める行列に、親とともに子どもたちも並んでいた。そこに大量の放射線性ヨウ素が降り注いでいた。多くの住民が、「金属の味がした」「皮膚がピリピリした」などの特徴のある証言をしている。
しかし、このとき、住民には、放射性ヨウ素の情報はまったく届けられていない。それどころか、ヨウ素剤を配布しようとした自治体に対して、県が配布を止めようとしたという事実さえあった。
 このために多くの住民が被ばくを余儀なくされている。とくに子を持つ親たちは、強い不安と後悔の念に苛まれている。

 
甲状腺検査の結果


 こうした中で、昨年10月から、福島県健康管理調査の一環として、福島県と県立医大によって、甲状腺検査が始められた。対象は、原発事故当時に0~18歳の県内の子どもたち約36万人。一次検査は超音波画像による専門家の判定。その後、必要に応じて、より詳細な検査を二次検査で行うとしている。昨年10月に開始され、今年8月現在で約8万人が検査を受けた。
 県と県立医大が9月11日に行った県民健康管理調査・検討委員会で公表した検査結果を簡単にまとめると以下の通り。


◇一次検査の結果(8月24日現在)

2011年度2012年度
実施総数38,114人42,060人
結節なし嚢胞なし64.2%56.3%
5ミリ以下の結節や20ミリ以下の嚢胞35.3%43.1%
5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上の嚢胞 0.5% 0.6%
直ちに二次検査を要する 0.0% 0.0%


                
◇二次検査の結果(8月31日現在)

二次検査対象者検査終了甲状腺がん良性腫瘍
186人38人1人27人



検査実施対象地域:福島市、南相馬市、伊達市、田村市、川俣町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、飯舘村
 

鈴木教授の説明


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 上記のように、「5.0ミリ以下の結節や20ミリ以下の嚢胞を認めたもの」が、昨年度で35.3%、今年度では43.1%になっている。そして、1人の甲状腺がん発症が確認された。この結果を受けて、11月4日、郡山での甲状腺検査・説明会となった。
 説明に当たったのは、県民健康管理調査・検討委員会の鈴木眞一県立医大教授。福島県立医大病院の乳腺・内部分泌・甲状腺外科部長で、甲状腺検査の中心を担っている人物。
 鈴木教授の説明の概要は以下のようなものであった。

・一般(成人)の甲状腺がんは、固形がんの中でも最も予後がいい。
・甲状腺がんは、年齢が上がるほど、生存率は下がる。若いほど進行は遅い。
・チェルノブイリ事故の場合、汚染された牛乳等を摂取したために内部被ばくをしたことが原因。福島事故の場合、牛乳を廃棄したのでその心配はない。
・日本の場合、海草類を食べるなど日常的なヨウ素の摂取が多いので、チェルノブイリとは違う。
・小児甲状腺がんは、欧米の統計で年間100万人あたり1~2名に発生。きわめて少ない。日本の統計は取っていない。 
・チェルノブイリの知見から、事故による放射線の影響が出てくるのは4~5年後。今回の二次検査で見つかった甲状腺がんは、事故との因果関係はない。
・放射線被ばくによる発がんリスクは、より若いことと、100ミリシーベルト以上の線量ということが影響している。
・現時点では子どもに甲状腺がんの増加が起こる可能性は低い。
・検査体制が整うことによって、一時的に早期発見され、より若年で発見される可能性がある。たとえ発症してとしても、成人より進行が速いとは言えない。
・甲状腺がんの目的は、保護者の不安の解消と、甲状腺がんの増加がないことを確認するため。




【Ⅱ】 秘密会と放影研の系譜



 ここで、教授の説明内容の検討に入る前に、県民健康管理調査を巡って生起している問題とその背景を見ておきたい。

 県民健康管理調査とは、全県民を対象に、今後30年以上にわたって、原発事故後の健康状態の調査を行うというもの。
 その検討委員会とは、県立医大が実施する健康管理調査について、専門家の立場から助言するもの。山下俊一県立医大副学長を座長に、放射線医療総合研究所、広大原爆放射線医科学研究所、放射線影響研究所(放影研)、環境省、内閣府、文科省、厚労省などの担当者、県立医大の教授など、総勢19名で構成され、昨年5月から今年9月までに計8回開催されている。


医師に圧力


 山下氏は、甲状腺学会に所属する医師に宛てて、甲状腺検査に関して、以下のようなメールを送信している。〔田中隆作ジャーナル 2012年6月2日〕
「異常所見を認めなかった方だけでなく、5ミリ以下の結節や20ミリ以下の嚢胞を有する所見者は、細胞診などの精査や治療の対象とならないものと判定しています。先生方にも、この結果に対して、保護者の皆様から問い合わせやご相談が少なからずあろうかと存じます。どうか、次回の検査を受けるまでの間に自覚症状等が出現しない限り、追加検査は必要がないことをご理解いただき、十分にご説明いただきたく存じます」
 診療をするなという圧力とも受けとれる内容である。医師法では、<医師は診療を拒否してはいけない>とされているのだが、実際に、母親が市内の5病院に電話をかけたが断られたという事実が報告されており、このメールの影響と指摘されている。


秘密会の発覚


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 さらに、10月3日付の『「毎日新聞』〔写真上〕が、この県民健康管理調査・検討委員会をめぐって、重大な事件を報道した。
 この検討委員会の開催にあたって、事務局を務める県保健衛生部の担当者が呼びかけて、事前に委員らを集め、秘密裏に準備会を開いていた。会場は、検討委員会とは別で、配布した資料も回収、議事録も残さず、委員への口止めも行われ、存在自体を隠していた。
 9月11日の検討委員会直前の秘密会では、甲状腺検査で甲状腺がんの発症がはじめて確認されたことを受け、「原発事故と甲状腺がん発症との因果関係はない」との見解を確認、さらに検討委員会の場で委員が事故との関係を質問し、調査を担当した県立医大がその質問に答えるというシナリオまで話し合っていた。
 そして、検討委員会の場では、シナリオ通りに因果関係を問う質問が出され、鈴木教授が、<チェルノブイリ事故で甲状腺がんの患者が増加したのは事故から4年以降だった>として今回の甲状腺がん発症と原発事故との因果関係を否定した。
 県民健康管理調査・検討委員会をめぐって、県が主導して、秘密会を持って、意志一致を行い、想定問答まで用意していた事実は、国や県の意図を端的に示していると言わざるを得ない。
 浪江町の馬場町長の次のような指弾が、的を射ているだろう。
「議論を誘導したい県の意図が明らかだ。健康被害を過小評価する結論が先にあるからで、結論ありきで会議をまとめるには秘密会が必要なのだろう」


「100ミリまで安全」の山下氏


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 検討委員会座長の山下県立医大副学長は、周知のように、事故直後から福島に入り、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとして各地で講演して回った人物。
「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは明確な動物実験でわかっています。笑いが皆様方の放射線恐怖症を取り除きます」、「毎時10マイクロシーベルトを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、昨日もいわき市で訊かれました。『今、いわき市で外で遊んでいいですか』『どんどん遊んでいい』と答えました。福島も同じです」、「影響があるのは100ミリシーベルト以上の放射線量を1回で受けたときで、将来、がんになる可能性が1万人に1人ぐらい増える」
 このような発言を繰り返している山下氏だが、ここには根深い背景がある。
 かつてチェルノブイリ事故後の1991年、IAEA(国際原子力機関)が、「事故後の白血病や甲状腺がんの顕著な上昇は証明されなかった」という報告書をまとめたが、その調査の責任者が放影研の初代理事長の重松氏。そして、放影研の二代目理事長の長滝氏は、「チェルノブイリの放射能による死者は、急性放射線障害の28人と小児甲状腺がんの15人だけ」と発表した人物。そして、この長滝氏の指導下で研究していたのが山下氏。
 山下氏も、チェルノブイリの健康調査に携わり、世界中の科学者が合意した唯一の症状が小児甲状腺がんの増加のみで、「現地では貧血や好酸球増加が多く見られ、免疫不全を示唆するデータの報告もあるが、いずれも放射線に起因する確かな証拠はない。当然、白血病の増加も確認されていない」と見解を発表している。


ABCC=放影研の歴史


 ところで、山下氏を指導した長滝氏が理事長を務めた放影研という組織の出自と歴史に注目しておく必要がある。

 放影研とは、ABCC(原爆傷害調査委員会)を引き継いだ日米共同の機関。ABCCは、アメリカが原爆投下後の1947年に広島に設立(翌年に長崎)、原爆による放射線の人体への影響を調査してきた。
 原爆生存者のうち12万人を母集団として、その人たちが被爆した場所やその放射線量を調べあげ、長期にわたって健康を調査し、死亡すればその死因を追跡する。こういうことを今日も続けている。世界に類例のない疫学調査だ。
 その調査の目的は、核兵器の威力を確認し、核戦争に備えるため。だから、ABCCは、被爆者の治療は一切行っていない。収拾した資料やデータもアメリカに持ち帰っていた。(その後に返還)
「(被爆者である妻のところに)ABCCが何度も呼びに来て、最後はMP(米軍の憲兵)と一緒に来て、強制的に比治山の施設に連れて行かれた。抵抗すると軍法会議にかけると脅され、泣きながら採血され、脊髄液も取られた。また、死産した奇形児などの胎児を渡すと、ABCCから、内緒で報酬がもらえた」〔元国鉄職員で講談師の久保浩之さんの証言〕


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〔ABCCによる調査〕
 

モルモット


 実は、いま福島県で行われている県民健康管理調査は、この放影研などが事故直後の昨年4月に打ち出したものだった。県立医大はそこに後から参加し、実務的には県立医大が中心になっているが、そもそもABCCの流れを引き継ぐ放影研などが、多数の住民の被ばくという事態に、疫学上の価値を見出して打ち出した調査なのだ。
 県民健康管理調査・問診票の回収率は、今年8月末現在で22.9%にとどまっている。それは、少なからぬ住民が、「自分たちはモルモットにされている」と感じているからだ。
 そういう背景の中で、山下氏が県放射線健康リスク管理アドバイザーになり、県立医大副学長になり、県民健康管理調査の指揮を執っているということを見ると、秘密会議などこの間の異様な事態も説明がつくだろう。



【Ⅲ】 健康被害を過小評価



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 さて、上記のような鈴木教授の説明にたいして、説明会に参加した住民から、「『大丈夫だ』というという結論に向かって進められているように感じられる」と、不信や疑問が次々と出された。教授の説明、教授と住民の質疑応答に踏まえて、問題点を以下に整理する。


「予後がいい」のウソ


教授:一般(成人)の甲状腺がんは、固形がんの中でも最も予後がいい。


 教授は報告で、<甲状腺がんは予後がいいから、心配しなくていい>と繰り返している。
 しかし、よく見ると、教授の報告は、成人の甲状腺がんと小児甲状腺がんとを意図的に混同し、また、チェルノブイリ事故によって、ウクライナやベラルーシで実際に発症している小児甲状腺がんの実態には触れないで、一般的な甲状腺がんの話をすることで済ましている。
 ウクライナやベラルーシで実際に発症している小児甲状腺がんの実態について、IAEAとWTOによる健康被害の隠ぺいを告発し続けるミッシェル・フェルネックス博士が、次のように告発している。
「(小児甲状腺がんは)小児の病気ですが、以前には存在しなかったといってよいものです。西ヨーロッパで普通に見られる甲状腺癌とはまるで反対で、たいへん悪性のものです。80%の症例では、最初の診断の時に、既に転移があるんです。リンパ節とか、肺とかにです。・・・・
 実際には、この癌はとても悪性のもので、患者本人にも家族にも実に大変なことになっていくわけです。それが、診断を受けたその日から始まるのです。どれだけ手術がうまくいき、処置が適切だったとしても、子供は健康にはなりません。この腫瘍に関しては手術や沃素131の投与が、どういう予後になっていくのかということは、本当には分からないですよね。まだ検証ができるほどの時間が立っていないですから。内分泌に関して言えば、何らかの代替物質を注入する処置を、一生続けていくしかありません。患者たちが子供だからといって、自分たちの将来が分からずにいるわけではありません。ベラルーシのいろいろな病院で調査をして、ミンスクの小児科専門病院で分析したものによりますと、『私たち、大人になっても、子供を作ることってできるの?』というのが、子供たちの一番の心配事です。患者の三人に二人は女の子です。彼女たちのこの質問に『正しく』答えるなんてできやしません」


「4年後から」の解釈


住民:甲状腺がんが一人見つかったと報道されて、親たちは本当に心配している。どうしてもっと徹底した公表をしないのか。
教授:まだ正確なデータが出ていなかった。理由はそこだけだ。
教授:チェルノブイリの知見から、事故による放射線の影響が出てくるのは4~5年後。今回の二次検査で見つかった甲状腺がんは、事故との因果関係はない。


 教授は、二次検査で確認された1人の甲状腺がんについて、「チェルノブイリの知見から、事故による放射線の影響が出てくるのは4~5年後。今回の二次検査で見つかった甲状腺がんは、事故との因果関係はない」と説明した。
 教授が示したグラフからもわかることは、<被ばく4~5年後から甲状腺がんが急速に増加した>という事実だ。しかし、このことをもって、<被ばくから4年以内には甲状腺がんは発症しない>と断定することはできないだろう。
 もちろん被ばくの影響ではないかもしれない。しかし、現時点で「事故との因果関係はない」とするのは恣意的だ。


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〔ベラルーシにおける小児甲状腺がんの増加を示すグラフ〕

 
内部被ばくを軽視


住民:今日の説明では、一般的な甲状腺がんと放射線による甲状腺がんとの区別がわからない。また、ヨウ素による被ばくが重要だと言いながら、ヨウ素の問題とセシウムの問題が判然としない。
教授:放射性ヨウ素は半減期が短いのでリアルタイムで測定するのは非常に難しい。
チェルノブイリで小児の甲状腺がんのリスクが高まるのが100ミリシーベルト以上。
福島の子どもについて、SPEEDIから推計した被ばく量が、最大23ミリシーベルト、99.3%が10ミリシーベルト未満・・・
住民:それは外部被ばくの話では。甲状腺に関しては内部被ばくの方が問題では。
教授:私は、内部被ばくの専門家ではないので、そこは僕はよく分からない。


 住民から批判されている通り、教授のデータの示した方は次のような問題がある。
 ひとつは、発がんリスクが上昇するのは100ミリシーベルト以上で、100ミリシーベルト以下は心配ないとしている点。山下氏らの一貫した主張だ。
 いまひとつは、甲状腺への被ばくを問題にしていながら、外部被ばくに偏っており、内部被ばくについて、「専門外」と逃げてしまう点。内部被ばくを軽視していることがありありとしている。


被ばくの実態に向き合わない


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〔小児甲状腺がんの摘出手術を受けたベラルーシの子ども〕

 
住民:3月15日に放射性ヨウ素が大量に降り注いだといわれるいわき市で、いまだ検査をやっていないのはおかしい。
教授:検討はしている。

住民:チェルノブイリの例で、「汚染された牛乳の摂取等」となっており、福島では原乳が廃棄されたから不安は少ないという話だったけれども、東京でペットボトルが配られたように、水道水など牛乳以外の食物からの摂取という不安は拭えない。
教授:その通りだが、その点については、違う先生がやっていますから。われわれは線量を見ながらやっているというのではない。


 放射性ヨウ素が降り注ぐ中に長時間にわたって滞在し、とくに子どもをそういう状態にさらしてしまったという取り返しのつかない不安と後悔を訴える住民はたくさんいる。
 住民の側が、切実な思いで、放射性ヨウ素の拡散の実態に引き付けながら、被ばくの影響がどのように出てくるのかという点について、専門家にたいして知見を求めているにもかかわらず、その訴えに向き合わず、「それは別の先生がやっていますから」とかわしてしまう。
 教授は、日本内分泌外科学会の学会賞を受賞するなど、その分野での専門家なのだろうが、しかし、現実に起こっている被ばくとそれがもたらす事態、そこで苦しんでいる人びとにはまったく向き合おうという姿勢がない。

  
権威におもねる

 
住民:甲状腺の調査をしたとき、セシウムの沈着も認めたという文献を読んだことがあるが、先生は知っているか。
教授:セシウムの文献は知らない。われわれは、すべての論文を採用しているわけではないし、山下先生の文献だから採用したわけではなくて、私もいま憧れているけど、「ランセット」(世界の五大医学雑誌の一つ)は、われわれにとって、非常に権威のあるいいペーパーだ。そういうところに出たものは非常に重要視している。
 科学的な事象が山ほどあっても、このくらいの安全だというエビデンス(証拠)の高いものから選択する。いま質問をいただいたようなことを全く否定しているわけではないが、目にも止めたけどやはりあまり僕らとしては重要視しなくていいと見ている。
 情けない話だが、ここでの話は、エビデンスのしっかりしたものを出したいということがある。


 教授は、「たくさんの事象がある中で、エビデンスの高いものを選択する」と述べている。
 一般的には、信頼できるデータや報告に依拠するのは当たり前だ。
 ところが信頼と権威とは大違いだ。チェルノブイリ事故の被害実態をめぐっても、IAEAとWTO(世界保健機関)が、その権威でもって支配し、「健康被害はない」という報告を繰り返してきた。これにたいして、ウクライナやベラルーシの少なからぬ医療者が、被ばくした人びとに向き合い、その人びとともに真実を追究する姿勢を貫いてきた。そのために、IAEAやWTOの権威との衝突も辞さず、身の危険も覚悟して医療に携わった。
 ところが、鈴木教授の発する言葉は、現に被ばくしている住民とともに真実を追究するのではなく、学会で認められた権威に依拠してそれを事実に当てはめるという姿勢に終始している。そのことを隠そうともしない。
 真実に向き合い、患者とともにあり続けた水俣の原田医師のような人がいま必要だと痛感する。

なお、教授が「憧れている」という医学雑誌『ランセット』は、チェルノブイリ事故後の小児甲状腺がんの発症を報告した論文がいつくも寄稿されながら、それをことごとく撥ねつけて掲載しないということやっている。小児甲状腺がんの急増という事実を否定・隠ぺいするのに加担しているのだ。


真実が知りたい


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 郡山市から参加した女性が感想を語ってくれた。
「鈴木教授はお医者様なのですが、なんか官僚と話し合いをしているような感覚に追い込まれてしまって、悲しい思いをしました。
 結論ありき。安心安全をそのままさらっと言って、部分的なものだけを提示して、深いところまで追究しないで終わってしまうという、いつもの通りの話でした。
 『不安の解消』ではなく、私たちは事実、真実を知りたいのです。そのために足を運んでいるのです。ここで真実を聞いたことによって、それぞれ各自が判断をして、ここに留まるのか、疎開をするのか、避難をするのか、これからの人生を考えていかなければいけないのです。
 もう1年8カ月もたった時点で、遅いのかもしれないですけど、まだ間に合うという希望を持っています。事実を、真実を知り、伝えてほしいという要望はつよく続けて行きたいと思います」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 
 以下に、参考資料として、〔1〕IAEAとWTOによるチェルノブイリ事故後の健康被害の実態の隠ぺいを告発し続けるミッシェル・フェルネックス博士(医学者、バーゼル大学名誉教授)の報告の一部抜粋、〔2〕ウクライナのエフゲーニャ・ステパノワ博士(ウクライナ放射線医学研究センター放射線・小児・先天・遺伝研究室長)が昨年12月に福島市内で行った報告の一部抜粋、および〔3〕ユーリ・I・バンダジェフスキー博士(元ゴメリ医科大学学長)の論文の一部抜粋を掲載する。


〔1〕フェルネックス博士の報告(一部抜粋)


(チェルノブイリ事故による)甲状腺の癌は、初めの数年間、ずっと否認されていました。けれども余りにも明白になってきてしまったので、存在を認めるしかなくなりました。『ランセット』にはこの話題を扱った論文が何本も寄稿されていたのですが、すべて撥ねられていました。が、とうとう、この癌と様々な地域での汚染の度合いとの相関関係を示す研究を、何本か掲載することになりました。ケンブリッジ大学のウィリアムズ教授という絶大な権威ある研究者が、IAEAの専門家たちの中でも、この問題に関してスポークスマンだったのですが、甲状腺癌の存在をついに認めました。
 小児の病気ですが、以前には存在しなかったといってよいものです。西ヨーロッパで普通に見られる甲状腺癌とはまるで反対で、たいへん悪性のものです。80%の症例では、最初の診断の時に、既に転移があるんです。リンパ節とか、肺とかにです。ところがIAEAの報告書は「善良な癌です」と言って締め括るんです。まあ、推進派の専門家たちというのは、私が聞いた限り、同じようなことを言いますね。手術が適切で、薬も適切なら、患者の命は助かる確率が高いというわけです。私の隣には、代表団に正規に選ばれた女性がいたんですが、私にこう言いました。「私の二人の娘たちには、その善良の癌とやらに罹って欲しくないわね」と。
 実際には、この癌はとても悪性のもので、患者本人にも家族にも実に大変なことになっていくわけです。それが、診断を受けたその日から始まるのです。どれだけ手術がうまくいき、処置が適切だったとしても、子供は健康にはなりません。この腫瘍に関しては手術や沃素131の投与が、どういう予後になっていくのかということは、本当には分からないですよね。まだ検証ができるほどの時間が立っていないですから。内分泌に関して言えば、何らかの代替物質を注入する処置を、一生続けていくしかありません。患者たちが子供だからといって、自分たちの将来が分からずにいるわけではありません。ベラルーシのいろいろな病院で調査をして、ミンスクの小児科専門病院で分析したものによりますと、「私たち、大人になっても、子供を作ることってできるの?」というのが、子供たちの一番の心配事です。患者の三人に二人は女の子です。彼女たちのこの質問に「正しく」答えるなんてできやしません。

             『終わりのない惨劇 ―チェルノブイリの教訓から』
                  竹内雅文訳  2012年3月 緑風出版


 
〔2〕 ステパノワ博士の報告(一部抜粋)


一) 1989年から甲状腺ガンが増加


 ウクライナ医学アカデミーの内分泌・物質代謝研究所のデータによると、子どもの甲状腺ガンの疾患率は、事故から3年後の1989年から上昇が始まった。

◎90年~2009年まで、疾患例数は次第に増加

・09年の疾患例数・・・・・・・・・・・・・・・・ 463例

・86年~08年までに同研究所で、 甲状腺ガンで手術を受けた患者数
             ・・・・・・・・・・・・・・ 6049人

◎その中の子どもと未成年者の割合

・事故当時、子ども(0~14歳)
            ・・・・・・・・・・・・・・・ 4480人=74.1%

・事故当時、未成年者(15~18歳)
            ・・・・・・・・・・・・・・・ 1569人=25.9%


二) 1992年から機能障害が慢性病へ移行


 30キロ圏内から避難した子どもおよび、汚染地域の住民において、事故6年後の92年から、機能障害が慢性病に移行した。 この傾向は、子どもが18歳になるまで見られた。

◎最も悪い傾向を示しているのは、甲状腺に高い被ばく線量を受けた子どもたち。
甲状腺に2・0グレイ〔※〕以上被ばくした子どものうち、
  健康な子どもの割合・・・・・・・・・・・・  2.8%未満
        
        〔※グレイ: 放射線をあびた物質が、吸収するエネルギーの量を示す単位〕
 
◎健康な子どもの割合が、86年から2005年で、大幅に減少
・86~87年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27.5%
・2005年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   7.2%

◎慢性疾患を持つ子どもの数が、86年から05年で、大幅に増加
・86年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   8.4%
・05年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  77.8%

◎プリピャチ市から避難してきた子どもは、比較的汚染の少ない地域に住んでいる子どもに比べ、疾患率は、ずっと高い。2003年の健康管理システムによる調査で、疾患率は3倍に。

◎89年から2003年で、下記の疾患が増加
・消化器官の疾患
・神経系の疾患
・血液循環系の疾患
・呼吸器の疾患(慢性気管支炎・喘息・気管支炎)


                   ◎報告全文は、下の関連記事の欄へ



〔3〕 バンダジェフスキー博士の論文(一部抜粋)


 免疫系の状態は、これ(内臓器官の異常)とは別に考慮しなければならない。従来の実験結果は、体内の放射性セシウムで引き起こされた変化の明確な姿を明かにしていない。病理的な変化がどこかに発生すれば、免疫系にもかならず病理学的変化が現れる。免疫グロブリンと甲状腺ホルモンとの正の相関は、それがまさに事実であえることを証明している。
 このことから、私たちは、チェルノブイリ事故後の甲状腺異常は、放射性ヨウ素だけでなく、生体内や甲状腺に持続的に取り込まれた放射性セシウムと、甲状腺ホルモンに結合するさまざまな免疫グロブリンの能力にも関連すると考えられる。
 甲状腺ホルモンが代謝系列から排除されると、脳下垂体-甲状腺系の機能が乱れる。その結果、多量の甲状腺刺激ホルモンが分泌され、濾胞上皮細胞を増殖させ、腫瘍形成の状況をつくり出す。
 このように、放射性セシウムが甲状腺に与える影響は、異常の性格を考慮し、生体の各器官や組織が持つ免疫調節の乱れと疾患の性質の視点から検討されるべきである。
 セシウム137が常に体内に取り込まれていると、甲状腺は十分に修復できず、細胞分化が阻害され、細胞の構成要素が免疫系に抗原として認識される事態を引き起こすもととなる。
 免疫反応の亢進に伴って、自己抗体と免疫適格細胞が甲状腺を傷つけ、自己免疫性甲状腺炎や甲状腺がんが発症する。

     『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響
           チェルノブイリ原発事故 被曝の病理データ』 
            久保田護 訳 2011年12月 合同出版

                                               
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(了)





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  1. 2012/11/14(水) 14:32:57|
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偽りのモニタリングポスト


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 上の写真〔7月25日撮影〕は、飯舘村小宮地区のコミュニティーセンターにあるモニタリングポスト。表示されている数値は、毎時3.381マイクログレイ。
 他方、手に持っている線量計の数値は、毎時6.27マイクロシーベルト。

 グレイは、物質が放射線を浴びて受け取ったエネルギー量で示された放射線量。シーベルトは、人体が、放射線を浴びることで受けるダメージの程度で示された放射線量。ガンマ線に関しては1グレイ=1シーベルト。

 ほんとど同じ場所で、この違いはどういうことなのか?


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文科省も誤り認める


 このモニタリングポストは、今年4月頃に文科省が設置したもの。設置直後から、住民の間では、「手持ちの線量計より低い」「文科省は数字を低く見せようとしている」と疑問と不信が広がっていた。
 ようやく今月に入って文科省は、<検出器近くに置いたバッテリーが周囲の放射線の一部を遮蔽しているために、実際より1割程度低い数値を示していた>と発表した。同型の可搬型モニタリングポスト675台(福島県内に545台、隣県に130台)が、実際より低い数値を示しているという。
 しかし、上の写真で示したように数値の違いは、1割どころではなく、誤差の範囲で片づけられる問題ではない。また、単なる計器の不具合ということでは住民も納得しない。
 そして、飯舘村では、このモニタリング結果をもとに、小宮地区は2年後の2014年度に、飯樋地区は3年後の2015年度に、長泥地区は2016年度に帰還するという計画を、菅野村長が、国や県の支持のもと、住民の危惧や批判を抑えて推し進めている。
 その判断基準とされてきた放射線量の数値そのものが過小に表示されていたということは、帰還計画の前提が揺らぐ事態だ。
 

健康被害を過小評価


 事故直後から枝野官房長官(当時)が「直ちに健康への影響はない」と繰り返し、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の予測を国や県が公表を抑え、山下氏(当時・長崎大教授、現在は福島県放射線健康リスク管理アドバイザー、県立医大副学長)が「100ミリシーベルトまでは安全」と講演して回った。最近では県健康管理調査の検討委員会(座長は山下副学長)が事前に秘密会を開催し、秘密会の存在を口止めしていたという事実が暴露された。国や県が、意図して、原発事故の被害を小さく見せ、放射線による健康被害のリスクを過小に評価し、あるいは事実を隠そうとしていると、住民は感じている。
 モニタリングポストの問題に対しても、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの高村昇氏(長崎大教授)は、次のようなコメントを出している。
「もし空間線量が1割高くなったとしても健康に影響を及ぼすようなレベルではない」
 これが、国や県、東京電力らの放射線と健康被害にかんする一貫した姿勢だ。


低線量でも白血病リスク上昇

 
 ところで、低線量の被ばくでも、白血病の発症リスクが高まるという最新の研究が発表された。(11月8日に米専門誌に発表、共同通信配信)
 米国立がん研究所や米カリフォルニア大サンフランシスコ校の研究チームが、1986年のチェルノブイリ原発事故の除染などに関わって低線量の放射線を浴びた作業員約11万人を、2006年まで20年間にわたって追跡調査。調査対象者の被ばく線量は、ほとんどが積算で100ミリシーベルト未満。137人が白血病になり、うち79人が慢性リンパ性白血病に。統計的手法で遺伝など他の発症要因を除外した結果、白血病の発症は16%が被ばくよる影響と考えられると結論づけたという。
 山下教授らが依拠するICRP(国際放射線防護委員会)の主張を否定する調査結果が発表された。正確な検証が待たれるが、今回のモニタリングポスト問題でも示された国や県の放射線リスク評価の姿勢を曖昧にできない。(了)





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  1. 2012/11/11(日) 16:40:13|
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【資料】  子どもに深刻な健康被害   ウクライナ小児科医の警告


チェルノブイリ子ども6
 (ウクライナの少女。心臓疾患を患い、手術を受けた。2011年4月/支援団体のサイトより)


 ウクライナで、放射能がもたらす子どもの健康被害の調査と治療に、長年とり組んできた、エフゲーニャ・ステパノワ医学博士が、12月11日、福島市内で、「チェルノブイリとウクライナの子どもたちの健康 ~25年の観察結果~」と題する講演を行った。                〔講演の主催は、国際環境NGO グリーンピース・ジャパン〕

◇慢性的な疾患

 博士が、講演の中で述べたことは、厳しい現実だった。
「チェルノブイリの子どもの健康状態には、かなり否定的な傾向が見られる。より幼い年齢の子どもが、複数の病気に同時にかかり、治りにくく、すぐに再発する慢性的な疾患の状態にある」という。
 一般に、被ばくによる影響は、ガンや白血病の増加として認識されている。
 しかし、チェルノブイリの現実はそれにとどまるものではなかった。子どもの慢性的な疾患が深刻な問題になっている。
 それは、事故直後の放射性ヨウ素による影響に始まり、事故から1~5年の時期の体調不良、3年後に見られる甲状腺ガンの増加、さらに6年後には様々な臓器の慢性疾患が増加するという衝撃の事実が、データをもとに報告された。
 また、事故処理に当たった作業員から事故後に出生した子どもに、先天性の障害が見られるという事実も指摘した。

◇日本の子どもも

 この事実に基づいて、日本における影響についても言及した。
 「日本の子どもたちの健康にたいする影響は、チェルノブイリの子どもたちに観察されるものと、同じようなものであるかも知れない」と指摘。
 取るべき措置として、「子どもたちは、放射能リスク・グループに入れるべきである。幼年期もその後も、常に医学観察の下に置かれるべきだ。その目的は、健康障害を防ぐこと、もしくは適切な時期を逃さず、健康障害を見つけるためだ」と提起している。
 また、「山下教授(現福島医大副学長)が『100ミリシーベルトまで大丈夫』と言っていることについてどう思うか?」という質問にたいして、「今日は論争のための用意はしていないので」と慎重な態度を取りつつ、「ウクライナでは、法律で、『1986年生まれの子どもにたいする追加被ばく線量は、年間1ミリシーベルト、生涯で70ミリシーベルトを超えてはならない』と定められている」と、結論は明快だった。

◇チェルノブイリの轍

 ところが、国も行政も、福島の子どもたちの避難・疎開を認めようとしない。このままでは、見す見す、福島の子どもたちが、チェルノブイリの轍を踏まされてしまう。
 ステパノワ博士とチェルノブイリの子どもたちの警告に真剣に向き合う必要がある。そして、福島の子どもたちの避難・疎開、食品の安全と医療の体制を実現するために、行動する必要がある。
 それが、ステパノワ博士とチェルノブイリの子どもたちが訴えていることだ。

・            ・            ・
  

 博士の講演は、用意された日本語のレジュメに沿いつつ、ウクライナ語を逐次通訳しながら行われた。
 以下の文章は、講演とレジュメをもとに、学術的な用語や表現を避け、できるだけ平易な言葉に直し、また、理解しやすいように整理と要約を加えて作成した。
 レジュメ風の読みづらさは残っているが、数字とともに、衝撃的な事実は伝わるはずだ。
 なお、作業の際に、ウクライナ政府・緊急事態省による報告書・「チェルノブイリ事故から25年 Safety for the Future」(2011年4月 ※)を参照し、必要に応じてデータを確認し、補強した。  
〔※「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワークによる翻訳資料がネット上にある。〕


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 エフゲーニャ・ステパノワ医学博士。ウクライナ放射線医学研究センター放射線・小児・先天・遺伝研究室長。
1962年から小児科医として勤務。72年にロシアのトムスク医科大学助教授、86年には同機関の学長。88年より現職。86年に起きたチェルノブイリ事故以来、子どもたちの健康問題にとり組み、88年から放射線関連の子どもの病気について研究、これまで5万人の子どもたちを検診してきた。チェルノブイリの子どもたちの93年から98年の医療記録データベースの作成にも貢献した。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



【Ⅰ】 住民の避難



●1986年4月26日深夜、チェルノブイリ原子力発電所の第4原子炉で爆発が起きた。26日の放射能レベルは、毎時100ミリレントゲン〔※〕に達した。
        〔※ レントゲン: 放射線の強さを示す単位〕

●そのため、チェルノブイリ原発から4キロ離れたプリピャチ市〔※〕の住民を避難させる決定がなされた。
 26日深夜、避難のために、1100台のバスと3本の列車が準備された。
 27日14時、プリピャチ市の住民の避難が始まった。
 3時間で、同市から4万5千人が避難、うち1万7千人が子どもだった。
        〔※プリピャチ市: かつてチェルノブイリ原発直近にあり、
原発労働者が多数居住していた街〕


●事故直後、チェルノブイリ原発から30キロ圏内の住民が避難した。

●事故の規模が明らかになるにつれて、30キロ圏内に加えて、汚染が555キロベクレル/平方メートル以上の地域からの移転が行われた。

●86年末までに、188の居住区域から11万6千人が移転。

●さらに93年末までに、全部で23万人が移転した。


プリピャチ市観覧車

プリピャチ市廃墟 
(写真上下とも、事故から25年目の現在も廃墟のままのプリピャチ市。2011年3月)



【Ⅱ】 汚染度による4つの地域区分



 事故当初の放射能状況に大きな影響を及ぼしたのは、半減期の短い放射性ヨウ素。その後は、半減期の長い核種。現在は、主にセシウム137。セシウム137は、総放射線量の90~95%を占めている。

●ウクライナでは、放射性セシウムの汚染度に従って、4つの地域区分が行われた。


汚染地図01


第1ゾーン 立ち入り禁止区域
 チェルノブイリ原発から30キロ圏
 1500キロベクレル/平方メートル以上

▼第2ゾーン 強制移住区域
 555キロベクレル/平方メートル以上
  =年間放射線量5ミリシーベルト以上

▼第3ゾーン 補償自主移住区域
 185~555キロベクレル/平方メートル
  =年間放射線量1ミリシーベルト以上

▼第4ゾーン 環境強化管理区域
 37~185キロベクレル/平方メートル
  =年間放射線量0・5ミリシーベルト以上

●ウクライナでは、法律によって、「1986年生まれの子どもにたいする追加被ばく線量は、年間1ミリシーベルト、生涯で70ミリシーベルトを超えてはならない」と定められている。
 第1ゾーン・立ち入り禁止区域は、100年間は、人が居住するには適さない。
 第2ゾーンから第4ゾーンに該当する居住区域は、時間の経過と放射性物質の崩壊によって、徐々に減少していく。



【Ⅲ】 4つのグループ分けと子どものカテゴリー



●ウクライナでは、チェルノブイリ事故の被災者を、登録のために、4つの住民グループに分けている。
・グループ1: 事故処理作業者
・グループ2: 強制避難および強制移住させられた住民
・グループ3: 汚染度の低い地域に住んでいる住民
・グループ4: グループ1~3の親から生まれた子ども
             

●被ばくした住民の中でも、特にリスクのあるグループは、子どもだ。
 理由は、成長・発達している体が、放射能にたいして、大きく反応するからだ。

●今回の報告では、チェルノブイリ事故が、下記のカテゴリーの子どもの健康にたいして与える影響を取り上げる。
     ⅰ: プリピャチ市と30キロ圏内から避難した子ども
   ⅱ: 汚染地域に居住している子ども
   ⅲ: 胎内被ばくの子ども
   ⅳ: 被ばくした親から生まれた子ども



【Ⅳ】 1986年 ヨウ素の危険性が高い時期の
    子どもの体の反応




●「立ち入り禁止区域」から避難した子どもが訴えた症状

▼喉がいがらっぽい、
  口の中で金属の味がする・・・   55.7%
▼疲れやすい・・・・・・・・・・・・・・・  50.1%
▼頭痛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  39.3%
▼咳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    31.1%
▼首部分の痛み・・・・・・・・・・・・・  29.8%
▼めまい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   27.8%
▼不眠・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  18.0%
▼失神・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    9.8%
▼吐き気と嘔吐・・・・・・・・・・・・・・    8.0%
▼便通不順・・・・・・・・・・・・・・・・・    6.9%        

●体のもっとも典型的な反応

▼血液データの質的な変化・・・・ 92.2%
▼血液データの量的な変化・・・・ 34.2%
▼リンパ組織の過形成・・・・・・・・ 32.2%
▼呼吸器症候群・・・・・・・・・・・・・ 31.1%
▼心臓血管系の機能障害・・・・・ 18.0%
▼胃腸管の活動障害・・・・・・・・・   9.4%
▼甲状腺肥大・・・・・・・・・・・・・・・   6.8%
▼肝臓と脾臓の肥大・・・・・・・・・・  3.2%



【Ⅴ】 1987~91年 不調を訴える回数の増加


●事故から1~5年の時期、子どもたちが不調を訴える回数が増えた。

▼極度の疲労・・・・・・・・・・・・・・・・ 82.7%
▼衰弱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71.1%
▼神経の不安定・・・・・・・・・・・・・・ 65.9%
▼胃腸の不調・・・・・・・・・・・・・・・・ 52.8%
▼頭痛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52.0%
▼めまい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  40.3%
▼不眠・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29.6%
▼心臓付近の不快感・・・・・・・・・・ 26.4% 


チェルノブイリ子ども05 
(心臓疾患の手術を受けた少女。2011年4月 ウクライナ)

 
●臨床検査の際に、様々な器官の機能障害が見られた。 

▼動脈圧の不安定・・・・・・・・・・・・ 70.3%
▼免疫力の低下・・・・・・・・・・・・ 60~70%
▼肺の吸気機能障害・・・・・・・・・・ 53.5%
▼肝臓機能の一時的障害・・・・・・ 52.8%
▼心臓の機能変化・・・・・・・・・・・・ 40.0%
▼胃の機能障害・・・・・・・・・・・・・・ 39.6%
▼運動後の疲れやすさ・・・・・・・ ・ 31.5




【Ⅵ】 1989年から甲状腺ガンが増加



●ウクライナ医学アカデミーの内分泌・物質代謝研究所のデータによると、子どもの甲状腺ガンの疾患率は、事故から3年後の1989年から上昇が始まった。

▼90年~2009年まで、疾患例数は次第に増加。
▼09年の疾患例数・・・・・・・・・・ 463例
▼86年~08年までに同研究所で、
  甲状腺ガンで手術を受けた患者数
            ・・・・・・・・・・・ 6049人
▼その中の子どもと未成年者の割合
   事故当時、子ども(0~14歳)
            ・・・・・・・・・・・ 4480人=74.1%
   事故当時、未成年者(15~18歳)
            ・・・・・・・・・・・ 1569人=25.9



【Ⅶ】 1992年から機能障害が慢性病へ移行



 30キロ圏内から避難した子どもおよび、汚染地域の住民において、事故6年後の92年から、機能障害が慢性病に移行した。
 この傾向は、子どもが18歳になるまで見られた。

●最も悪い傾向を示しているのは、甲状腺に高い被ばく線量を受けた子どもたち。

▼甲状腺に2・0グレイ〔※〕以上被ばくした子どものうち、
  健康な子どもの割合・・・・・・・    2.8%未満

        
〔※グレイ: 放射線をあびた物質が、吸収するエネルギーの量を示す単位〕
 
●健康な子どもの割合が、86年から2005年で、大幅に減少。

▼86~87年・・・・・・・・・・・・・・・・ 27.5%
▼2005年・・・・・・・・・・・・・・・・・・   7.2%

●慢性疾患を持つ子どもの数が、86年から05年で、大幅に増加。

▼86年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  8.4%
▼05年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77.8%

●プリピャチ市から避難してきた子どもは、比較的汚染の少ない地域に住んでいる子どもに比べ、疾患率は、ずっと高い。2003年の健康管理システムによる調査で、疾患率は3倍に。

●89年から2003年で、下記の疾患が増加。

▼消化器官の疾患
▼神経系の疾患
▼血液循環系の疾患
▼呼吸器の疾患(慢性気管支炎・喘息・気管支炎)


チェルノブイリ子ども04 
(先天的な心臓疾患の子ども。支援団体から送られた縫いぐるみに喜ぶ。ウクライナ。2011年4月)



【Ⅷ】 食品による内部被ばくの影響


(一) 食品の内部被ばくへの関与

●農産物、乳製品、肉、魚などの食品を通して、セシウム137をはじめとした放射性核種が摂取され、内部被ばくが長期に及ぶ被ばく源が形成された。

●内部被ばくへの関与率は、食品がほとんど。

   ▼食品の関与・・・・・・・・・・・・・・・・ 98~99%

●内部被ばくに関与する食品の内訳

▼牛乳・・・・・・・・・・・・・・全被ばく線量の80% 
▼きのこ類・・・・・・・・・・・・・・・・   2~12.5%
▼肉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  5~10%
▼じゃがいも・・・・・・・・・・・・・・・・     5~6%
▼野菜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    1~6%
▼魚・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    1.2%
▼パン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  1~1.4%

 ジトミーロフ州、キーロフ州、ロヴェンスク州の個人経営農家では、汚染されていない乳製品を入手することは非常に困難。現在でも、緊急に解決を要する問題となっている。



(二) セシウム137による疾患


●セシウム137は、消化器の粘膜と臓器の実質器官(肝臓と脾臓)に直接、影響を与える。
 一日の食事量が不規則で、さらにセシウム137が体内に長期間にわたって摂取されることは、胃腸管の罹患率が、常に上昇し続けている原因のひとつ。

●汚染地域の子どもの消化器系の疾患は、明確に増加している。
 汚染度が555キロベクレル以上の強制移住区域に居住している子どもは、汚染の少ない地域に居住している子どもと比較して、下記の病気が、より多く確認された。

▼血液系の障害・・・・・・・・・・・・・ 2.5倍
▼肝臓組織の筋腫化・・・・・・・・・ 2.3倍
▼呼吸器の疾患・・・・・・・・・・・・・ 2.0倍
▼免疫の障害・・・・・・・・・・・・・・・ 1.8倍
▼自律神経血管機能の障害・・ 1.52倍



【Ⅸ】 胎内被ばくの影響



 「プリピャチ市から避難した妊娠女性から生まれた子ども」、「強制移住地域(555ベクレル以上)に残った妊娠女性から生まれた子ども」について、胎内被ばく(胎児のときの被ばく)の影響を評価した。
 その結果、以下のように、胎内被ばくの影響が見られた。

●胎児期の甲状腺被ばく総量が多いほど、慢性的な疾患を持つ割合が高くなる。


▼胎児期の被ばく線量が0・36グレイを超えると、慢性的な疾患がより頻繁に現れる。
▼1・0グレイ以上では、ほぼすべての子どもに影響が出た。
 
●子どもの身体発達の障害頻度は、胎児期の甲状腺への被ばく線量に相関している。

●子どもの甲状腺障害は、胎児期における甲状腺への被ばく線量が多いほど、増えている。

▼胎児期の甲状腺被ばく線量が0・76グレイを超えている子どもは、被ばく線量が0・36グレイの子どもよりも、甲状腺の超音波画像による構造的変化がより多く見られた。

●被ばくが、妊娠年齢の早い時期であればあるほど、発達上の小さな発達異常の数は多い。

●胎児の赤色骨髄の被ばく線量が多いほど、染色体異常の頻度は増えている。

 

【Ⅹ】 事故処理作業者の子どもへの先天的な影響


リクビダートル01 
(事故処理に当たる作業員。ソ連政府・当時は彼らをリクビダートル=後始末をする人と呼んだ。1986年4月)

 
 もっとも被ばくしたのは事故処理作業者。その事故処理作業者を親として生まれた子どもに、以下のような影響が見られる。

●罹患率〔※〕が安定的に高い。

▼ウクライナ全体の
  子どもの罹患率・・・・ 1032.9~1335.83/1千人
▼事故処理作業者の
  子どもの罹患率・・・・ 1426.78~1587.40/1千人
    
〔※罹患率: 特定の期間内に、集団に、新たに生じた疾病の症例数を、割合として示すもの。
有病率とも。1人が複数の疾病にかかるので、千分率で示されているが、1000を超えている。〕

●健康な子どもの割合が低い。

▼事故処理作業者を親とし、86年に生まれた子どものうち、健康な子どもの割合 ・・・・・・・・・・・ 5.0~9.2%
▼放射線状況の良好な地域の親から86年に生まれた子どものうち、 健康な子どもの割合 ・・・・ 18.16~24.60%

●先天性発達障害の頻度が高い。

▼事故処理作業者から86年に生まれた子ども 
         ・・・・・・・・・・・ 1万3136人
                  (ウクライナの国家登録簿)
▼そのうち、先天性発達障害で登録されている子ども
         ・・・・・・・・・・・ 1190人
                 (1000人当たり、90.6人)

●事故処理作業の初期に生まれた子どもが、もっとも先天性発達障害が多い。
 父親が、事故処理作業から離れて、時間が経つほど、先天性発達障害を持つ子どもの数は減少。

●神経管障害〔※〕の頻度が高い。
 W・ベルチェレスキー(米国)のデータによると、ロヴェンスク州の汚染地域で生まれた子どもには、神経管障害が高い頻度で見られる。それは、 ヨ
ーロッパ諸国での神経管障害の頻度=18.3人/1万人 よりも、かなり高い数字になっている。
        
 〔※神経管閉塞障害: 主に、先天的に脳や脊椎がうまくくっついていない状態〕

●父親が事故処理作業者の家族内で、事故前に生まれた子どもと、事故後に生まれた子どもを比較すると、健康面で以下のような違いがある。

▼慢性的身体疾患
      事故前に生まれた子どもの35.4%
      事故後に生まれた子どもの64.7%
▼3つ以上の慢性疾患
      事故前に生まれた子どもの23.8%
      事故後に生まれた子どもの57.3%
▼もっとも悪い健康指標を持つのは87年出生の子ども
      87年出生の子どもで、健康な子どもは1.8%

 父親が事故処理作業に参加した後に生まれた子どもには、結合組織の異形成症候群〔※〕などの数多くの小さな発達異常が見られる。

〔※結合組織の異形成症候群: 結合組織とは、上皮、筋肉、神経などの器官や組織の間を結びつける役割を果たす組織。異形成症候群とは、器官や組織の成長異常や発達異常〕

●同じ家族の中で、事故後に生した子どもの方が、事故前に生まれた子どもより、染色体異常の頻度は高い。理由は、染色体の破損が多いから。

●DNAのマイクロサテライト〔※〕部分の突然変異が増加。

▼父親が事故処理作業者の家族内で、事故後に生まれた子どもでは、事故前に生まれた子ども比較して、DNAのマイクロサテライト部分の突然変異の増加が見られた。

〔※マイクロサテライト: ゲノム中に散在する、短い配列の繰り返し回数に基づく多型。繰り返し回数が多くなると遺伝子もしくはその産物であるタンパク質が不安定になりやすく、疾患の原因となる。〕


【ⅩⅠ】 結論


(一) 子どもへの深刻な影響

●被災者の子どもの健康状態に、かなり否定的な傾向が見られる。
●もっとも健康状態が悪いのは、甲状腺に高い被ばく線量を持つ未成年者である。

●より幼い年齢で、慢性的な疾患が確認された。複数の病気に同時にかかる傾向があり、対処的に治療しても治りにくく、再発の傾向を持つ。

●胎内被ばくの子どもは、健康異常、身体発達異常、体細胞の染色体異常が高い頻度で見られる。胎内被ばく線量が多いほど、染色体異常の頻度も高くなる関係にある。

●被ばくした両親から、事故後に生まれた子どもには、遺伝的影響の可能性があると推測できるデータが出た。


(二) フクシマでも同様の可能性

 福島第一原発事故は、子どもの健康に悪い影響を与えるか?

 チェルノブイリ原発事故と福島第一原発事故は、レベル7の評価を受けている。それは放射能大事故に相当する。
 福島第一原発事故で、環境に放出された放射性核種のヨウ素131とセシウム137は、チェルノブイリ事故よりも若干少ないが、両者は比較しうるものだ。
 
 したがって、日本の子どもたちの健康にたいする影響は、チェルノブイリの子どもたちに観察されるものと、同じようなものであるかも知れない。
 したがって、子どもたちは、放射能リスクグループに入れるべきである。
 幼年期もその後も、常に医学観察の下に置かれるべきだ。
 その目的は、健康障害を防ぐこと、もしくは適切な時期を逃さず、健康障害を見つけるためだ。 


(三) チェルノブイリの教訓


チェルノブイリ子ども01 
(1週間の保養のためにロンドンに到着したウクライナの子どもたち。2009年3月)


① チェルノブイリと福島の事故は、核エネルギー発電において、もっとも起こり得ない事故さえ起こりうることを示した。
 これは、国家の対応システムをかなり高いレベルで準備し、常にそのシステムを維持しておかなければならないことを証明している。 

② チェルノブイリ事故が大事故であることの認識が遅く、及び住民と環境への否定的な影響の大きさに関する理解が足りなかった。
 そのことが、住民、とくに子どもの健康にたいする被害をもたらした。
 医療当局へは、時宜を得た情報はもたらされなかった。医療当局は、大きな放射能事故の医学的影響を撲滅する用意ができていなかった。
 ヨウ素にたいする予防対策の実施は、遅れたか、もしくは全く行われなかった。
 その結果、甲状腺ガンの頻度が急激に増加した。とくに子どもが甲状腺ガンにかかった。
 
③ 事故にたいするシステムが欠如していたため、事故処理作業に、その用意のない人びとが動員された。
 これは非効率であり、この人びとへの健康への影響は、正当化させるべきではない。

④ 事故による被ばく線量の大部分は、事故が厳しいときのものだ。
 したがって、人びとへの健康、とくに子どもの健康保護にかんする行動が、第一でなければならない。
 プリピャチ市とチェルノブイリ原発の周囲30キロからの住民の避難は、正しいものであり、効果があった。この避難によって、住民の被ばく線量を、約1万人・シーベルト〔※〕に防ぐことができた。
 しかしながら、若干遅かったため、最大限の効果を得られなかった。
 効果があったと認められる措置は、86年5~9月まで30キロ圏外の汚染地域から汚染されていない地域へ移転させたことだ。その結果、子どもたちの被ばく線量を30%まで防ぐことができた。
 その後、子どもたちは、毎年4週間以上、保養施設で健康の増進を行っている。

〔※ 万人・シーベルト: 集団被ばく量の単位。1万人が1シーベルトの放射線を浴びることと、10万人が0.1シーベルトを浴びることは同じ。1人あたりの被ばく線量が小さくても、被ばくした人数が大きければ、集団被ばく線量は大きくなり、社会全体のリスクは変わらない。〕

⑤ 事故に関して住民への情報伝達が遅れ、客観性のある情報が伝えられなかったことが、その後に、社会的心理的な緊張をもたらす前提となった。
 避難と移住のプロセスは、時に、家族関係、友人関係、倫理的・文化的価値観を破壊した。
 さらに、新しく住む場所にかんする被災者の選択権も考慮されていなかった。
 事故の教訓は、住民の生活条件を変えるような決定をする場合には、被災者の希望を考慮する必要がある。

⑥ すべての住民集団は、子どもを含め、事故後にも、生涯線量レベルの80~90%を超える被ばく線量を受けた。
 この被ばく線量は、チェルノブイリの放射線核種によってもたらされた。
 したがって、内部被ばく線量を低減するための措置を講じる必要がある。
 それは、汚染されていない農産物を、まず第一に、子どもにとって重要な食料品である牛乳を、手に入れる必要がある。

⑦ もし被災者のモニタリング登録名簿が、事故後すぐに作成されていたら、健康に関する問題は、より効果的に解決されていた。
 モニタリング登録名簿は、かなり後になって作成された。
 しかし、その後、毎年実施されている、被災者にたいする健康管理を含む医療モニタリングシステムは、疾患の早期発見と時機を得た充分な治療を行うために役立っている。

⑧ 子どもの健康状態の変化の原因は、放射能の影響である。
 また、放射能由来でないファクター―生活と食料条件の悪化、長期にわたる精神的緊張―も挙げることができる。
 したがって、子どもたちの健康を維持し、回復するための施策は、医療当局だけではなく、国家政策の優先事項でなければならない。

⑨ 住民の放射能の影響にかんする知識を高めるために、また、精神的ストレスを軽減するために、保健啓蒙運動を常に行う必要がある。
 また、農村地域では、教師・医療従事者・社会福祉関係者など、住民にとって情報源となる人びとに、研修プログラムを導入すべきである。

以上







テーマ:東北関東大震災 - ジャンル:ブログ

  1. 2012/01/01(日) 20:25:00|
  2. 健康被害
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