福島 フクシマ FUKUSHIMA

津波被害と原発震災に立ち向かう人々とともに

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

【論考】  被ばくとガン  福島第一原発の現場から 第2回

 

【論考】 被ばくとガン 

 福島第一原発の現場から 【Ⅱ】

 

 

 「防護基準を守っていても労災は起こる」――福島第一原発の収束・廃炉作業に従事して白血病を発症したBさんの労災認定(2015年10月)に関して、厚生労働省の担当者が出したコメントである。厚生労働省はさらに以下のように述べている。
 「今回の認定により科学的に被曝と健康影響の関係が証明されたものではない。『年5ミリ以上の被曝』は白血病を発症する境界ではない」[1]
 「労災認定は補償が欠けることがないように配慮した行政上の判断で、科学的に被ばくと健康影響の因果関係を証明したわけではない」[2]
 「防護基準を守っていても労災は起こる」[3]
 労災認定の基準と法定の被ばく限度に関する踏み込んだ言及である。
 すなわち、ひとつは、労災認定の基準(白血病では年5ミリシーベルト以上の被ばく)は健康被害が起こるかどうかの境界線を示すものではないという。
 また、いまひとつは、防護基準すなわち<5年間で100ミリシーベルト。かつ1年間で最大50ミリシーベルト>という法定の被ばく限度について、被ばく限度以下でも健康被害が起こるとしている。
 つまり、労災認定基準にしても、法定の被ばく限度にしても、被ばくによる健康被害から労働者を守る役割は果たしていないということを認めたような発言である。しかし、だとすると、この基準や限度というのは一体何なのかということになる。

     ・         ・         ・

東京電力福島第一原子力発電所の収束・廃炉作業に従事した作業員のガン発症と労災認定を巡って4回に分けて検討しているが、今回【Ⅱ】では、「防護基準を守っていても労災は起こる」というのであれば、その法定の被ばく限度とは一体どういう根拠に基づいて設定されているのかについて考えたい。また、労災認定基準の問題については次回【Ⅲ】で考えたい。


 ◇「労働者を守る」は本当か?


 原子力施設で働く作業員の被ばく限度は法令で定められている。労働安全衛生法に基づいて定められた電離放射線障害防止規則(以下、電離則)で、<5年間で100ミリシーベルトを越えず、かつ、1年間で50ミリシーベルトを越えない>と明記されている。

 ところで、そういう法令を定めた目的はなんだろうか。その点について、厚生労働省作成のパンフレット[4]では、「電離放射線の危険から労働者を守ることを目的としている」「有害な電離放射線から労働者の健康を保護するために、事業者が守らなければならない事項が定められています」と解説している。
 つまり、「電離放射線の危険から労働者を守る」「有害な電離放射線から労働者の健康を保護する」ために、被ばく限度を定めているという。
 一般的な認識としても、防護基準とか法定の被ばく限度といえば、<労働者の健康を守るため>となっているだろう。
 とすると、「防護基準を守っていても労災は起こる」という厚生労働省のコメントの方が、法令の趣旨に反した不規則発言なのか。それとも、「労働者の健康を保護するため」という厚生労働省パンフレットの触れ込みの方が欺瞞なのか。
 そこで、防護基準=被ばく限度がそもそもどういう考え方に基づいて設定されているのかを見てみたいと思う。



 ICRP1990年勧告の論理
  ―「科学ではなく社会的な判断」



 日本の国内法である電離則にある被ばく限度は、ICRP(国際放射線防護委員会)の「1990年勧告(Publication60)」
[5]の下記の結論を取り入れたものである。
 「いかなる1年間にも実効線量は50mSvを超えるべきではないという付加条件つきで、5年間の平均値が年あたり20mSv(5年間で100mSv)という実効線量限度を勧告する」
 ICRPは、各国の原子力推進機関などから助成金を受けて運営される民間の組織で、放射線防護に関する勧告を行っている。1950年代から現在までに、100以上の勧告文書を出している。民間組織の勧告であるから拘束性はないが、原子力を推進する国々は、国内の放射線防護に関する施策において、基本的にこの勧告を取り入れている。
 原発や被ばく問題について考えてきた読者にとって、上述のようなICRPの勧告の結論的な内容については今更の話かもしれない。ただ、その結論を導き出す過程の論理についてはどうだろうか。その論理がいわば科学ではなくイデオロギーによっているということは十分に知られているとは言えないだろう。
 よって、長くなるが1990年勧告が線量限度設定の根拠を説明した部分を抜粋し、その後でその論理を検討したい。


   ◎ICRP1990年勧告からの抜粋
 〔抜粋の㋐~㋔の記号および下線は引用者が便宜上つけた。
                     ㋐~㋔は原文の順序とは違う〕 

【㋐】線量限度の数値は、この値をわずかに超えた被ばくが続けば、ある決まった行為から加わるリスクは平常状態で“容認不可”と合理的に記述できるようなものとなるように選ぶ、というのが、委員会の意図である。したがって、線量限度の定義および選択には社会的な判断が入ってくるこれらの判断は、線量限度はある決まった値にしなければならず、他方、可能性を計るものさしに不連続はないことが唯一の理由で、難しい。電離照射線のような作用因子については、被ばくによって起こるある種の影響の線量反応関係にはしきい値を仮定できないので、この困難をのがれることはできず限度は健康の考察だけに基づいて選択することはできない。 〔1990年勧告〕   
【㋑】もしすべての放射線リスクが確定的性質のものであってそのしきい線量は比較的高いとすれば、線量限度を選定することは高度に科学的な仕事であり、得られる結果はしきい線量の大きさに大きく依存することになろう。残念なことに、わかっている確定的影響のしきい値よりも低い線量において確率的影響のリスクがこれに加わる。確率的影響の線量反応関係に大きな不連続性が存在しないかぎり、線量限度の選定は一部が科学的判断であるにすぎない線量限度の選定は主として、科学的な情報にだけでなく正常状態において容認不可と通常考えられるようなリスクレベルに関する知見にも基づくことが必要と思われる、一つの価値判断である。   〔1990年勧告・付属文書〕  
【㋒】試行値の各々に対する連続的均等被ばくの結果が順次見積もられる。次にどの値が容認不可のほんのわずか下、すなわちぎりぎり耐容可と判断される結果の組み合わせを与えるか、についての見解が得られる。そのとき、この値が線量限度として選ばれる。このアプローチは必然的に主観的であるけれども、多くの互いに関係のある因子、より適切には属性と呼ばれるが、を考察に加えることを可能にする。死亡と関連する属性には次のものがある:
 ・寄与死亡の生涯確率
 ・寄与死亡が起こった場合の損失時間
 ・平均余命の減少(上の二つの属性の組み合わせ)
 ・寄与死亡確率の年分布
     ・ ・ ・ 
     ・ ・ ・

表:作業集団の被ばくによる損害の諸属性(一部抜粋)
年実効線量(mSv)10203050
概算の生涯線量(Sv)0.51.01.42.4
寄与死亡率(%)1.83.65.38.6
総合損害(%)2.57.512
18歳における平均余命の平均損失(年)0.20.50.71.1
           *寄与致死がんの確率あるいはこれに相当する損害の合計

 線量限度の根拠となりうる値として検討のために選ばれた年実効線量の試行値は、10mSv、20mSv、30mSv、50mSvであり、これらは、すべての作業年にこの年線量を受けるとするとおよそ0.5Sv、1.0Sv、1.4Sv、2.4Svの生涯線量に対応する。・ ・ ・ 
 (委員会が出した結論は)生涯実効線量2.4Svに相当する毎年一定の年線量50mSvという値はたぶんあまりに高く、多くの人から明らかに高すぎるとみなされるであろう、ということである。とくに、このレベルでの平均余命の短縮(1.1年)、および、晩年になってからのこととはいえ、業務上の放射線の危険性がその作業者の死亡の原因となる確率が8%を超えるという事実は、その多くが最近出現した職種であるために範とすべき職種群としては、過大であると広くみられるであろう。
 上のデータに基づいて、委員会は、毎年ほぼ均等に被ばくしたとして全就労期間中に受ける総実効線量が1Svを超えないように、そしてそのようなレベルに線量限度を定めるべきであり、また放射線防護体系の適用によってこの値に近づくことはまれにしかないようにすべきであるという判断に達した。・ ・ ・
委員会は、いかなる1年間にも実効線量は50mSvを超えるべきではないという付加条件つきで、5年間の平均値が年あたり20mSv(5年間で100mSv)という実効線量限度を勧告する。  〔1990年勧告〕

【㋓】委員会は、被ばく(あるいは、リスク)の耐容性の程度を示すため3つの言葉を用いることが有用であると考えた。それらは必然的に主観的な性格のものであり、考えている被ばくの形式と線源との関連において解釈されなければならない。第一の言葉は、“容認不可”であり、この言葉は、委員会の見解では、その使用が選択の対象であった任意の行為の通常の操業において、いかなる合理的な根拠に基づいても被ばくは受け入れることはできないであろうことを示すために用いられる。そのような被ばくは、事故時のような異常な状況では受け入れられなければならないかもしれない。さらに容認不可ではない被ばくは、歓迎されないが合理的に耐えられることを意味する“耐容可”の被ばくと、いっそうの改善なしに、すなわち防護が最適化されていたときに、受け入れられることを意味する“容認可”の被ばくに区分される。この枠組みにおいて、線量限度は、それを適用しようとする状況、すなわち行為の管理に対する“容認不可”と“耐容可”との間の領域における一つの選ばれた境界値を表している。    〔1990年勧告〕  
【㋔】リスクのない社会は理想郷である。・ ・ ・
 われわれは、現代社会の便益を享受するためには、もしそのリスクが不必要なものではないか簡単に回避できないならば、あるレベルのリスクを容認しようとする、言葉では語れないような慣習があるようにみえる。明らかな疑問は、そのレベルはどの程度かということである。
 英国学士院の研究グループの報告書(1983)は、百分の一という連続的な職業上の年死亡確率を課すことは容認できないと結論づけたが、しかし、千分の一の年死亡確率の場合には状況はそれほどはっきりしないことを見出した。・ ・ ・
 委員会のPublication26(1977a)の中で勧告した線量限度は、容認できない範囲の境界は、最大に被ばくした個人に対して約10-3という職業上の年死亡確率であるとする、暗黙の仮定のもとに提案されたものである。     
  
 〔1990年勧告・付属文書〕

 


 死を織り込んだ線量限度



 以上が、現行の線量限度をどのように設定したかの根拠にかかわる説明部分の抜粋である。
 一読して、「社会的な判断」(㋐)、「価値判断」(㋑)、「主観的な性格」(㋓)といった文言に引っ掛かりを覚えないだろうか。つまり、被ばくと健康被害に関する明確なデータから基準を求めて行くのではなく、「線量限度の選定は一部が科学的判断であるにすぎない」と言うのだ。では何によって判断するのかというと、「社会的な判断」、「価値判断」、「主観」だというのである。そしてそこで言う「価値」とは功利主義という考え方、それに基づくリスク・ベネフィット論である。命と健康に関わる問題が功利主義という損得勘定によって扱われているのだ。
 この点を少し詳しく見て行こう。


 ◇「逃れることのできない困難」

 まず、「これらの判断は…難しい」「この困難を逃れられず…」(㋐)と「難しい」「困難」という言葉が出てくる。何が「困難」なのか。
 線量限度という以上、それは<この数値以上の被ばくは危険、それ以下なら安全>という具体的な数値で切って示されるものだと考えるだろう。
 ところが、被ばく線量と健康被害の関係は連続的で相関しており、どんなに低線量でも一定の確率で健康被害がある。これは1990年勧告も認めているところだ。つまり、健康被害を防止するという指標からすれば、被ばくは極力低く抑えられるべきであり、線量限度は限りなく低くならざるを得ない。よって<これ以下なら安全>という数値的な基準は示せない。
 これは、単に基準が示せないという問題にとどまらず、そもそも被ばくと健康被害を不可避とする原子力という技術が社会的には成立しないということを意味する。それは原子力を推進する立場からすれば受け入れ難い結論だろう。
 「困難」とは、まずは本質的な問題としていえばこういうことだ。


 ◇「健康の考察」の相対化

 さて、健康被害を防止するということを目標にして線量限度を検討して行くと限りなく低くという結論にならざるを得ないわけだが、その「困難」を超えるために、1990年勧告は、健康被害を防止するという目標そのものを相対化するというやり方を考え出した。「(線量)限度は健康の考察だけに基づいて選択することはできない」(㋐)。「健康の考察」とは健康被害を防止するという目標ということだ。そして「…だけ」というところに相対化の意図が込められている。
 「健康の考察だけ」ではないとすると何があるのか。そこに「社会的な判断」、もう少し具体的に言えば「容認不可と通常考えられるようなリスクレベルに関する知見」(㋑)という目標が導入される。
 しかし「社会的な判断」「容認のリスクレベル」というのはどう見ても客観的ではなく曖昧だ。だからそれを科学的な体裁をとって提示するのは「難しい」という。これが冒頭の「難しい」「困難」という言葉のもうひとつの直接的な意味だ。
 まず、ここまでの検討で分かることは、われわれが一般的に知るところの線量限度というのは、実は「健康の考察」から導き出されたものではないということだ。


 ◇「社会的な判断」

 「線量限度の選定は一部が科学的判断であるにすぎない。線量限度の選定は主として、科学的な情報にだけでなく正常状態において容認不可と通常考えられるようなリスクレベルに関する知見にも基づくことが必要と思われる、一つの価値判断である」(㋑)
 「容認不可と通常考えられるようなリスクレベルに関する知見」として示されているのが、「寄与死亡の生涯確率」や「平均余命の減少」(㋒)などの統計的な解析データである。そのひとつである「寄与死亡の生涯確率」に関して見てみよう。
 「寄与死亡の確率」とは、作業員の死亡と、その死亡原因が被ばくである確率。例えば、毎年50ミリシーベルト、全就労期間(ここでは47年間という設定)で累積約2.4シーベルトを被ばくした作業員が、被ばくが死亡原因となる確率は8.6%という数字が示されている。言い換えれば、同じ条件の作業員が100人いれば、そのうちの8人強は被ばくが原因とする健康被害で死亡するということだ。
 同じように、毎年30ミリシーベルトの場合、20ミリシーベルトの場合の寄与死亡の確率を計算し、それぞれ5.3%、3.6%だとしている。[6]
 そして、寄与死亡率8.6%では「過大であると広くみられるだろう」と。つまり<被ばくが原因で死に過ぎている>という評価を受けてしまうという判断だ。そこでもう少し下げてみて、5.3%ならどうか、3.6%ならどうかという風に検討をしている。
 そして、結論だけを先に言えば、<5年間で100ミリシーベルト。かつ1年間で最大50ミリシーベルト>という現行の線量限度は、寄与死亡率3.6%を選択したものなのだ。つまり<100人中3人から4人は被ばく原因で死亡する>被ばく線量ということだ。
 つまりここで検討されているのは、<被ばくを原因とする死がどのぐらいの確率ないし割合ならいいか>ということであり、<被ばくによる健康被害や死亡から労働者を守る>ということではないということだ。つまり、線量限度とは<ある確率である人数が被ばくを原因とする健康被害によって死亡する>ことを完全に織り込んでいるということだ。


 ◇「科学ではなく主観」

 では、上で見たように<この数字では高い>が<この数字なら妥当だ>とする選択の基準は何なのかということが問題になる。
 そこで1990年勧告は次のような議論を展開する。
 まず、被ばく問題は「科学的判断」の問題ではなく、被ばくを<受け入るかどうか>という「主観的な性格」(㋓)の問題だとする。そして、その被ばくに対する主観を<受け入れられない>、<歓迎されないが合理的に耐えられる>、<受け入れられる>の3つに分類し、<受け入れられない>と<歓迎されないが合理的に耐えられる>との間が線量限度になるという風に議論を運んでいる(㋓)。
 <受け入れられない>と<耐えられる>の間が線量限度?そう言われればそうかも知れないが、そんな曖昧なもので線量限度が決まっていいのか。全く釈然としない。


 ◇緩慢な死に「耐える」


 まず、<受け入れられない>、<耐えられる>、<受け入れられる>という言葉自体に問題がある。

 被ばくの問題は、繰り返すが、<一定の割合で必ず起こる被ばくを原因とする死を受け入れる>という問題なのだ。しかし、<耐えられる><受け入れられない>という言葉から受けるニュアンスは、作業の長さや強度とか、熱さとか痛みといった問題だ。
 しかし、ここで扱っている低線量被ばくの場合、被ばくそれ自体には熱さや痛みなどの自覚症状はない。急性被ばくのように直ちに影響が出るわけではない。その限りでは<耐える>ような性質の問題ではない。しかし、将来における健康被害と死が確率的に訪れるのだ。そういう問題であるということが正面から提示された上で、<耐えられる>とか<受け入れられる>と言っているのか。あるいはそういう問題であると提示したらそういう選択を問うことが倫理的に許されるのかという問題なのだ。
 つまり<受け入れられない>か<耐えられる>かという形で進める議論の進め方は、職業被ばくということが、死を含み込んだ問題であるということを隠しているのだ。


 ◇命を天秤にかける功利主義

 さらに、㋓の<受け入れられない><耐えられる>という議論を支えているのが、人間の命や健康の問題をも損得勘定に還元する功利主義の考え方があり、それに基づくリスク・ベネフィット論である(㋔)。
 「リスクのない社会は理想郷である」(㋔)
 「われわれは、現代社会の便益を享受するためには…リスクを容認しようとする…慣習がある」(㋔)
 これをもう少し敷衍すると、<われわれは、行動や政策の選択において、つねに、リスク(確率的な危険性)とベネフィット(便益)を念頭に置き、両者を天秤にかけて、リスクに比べてベネフィットが大きい場合にその行動や政策を選択している>という考え方だ。この考え方にもとづいて被ばくによる健康被害と死を受け入れさせようとしている。
 功利主義自体は古くからある考え方であり、リスク・ベネフィット論(分析)やコスト・ベネフィット論(分析)は経営判断や政策決定などのマネジメントでしばしば用いられている手法だが、少なくとも原子力に引き付けて考えてみたとき、次のような欺瞞とすり替えがある。
 第一に、リスクとベネフィットを比較するというが、それは単純に比較できるものなのかという問題である。リスクとベネフィットが質的に違って、比較できるとは限らない。例えば、健康や命にかかわる問題の場合だ。健康や命の問題を、他の便益と比較してどちらが得かという話にはならない。
 第二に、比較できないものを比較しようとすることは、リスクもベネフィットもすべてを金銭価値に換算するというになる。リスクはマイナス、ベネフィットはプラスの価値として数値化され、差し引きプラスになれば有効な選択と評価される。
 しかし、健康や命の問題は単に比較できないだけでなく、金銭価値に換算すること自体が飲み込めない話だ。ところが、実際にICRPの1977年勧告では、作業員の被ばくによる健康被害を金銭価値に換算する計算式を打ち出している。[7]
 第三に、そもそも、なぜ物事を天秤にかけて比較しなければならないのか。あるいは、その天秤、つまり価値尺度があたかも社会共通の了解事項のように言われているがそうなのかということだ。
 あたかも天秤にかけなければ行動も政策も前に進まないかのように言われ、あるいは、無自覚のうちにそういう選択をしているのだと決めつけられる。そういう狭い損得には還元できない価値や多様な世界が存在しているのに、それらは排除されてしまう。そうやってすべてを損得による選択という方向に追い込み、仕向けているのだ。
 生命の歴史や人類の歴史、人間と自然との関係という視座からすれば、原子力=核エネルギーなどはおよそ負の産物でしかないのに、それを<受け入れさせる>論議が、このようなやり方で行われてきたのである。
 第四に、「われわれは…慣習がある」として「われわれ」一般を代表するように言っている点である。
 実際のところは、「われわれ」が等しくリスクを取り、ベネフィットを受け取るわけではない。リスクが一定の階層や地域に集中され、またベネフィットも一定の階層や地域に偏在するということが往々にしてある。しかも、ベネフィットを受け取る人びとの声が大きく、リスクの集中を受ける人びとの声はかき消される。
 原発を考えた場合、この偏りは顕著だ。作業員の被ばくにしても、事故の被害を見ても、「われわれ」全体が被害を受けるわけではない。被ばくを集中される人びとと「われわれ」全体との間には分断があり、犠牲の構造がある。そして、「われわれ」全体の無関心によってこの構造が支えられている。
 しかも、ICRPがあたかも一般を代表するかのように、「われわれ」を自称しているのは欺瞞にも程がある。
 1990年勧告において<被ばくを受け入れる>かどうかと検討をしている者は被ばくはしない。被ばくするのは作業員。その作業員は<受け入れる>かどうかの検討に全く関与していない。そうやって排除された人びとに犠牲が集中している。
 つまり、<耐えられる>とか<受け入れられる>と言っているが、実はこの話は、ICRPであり各国の原子力機関や原子力事業者が、非対称的な力関係の中で、作業員に対して、<死を受け入れさせる>ということを言っているのだ。


 ◇労働災害と被ばく

 被ばくに関する功利主義的な考え方への批判に加えて、㋔で「職業上の年死亡確率」との比較を挙げている点も問題にしておきたい。「職業上の」とは建設現場や工場などで発生する労働災害一般ということを指している。
 ㋔では、労働災害一般における労災死の確率と、被ばくを原因とする死の確率とを比較し、労災死と同程度にすれば、<受け入れられる>ではないかという議論を展開している。
 しかし、そもそも労働災害一般と被ばくとを同列に扱うことができるだろうか。
 まず、建設現場や工場作業などで発生する労働災害である。その発生の直接的原因は、現場の不安全状態や不安全行為であり、その背後にはその事業者の安全管理の欠陥や効率優先の経営姿勢といった問題がある。このようなリスクは取り除かれなければならないし、取り除くことができる性質の問題だ。
 ところが、被ばくはどうか。「計画被ばく」というICRPの用語がある通り、原子力施設の操業が計画どおり行われ、不安全状態や不安全行為もなく、安全管理が徹底していても、作業に伴って計画どおり被ばくがあるのだ。それは計画通りであり、被ばくを取り除くことはできない。それは原子力という産業の宿命なのだ。
 つまり、労働災害一般における労災死の確率がこの程度だから、被ばくを原因とする死の確率も同程度にすればいいというのは、同列に扱えないものを比較する暴論なのだ。



 
<命を使い捨て>にする思想



 以上の展開を簡単にまとめてみよう。

 ICRPの1990年勧告は、被ばくは健康被害を確率的に不可避とし、原子力産業が一定の確率での健康被害と死を避けられないこと、つまり、健康被害を極力避けようとすれば、原子力が産業として成立しえないという根本問題を抱えているということを完全に認識している。にもかかわらず、成り立たないものを成り立たせるために、功利主義的な考え方を導入して、<この程度の人数は被ばくで死んだり病気になったりするけど、いいんじゃないかそれくらいは>と言っているのだ。それは、科学的な装いをとっているが、<命を使い捨てにしても構わない>という反倫理的なイデオロギーなのだ。そういうイデオロギーに依拠しないと成り立たないのが原子力というものだということだ。
 こうして見ると、冒頭で見た「防護基準を守っていても労災は起こる」という厚生労働省の発言は、法定の被ばく限度およびICRPの線量限度に孕まれる欺瞞性と非人間性を正直に吐露したものに他ならない。
 


【第3回に続く】



[1] 朝日新聞2015年10月21日
[2] 東京新聞2015年10月21日
[3]  朝日新聞2015年10月21日
[4] 厚生労働省「事故由来廃棄物等処分業務 特別教育テキスト」 2013年4月
[5] 日本アイソトープ協会HP http://www.icrp.org/docs/P60_Japanese.pdf
[6] 前回【Ⅰ】で見たように、ICRPが元にしているデータは、高線量率急性被ばくをした原爆生存者のデータであり、その低線量への外挿があり、その際に2分の1にするという補正が行われている。最新の知見であるBML論文の解析結果を使えばはるかに厳しい結果になる点に留意が必要だ。
[7] 日本アイソトープ協会HP ICRP Publication 26  http://www.icrp.org/docs/P26_Japanese.pdf
     ATOMICAICRPによる放射線防護の最適化の考え」 http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-01-07











スポンサーサイト

テーマ:「原発」は本当に必要なのか - ジャンル:政治・経済

  1. 2016/02/08(月) 17:00:00|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

【論考】 被ばくとガン 福島第一原発の現場から 第1回


  【論考】 被ばくとガン

   福島第一原発の現場から 【Ⅰ】




 既に報道されているように、東京電力福島第一原子力発電所の収束・廃炉作業に従事した作業員のガン発症が明らかになっている。2011年の7月から約4カ月作業に従事したAさん(現在57歳/札幌市)は膀胱ガン、胃ガン、結腸ガンを相次いで発症。また2012年10月から1年3カ月作業に従事したBさん(現在41歳/北九州市)が白血病を発症した。
 Aさん、Bさんはそれぞれ労災を申請したが、Aさんは申請が認められず、今年9月、損害賠償を求める訴訟を起こしている。また、Bさんは今年10月、労災の認定を受けている。
 Aさん、Bさんを含め、福島第一原発事故後の収束・廃炉作業に従事してガンを発症し、労災の申請に至ったのは8人。その内訳は認定1、不認定3、取り下げ1、審査中3となっている。〔2015年10月末時点〕

            ・          ・          ・ 

AさんとBさんの作業内容や被ばく履歴は、厚生労働省の発表や関連する報道によれば下表のようになる。

                                                                                                  ◎ Aさん(57)の作業内容・被ばく履歴など
〔北海道新聞9/1付、朝日新聞9/2付など〕
作業期間2011年7月4日から10月31日の4カ月弱
作業内容ガレキの撤去 高線量ガレキを直接抱える作業なども
累積線量56.41mSv ただし線量計を外して作業したときも
病名/診断時期膀胱ガン/12年6月、胃ガン/13年3月、結腸ガン/13年5月
労災申請の結果不認定
提訴時期2015年9月1日
   

◎ Bさん(41)の作業内容・被ばく履歴など〔朝日新聞10/21付など〕

作業期間九電玄海 2012年に約3カ月
合計約1年6カ月
福島第一 12年10月から13年12月の約1年3カ月
作業内容福島第一 4号機オペフロのクレーン台の設置作業
       3号機脇で、倒壊したクレーンの切断
累積線量九電玄海  4.1mSv
合計19.8mSv
福島第一 15.7mSv
病名/診断時期急性骨髄性白血病/2014年1月
労災申請の結果認定/2015年10月20日

          ・          ・          ・

さて、本稿では、福島第一原発の収束作業における被ばくと健康被害の問題について、【Ⅰ】から【Ⅳ】の4回に分けて考えて行きたい。
 【Ⅰ】では、「(福島第一原発の)全労働者の被ばく線量の総計は高止まりしている」[1] と厚生労働省も認めざるを得ない厳しい被ばく環境が続いており、Bさんの労災認定は氷山の一角に過ぎないという点についてだ。さらに100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでもガン死リスクが確実に上昇することを実際の観察で確認したという最新の知見についても見て行きたい。
【Ⅱ】では、上で見たBさんの被ばく線量は法定の被ばく線量限度より少ないが、それにもかかわらず白血病を発症している点についてである。この点について厚生労働省は、「防護基準を守っていても労災は起こる」[2と説明しているが、そうだとすれば、作業員の健康を守らない線量限度とは何のための基準なのかという疑問が発生するだろう。
【Ⅲ】では、上で見たAさんの場合は、法定の線量限度を超えて作業を行ってガンを発症しているが、労災認定を受けられていないのはどういうことなのかについてである。労災認定の基準と実情について見て行きたい。
【Ⅳ】では、Bさんの労災認定が決定されたことに対して、東京電力が行った、「労災申請は雇用主か本人が行い、認定は労基署が行うもので、コメントする立場にない」[3というコメントについてである。事故を起こしたのは東京電力であり、作業を発注しているのも東京電力であるにもかかわらず、東京電力はこのような態度を取っている。被ばくと健康被害を下請作業員に押しつける重層下請構造の問題について見て行きたい。


cnc001.jpg 



  (一) 被ばく線量が高止まり―厚労省
 

厚生労働省が8月、福島第一原発の安全衛生管理に関するガイドラインを示し、それに関して、「月別の平均被ばく線量は減少傾向にあるものの、被ばく線量が5ミリシーベルトを超える労働者数は横ばいであり、全労働者の被ばく線量の総計は高止まりしています」[4]と述べている。
では、実態はどうなっているのか。東京電力作成の資料「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について」(2015年9月30日)をもとに見てみよう。
 【表Ⅰ‐1】は、「2011年3月以降の累積被ばく線量」。【表Ⅰ‐2】は最近3カ月(2015/6~8)の月別平均と年換算の被ばく線量。(「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について」をもとに筆者が作成)
 
                 
【表Ⅰ‐1】  2011年3月以降の累積被ばく線量
(外部被ばくと内部被ばくの合算値 2011/3~2015/8)

平均
5mSv超
10mSv超
50mSv超
100mSv超
東電社員
22.58mSv
 2,521人
 2,024人
  787人
150人
協力企業
11.33mSv
18,678人
13,478人
1,799人
 24人
合計
12.48mSv
21,199人
15,502人
2,586人
174人
                                    (総作業者数44,841人)


表Ⅱ‐2】
最近3カ月(2015/6~8)の月別平均と年換算の被ばく線量(外部被ばく)
6月平均7月平均8月平均年換算
東電社員0.25mSv0.26mSv0.18mSv2.79mSv
協力企業0.72mSv0.66mSv0.39mSv7.14mSv

 
【表Ⅰ‐1】によれば、福島第一原発事故が発生した2011年3月以降の総作業者数が約4万5千人。そのうち、累積被ばく線量が10ミリシーベルトを超えている者が約1万6千人、総作業者数の3分の1以上。50ミリシーベルトを超える者も2千6百人、100ミリシーベルトを超える者も174人。
また、【表Ⅱ‐2】によれば、発災直後に比べれば現場の放射線量率はだいぶん下がってきているものの、最近の数値で、下請の作業員の平均の被ばく線量は年換算で7.14ミリシーベルトになる。
作業員にとってはこのような被ばくが常態化しており、「事故の直後に比べたら大したことではないのでは」という声も聞かれる。しかし、次に見る最新の知見を踏まえると深刻に受け止めるべき数値だということがわかるだろう。



cnc002.jpg 


  (二) 低線量・低線量率でもリスク上昇




 今年7月と10月、仏・米・英・スペインの国際的な研究チーム(以下、国際研究チーム)が、職業被ばくとガンにかんする2つの論文を発表した。
 ひとつは、放射線被ばくと白血病との相関性に関するランセット論文[5]、いまひとつは、放射線被ばくと固形ガンとの相関性に関するBMJ論文[6]。いずれもThe International Nuclear Workers Study(INWORKS)[7]という疫学調査を元にしている。INWORKSは原子力施設の作業員に対して60年以上にわたって行われている追跡調査。2つの論文はそのうちの約30万人の作業員のデータを統計的に解析したものだ。
 2つの論文が示した新たな点を挙げてみよう。
 
● ランセット論文
・ 被ばく線量の増加に比例して、白血病を発症するリスクが上昇する。
・ 極めて低い被ばく線量・線量率でもこの関係は成り立つ。
・ 被ばくがない場合の白血病リスクを1とすると、被ばく線量が1ミリグレイ蓄積するごとに、白血病リスクは1.003に上昇する。
・ 低線量の放射線によって累積する慢性的な外部被ばくと白血病リスクとの間には線量反応関係があるという強力な証拠が得られた。
 
● BMJ論文
・ 白血病以外のガン(胃、肺、肝臓など)について、被ばく線量に応じてガンによる死亡リスクが直線的に増加する。
・ 被ばくがなくてもガンで死亡するリスクを1とすると、被ばく量が1グレイ蓄積するごとに、ガンの死亡リスクが1.48に上昇する。
・ 100ミリグレイ以下の被ばくでも、線量に応じたリスクの増加は、高線量の被ばく(原爆被爆者の調査)と同じような傾向を示した。
 
 
 一言で言えば、この研究は、国際放射線防護委員会(ICRP)などの「公式の見解」が依拠してきた土台を覆している。その点を若干解説しよう[8]
① 「公式の見解」は、Life Span Study(LSS)[9]と呼ばれる 広島・長崎で被爆し生存した人びとに対する追跡調査を元にして行われてきた。しかしこの調査は、被爆から5年後に生存していた人を対象にしているなど偏りがあり、また、個人の被ばく線量が正確には特定できないことなどの問題があった。
それに対して、INWORKSは、原子力施設の作業員であり、被ばく線量が管理されており、60年以上にわたる長期のモニタリングが行われている。
また、LSSの母集団が約12万人であるのに対して、INWORKSを元にした国際研究チームでは約30万人と大きいことだ。
② 「公式の見解」では、LSSは高線量の被ばくの集団であり、低線量域については<わからない>とし、そこから、高線量域のデータ解析において採用した理論モデルを、低線量域にも当てはめる「外挿」というやり方が取られてきた。
しかし、<わからない>というのはデータがないのではない。低線量域のデータは存在している。むしろ低線量域の方が単位線量あたりの被ばくの影響は大きいという結果も出ている[10]。ただデータのばらつきも大きい。そのために理論モデル通りには行かない。だとすれば、高線量域の解析において採用した理論モデルはそのままでは低線量域では使えないとするべきだ。ところが、逆に、低線量域のデータの方を切り捨てて、理論モデルの方を優先するというやり方を取ってきた。このやり方には疑問が提起されてきた[11]
それに対して、INWORKSに基づく国際研究チームの場合は、全作業員30万人の積算被ばく線量が20.9ミリシーベルトという低線量被ばくを直接観察することによっている。この点で信頼性がはるかに高い。
③ そして、次の点がもっとも重要な点だが、「公式の見解」は、高線量域で採用したモデルを低線量域に外挿する際に、<低線量被ばくのリスクは高線量被ばくのリスクの2分の1に換算する>[12]という数字の補正を行っている。これは<同じ100ミリシーベルトの被ばくでも、低線量率でじわじわと長時間にわたって被ばくする場合と、高線量率で一挙に被ばくする場合とでは、その影響は高線量率の場合の方が大きいはずだ>という考え方にもとづいている。2分の1の根拠は動物実験や理論モデルなどから導出されたとしている。
 しかし、その考え方は、低線量被ばくの影響を実際よりも過小に評価するものだという批判を受けてきた。
今回の国際研究チームの成果では、「被ばく線量の増加に比例して、白血病を発症するリスクが上昇する」「極めて低い被ばく線量・線量率でもこの関係は成り立つ」(ランセット論文)、「被ばく線量に応じてガンによる死亡リスクが直線的に増加する」「100ミリグレイ以下の被ばくでも、線量に応じたリスクの増加は、高線量の被ばく(原爆被爆者の調査)と同じような傾向を示した」(BMJ論文)。つまりICRPの「公式の見解」で採用されている<低線量被ばくのリスクは高線量被ばくのリスクの2分の1に換算する>というやり方は間違いであるという結果が出たのだ。
 
◇100ミリで3.8%上昇

 さて「公式の見解」と国際研究チームの結果とを、具体的な数字で比較してみるとどうなるか。ガン死亡リスクで見てみよう。
まず、現在の日本の男性について(男女に差があるので男性の場合で検討する)、ガンに罹患する確率(生涯ガン罹患リスク)は62%、ガンで死亡する確率(ガン死亡リスク)は26%[13]。これは被ばくのない場合のリスクである。
 ICRPの1990年勧告、2007年勧告などの「公式の見解」では、<ガン死亡リスクは、1シーベルト被ばくするごとに5%上乗せされる>としてきた。
 これに対して、BMJ論文では、<被ばくがなくてもガンで死亡するリスクを1とすると、被ばく量が1グレイ蓄積するごとに、ガンの死亡リスクが1.48に上昇する>としている。(グレイとシーベルトは違う単位だが、便宜上、ここではシーベルトと同じとみなす)
 計算過程は省くが、公式の見解のガン死亡リスクとBMJ論文のガン死亡リスクを累積100ミリシーベルトと累積1シーベルトでそれぞれ比べると、【表Ⅰ‐3】以下のようになる。
            
 【表Ⅰ‐3】  ガン死亡リスク計算の比較

    公式の見解    BMJ論文
被ばくなし               26%
100mSv26.5% (+0.5%)
29.8% (+3.8%)
1Sv31.0% (+5.0%)
38.5% (+12.5%)


 公式の見解とBMJ論文とでは、ガン死亡リスクの上乗せ分(被ばくによってリスクが上昇した分)が一桁も違う。100ミリシーベルトでは、「公式の見解」では26%が26.5%に0.5%の上昇としていたが、BJM論文では、26%が29.8%に3.8%も上昇する。被ばくがなくてもガン死亡リスクが26%あるということ自体が問題だが、それが被ばくによって確実に上昇することがわかる。
こうして見ると、<100ミリシーベルト以下の被ばくは影響がない><影響はあっても他の要因に隠れてしまう>ということが専門家と称する人びとによって流布されてきたが、全く誤った見解だったということだ。
以上のように、国際研究チームによる新たな知見に踏まえると、福島第一原発の収束・廃炉作業に従事している作業員の累積被ばく線量が、白血病や固形ガンのリスクをかなりレベルに上昇さていると見る必要がある。また、政府が進める年間20ミリシーベルトを基準にした住民に対する避難解除と帰還促進の方針は、住民の健康被害のリスクをもたらす危険な行為だということは明らかだ。そして、次の章で述べるように、ICRPの防護基準やそれに基づく法定の線量限度が大幅に見直されなければならないということだ。

〔【Ⅱ】に続く〕



[1] 2015年8月26日 厚生労働省・報道発表資料「東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理を強化します」
[2] 2015年10月20日 厚生労働省会見(朝日新聞10/21付)
[3] 河北新報2015年10月21日
[4] 2015年8月26日 厚生労働省・報道発表資料「東京電力福島第一原子力発電所における安全衛生管理を強化します」
[5] 英医学誌ランセット・ヘマトロジーに今年7月掲載
「放射線作業者における電離放射線と白血病並びにリンパ腫死亡のリスク:国際コホート研究」
[6] 英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに今年10月掲載
「低線量電離放射線被ばく後のがんリスク-15カ国における後向きコホート研究」
[7] 15カ国が共同して行っている疫学調査。この調査には日本の厚生労働省も資金提供をしている。
[8]この項は主に津田敏秀岡山大教授が出したコメントを参照した。津田教授のコメント全文はサイエンス・メディア・センターウェッブサイト(http://smc-japan.org/)に掲載
[9] LSSとは原爆生存者の「寿命調査」。原爆傷害調査委員会(ABCC)が開始し、放射線影響研究所が引き継いでいる。原爆生存者は晩発性の影響に苦しめられ続け、しかもそのデータは都合よく処理されている。疫学上の論争として見る以前に、被爆者を何重にも冒涜するものであることを踏まえる必要がある。
[10] Radiation Research 2012.3「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14報、1950-2003、がんおよび疾患の概要」/崎山比佐子「放射線教育の問題点」(『科学』2012年10月号)
[11] 最近では、崎山比佐子「放射線教育の問題点」(『科学』2012年10月号)/濱岡豊「放射線被曝関連データの再分析」https://m.sc.niigata-u.ac.jp/~hirukawa/seminar/niigata2014_program/Yutaka_Hamaoka.pdf
[12] 正確には線量線量率効果係数(DDREF)。ICRPは2を採用し、LSSで得た値をそのまま採用せず、2で割るという補正を行っている。
[13] がん情報サービス「がん登録・統計」 http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
累積罹患リスクは2011年データに基づく。累積死亡リスクは2013年データに基づく。

テーマ:「原発」は本当に必要なのか - ジャンル:政治・経済

  1. 2015/12/19(土) 12:00:00|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1

無策が続く汚染水対策 ― 東電任せで再稼働へ前のめり 【3月4日 政府交渉】

0304sks001.jpg 
(原子力規制庁及び資源エネルギー庁の職員)



 100トンの汚染水漏えい事故が2月19日に発生した。この事態をうけて、「汚染水と原発再稼働に関する政府交渉」が、3月4日午後、参院議員会館で行われた。 〔主催:グリーン・アクションなど9市民団体※〕
 市民側の参加は主催の市民団体など約60名。政府側は資源エネルギー庁1名、原子力規制庁4名の計5名。主な交渉事項は、汚染水問題への国の対応について及び原子力規制委員会の原発再稼働審査について。ここは汚染水問題について取り上げたい。



0304sks002.jpg 
(交渉に立つ市民団体の代表)


 昨年8月19日には、約300トンの汚染水が漏えいするという衝撃的な事故が発生。国際原子力事象評価でレベル3に相当する事態だった。にもかかわらず、安倍首相は、「状況はコントロールされている」(昨年9月7日IOC総会)と取り繕い、また「国が前面に出る」(昨年9月17日 福島第一原発視察)と見得を切った。
 しかしその後も、汚染水の漏えい事故は繰り返された。また、汚染水漏えいを監視する観測孔では、昨年10月以降、放射能濃度が大きく跳ね上がり、高い値が続いた。継続的な漏えいを窺わせる事態だ。そして、再び、今年2月19日には、1リットルあたり2億4千万ベクレルという超高濃度の放射性物質を含む汚染水100トンが溢れ出すという深刻な事故が起きた。
 今回の政府交渉の主要な相手は、このような事態に対して、文字通り「前面に立つ」べき位置にあるはずの原子力規制委員会・原子力規制庁(規制委は環境省の外局、規制庁は規制委の事務局)であった。災害から3年を迎えた3月11日には、規制委の田中委員長が、「われわれの第一の使命は、福島第一原発の廃止措置を速やかに進めること」「福島第一原発でトラブルが起きるたびに、被災者の心に重い雲がかかることを認識しなければならない」と、規制庁職員を前に訓示している。
 しかし、今回の交渉で明らかになったことは、規制委・規制庁が、事態の調査をはじめ、原因解明の努力を全くしておらず、ただ東京電力の報告を追認するだけという態度に終始していることだった。また、汚染水問題で深刻な事態が続いているにもかかわらず、汚染水対策検討ワーキンググループ(規制委の下で開催されている対策会議)が、昨年10月から3カ月にわたって開催されていなかったことが、市民団体の側から厳しく指摘された。しかも、その一方で、原発の再稼働審査にかかわる議論には膨大な時間が費やされているという。
 まさに、安倍首相の発言とも田中委員長の訓示とも裏腹に、汚染水問題について、全くの無策であり、東京電力任せで、ひたすら原発の再稼働に前のめりになっている国の姿勢が浮き彫りになった。

 以下、汚染水問題を巡る政府との交渉の概要を報告する。

 〔※政府交渉主催団体:グリーン・アクション、FoE Japan、おおい原発止めよう裁判の会、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会、原子力規制を監視する市民の会、福島老朽原発を考える会、グリーンピース・ジャパン、ノーニュークス・アジアフォーラムジャパン、No Nukes Asia Actions〕


規制庁「我々は第三者的立場。
   調査は事業者がやること」




0304sks003.jpg 
(海水中の放射能濃度が上がっている第一原発南側の放水口)


【福島第一原発で、2月19日夜、H6エリアタンクから100トンの汚染水が漏えいする事故が起きた。1リッター当たり2億4千万ベクレルのストロンチウム90などを含む超高濃度の汚染水だ。量としても、昨年8月の300トンに継ぐ多さ。交渉は、まず、この問題について原子力規制委員会の対応を質すところから始まった】

―市民団体:2月19日の100トンの汚染水漏えいについて、その原因、体制上の問題、抜本的な対策を明かにしてください。

―規制庁(1F室・今井氏):2月19日のH6エリアタンクからの漏えいの原因ですが、現在のところ、水位計の警報に適切に対処しなかったなどの事実はございますけど、その他の事実関係については、東京電力の方で調査をしており、今後、われわれ(原子力規制委員会)の方に汚染水対策検討ワーキンググループ(以下、汚染水WG)というのがございまして、そちらの方で事実関係を確認してまいりたいと考えております。

―市民団体:東京電力で調査したものを、汚染水WGで確認するという答えだと思うんですけど、規制庁自身が調査されるつもりはないのですか。

―規制庁:われわれは、規制あるいは第三者的立場で評価することはございますけれども、実際の地下水の測定とか、汚染水の濃度の測定といったものは、一義的には事業者(東京電力)がやるべきだと考えております。そのやり方が、妥当であるかというところをわれわれが評価、確認していくということです。

―市民団体:では、汚染水漏えいの原因について、東電がやる調査を、規制委としてはただ確認するだけということなんですか。
 
―規制庁:原因究明は、事業者の側でまずやっていただくべきと考えております。その中で疑義があれば、われわれも調査を深めることはございます。汚染水WGの中でも、東京電力が出してきたものをきちんと確認していきたいと考えております。

―市民団体:それでは東京電力任せじゃないですか。

―規制庁:東京電力任せという意味では、われわれもきちんと事実を確認するということが、われわれの責務だと感じていますので・・・。




市民「観測孔で濃度が4千倍に。
   漏れ続けているのでは?」



【H4エリアタンク近傍の観測孔(E‐1)から採取されている地下水の放射能濃度が、昨年10月17日に急上昇し、その後高いレベルが1カ月以上継続していたことが、東京電力が公開しているデータの分析からわかった。〔下図〕タンクから大量かつ継続的に汚染水が漏れ続けていることも疑われる。
また、2号機東側の護岸付近の観測孔(No.1-16)でも、昨年9月以降、放射能濃度が急上昇している。もっとも高い値では1リットル当たり300万ベクレルに達する。この汚染水1リットルで、日本の全原発が放出している液体放射能の13年分に相当するという。そして、観測地点からして海への流出が疑われる】


0304znbeta.jpg 
(10月17日に一気に数値が跳ね上がるのがわかる/東京電力のデータを元に「美浜の会」が作成。出典は「美浜の会」のHP)


―市民団体:H4エリアタンクのそばのE‐1という観測孔で、それまで100ベクレル/リットル以下だった値が、10月17日になって突如40万ベクレル/リットルに、つまり4千倍に跳ね上がっています。それを観測孔でキャッチしたわけですよね。
 これはどこからか漏れているという以外に考えられないんじゃないですか。

―規制庁:漏れてきている、もしくは、漏れて来て土壌に吸着したもの、あるいは土壌中に含まれていたものが観測孔に入ったものという考え方もできると思います。

―市民団体:何で一挙に4千倍にもなるのか。徐々に土の中から出てくるとしたらどうして、一挙に4千倍になるのですか。

―規制庁:例えば、台風等で雨水が増えたということがございますので、それによって放射性物質が運ばれたといったことも考えられます。確定的にこれだという原因がつかめている状況ではございません。

―市民団体:高い濃度の状態が1カ月以上続いています。これはずっと漏れ続けているとしか考えられないのですが、その点でどうですか。

―規制庁:タンクから漏れているか、あるいは土壌中に含まれているものが順次しみだしているか、放射性物質がどうやって流れてそこで観測されているのかということは、推測の話になってしまうので、こういうことですとご説明することはできないです。


全く検討もしていない


―市民団体:E‐1観測孔をわざわざ作ってそこで観測しているわけでしょう。急増して持続しているという件について、汚染水WGでは検討されましたか。

―規制庁:そこの値について検討したというより、観測孔全体のデータは、何度か紹介があったかと思います。

―市民団体:それはずっとほったらかしになっているわけですね。何の対策もとっていないですよね。

―規制庁:はい、そうですね。今後、汚染水WG等で引き続き検討していきたいと考えています。

―市民団体:では、海に行っていないという保証はありますか?

―規制庁:海に行っていないかどうかは、海の方のモニタリングでもって確認しています。放射性物質が、地下水の中で具体的に流れているかということまでは、把握できていません。

―市民団体:海に行っていないという保証はないということではないですか。海の値も上がっているじゃないですか。〔下表〕
 なぜ汚染水WGできちんと議題に乗せないのですか。E‐1観測孔の問題を議題に乗せて下さい。乗せられないならなぜなのかを言ってください。

―規制庁:ご要望は承ります。


【福島第一原発付近の海水中の全ベータ放射能濃度〔※〕】
1F5・6号機放水口北側1F南放水口付近
2013/09/23       ND      ND
    /10/14       ND      ND
    /12/30       12      13
2014/01/06       17      10
 今年に入ってから海水中の全ベータ放射能の濃度が上昇している。(単位ベクレル/リットル) 
〔※全ベータ放射能濃度とは、核種を特定しない簡易な測定方法によるベータ線核種の濃度。福島原発事故で問題になっているベータ線核種の代表例は、ストロンチウム90やトリチウムなど。ただし測定方法の関係で、全ベータという場合、トリチウムは含まれず、別表記される〕





市民「汚染水対策は疎か。
 再稼働審査ばかりやっている」




―市民団体:H4エリアタンク付近の観測値が上がるのが昨年10月17日、護岸付近の観測値が昨年11月以降ずっと上がり続けている状態。でも汚染水WGは10月24日以降、1月まで3カ月も開かれてなかったですよね。〔下表〕
 規制委員会が状況把握もしていないし、議論もしていないというのはやっぱり問題があるのではないですか。11月12日の汚染水WGはどうして延期にしたのですか。


【汚染水WGの会議開催状況】
第 9回2013/10/24開催
第10回    /11/12    延期
第10回2014/01/24開催
第11回    /02/24開催
第12回    /03/05開催

 


―規制庁:11月12日を延期にしたのは、更田(ふけた)委員が体調を崩しまして・・・。

―市民団体:体調を崩して3カ月も伸ばすのはおかしくないですか。

―規制庁:あの~、えーと、何か具体的な理由があって延期したというわけではございません。その日、延期したのは更田委員が体調を崩したのが理由ですけど、他の検討会とかもございましたので、その中で日程調整をした結果です。

―市民団体:再稼働審査を優先して、汚染水問題を飛ばしたということですか。

―規制庁:われわれの方は、そのようには感じておりませんけれども。


0304sks004.jpg 更田豊志原子力規制委員会委員。更田委員は、規制基準・適合性審査と事故収束・汚染水対策を兼任し、再稼働の審査の方で精力的に動いているため、汚染水対策は疎かになっている。なお、更田委員は、昨年8月の汚染水対策WGで、2011年4月の汚染水流出を、「規制委ではマーライオンと呼んでいる」と発言した。マーライオンとはシンガポールにある像で、口からは水を吐いている。汚染水問題の深刻さを見据えない発言として批判を浴びた。更田委員の前職は日本原子力研究開発機構。




―市民団体:更田さんが体調を崩してWGを一回、延期したというならまだ分かるのですが、結局、3カ月も開かれない。で、更田さんがずっと病気かというそうじゃない。再稼働審査の方は回数も重ねていますね。
 汚染水対策と再稼働審査とを、規制委員会の中ではどういう配分になっているのですか。こちらで調べたところ、去年7月に原子力発電の新規制基準が出て以降、汚染水も含くむ福島事故の全問題に費やした時間が67時間。それに対して、新基準の適合審査については451時間。いかに再稼働ばっかりをやっているか。
 汚染水対策に時間が全然とれていないじゃないですか。再稼働の適合審査を止めて、汚染水対策に力を注ぐべきではないのですか。

―規制庁:持ち帰って検討させていただきます。


【規制委での討議時間の比較】

汚染水問題も含む福島原発の全問題に費やした時間 67時間
新基準の適合審査に費やした時間 451時間
(市民団体調べ)




市民「最終的に流すのか?」
規制庁「流すかどうかは
                   事業者が判断」




0304sks005.jpg


【ALPS(多核種除去設備)はトラブル続きでまともに稼働していないが、ALPSが正常に稼働したとしても、ストロンチウムを法定限度以下にまで処理することは難しい。さらにトリチウムは全く除去できないなど、4核種が除去できない。
 経産省に設置されたトリチウム・タスクフォースという会議で、トリチウムなど除去できない核種を含む汚染水を最終的に海に放出するための検討が行われている】

―市民団体:ALPSの処理水を、薄めて海洋に放出するということを認めるのでしょうか。大量の放射性物質を海に流すことは許されないのではないですか。

―規制庁:われわれとしては、東京電力の取り組みに対して、規制基準がきちんと遵守されているかを確認していく立場ですので、海洋放出を許すとか許さないとか、実施するかしないかについては、一義的には事業者の判断かと考えています。

―エネ庁(事故対策収束対応室・柴田氏):トリチウムの問題については、高濃度のものを薄くする技術もあれば、安定的に貯蔵する方法もあると思います。米国では蒸発をさせたという事例もあるし、多くの原子力発電所でやっているように希釈して海に流すという方法も、方法論の一つとしてはあると思っています。コストや期間もかかるし、人や環境や食品への影響もあると思っています。で、いろんな方法論について専門家の知見を借りながら比較した上で、最後はみなさんに納得いただく形で、処理の方法を決めていきたいと考えています。

―市民団体:薄めて出せばいいという話ですが、既に絶対量として相当の量が海洋に出ているわけですよね。濃度が基準以下になればいいというのは、福島原発事故に関してはもう当てはまらないと思うんです。放射性物質の総量で抑えるという考え方をしないといけないと思うんですが。
 
―規制庁:タスクフォースの方でまだ何も決まっていないので、放出を前提に、われわれがお話をすることはできないということです。放出するとしたら、きちんとした規制基準の中で放出するということになるということです。

―市民団体:IAEAが来日して「汚染水をコントロールして出すのは普通だ」ということを言っていましたけど、今、問題になっている汚染水に含まれる放射性物質の量が桁違い。例えば2002年に全原発が出した液体放射能の量は23万ベクレルですけど、いまタンクから出ている汚染水1リットルの中に、それよりはるかにたくさんの放射性物質が入っているわけです。だからそれをいくら薄めたとしても、海に出すというのは大変な量になるわけですよ。そんなことは絶対にやらないでいただきたい。

―規制庁:私の方から、放射性物質の対策について、ああするこうするという立場ではございません。規制当局としては、事業者に対して、基準に照らして妥当であるかどうかを判断していく立場です。やる、やらないを規制当局が決めるものではないわけです。 
 それから、現在の規制は、総量規制ではなくて、濃度規制になっております。




市民「漏えい阻止のプランを」
エネ庁「プランは出ています」




―市民団体:「国を挙げて」といっているんだから、規制庁、エネ庁で、これ以上、汚染水を出さないというプランを出して下さい。
 
―エネ庁:昨年8月に300トンの漏えいがあって以降、検討を重ねて、何か事象が起こってから対策を打つというのではなく、事前にリスクを想定して対応していくという意味での予防的・重層的な対策ということを昨年12月にまとめました。
 まさにこの対策を実行に移そうとしている矢先に2月19日の事象が起こったわけですが、だから、今後、この予防的・重層的な対策を着実に実施して行くことがわれわれの答えだと思っています。プランはもう出ています。

―市民団体:でも観測孔の濃度上昇の原因もわからないのに、「プランは出来ています」と言ってもね。「その矢先でした」というんじゃなくて、具体的な対策を出すべきしょう。汚染水をこれ以上出さないというプランを。

―市民団体:国は、ときどき会議を開いて、東京電力に「見回りをもっとやれ」とか、高飛車に注文を付けているだけという風に見えるんです。
 本当に、「国が前面に立って」というのであれば、本気で現地に乗り込んで、とにかく漏らさない対策をやるということではないのですか。しっかりと対応していただきたい。


     ・       ・       ・


危機的な無策


 政府交渉のレポートは以上だが、最後に、エネ庁職員が「プランは出ています」と胸を張るところのプランについて少し検討してみよう。
 政府は、昨年12月に「福島第一原発における予防的・重層的な汚染水処理対策」をまとめた。政府は、これまで、緊急対策(染水の汲み上げや山側での地下水くみ上げなど)や抜本対策(海側遮水壁、凍土方式による陸側遮水壁、より効率の高い浄化設備など)を示してきたが、さらに対策を追加した。その「予防的・重層的」という意味は、エネ庁職員の説明によれば、「何か事象が起こってから対策を打つというのではなく、事前にリスクを想定して対応していくという意味」だという。
 しかし、その中身を見ると、「タンク堰のかさ上げ・二重化」、「溶接型タンクの設置の加速と信頼性の向上」など。これが「予防的・重層的」と触れ込むほどのものだろうか。最初からやっておくべき最低限の対策ではないか。また「建屋の止水」というのもあるが、これはどうか。そもそもどこがどう壊れて、溶融した燃料がどこにあるかもわからず、近づくこともできない状態。そういう状態で建屋の止水は空論だろう。そもそもそれができる状態なら、汚染水問題は発生していない。
 こうして見ると、「緊急対策、抜本対策、予防的・重層的対策」と並べて、何かを手を打っているフリをしているが、実態は、場当たり的な対応と希望的な空論が併存する全くの無策だということがわかる。
 なんらの危機打開策もないまま、毎日400トンの汚染水が増え続け、2日半でタンク1基が満杯になるという自転車操業。そして汚染水の漏えいと海洋への流出が続く。作業員の被ばく量もどんどん増えていく。
 国のこの無策の延長には、もっと深刻な事態が待ちうけていると言わざるを得ない。


以上



テーマ:「原発」は本当に必要なのか - ジャンル:政治・経済

  1. 2014/03/20(木) 12:51:45|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1

誰かがやらなければ。で、誰がやるんだい?   ――収束作業の現場からⅢ



sgk001.jpg





 汚染水漏えい、4号機プール燃料取り出しと厳しい問題が続く東京電力福島第一原発の収束作業。今回は、1~3号機の作業に従事する斉藤貴史さん(仮名)にお話を聞いた。
 斉藤さんは、もともと全国の建設現場を渡り歩き、事故後の福島第一原発の現場に入っている。
 私たちの周辺で、いま現在、放射線や被ばくを問題にする場合、その単位は、毎時何マイクロシーベルトというレベルだろう。が、斉藤さんが携わる現場は、時間当たりミリシーベルトという桁の違う世界だ。そういう現場に身を置く斉藤さんの言葉は重い。そして被ばくによる犠牲者がいるという衝撃的な話も。
 さらに、高線量の現場が、露骨な格差社会になっている実態が語られる。一方で、線量計の警告音に怯え、健康被害の不安を抱えながら、現場に向かう作業員たち。他方で、安全なところから指示を出し、次々と交代して行くゼネコンの社員たち。そのあり様はあまりに対照的だ。賃金や待遇にとどまらず、被ばくの問題にまで格差が表れている。
 斉藤さんの話は、現場作業の実態から、文明の限界に関する問題にまで及ぶ。しかし、やはり、次の問いが重い。「原発に反対とか賛成とかはいいけど、どっちにしろ、誰かが収束作業をやらなかったら、またドーンと行くんだよ。誰がやるんだい?」と。私たち一人ひとりに、お前はどうするのかということが突きつけられている。  (インタビューは11月中、いわき市内)

 


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 宇宙服の人たちは



【ようやく斉藤さんから話を聞く機会を得たが、約束の場所に来てくれるかどうか不安だった。姿が見えたときはホッとした。が、それもつかの間、席に着くなり、取材に対する不信感を露わにして、まくしたてた。】

斉藤:私らから、何を訊きたいんだい?マスコミとか、専門家とか、政治家とか、そういう人たちはね、自分ら、線量のあるところにはまず行こうとしないで、外から、どうたらこうたらって言っているけど、チャンチャラおかしいよ。自分ら、安全なところにいて、「汚染水が漏れてるぞ」とか、「これ、ダメじゃないか」とか。
 ダメだって言うなら、お前、一回でもいいから、50ミリシーベルトでも100ミリシーベルトでも浴びに来てみろと。それから言いなさいよと。私ら、言いたくなるよ。

【全く返す言葉がない。さらに現場の衝撃的な話が続いた。】

斉藤:だけどね、私らよりも、もっとすさまじい作業やっている人たちがいたんだよ。
 爆発からまだ程ない時期、もう、宇宙服みたいなのを着て行く人たちがいたんだ。酸素ボンベを持って、鉛の服を着て、その上にベストを着て。
 何をしているのかなんて、そりゃ分かんないよ。私らはそういう作業はやってないから。5~6人で、ダッダッダッて中に入っていくんだ。この人たち、何してんだろうって見てた。
 結局、そういう人らが、メルトダウンした辺りに行って、何かの作業をしてたんだろう。事態はどんどん悪化して行く状況だったから、誰かがそこに行ってやらないといけない作業があったんだと思うよ。
 でも、その人ら、半分以上は亡くなっていると思う。まあ、名目は、心筋梗塞とか、何だとか、とにかく、被ばくで死んだとはなってないと思うけど。
 聞いた話では、だいたい2週間の作業で、1日に80万円から100万円ぐらい、2週間で1千万円以上。それを家族に渡して、自分はその仕事に飛び込んで行くと。その人なりの事情もあったんだろうね。
 みんな、一切口外しないという念書を書かされているんだ。それが国なのか東電なのか、私ら、分からないよ。誰も、口をつぐんで詳しいことは言わないから。

 だから、みなさん、外で空論みたいなことを言っているけど、原子炉がメルトダウンして、どうしようもないときに、誰かがやらないと収まらなかった。そこに飛び込んで行った人たちがいたから、今の状態が保たれているんだよ。
 そう思うと、この人らに、心の中で、こう毎日、手を合わせてるね。あなた方がいてやってくれたから、われわれは今の作業ができてるんですよって。




 APDが鳴る恐怖



sgk003.jpg


【不信を露わにしつつも、斉藤さんは、少しずつ現場の様子を話してくれた】

――どういう作業をされてきたのですか?

斉藤:主にガレキの撤去作業だね。ガレキって言ったって、もう毎時500ミリシーベルトとか、2000ミリシーベルトというヤツだからね。
 1号機の辺りなんかも、今は、カバーをつけたんで、線量も結構落ちてるけど、最初は、まあ、高かったね。 で、爆発してるからもうガレキだらけ。それを全部、私らが行って処理して、鉄板を三枚ぐらい重ねて敷いたりしてきたんだ。
 海岸側なんか、まあ、すごいよ。「墓場」って言われているところがあるんだけど、潰れたタンクとか、重機とか、クレーン車がひっくり返って、もう、みんなそのまんま、触るに触れない。そういうのを目の前にしながら、作業をやってきたんだ。
 タービン建屋のところなんかも、今は線量も下がってるけど、やっぱり一番最初は、ガレキだらけで、線量もものすごく高い。そこにタイヤを敷き詰めて、その上に鉄板を敷いていったんだよ。
 今は、たまにお偉いさんが視察に来たりしているけど、その鉄板というのは、われわれの犠牲で敷かれたもんだからね。

――線量の高い場所の作業は遠隔操作ではないのですか?

斉藤:やっぱり人が行かないとダメだね。無人重機なんかも使うけど、結局は人なんだよ。
 例えば、ガラコン(コンテナ)にガラを入れて、それをクレーンで釣ってくるんだけど、そのガラコンをクレーンから外すのは人なんだ。そのガラがすごい線量なんだ。
 鉄板を敷いて行く作業だって、クレーンで釣り上げた鉄板を降ろすとき、チェーンとかワイヤーを外すのに、やっぱり誰かが行かといけないわけさ。

――ロボットの開発も進められているとされていますが。 

斉藤:いやあ、ロボットだって、入れないところは入れないんだよ。建屋の中の様子を調べるのでも、ロボットに行かせるんけど、階段やらなんやらがグチャグチャで、入っていけない。
 それから、あんまり線量の高いところだと、ロボットでも故障しちゃう。半導体かなんかがやられちゃって。で、ロボットは帰ってこないんだ。とにかくロボットでさえ壊れる線量ってどういうことだい。
 で、ロボットがとにかく入って行けて、中の様子が少しわかっても、例えば、何かがゆらゆら見えてるんだけど、それが湯気なのか煙なのかというのは、ロボットでは判別がつかないんだ。結局、最後は人が行って目視確認してこないことにはどうしようもない。今だって、湯気も煙も、あっちこっちから出てるからね。
 これから、3号機建屋の上を除染ということでこそぐ作業をやる。それに、自走式の機械を入れるっていうんだけど、たぶん使い物にならないね。だって、大きなガレキは除いたけど、デコボコで、鉄筋があっちこっちに出てるんだよ。鉄筋だって、直径が30ミリぐらいある太いヤツ。そういうのに引っかかって、機械なんか前に進めないよ。結局、人間が行って、そういう鉄筋とかを一個一個叩いて行かなければ、機械なんて走れないんだ。

――その作業はかなりの被ばくがありますね。

斉藤:そうね。もう、ちょっと行っただけで、APD(警報付きポケット線量計)が、ピッピッピッピッ…って鳴るんだよ。そういうところに行って作業をするわけさ。その恐怖感、わかるかな。もう、パニックになるのもいるんだから。
 作業をしようとして、燃料プールのそばに行くとか、クレーンから外しに行こうとするんだけど、もう近づいただけでAPDが鳴っちゃう。予定した仕事なんか全然できないで、すぐに戻ってくることになっちゃう。それで次の人が行って、またすぐに戻ってくるという具合だよ。
 でも、APDが鳴るからって行かないと、いつまでもどうしようもないから行くんだけど、作業は予定よりどんどん伸びて行くね。工程表通りには全然行かないよ。
 で、工程表通りに行かせようとすると、APDがアウトになっちゃう。アウトというのは、APDが、2ミリシーベルトとか3ミリシーベルトの設定を超えちゃうと、もう、ピィーって鳴りっぱなしになっちゃう。そうすると、この人は始末書だから。始末書を書かされるんだ。

――始末書とは、どういうことですか?

斉藤:「そこまで浴びてはいけないのに、お前は浴びた」ということだな。何でだと。浴びた人の責任にされてしまうんだよ。ゼネコンさんとしては、浴びないように計画して指示を出しているんだから、浴びたヤツが悪いという理屈になるんだね。
 だったら、そんなに浴びるような仕事なんか、やめさせろよって、言いたくなるよ。そういう矛盾ばっかりなんだよ、現場は。
 で、それじゃあ、APDが鳴らないように急いでやろうとすると、今度はつまずいたりして、そうしたらこれまた始末書だからね。現場では走るなって、一般の工事現場のルールと同じようなことを言うんだよ。
 でもね、線量の高いところにいたら、誰しも、早く線量の低いところに行こうとして、タッタッタッて足早になるのが人情じゃないか。それを「何でルールを守らないのか」って怒る。だったら、あんたが自分で線量の高いところに行って、ゆっくり歩いてみろって。

――そうするとその作業計画そのものに、無理があると。

斉藤:まあ、ゼネコンさんとしては、無理がないようにしているつもりなんだろうけど。でも、実際に現場に行ったら、こっちで線量を測ったときは、低いから大丈夫ってことで作業を始めても、すぐ近くに、すごく高いところがあった、なんてことがよくある。
 一般の工事現場なら、工程表があって、今日はここまで作業をして、という風に計画している。で、このままでは納期に間に合わないとなったら、徹夜作業だってやるよね。
 だけど、ここの作業の場合、工程表は一応、上の方で作ってはいるけど、実際に現場の作業では、APDが鳴ったから、今日はここまでで上がるとするしかないんだ。間に合わないから、線量を浴びてでもやってこいなんて話にはならないわけさ。
 そうすると、工程表では1カ月だった作業が、優に2カ月、3カ月ってかかっちゃうことだってある。そうすると2年の目標も10年にだって伸びてしまう。
 線量が高いという大問題があるから、工程表通りには行かない。それが収束作業の難しさなんだよ。だから、工程表が早まるなんてことはまずない。計画の前倒し、なんて言ってるけど、あれは現場の実情を全く知らない人たちの絵空事だね。

――熟練の作業員がいなくなると言われていますが。

斉藤:限度いっぱい浴びて現場を離れなければならない人がどんどん出てるよ。で、役に立たないのが、いつまでも現場に残ってる。いい加減で、仕事したくないやつはデレデレ長くいるな。逆に、役に立つ人は、パッパ、パッパと仕事をするから、線量も食らっちゃって、はい、じゃあ、もう終わりとなってしまうケースが多い。
 だから、なんかおかしいんだよ。そういう矛盾だらけの中に身を置いて仕事をしている。
 まあだけど、そうは言っても、職人は、みんな、結構、まじめに一所懸命、やる人が多いんだよ。
 ただね、入れ墨をしょってる人が、最近、増えてるね。半分までは行かないだけど、結構いる。若いのもいれば、歳のもね。

――政府・東電の「中長期的ロードマップ」によれば、2015年に3号機燃料プールの燃料取り出し、17年に1、2号機燃料プールの燃料取り出しとしていますが。

斉藤:そんなものは机上の話だから。まあ3号機のオペフロ(オペレーションフロア=原子炉建屋上部、燃料プール付近)の作業は何とかやれてる。1号機はいったん被せてあった建屋カバーをまた外すことになってる。でも、その先はどうかな。4号機の場合と違って、3号機も1号機も燃料プール辺りの線量は高いからね。
 2号機なんかは、建屋はあんまり壊れていないんだけど、内部なんかもう計り知れない。線量なんか万単位だからね。(格納容器付近で毎時約7万ミリシーベルト)。完全に致死量でしょ。100年経っても手が付けられないんじゃないかな。どうするもこうするも、どうにもならないでしょう。
 7年後にオリンピックだというけど、その辺りまではごまかしごまかしでやっていくんじゃないかな。でも、その後、どうするのか。オリンピックでいい格好しちゃってその後が大変になるじゃないだろうか。
 

★福島第一原発・1~4号機の概況
 
1号機2号機3号機4号機
作業進捗・2011年10月建屋カバー設置
・燃料取出し準備のため再びカバー解体を計画
・2017年度下半期にプール内燃料取り出し開始予定
・建屋損傷小さくカバーなし
・2017年度下半期にプール内燃料取出し開始予定
・建屋カバー進行中
・オペフロのガレキ撤去がほぼ終了。除染・遮蔽で線量低減を図り、プール内ガレキ撤去へ
・2015年上半期にプール内燃料取出し開始予定
・プール内燃料取り出し作業用の建屋設置済み
・2013年11月からプール内燃料取出し作業を開始
建屋内線量・毎時23mSv ~
   1万1100mSv
・毎時5mSv~
   7万2900mSv
・毎時10mSv~4780mSv・毎時0.1mSv
    ~0.6mSv
プール内温度・約16℃・約13℃・約13℃・約21℃
プール内燃料・使用済292本 
・新燃料100本
・内70本が損傷
・使用済587本
・新燃料28本
・内3本が損傷
・使用済514本
・新燃料52本
・内4本が損傷
・使用済1331本
・新燃料204本
・内3本が損傷
炉心・メルトダウン
・約25℃
・メルトダウン
・約34℃
・メルトダウン
・約30℃
・定検中で燃料なし
格納容器・破損
・窒素注入

・破損

・破損
――
圧力容器・破損
・注水冷却
・窒素注入
・破損
・注水冷却
・窒素注入
・破損
・注水冷却
・窒素注入
――
汚染水・1万3900トン・2万1000トン・2万3300トン・1万8100トン
※線量はこれまでの計測値
※温度は11月中旬
※5、6号機プールにも、合計1934本の燃料が貯蔵





sgk002.jpg 




 2カ月で交代するゼネコン社員



【高線量の現場で悪戦苦闘している話が続いた後、そういう現場に行かないで指示だけをする人たちがいるという話に及んだ】

――ゼネコンの人たちの話が出ましたが。

斉藤:私らの立場から言わせてもらうと、ゼネコンさんたちは本当にどうしようもないのばっかりだよ。だってゼネコンの人たちは、2カ月で交代するんだから。
 現場に来たって、「ここはどこですか?」から始まるんだから。どこに何があって、こうなっていて、ということを覚えるのに、だいたい1カ月半ぐらいかかるわな。覚えたと思ったら、もうあと2週間しかない。2週間で何ができるの。しかもその間に雨が3、4日でも降れば、もうほとんどないわけ。
 やっと現場を覚えたかなと思ったら、「長い間、お世話になりました」って、まだ、2カ月かそこいらでしょって。それでも色紙には、「みんなで共に頑張って、福島の復興のために・・・」とか。だったらお前が一命を投げ打ってここで頑張ればいいじゃないか。そんなきれいごとだけ書き残して、すぐにいなくなってしまうね。

――ゼネコンの人たちはなぜ2カ月で交代なのですか?

斉藤:そりゃ、自分たちは線量を浴びたくないからでしょ。一応、会社の決まりらしいんだけど、要するに、彼らは、線量を浴びないで帰ることしか考えてないんだよ。そうじゃないヤツなんて、皆無だね。
 でも、東電なんかもっとひどいよ。事故直後に頑張った人らは別だけど、今は、東電の人は現場に出ることはほとんどないから。線量の高いところに行くのは私ら。私らを遠くから見守っているのが東電の仕事。私らが、彼らの身代わりで行ってるわけ。だから、おかしいんだよ。
 はっきり言って、大学出の知識のある人は現場には絶対に行かないね。本当は、そういう人が現場に行ってやってくれれば、もっと早く解決するかもしれないのに。だけど、そういう人は一歩引いて、外から指示しかしない。それじゃあ現場なんか見えないよ。それでは一向に収束なんかしないよ。
 これね、日本の人間の育て方、教育が間違っているんじゃないの。「自分たちは、偉いんです。だから、自分たちは、安全なところで指示をします」って。どこが偉いのか。これっておかしいんじゃないの。

――そうするとゼネコンの人たちの仕事は?

斉藤:彼らは、口は達者だけど、仕事はできない人が多い。現場の人からちょろっと聞いたことを、さもさも自分で考えたことの様に、朝礼なんかで語ったりするのは得意だけど。
 自分もいっしょに作業をするっていう姿勢だけでも見せれば、またものの見え方も違ってくるんだろうけど、一切、しようとしない。現場に来ても、検査とかチェックとか言って、その辺をちょろっと見て、すぐに免震重要棟の中に戻ってしまうね。
 そのくせ、私らが、現場判断で、これはこうやった方がいいと思ってやったりしたことには、「それは予定外作業だ。何でやったんだ」って怒るんだ。
 そうかと思えば、この作業はこうしましょうって決まっていたのに、後から後から、あれもやってこれもやってって言って来るわけ。あんたら、私らに予定外作業をするなって言っているくせに、予定外作業をどんどん押し付けてるじゃないのって。全く支離滅裂だね。




 私らモルモットか



――被ばく量はどれくらいでしょうか?

斉藤:だいたい、1年半ぐらいで、70から80ミリシーベルトかな。そうするともうしばらく線量のある現場には出られない。〔※〕どっか別の仕事に行かないといけない。だから、なるべく長く仕事ができるように、線量の高い作業に行ったら、次はそうじゃない作業に、という具合に交代交代で回しながらやっている。みんな、生活がかかってるからね。
 果たして、そういうやり方がいいのかどうかはわかないけど、今のところは、私ら、それで納得してやっていくしかないんだよね。
 ただ、放射線っていうのは、浴びないでいいんだったら、浴びないに越したことはないと思うよ。原子をいじって、エネルギーを取りだそうとするわけでしょ。その弊害なんだから。私はそう考えている。
〔※電離則では、1年で50ミリシーベルト、かつ5年で100ミリシーベルトが上限とされている。それを超えると5年間は管理区域内で仕事ができなくなる。〕

――電離検診は?

斉藤:月に一回ね。これなんか、納得できないものがあるね。
 私ら、毎月、病院に行って、自分の体のデータを、東電にしろ、国にしろ、提供しているわけさ。なのに、彼ら、それに対して何の回答も返信もない。おかしいんじゃないの。現場ではみんなそう思ってるよ。
 データだけとって、彼らだけは知っていて、本人には教えないなんて、それだったら、モルモットといっしょじゃない。「ああ、ちょっとこの人、病んできたな。もうすぐガンが発生するんじゃないか」とか。20年ぐらい先に、「放射線を浴びると、こうなるんですね」という研究成果を発表するために、データ取りをしているだけだよ。その実験材料にされているんだから、たまったもんじゃないよ。


sgk004.jpg 




 原発をやめる覚悟



【斉藤さんは、収束作業の最前線にいながら、原発の是非、日本の未来、文明の限界といった問題について考えていた。いや原発事故という現代文明のもたらした災害に向き合っているからこそ、考えざるを得ないということかも知れない。】

斉藤:原発はもうやめた方がいいと思うよ。
 ただ、やめた場合、日本は経済的に落ち込むよね。他の国との競争にも負けるでしょう。
 一度、文明の味を覚えた者が、それを捨てる覚悟をできるのか。どっかに行くにも新幹線に乗らないで、鈍行で行けるだろうか。誰も行かないじゃないの。新幹線どころかリニアだと。どうしてそんなものがいるんだろうね。国民が、みんな、隣りがテレビを持っているからウチもテレビ、ピアノがあるからウチもピアノってやってきたわけでしょ。
 私は、人間が、何か踏み込んではならないところまで踏み込んでいるような気がしてならない。遺伝子操作とか、原子力とか。車に例えれば、ブレーキの要領がわからないのに、スピードが出るからってビュンビュン走っている感じ。もうこの地球が、人間の文明を支え切れなくなっている。何かがおかしいとしか思えない。

◇別の意味の豊かさ

 もっと別の意味の豊かさとか幸福といったものに、目を向けて行くべきだと思うんだ。里山で、現金は少ないけれども、こんなにいい自然と、田圃や畑がある生活。そういうところに、文化の豊かさとか、心の豊かさとかがあるんじゃないか。でも、日本人は、本来、持っていたそういう豊かさを壊しながら、経済的な豊かさを求めて、原発もつくってきたわけでしょう。
 そういう文明を捨てられないというなら、やっぱり原発なりなんなりが必要だという話になるよね。日本という国はどういう選択をするのか。その辺をもっと真剣に議論していかないといけないじゃないの。

◇具体的には難しい

 たしかに、今回の事故をきっかけに、そういう文明はちょっともうおかしいんじゃないかと、感じている人も出て来てるよね。でも、そういう人たちが出て来ても、他方で、やっぱりやめられない人たちがいて、やめられないという人の方が裕福で力があるから、そこで人間同士のいさかいとか、いじめだとか、国同士の対立とかが起こるんじゃないか。
 私ら、現場で、ガレキをひとつひとつ処理するような作業をしながら、でも、本当にこれからどうなるのかってことを考えてしまう。そうすると本当に頭痛がするような気持ちなんだ。

◇賛成でも反対でも収束作業は必要
 
 とはいえ、原発に賛成だとか反対だとかというのは、好きなだけやってくれたらいい。だけど、どっちにしろ、壊れてしまった原発を何とか止めないといけないわけでしょ。収束作業はとにかくやり続けるしかない。やらなければまたドーンと行きかねないんだから。そこのところを、まず、考えてもらいたいんだな。
 だから、原発に賛成だという人には、「じゃあこの収束作業のこの状態はどうなんですか、この先の見えない現実を見ても賛成なんですか」と訊きたいね。
 逆に、原発に反対だという人には、「じゃあ、反対、反対って言ってるけど、この収束作業を進めるために、誰かが飛び込んで行って、犠牲にならないと仕方がないじゃないですか」と。もし今、私らが作業をやめてしまって、誰も何もしないで放っておいたら、また放射能をまき散らすようなことが起こるわけなんだから。だから、誰かがやらないと。で、誰がやればいいんだい?収束作業の本当に詰めた話になると、そういう問題になるんだよ。
 だから、賛成だとか反対だとか、収束作業がどうだとかこうだとか外から言ってるんじゃなくて、一度、ここに来なさいよと。それができないにしても、せめて、私らのような人間が、ピーってAPDが鳴る音に怯えながら、作業をしているんだということを頭のどっかに置いて、いろいろ考えてほしんと思うんだ。
 私ら、自分たちが今やっていることに、どういう意味があるかなんてことは、今は分からない。ただ、いつか死ぬときになって、自分らが多少でもいろんなことをしたお蔭で、少しは収束に向かったのかなあと思えれば、まあ、それでいいんじゃないのかなという気持ちなんだ。(了)





テーマ:「原発」は本当に必要なのか - ジャンル:政治・経済

  1. 2014/01/23(木) 17:30:57|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3

汚染水より深刻  使用済み核燃料の取り出し ――収束作業の現場からⅡ



131007yng001.jpg





 東京電力福島第一原発事故の収束作業の現場で働く草野光男さん(仮名 50代 いわき市)からお話を聞いた。草野さんは、事故以前から福島第一原発をはじめ全国の原発で長らく働いてきた。
 草野さんは、汚染水問題などに関する国や東電の公式発表と、現場で作業する者の意識のかい離を指摘する。とくに4号機プールで11月中旬から始まる使用済み核燃料の取り出し作業について、その危険性を訴え、「クレーン操作に日本の運命がかかっている」と話す。また、避難住民が多く暮らすいわき市で、地域の中で生じている軋轢について、「かつての戦争のときと同じだ」と憂う。
 (インタビューは、9月中旬、いわき市内)



 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




オリンピック騒ぎに暗澹たる気持ち



――まず、安倍首相が国際オリンピック委員会で、「状況はコントロールされている」「汚染水は完全にブロックされている」と発言した件から伺います。

草野:私の周りでは、その話は話題にもなってないですね。多少でも現場でやっている人間なら、あんなの大嘘だってわかっていますから。

――7年後のオリンピック開催については。とくに福島で原発に直接かかわっている立場からすると。

草野:個人的には、嬉しいことは何もないですね。全然、関係のないことだから。オリンピックで日当があがるわけでもないですし。むしろ日当は下がる一方ですから。
 国としては、全体が、オリンピックにシフトしていきますね。だから、福島はなかったものにしたいと思っているでしょう。放射能汚染はないし、もう福島も終わったということにして、後は、住民を帰してしまえば、それで終わりということでしょう。オリンピックが7年後、その前に全部帰すことが目標ですね。そうしたら、安全宣言ができるわけだし、その先、健康被害とか出てくるかも知れないけれど、そういうことは全部隠蔽ということになるのでしょう。

――オリンピックへの集中で、東北三県で作業員の不足も心配されます。

草野:東京に持っていかないと困るわけでしょう。そっちの期限の方が決まっているわけだから。だから、「構ってられないんだよ、東北なんかに。あとは、おまえらで勝手にやれよ」という感じでしょうね。
 オリンピックの騒ぎを見ていると、暗澹たる気持ちになりますね。この国というのは。

 
131007yng002.jpg




コントロールされているのは情報



――では、1F〔東電福島第一原発〕の状況について伺います。

草野:1Fの危なさは、作業員には、何のアナウンスもされてないですね。だから、一見平穏無事。
 作業現場までバスに乗って行くんですが、そのバスの中に、1号機から4号機までそれぞれどういう状況かということを書いたものが貼ってあります。そこには、「全部大丈夫です」、「4号機のプールは、コンクリートで固めているから、倒れる心配はありません」とありますね。

――それはある種の安全神話ということでしょうか?

草野:そう、その通りですね。「コントロールされている」と安倍首相が言いましたが、それは、情報がコントロールされている、という意味だったんですね。


131007yng003.jpg


――汚染水の情報もコントロールされていましたね。

草野:私の見方だけど、東京電力の方は、政府に泣きを入れていたと思うんです。「情報を抑えるのも、汚染水を抑えるのも、これ以上無理」と。でも、政府は「ちょっと待て。選挙控えているんだ。選挙終わったら何とかすっから」と。
 まあ、本当は最初から漏れているんですけどね。だってコンクリートなんかガタガタに亀裂が入っているわけですから。
 だけど、今いちばんの優先事項は、オリンピックのため、アベノミックスのために、安全神話で情報をコントロールすることなんです。人間の命なんか、どうでもいいという考え方があるとしか思えません。

 


今がチャンスとゼネコンが主役



――いま草野さんはどういう作業を?

草野:私の仕事は、地震や津波でやられた機器を点検し修理することです。大きな定期定検は、正常に稼働しているのを止めてやるものですが、それではなく、個々のモノの点検を常時やっています。事故後もそれは変わりません。全面マスク着用だけど、線量はそんなに高くありません。でも除染してないので、埃で内部被ばくするから、全面マスク着用になっています。

――汚染水対策や建屋内の作業などは?

草野:私たちは、その辺には、全然、関わっていません。はっきり言って、今、主役はゼネコンなんです。事故後は。
 私たちみたいに、事故前から作業に入っていて、ある程度原子力の知識のある人間はあまり入れたくないようなんです。それでなのか、重要な部署には行っていません。
 そういうわけで、ゼネコンがほとんどやっている状況です。1Fのところにビルができて、そこにゼネコンさんの看板がデカデカとあります。「がんばってます」みたいな感じでね。
 
――原発が稼働していたときは、ゼネコンは関係ないですね。

草野:稼働していたときは、ゼネコンは関係ないです。事故が起こって、ゼネコンにとっては、今がチャンスなんですね。
 だから、今、立場的には、ゼネコンの方が上です。私たちは、ゼネコンの回りで余っている細々とした仕事をもらっているという感じです。もともと原子力に関わってきた者は、蚊帳の外に置かれていますね。
全国の原発に入っていてノウハウを持っているアトックス〔原発保守管理が専門の会社。本社・東京〕なんかも、入退管理とか、そういう小っちゃい仕事しか任せられていません。やっていることは雑用です。アトックスは、自前のホールボディカウンターも持ってるくらい、いろいろ技術力はあります。だから活躍していると思われるけど、でも雑用です。今なんか、仕事なくて下請けにまで仕事が回らない状態ですよ。
 前に私がいた会社の人たちも、全国の原発の仕事に回っています。浜岡に行ったり、柏崎に行ったりです。

――どういうことでしょうか?

草野:ひとつは、今言ったように、原発のことをわかっている人間は入れたくないという感じがかなりあります。
 それから、昔からの原発関係の会社に比べて、ゼネコンの方が請負の単価が安いという事情はあるでしょうね。
 ゼネコンにとってはおいしい仕事です。降りて来た金を黙って自分たちのところで回せばいいわけだから。要するに公共事業ですから。名前は収束作業だとか言っていますが、単なる公共事業だと思っているんですよ、彼らは。
 以前に大成や鹿島の下で仕事したことがあるから、あの人たちのやり方はわかります。スーパーゼネコンなんて名前は格好いいけど、ただのどんぶり勘定の会社です。田舎のその辺の会社と変わりません。
 それから、もうひとつ言えば、当初で、みんな線量を使い切っているんで、現場に入れないということも大きいと思います。
 私の会社でも、班長クラスは、線量が制限いっぱいいっぱい〔※〕なんで、誰も線量の高い現場に入れないんです。だから他の仕事をするしかないんです。

〔※電離則では、年間50ミリシーベルト以下かつ5年間で100ミリシーベルト以下。また、東電の管理基準で年間20ミリシーベルト以下だが、下請け会社の基準はそれに準じてまちまち〕
  
――それはいずれにせよ収束作業の現場として、かなり深刻なことでは?

草野:そう、かなり深刻ですね。一般の建設現場で働くような人たちが、会社としても、作業員としても、入ってきて、とりあえずやっているということですからね。


 

東電はただの管理会社



――ゼネコンが主役ということですが、そうすると、東京電力は何を?記者発表をしているのはいつも東京電力ですが。

草野:もともと東京電力には何の技術もありません。東京電力はただの管理会社なんです。書類を見てハンコを押すだけ。だから、管理監督なら、誰でもできます。東京電力の服さえ着ていれば。これまで現場を何とか支えてきたのは、各メーカーの技術屋さんと現場の下請けでなんです。
 今、こういう状況になって、東京電力に何を訊いたって、「いや、あー、うーん」という感じですよ。もともと現場を知らないわけだから、何の発想も出てきません。そういう人たちに、「なんとかしろ」と言ってもどだい無理なんです。
 結局、作業の質は、現場の人間が、どこまで真剣に仕事をやるかにかかっているわけです。

 
東電の態度は「復旧」


 ――事故の前と後で、東京電力の態度に変化はありますか?

草野:何も変わっていませんね。事故が起きたという点だけが違うだけで、後は全くいっしょです。
 強いて言えば、事故直後の3~4カ月ぐらいでしょうか。東電さんがちょっとペコペコしていたのは。でも、そういうのは、すぐに「収束」して、もうとっくに元の横柄な態度に「復旧」しています。
 
――みんながそうですか?

草野:電力さんでも、心ある人はいますよ。でも、そういう人はみんな変な場所に回されてしまいます。私も知っている東京電力の担当者の人も、作業員にも良くしてくれたし、一所懸命だったし。でも今は雑用をやっています。




線量を食うと倦怠感



――給料や待遇はどうですか?

草野:一日で1万1千円です。うちはまだいい方で、もっと下の方になると、5次、6次とか、7次、8次とかもいるから、そうすると5~6千円ですね。

――それはもう福島の最低賃金ですね。危険手当とかは?

草野:周りで知ってる限り、もらってないですね。収束宣言〔2011年12月〕の前から危険手当という名目はなかったです。

――全面マスクという現場に行く場合でも?

草野:関係ないですね。だから、他の仕事をした方がいいんじゃないかと私も考えましたよ。除染にいっちゃおうかなあとか。そっちで1万5千円もらえるなら。全面マスクして、1万1千円はやってられないなと思いますよ。
 でも、なんで除染に行かなかったかというと、除染では、放射線管理が杜撰ですからね。そうすると、ゆくゆくすごい損をしてしまいます。たとえ1万5千円だとしても、相当の内部被ばくをしているわけだから、除染をやった人はそのうちバタバタ行きますよ。
 サージカルマスクをしても、あんなものでは効果は知れてますね。だいたい暑くてマスクなんかしていらないですし。
 結局、除染の現場は、管理されていないから証拠が残らないわけです。私の場合、病気とかなんかあったときのために、証拠を残しておこうと思って、原発に残っているようなものですから。

――ホールボディカウンターの数値は?

草野:毎月、ホールボディカウンターを受けていますが、マックスでだいたい6,000cpm〔※〕です。事故前だったら、6,000なんて大変な騒ぎですね。事故前は800cpmぐらいでした。
 でも、今、6,000という数字が出ているからと言って、何にも問題にはなりません。東電さんがやっているのは、「自分らは、ちゃんとやっていますよ」といういわばパフォーマンスです。作業員の健康を守るため、ではなくてね。企業を守るため、ただそれだけでしょう。現場作業員は使い捨てですから。

 〔※〕〔cpm=カウント・パー・ミニット 1分あたりの放射線計測回数〕

――ご自身の健康状態については?

草野:個人的な感想ですけど、ある程度、線量を浴びた日は、つらい。だるいし、倦怠感が出ます。
 それから、この間、内臓をやられています。医者は酒だと言いますがね。因果関係を証明はできないですから。


労災は自己責任


――被ばくの問題以外に、現場作業での労災は?

草野:そんなもの、昔から、現場でケガをしても、「自分の家でやったことにしてくれ」ということです。労災なんかまず出てこないですよ。よっぽど救急車を呼んだとかということにでもならない限り。

――中小の事故は無数にあるが、全部、隠ぺいと。

草野:隠ぺいというより、出ちゃうと大変なので、会社なり、本人なりが、自分から、「家で転んだ」という風に被ってしまうんです。自己規制、自己責任ということですね。
 労災になると、労基〔労働基準監督署〕が入るでしょう。1週間とか1カ月とか現場が止まってしまいますね。そうなると迷惑がかかるから、「家で転んだ」ということに自分でするんです。ひどい話ですけど。




収束作業はまだ始まっていないような状況



――収束作業の全体の状況を伺います。汚染水対策というのは、前に進むというより、後退を強いられているような事態では?

草野:そうですね、いわば負け戦です。
 
――そうすると、現場は必死という感じですか?

草野:いや、それが、現場は意外と必死ではないんです。まともに考えるともう目も当てられないですから、日々をたんたんと過ごすしかないわけです。

――溶融した核燃料の取り出し開始を前倒しにするという工程表の発表〔今年6月〕もありましたが。

草野:あれは工程表ではなくて、全くの希望ですから。工程表と呼べる代物ではありません。
 収束作業は、実質的には、まだ、始まってないという状況でしょう。
 燃料が溶けたり、再臨界したりしないように、冷やすしかないわけです。それ以外は何もできない状態です。だから、周りを片づけたり、環境を整える作業をしているしかないのです。 
 ところが、そうしていたら、汚染水が管理できなくなって、水で冷やすというやり方自体が、限界にきていしまったわけです。
 それから、溶けた核燃料を取り出すという話ですが、それ自体、ほとんど無理ではないでしょうか。鉛で固めてしまう方がまだいいのではないかと私は思っています。
 
――展望を描けるような状態ではないと。

草野:厳しいですね。深刻に考えていたら、やっていけないんで、与えられた仕事をこなすしかないですが。

――作業員の被ばくが問題です。

草野:そう、例えば、タンク一個をばらすのに一週間かかっていますね。急いでも。組み立てるときよりはるかに時間がかかっています。それはものすごく汚染しているからです。作業そのものが難しいのではなく、線量の問題があるわけです。
 他所から見ている人は、「汚染水、許せない」「早くやれ」と言いますが、実際にやっているのは、東電ではなくて、作業員なのです。
 それが原発というものです。昔から。格好いいのは中操〔※〕だけです。よく資料映像などで、原発はこんなにハイテクでクリーンなんだと、中操の様子を見せたりしますが。でも、あの裏に行ったら、配線一本一本、配管の一つひとつを一所懸命つないでいる作業員がいるのです。もう、究極のアナログ、肉体労働ですよ、原発は。

〔※中央操作室 原発を運転する中心部。中央制御室とも〕




4号機のクレーン操作に日本の運命が



131007yng004.jpg


――4号機のプールにある使用済み核燃料の取り出しを11月中旬から開始するとしていますが。

〔4号機プールには使用済み核燃料1331体と未使用の核燃料202体が保管されている。そこに広島型原爆で約1万4000発分の放射性物質(セシウム137換算)が含まれているという。東京電力は、2014年末まで作業は続くとしている。その後、2015年9月頃から、隣りの3号機プールの使用済み核燃料の取り出しを目指すとしている〕

草野:これは、リスクのある作業です。汚染水のレベルではないですよ。汚染水はまだ流れているだけですから。それ自身がすぐに何かを起こすわけではない。海に溜まっていくだけです。それはそれでのちのち深刻な問題なのですが。
 だけど4号機プールの使用済み核燃料は、そもそも事故のとき、アメリカをはじめ、全世界が震撼していた問題です。福島だけじゃなくて東京が飛ぶかもしれないと本気で危惧されたものです。
 だから、失敗が許されないのです。
 
――汚染水タンクの問題が明るみに出るまでは、やはり安全神話があって、そういう基本的なレベルでの破綻や失敗はないだろうと思われていましたが。

草野:4号機の作業で、タンクのときと同じレベルの人為的なミスや技術上の問題が起こったとき、汚染水のように「漏れてました」という具合では済まされませんね。起こることは、そういう比ではないですから。
 水の中でキャスク〔特殊な容器〕に入れて、密閉して釣り出すというのですが、果たしてうまく行くでしょうか。プールはガレキで埋まっているし、燃料集合体だって壊れているかもしれません。
 水の中にあるうちは、まだいいのです。遮蔽効果があるからですね。釣り上げて、外に出したときが危険です。例えば、この間のようにクレーンが倒れたりするわけですよ〔※〕。そういうことが起こって核燃料が露出してしまったら。もう、近くにいる人間は即死するぐらいの線量です。一気に命の危険にさらされます。

〔※9月5日に発生。3号機のクレーンのアームが中央付近から折れ曲がった事故〕

――さらに地震や津波の再来や竜巻の襲来ということも考えられますね。

草野:そう。地震や何かで、冷却システムが故障したり、プールにヒビが入って水がなくなるということだって、可能性としてはあります。もし、水がなくなったら、核燃料がむき出しになって、温度がどんどん上がり、大量の放射性物質がまき散らされてしまいます。
 そうなったら、作業員も、もう現場から退避せざるを得なくなります。あるいは決死隊になってしまいます。それが、チェルノブイリで起こったことでしょう。東京まで避難になります。

――使用済み核燃料の取り出し作業が1~4号機全部で10年ぐらい続くとしていますが。

草野:気の遠くなる作業です。その間、一回の失敗もないなんて、この間起こっていることを見ていたら、難しいでしょう。また、10年の間、地震も津波も竜巻もないという保証もありません。


131007yng005.jpg
(事故後の4号機プール内の画像)


――作業員の確保の問題もあります。

草野:そうですね。個人的には、これだけのクレーン作業を扱える技術者が集まるだろうかと思っています。
 遠隔操作はできないでしょう。この間のプールのガレキ撤去作業で、1日の被ばくが2ミリシーベルトとかいっていますね。すごい被ばくです。線量の高いところに、クレーンで行かなければなりません。作業時間が限られます。そうすると、ものすごい人数がかかるわけです。しかも技術がないといけません。
 だから、作業員の確保というところで、限界にぶつかるかも知れないと私は思っています。

――深刻な危機と隣り合わせで進むわけですね。

草野:そうですよ。だから、オリンピックだとかと言って、浮かれている場合ではないわけです。4号機で、釣り上げて一本ダメにしたら、もうそれで終わりになってしまう。クレーンの操作に、日本の運命がかかっている。そう言っても過言ではありません。その間に地震が来ないことを神に祈るしかないのです。非科学的ですけど。
 でも、皆さん、祈りませんね。アベノミックスで景気がよくなるかどうかなんてことしか話題にしていないですね。

――何が必要でしょうか?

草野:不発弾を処理するとき、半径何メートルって住民を避難させてからやるでしょう。せめて、子どもを避難させるとか。そこから行けば、すべての答えが出ると思うんですが。でも、そんなことは誰も言わないですね。
 とにかく、子どもはいったん逃げてほしいです。私は、最後までいるつもりです。どのくらいまで見届けられるかというのはありますけど。




被災地で見える住民の分断



――ところで、いわき市にいると、いろいろな問題が見えてくると思いますが。

草野:そうですね、まず、国民をバラバラにする政策ですね。

――具体的にはどういうことですか?

草野:例えば、東電の賠償をもらっている人ともらっていない人との差がすごいです。
 避難区域で、東電関係の会社をやってた社長さんなんか、売上げの何十%がもらえて、さらにあれやこれやですごい額になっていると言います。そういう人たちは、被害を受けても余裕綽々です。でも、他方で、何にも知らないお年寄りなどは、賠償の請求の仕方もわからないという状態です。農家の人たちだって、途方に暮れている状態です。でも、外から見たら、全部、同じように賠償をもらっていると見られています。
 いわきでは、たしかに新車が増えているし、道も混みますね。2万4千人ぐらいでしょうか、避難してきている人は。ゴミの分別の仕方とかわかんなくて、そういう事細かなことから、いわき市民との間で軋轢が生まれています。

――しかし、本当に文句を言わなければならない相手はそこではないと。

草野:そうなんです。そういう風にしたのは誰なんだということが問題なのですが、それをみんな忘れているわけです。
 身内で争っている場合ではないでしょう。どうしてこうなってんだ。こういう状況にさせたのは誰なのか。そういう東電を野放しにしている国ってなんなのって。そこを見失っているように思います。
 
――参院選では福島でも多くの人が自民党に投票しました。

草野:個人的な見方だけど、未だに、面倒を見てもらっているという感覚があるのではないでしょうか。被害者なんだけど、賠償なり、復興なりで、面倒を見てもらっているという感覚です。もともと自民党が原発をやってきたことは分かっているはずなのに、目先のことしか見えていないんです。

――政治の次元ではなく、もう少し根本的なところで変化が必要だということですね。

草野:簡単には変わらないでしょうね。変われるなら、こんなに原発は出来てなかったでしょうから。原発を持って来れば豊かになるとか、若い人が戻るとか言ってきましたが、結局この様です。なのに、未だに、原発がダメなら次は何をもってくるかといった発想になってしまう。再生可能エネルギーを持ってきたとしても、その発想のままでは変わらないんです。そういう発想をしているうちは、田舎はダメでしょうね。儲けを持っていくのは結局、ゼネコンや大企業であり都会なのですから。

――建設過程で一時的に景気がよくなるだけですね。

草野:そう、終わったら何もありません。
 原発ができたときも、お蔭で出稼ぎがなくなったと言っていました。たしかに仕事があるときはいいけれども、仕事がないときは、結局、みんな全国の原発を回っているのです。私も、1年のうち半分も家にいませんでした。定検、定検で回っていますから。これは、形を変えた出稼ぎではないのでしょうかね。

――原発問題を考えるとき、都会と地方という問題に目を向ける必要があるということですね。

草野:都会の人は、原発がいいとか悪いとかということを、一刀両断できますね。単に電力を消費している側ですから。しがらみもないでしょう。だから反対するのも簡単です。
 でも福島など原発のある地域ではそうは行かないのです。その感覚というのはなかなか説明しても分かってもらえないのですが、そこが一番の問題なのです。
 家族や親戚の中に、東電の社員はいるはし、下請けの社員もいる。高校で成績いいのは東電で、悪い奴は下請けで。じいちゃん、ばあちゃんも、畑や漁のないときは原発に働きに行く。そういう具合ですから。
 本当に恐ろしいですね。原発による丸抱えです。田舎の弱みに付け込んでいるという感じですね。
 

あの時代といっしょ


――「復興に向かっているんだから、健康被害だとか、東電の責任とか、国の責任とか、そういうことは言うな」という空気もありますね。

草野:私の友だちが、子どもいるから心配で、ある施設に行って、「放射性物質の検査はどうなっているんですか」って聞いたら、その施設の検査が十分でなかったらしいのです。そこで、その人が、フェイスブックにそのことを書いたのですが、そうしたら、「そんなこと言ってんじゃねえ」と、メッセージが送られて来て、脅されたという話がありました。
 いじめの構造と一緒で、声の大きい連中の仲間に混ざらないと、自分に被害が及ぶという恐怖感があります。だから、とりあえず強い方に混ざっておくということになります。それがいやだったら、もう何も言わないでおくしかありません。疑問や危機感をもっている人にものを言わせない力が働いていると思います。
 あの時代といっしょですよ。かつて戦争のとき、戦争反対と言えなかったでしょう。終わってから、「自分は、反対だった」と言った人はそれなりにいましたが、それでは遅かったわけです。
 いまそれと同じ状況じゃないですかね。本当に恐ろしい。ああ、この構造って変わってないなと思います。 (了)




テーマ:「原発」は本当に必要なのか - ジャンル:政治・経済

  1. 2013/11/11(月) 17:28:09|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:3
  4. | コメント:16

汚染水流出  その危機の本質


0824osn001.jpg      
  (国と東電に怒りをぶつける漁業者 8月22日 相馬市内)




 東京電力福島第一原発で汚染水の流出が止まらない。
 原発敷地の地下を流れてきた地下水が汚染、その汚染水が海に流出している問題、そして、冷却に使った汚染水を貯蔵するタンクから汚染水が大量に漏出した問題である。後者について英BBC放送は、「メルトダウン以来、もっとも深刻な惨事」と伝えている。
 汚染水問題の重大性はかねてから指摘されていたが、ここに来て、汚染水の管理・制御がもはやできないという事態になっており、事故収束作業が破たんの危機に逢着しているのである。そして、この事態がいつまで続くのか、どうすれば止められるのか、誰も答えられない。長期にわたって放射能が海洋に流出し続け、汚染が拡大し続けていこうとしている。
 「止める、冷やす、封じ込める」というのが事故収束3原則だという。が、「止める」を死守するために「冷やす」を必死に維持しているが、それが「封じ込める」をどんどん破綻させていっている。3・11が形を変えて継続しているのだ。
 「東京電力に任せるのではなく、国としてしっかり対策を講じていく」(8月7日)と安倍首相は言った。が、その後の安倍首相の主要な動静は10日間で6回のゴルフ。このように、国も東京電力も、この危機を危機として認識さえしていない。空前の海洋・環境の汚染、漁業をはじめとする産業の破壊、日本にとどまらず世界中の人びとの生活と健康の被害が起ころうとしている。
 だが、ここで汚染から人びとと環境を守らなかったら大変なことになるという危機感は彼らにはない。ここに実は私たちが直面している危機がある。

 以下、福島第一原発における高濃度汚染水の流出問題について、【Ⅰ】では日々報道されている汚染水問題の核心を整理し、【Ⅱ】では、漁業者に対して、国および東京電力が行った説明の内容の検討とそこで発せられた漁業者の怒りの声を報じ、【Ⅲ】では、私たちがこの問題にどう向き合うべきかについて考えたい。




【Ⅰ】  これは非常事態だ




0824osn007.jpg


 汚染水問題は大別して二つの系統がある。



自転車操業の破綻


 ひとつは、核燃料を冷却するための水だ。
 核燃料は依然として膨大な熱を発しているので、冷却し続けなければならない。しかも原子炉建屋も格納容器も大きく破損している。核燃料はメルトダウンして、どこにあるかもわからない状態だ。そこに冷却の海水を注入し続けている。その水は、核燃料に触れるので当然、高濃度に汚染する。そういう汚染水が毎日約400トン発生している。
 その汚染水を貯めるためのタンク〔写真下〕を造り続けている。今年8月中旬の時点でタンクの総容量は約39万トン、そのうち33万トンが既に満杯。1基1000トンのタンクは2日半で満杯になる。だから、これを上回るペースで作り続けなければならない。これが、核燃料が取り出せるようになる何十年先までずっと続く。
 汚染水から放射能を完全に除去する装置はまだ存在しない。多核種除去装置ALPSはセシウムなど62種類までは除去できるとしているがトリチウムは残る。しかも、このALPSは、試験運転した途端にトラブルを起こして7月以来稼働していない。


0824osn002.jpg


◇タンクから300トン漏出

 こういう自転車操業的なやり方に限界があることは誰でもわかる。
 その限界の露見が、タンクからの汚染水の流出として始まった。 
 8月19日、福島第一原発敷地内の汚染水貯蔵タンクから、汚染水約300トンが流出していたと東京電力が発表。この間、タンクからの漏出事故は4件発生していたが、今回は流出した量が桁違い。流出した放射性物質の総量は、約24兆ベクレルと推計。一部は地中に染みこみ、一部は排水溝をつたって外洋に流出している。さらにその後も他の2つのタンクで漏出が発覚。
 漏出を起こしているのは、いずれも、約1000基あるタンクのうちの350基を占めるボルト式のタンク。溶接式のタンクに比べ施工期間が短いために採用されてきたが、これが全部アウトとなるとすると、汚染水の管理が一気に行き詰まる深刻な事態だ。



地下水の汚染


 汚染水問題のいまひとつは、原発敷地内に流れ込む地下水の汚染だ。
もともと、第一原発1~4号機の地下には、大量の地下水が山から海に向かって流れ込んでいる。その量は1日約1000トン。
 地震・津波と事故によって、原子炉建屋が大きく破損、そこに地下水が流入している。建屋に流れ込む量は1日約400トン。建屋は事故によって汚染しているので、そこに流れ込んだ地下水は当然汚染する。
 さらに、原発の地下に張り巡らされたトレンチ(配管、電線を通す地下の空間)には、押し寄せた津波の海水、あるいは冷却のために注入された水が漏れ出して大量に溜まっている。そのトレンチは地震でひび割れており、そこから汚染水が外に漏れ、あるいは地下水が流入している。
 もっとも深刻なのは、核燃料が圧力容器からも格納容器からも溶け落ちてメルトスルーしている可能性だ。そうだとすれば原子炉建屋に流れ込んだ地下水が、直接核燃料に触れていることになる。これは、猛烈な汚染になる。〔下図〕
 こうして地下水が汚染し、それが海に向かって流れていくことになる。


0824nsn003.jpg


◇当初から警鐘

 このような仕組みで地下水が汚染する危険は、当初から指摘されていた。
 小出裕章京大助教は、事故直後からいちはやく危険を指摘した上で、「トレンチの汚染水は巨大タンカーへ収納、柏崎刈羽原発で処理」、「地下水の流入対策には、原子炉建屋周辺をできるだけ深い遮蔽壁で囲う」という提案をしていた。
 実は、政府・原子力災害対策本部でも、2011年12月21日付のペーパーで、「海洋汚染拡大防止計画」として、「万一地下水が汚染した場合の海洋流出を防止するため、遮水壁の構築を2014年度半ばまでに完了」と明記、問題を認識し対策にも言及していた。
 しかし、その後、何らの手も打たないまま、放置されてきた。

◇警告も無視
 
 さらに可能性を指摘するだけでなく、汚染した地下水が既に海に流れ出しているという警告が、既に1年以上前から、専門家らの福島県沖の放射性物質の濃度の調査からなされていた。また、今年5月以降、海側の観測井戸の地下水で高い濃度の汚染を東京電力自身が確認していた。
 しかし、それでも、東京電力は海への流出をなかなか認めようとしなかった。「流出していると見られる」と東京電力が認めるのは、7月参議院選挙の投票の後というタイミングだった。
 もっとも、東京電力も、流出は分かっていたはずで、実際、今年7月になって海岸近くの地中に水ガラスによる遮水壁の設置に着手、第一列が7月下旬に完成している。が、地下水はその遮水壁も越えて漏れ出していった。

◇まだ序の口

 上述したように、核燃料に地下水が直接触れていれば、その汚染は激しいものになっている。その汚染水が海に流出するのは実はこれからだ。地下水の移動速度にもよるが、じわじわと海に向かっている。
 事態はまだこれから悪化する可能性が高いのだ。




【Ⅱ】  国・東電の説明に漁業者の怒り



 8月22日、相馬市内で、相馬双葉漁協が、試験操業検討委員会を開催した。組合員や仲買業者など約80人が出席。その場に、経済産業省と東京電力の担当者が訪れ、汚染水問題に対する謝罪と対策の説明を行った。説明に当たったのは、経済産業省資源エネルギー庁の上田洋二調整官、東京電力の新妻常正常務、林孝之福島本部副本部長など。


0824osn004.jpg



経産省 机上の計画 

 
 上田調整官〔写真上〕の説明の要旨は以下のようであった。

まず冒頭で、「たいへんな御心配をおかけしています。7日、安倍総理から、『汚染水問題は喫緊の課題であり、国としてしっかり対策を』というお話があり、『経産省も迅速な対策を』という指示がありました」と。
その上で、①汚染水対策の三原則、②直ちに行う緊急対策、③今後1~2年で行う抜本対策という骨子で国の対策を示した。その骨子とは――

①汚染水対策の三原則
 1.汚染源を取り除く
 2.汚染源に水を近づけない
 3.汚染水を漏らさない

②直ちに行う緊急対策
 1.トレンチ内の高濃度汚染水を除去する(8月中旬から) 
   ~【取り除く】
 2.水ガラスによる汚染エリアの地盤改良、アスファルト等による地表の舗装、地下水のくみ上げ(今週中に開始)  
   ~【近づけない】【漏らさない】
 3.山側から地下水をくみ上げる  
   ~【近づけない】

③今後1~2年で行う抜本対策
 1.サブドレン(建屋近傍の井戸)から地下水をくみ上げる  
   ~【近づけない】
 2.海側に遮水壁を設置する  
   ~【漏らさない】
 3.凍土方式で陸側に遮水壁を設置する」  
   ~【近づけない】【漏らさない】

 
 以上が上田調整官の説明のほぼすべて。つまり、対策と言っても、本当に大枠の話だ。これは、この間、東京電力、政府、規制庁などで議論されている話を、体裁よくまとめた机上の計画。事態に向き合って悪戦苦闘している中から出て来たものではない。2年前ならいざ知らず、この期に及んでこんな机上の計画を示して済むと思うところが、漁業者を愚弄している。
 さらに、例えば、汚染水対策の三原則のところに「汚染源を取り除く」とあるが、説明を聞くと、上田調整官が言う汚染源とは、核燃料ではなく、トレンチのこと。トレンチ内の汚染水をくみ取れば汚染水の流出は防げると踏んでいるのだ。もちろんトレンチに溜まっている水も激しく汚染しており、それも汚染源のひとつ。しかし、そもそも核燃料がどこに行っているかもわからず、メルトスルーして直接地下水に触れている可能性が大なのに、どうしてあらかじめ甘い想定にするのか。「対策はやりました。でもやっぱり駄目でした」という結末が予め見えている対策でしかない。
 また、直後で検討の時間がなかったとはいえ、汚染水貯蔵タンクからの漏水問題、さらにタンクを造り続けるという自転車操業的なやり方の問題にたいしてどうするのかといったことについては、次の東京電力も同じだが、ほとんど言及がなかった。
 そして上田調整官の説明の中で印象に残った点を挙げれば、「総理の指示で」というフレーズを繰り返したこと。この間、「国はどうして前面に立たないんだ」という批判にさられており、それへの対応なのだろう。しかし、苦しんでいる漁業者を前にして、伝わったのは、泥を被りたくないという国の逃げ腰の姿勢だけだ。


 
東電 「影響ありません」


0824osn005.jpg


 東京電力の新妻常正常務、林孝之福島本部副本部長〔写真上〕の説明の趣旨は、以下のようであった。
 
 まず、対策の三原則、緊急対策、抜本対策という枠組みは、経産省の説明と全く同じ。
 その上で、かなりの量の図表やデータを提示して説明した。これは、わかりやすくするというより、それらしい数字をたくさんあげることで、俄かには疑問を呈しにくい雰囲気にしている。
 が、そういう中で、東京電力がもっとも言いたかった事柄はおそらく次の点にあるだろう。
 
・「継続して海域モニタリングを行っていますが、港湾外への影響はほとんどありません」
・「水ガラスによる地盤改良で遮水効果が有効に発揮されたと考えます」
・「港湾内・港湾境界付近では、影響は限定的です」

 「影響はない」「効果は有効に発揮」「影響は限定的」という文言が繰り返された。つまり、世間は騒いでいるかもしれないけど、実際には大したことはありませんよ、というのが真意なのだ。図表やデータは、進行している危機をとにかく小さく見せるための詐術とすら言える。
 しかも、その論法はこうだ。

・「事故直後はかなり高い数値で、いまはかなり低い数値。そして、この間、数値は大きく変わっていません。漏えいは続いていますが、影響は限定的です」
 
 つまり、事故直後の深刻な数値と比較して見せて、それに比べたらずっと低いから大丈夫、という論法なのだ。
 さらに、効果を発揮しているという水ガラスによる地盤改良でも、「20%は透過してしまいます」とさらりと言っている。

 なお、報道によれば、福島第一原発の港湾内で採取した海水のトリチウムの濃度が1週間で8~18倍に高くなったと、東京電力が8月23日に発表。海洋への放射能汚染の拡大が進んでいることはもはや否定しようもない事実。

◇海洋投棄ねらう

 もっと驚くのは次の説明だ。

・「事故後の約2年間の累計で、港湾に流出した量の試算は、トリチウムが40兆ベクレル、ストリンチウム90が10兆ベクレル、セシウム137が20兆ベクレル。それにたいして、平常運転の福島第一原発のトリチウムが年間22兆ベクレル、それ以外の放射性液体廃棄物が年間2200億ベクレルです」
 
 平常運転でもこれだけの放射能を出してますよ、という開き直り方にまず驚く。
 そして、事故が起こって炉心が溶けても、流出した放射能の量は年間に直したら平常時と変わらないから、全く大したことはない。2011年3月みたいにまとめて出すと騒ぎになるけど、小出しにすれば全然問題ない、海は広くて大きいから影響はほとんどない、と言っているのだ。その上で、数字を検証する必要があるのであって、事故後に流出した放射性物質の量は、東京電力の主張よりはるかに多いとする専門家もいる。
 放射能にたいする感覚が麻痺しているとしかいいようがない。
 このような説明の向こうに見えるのは、汚染水対策が早晩、行きづまることは明らかで、そのときには、海洋への投棄に進みますよ、ということだろう。

◇環境も人も守らない

 東京電力のこのような説明の姿勢からは、環境も人も守る気など全くないと言わざるを得ない。
 国内外の専門家で構成する東京電力の第三者委員会「原子力改革監視委員会」のデール・クライン委員長(米原子力規制委員会の元委員長)が、東京電力の汚染水問題への対応に関して、7月29日、次のような批判を述べたが、全く当を得ている。
 「安全側に立った意思決定の姿勢に欠けている。国民に十分な情報を提供していない」「東京電力は自分たちのやっていることが分かっていないのではないか。計画がなく、全力を尽くして環境と人びとを守ろうとしていないと映る」
 

 
「一体、何年かかるのか」  漁業者が悲痛な訴え



0824osn006.jpg 


 次に、経産省と東京電力の説明の後、漁業者らが質問や意見を述べた。そのやり取りの一部を紹介する。

・・・・・・・・・・・・・

漁業者A: 東電の言うことなんか信じられない。操業ができるようになるのに、何年かかるの?新妻さん(東電の担当者)、あなたは何年かすれば部署も変わり、退職したら、それで終わりでしょ。でも私らずっといるんだよ。
 私はまだいいよ。もう年だから。でも息子は30代。孫もいるよ。息子には「漁師はやめろ」と言っている。先が見えないから。でも「やりたい」と。俺も心の中では継いで欲しい。でも言えないよ。こんな状態じゃ。何年かかるの?答えなさいよ。国のトップ、安倍さんをここに連れて来なさいよ。 

漁業者B: 「影響ない」というけど、東電の説明でも、完全に止められるという話ではなかったじゃないか。

東電・新妻: 止めたいです。止めるようにします。

漁業者C: 「影響ない」なんて、全く信用できない。

漁業者D:
 「数値が変わってない」というのは、むしろ、汚染水が流れるのが今回始めてではなくて、前々から汚染水が流れていたということじゃないの。それが今回初めて分かった。というか東電がはじめて認めた。これまで隠していたということでしょ。

漁業者E: 今の東京電力は信用できない。国が前に出て来なさい。総理が来なさい。

経産省・上田: 総理からの指示にもありましたので、事業者任せにしないということで・・・。

・・・・・・・・・・・・

 漁業者を愚弄する国や東京電力の説明に、厳しい批判が飛び交った。
 ひとつひとつの言葉に、何代も続けて来た漁業を守りたいという思い、何とかここで収まってほしいという願いと、事態の深刻さにショックを受ける心境とが、複雑に込められていると感じた。



反乱を抑える仕組みも


 ところで、この日の集まりは、事前の予測ではもっと荒れると思われたが、案外に静かに感じられたのはどうしてか。その辺を参加した漁業者のSさんに訊いてみた。
 Sさんが言うには、こういうことだ。
 「漁業者はいま漁に出られないから、東電の賠諸金と海のガレキ撤去で暮らしているわけ。でもガレキ撤去は今年で終わり。そうすると賠償金だけ。不安だよ。だから、本当はもっと強く言いたいよ。東京にもいって声を張り上げたい。でも、そんなことをして、もしも賠償金を打ち切られたりしたら思うと、みんな躊躇するんだ」と。
 100パーセントの被害者なのだから、賠償を受けるのは当然だ。ところが、現在の賠償の仕組みだと、賠償の額も、払うか払わないかも、加害者である東京電力のさじ加減次第になってしまっている。そのために、破壊された生活と生業の再建が、東京電力に握られてしまっている。これはおかしい。こういう仕組みが、福島の人びとの抵抗や反乱を抑え込み、ねたみややっかみを生んで分断を組織している。

◇漁連の会長さん

 もうひとつ、Sさんは難しい内情を話してくれた。
「さっきも発言していた県漁連の会長さんがいるでしょ。会長さんは、東電となあなあなんだな。会長さんのところは大きな会社で、大きな船で遠くで魚を取っているから、全然困っていないの。それに会長さんは社長さんでそもそも船になんか乗らない。私らとは全然違う立場。そういう感じだから、『もうリコールでもするべー』という話もあるんだけど」
 たしかに、野崎哲県漁連会長の話は、どうも歯切れが悪いと感じたが、そういうことだったのだ。漁業者の憤りを抑え込むもう一つの仕組みがこれだった。もっとも、Sさんの口ぶりからは、抑え込まれてきた怒りがそろそろ爆発するという機運も窺える。




【Ⅲ】  誰がどう責任を取るのか



0824osn008.jpg 
(予定した試験操業の中止を余儀なくされた漁船 相馬市松川浦)


 「国は責任を取れ」。その通りだ。もちろん責任をとれるものなら取るべきだ。だがそれでこの危機を突破できるのか。



ダチョウの政策


 「ダチョウの政策」という皮肉がある。ダチョウという鳥は、自分に危機が迫ると穴に首を突っ込む習性があるらしい。迫り来る危機を見なければ、危機を回避したつもりになれるというわけだ。
 いま、政府、東京電力、原子力ムラ、メディアはもちろんだが、日本全体が、事態の深刻さを見ようとしていないように見える。この空気が危険だ。
 かつて日本は、その大義も展望もないのに、侵略戦争の泥沼に突き進み、多大な加害と被害の挙句に破綻した。そして、当時の政治家、軍部の連中の惨めなほどのダチョウぶりだ。
 原発事故をめぐる今の政治状況、言論状況は、「いつか来た道」の轍を踏んでいるのではないか。


 
作業を担っているのは誰か


 この間、収束作業に携わる作業員の被ばく量がどんどん増え、また身体汚染といった事故が続発している。
 タンクから汚染水が漏れたと言って、そこに駆けつけるのは作業員。漏れた汚染水や汚染した土壌の回収、そして、漏水を起こしたタンクから別のタンクに汚染水をホースで移し替える作業。どれもこれも、すさまじい被ばくだ。しかもこれは本当に無駄な被ばく。杜撰で場当たり的な計画のために作業員がさらに余計な被ばくをさせられているのだ。
 私たちは「汚染水を止めろ」「国は責任を取れ」と叫んで、政治家や東京電力に怒りをぶつけるが、政治家も官僚も東京電力社員の大多数も、自らを犠牲にして何かをなすことはない。
 「止めろ」と言われて実際に被ばく作業に飛び込んでいるのは現場の作業員なのだ。その多くは、結局、福島県の浜通りの人びと、全国の原発立地地域からやってきた人びとなどだ。


 
人類的な危機を前に

 
 大量の汚染水の流出という非常事態に際し、東京電力も国も、責任は取らないし、取れない。しかし、直ちにそれらにとって代わる主体が登場しえていないのも事実。そのためにダチョウが延命し、事態をさらに悪化さている。交代すべきなのに交代がいない。私たちは、今、人類的な危機を前にして、歴史上のもっとも難しい局面に差しかかっている。
 誰もが望んでいるのは、人の命と環境を守ることに全力を挙げ、収束作業を遂行するという一点で、全国・全世界の英知を結集することだろう。東京電力でもない、政府でもない、そういう「非常対策委員会」のようなものが必要なのだ。
 その委員会は、完全な公開で、この委員は、全国民・全民衆によって監視され、審査され、不適格と見られたら直ちに解任されなければならないだろう。そして、その委員会の下に、一定の年齢以上(たとえばR-50とか)の人びとが全国から志願して結集し、収束作業を担う。もちろん原子力ムラの人びとには義務として担ってもらう。
 「そんなことができるわけがない、理想論だ、極論だ」というかも知れないが、例えば、そういう風にこれまでの政治や統治のシステムを超えた問題として問題が提出されないかぎり、ダチョウの政策が続き、事態は最悪に至るのだ。

 危機を危機として見据えない空気を、すべての人が打ち破るために真剣になろう。(了)





テーマ:「原発」は本当に必要なのか - ジャンル:政治・経済

  1. 2013/08/24(土) 17:18:58|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5

息子よ      原発作業員の母

 
kd001-1193-6.jpg



 木田節子さん、58歳。原発立地町の富岡町で暮らしていた。息子さんは原発作業員として働いている。原発事故後、警戒区域にされたために、家に帰ることができず、茨城県水戸市で避難生活を送る。
 木田さんは、家と故郷を失ったショックと避難生活の中で、引き籠りになっていた。その木田さんが、ひとつの講演をきっかけに、「原発は間違い」と確信し、再稼働に反対する行動を始めた。つい5カ月ほど前のことだ。
 帰れなくなっている故郷への強い思い、原発の是非をめぐって意見の合わない息子さんとの葛藤、いままで真実を知らされてこなかったことへの悔しさ。原発立地地域から、声をあげ始めた人の言葉は、聞く者の心を揺さぶる。

 【6月30日~7月1日、いわき市内でおこなわれた「ふくしまフォーラム」での木田さんの発言と、木田さんへの取材でうかがったお話を、筆者の責任で整理・編集した】


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




家も故郷も失って



 私は、福島第二原発のある富岡町に住んでいました。
 岩手から嫁に来ました。34年前です。最初は原町(現在の南相馬市原町区)に住みました。その後、夫の転勤でいわき市に移り、それから富岡に家を建てました。それが、20年前。
 20年間住んだ家は、いま警戒区域になっています。
 夫の勤務が水戸で、夫と私と娘は、水戸に避難して、昨年4月から会社の社宅に入りました。息子は、富岡から、川内村、三春町、磐梯熱海、そして原発繋がりで柏崎まで避難しました。


kd003-1708-4.jpg
(富岡町と楢葉町にまたがる福島第二原発の集合排気塔)


◇夢の中で

 震災のとき、私は東京にいた娘のアパートに来ていて、富岡の家にいませんでした。地震の後も風呂に入ったし、ご飯も普通に食べていました。だから、なんか自分ばかりが、安全なところにいて、避難場所を転々とした夫や息子に申し訳ない。「あのときになんで富岡にいなかったんだろう」と、ずっと後悔をしています。
 岩手県の釜石に親戚がいますから、親戚もたくさん亡くなっているだろうと思いました。南三陸町の友だちは、お母さんを亡くしていました。
 でも、震災以降、引き籠りになっていて、行きたくても行けませんでした。
 「ああ、うちは家族4人、何とか命があるんだから、家はもうあきらめるしかないかな」とも思うようにしました。
 それで、何とか前に進もうと思って、宮城県でガレキ撤去のボランティアに、夫と参加してみたり、いろいろなことに挑戦してみました。だけどやっぱり、何かね、できないんですよね。長続きしない。
 夜、布団の中で目を閉じると、「ああ、家に帰りたいなあ」と思って、そのうち、妄想の中で、車を運転するんです。
 避難している水戸から富岡までは遠いいんです。いわき中央インターまで高速で行って、それから慣れ親しんだ6号線を走ると、四倉港が右手に見える。次に、お仲人さんが住んでいる久之浜の街。津波に流された光景が右手に見える。そして、広野から楢葉に向かう途中に焼き餅屋さんがあって、「お世話になったな」とか。それからトンネルと坂を越えて、富岡の街に入って、自分の家の玄関に着いた。
 そしたら、鍵を忘れたことに気づくんですね。
 でも、幽体離脱というか、入れるんじゃないかと思って、すっとはいったら、入れた。夢の中ですから。
 1階から2階と、グルグルとさまよい歩いて、息子の部屋を見て、「いま息子はどこにいるんだろうか」とか、そんなことを考えているうちに、ふと目を開けると、そこには、避難している水戸の家の天井がありました。
 涙が出て仕方がありませんでした。
 そんなことが続いて、引き籠りになっていたんです。


kd004-1672-4.jpg
(警戒区域にされている富岡町の町場。国道6号線上を南に向いている)




知らなかった反省と悔しさ



 知らないことが多すぎたのです。本当に、都会の人も、原発のことを知らなかった。申し訳ありませんが、私も、富岡に20年住んでいて、知りませんでした。
 バスガイドをしていましたので、東電の仕事もしましたよ。東電の仕事でバスに乗務すれば、一所懸命、おべんちゃらもいいます。
 ただ、いろんな疑問は持ったりしていました。
 六ヶ所村にもガイドでいきました。先祖代々の土地を二束三文で売ってしまい、入ったお金も使ってしまって、最後は家族は離散。そういう人の話もあるんです。六ヶ所村の人たちがみんなものすごいお金持ちと思われていますが、そうとは限らない。ガイドでいったとき、乗客にそんな話もしてきました。
 でも、自分が住んでいる富岡近辺の原発については、考えることはなかった。反省というか、申し訳ないという気持ちです。


◇きっかけは

 震災以降ずっと引き籠っていましたが、その間、広瀬隆さんや鎌田慧さんや小出助教の本などをたくさん読みました。
 そんなとき、今年2月、避難先の水戸から16キロのところにある東海第二原発を再稼働させようという動きが始まっていたんですね。
 娘が「行ってみたら」というので、2月12日、東海村の村長さんの講演を聴き、福島大学の先生のお話を聞きました。
 それからです。「あなたは、あなたの大切な夫、息子に、原発で働けと言えますか。私は言えません。原発作業員の母より」と書いたプラカードを掲げて、デモに参加したりするようになりました。いまは、もう、首相官邸前でマイクなんかもったりしています。大飯町にも、福島の女性たちといっしょに訴えに行ってきました。


kd006-1166-4.jpg




息子は原発作業員



 私の息子は、いま30歳。原発の作業に入ったのは、19歳から。もう10年です。
 息子は、現在、福島第二原発の近くに事務所のある原発関連会社に勤めています。そこに勤めて2年です。
 その前は、4次請けか5次請けの会社です。時々、息子の部屋の掃除をしているときに給料明細が出てきたんですけど、8年間勤めて、28歳なのに給料は17万円ぐらいでしたね。
 その後、最初の会社を辞めてから、源泉徴収票が送られて来ました。それを見た息子が、「俺、ボーナスなんかもらってないのに、ここに8万円って書いてある」って。そういうもんなんですね。
 もう少し給料のいいところをということで、今の会社に移りました。その会社は、勤めて2か月で、ボーナス10万円をもらいました。給料も、そこそこになったのではないかなと思います。


◇いやあ、危なかったよ

 息子からは、原発のことをいろいろ聞きました。
 一昨年、「トラブル発生で、今日は帰れません」ってメールが来ました。翌日、帰ってきたとき、「どうしたの?」ってきいたら、「いやあ、危なかったよ。やっと止まった」って。原発が「危なかった」とか、「やっと止まった」ってどういうことですか。〔※〕
 それから、原子炉の中に、ペンチだとか、何かが落ちるそうですね。東電の社員に、「水の中にあんなにいろいろ落ちていて、いいんですか?」っていったら、「余計なことを言うな」って、怒られたそうです。
 そして、そういった落ちたものを、人間が拾ってくるんですって。「どんな格好して入るの?」って聞いたら、「潜水夫みたいな恰好。一人では被れない鉛の帽子で。それから何十キロもある鉛のスーツを着て。そうやってあの高線量の(原子炉水の)中に入る」って。日本人は(線量が高すぎて、法律上)できないので、外国人が日本に来て、一回潜っただけで100万とか200万とかと稼いでいくそうです。

 〔※2010年6月の福島第一原発2号機の水位低下事故か〕


kd007-1191-4.jpg
(今年2月から書き始めてノートが4冊になった。考えたこと、しゃべりたいことを書きためている)


◇収束作業

 震災後、息子は、東電に出向です。
 東電に出向というと聞こえはいいですが、警戒区域の線量計測、スクリーニングの立ち会い、やがては福島第一原発のガレキ撤去とか…。
 東電は、社員を被ばくから守るために、協力企業に要員を出させる。それを断ると、「仕事を回さないぞ」と言われるので出すしかない。それでうちの息子が行くことになった。こんな構図だそうです。




息子を取り戻したい



 震災後しばらくの間、息子が水戸に来たときには、好きなものを食べさせてあげて、酒も飲んで、楽しく過ごしていました。
 だけど、今年の正月明け、全国の原発の再稼働の話が出たとき、「全く、この国は懲りない国だよね。福島でこんなことをしておきながら、再稼働だって」と、息子がご飯を食べているそばで言ったら、息子が、「それでも、この国は資源がないから、原発がないとだめなんだよ。お母さん」って言うんですね。
 私は、震災後、広瀬隆さんとかの本をたくさん読んでましたから、「だから、お前はバカなんだ」って言いました。それで、息子のマインドコントロールを解きたくて、原発がいかに間違っているかということをこんこんと話しました。そして、「読め」って言って、本も買って持たせてやったんです。
 だけど、たぶん、読んでない。読んでいれば、原発作業員が、政治家や電力会社や学者に利用されているということが、わかったはずですよ。
 でも、息子は、原発問題について、勉強をしないんです。何で勉強しないか。怖いからですよ。怖いから勉強をしないんですよ。
 だから、いまでも、思いは通じないんですよね。
 私の話がうるさくなったのか、息子は、避難先に来なくなりました。
 日本の原発というのは、60年ぐらい前に、政治家と科学者と電力会社がもうかるように最初からつくられた構図だったんですね。でも、問題は、原発の末端の労働で被ばくすること。そこで、政治家や電力会社の幹部たちは、「田舎に原発をつくって、地元で雇用して、そいつらにやらせればいいじゃないか」って言ったというのですね。本で読みました。
 「被ばくする作業は、こいつらにさせればいいじゃないか」って言われている。そんな風に言われていることも知らないで、息子は10年も原発で働いている。しかも、原発が爆発して自分の住むところも追われている状態なのに、「日本には原発が必要だ」なんて、息子は言っている。
 そういうのが、とっても悔しいのです。


◇あきらめずに

 その後、私がデモや集会に参加するようになって、発言などをして、それがネットなどで紹介されているのを息子が知って、「何でお母さんが、首相官邸前でマイクなんかもって、しゃべっているんだよ」って、娘のところに電話してきたそうです。娘は、「お兄ちゃんが、原発で働いているからだよ。お母さんは、息子を取り返したいって思って、やっているんだよ」って。   
 でも、私と息子は、今も分かりあっていません。対立したままです。でも、あきらめず対話を続けて行くつもりです。私の活動は、息子を取り戻すためにやっているんです。それまであきらめずに続けて行きます。




白血病・悪性リンパ腫



 息子は、中学2年のときに、悪性のリンパ腫を発症しました。1年間、東京・築地のがんセンター(国立がん研究センター中央病院)で治療して助かりました。
 「10年経ったら、大丈夫。普通に子どもはできるから」と言われて、25歳のときに結婚したんですけれど、残念ながら、子どもには恵まれませんでした。
 その後、「どうしても子どもがほしい」という奥さんと気持ちが合わなくて、結局、離婚してしまいました。息子の奥さんのことを、私は大好きだったので、とても悲しかったんですけど、うちの息子と別れて他の人と結婚して幸せになれるんだったら、「仕様がないよ。別れるしかないね」ということで、認めたんですね。
 うちの息子は悪性リンパ腫でしたが、実は他にも、そういう話があります。
 今年の1月か2月、娘の友だちが水戸に遊びに来たんです。その子に、「あれー、お兄ちゃんいたよね。お兄ちゃん元気?」って聞いたら、「死んじゃったよ」って。白血病で亡くなったそうです。その子のお兄ちゃんはたぶんうちの息子と同じくらいの年。
 それから、娘が同級生の人たちと仮設住宅でボランティアをやっているんですが、その一人の男の子も白血病で、いま再発中。
 さらに、うちの息子が退院して、2年ぐらいあとに、50メートル先の家の子が、白血病になった。
 その3年か4年以内に、同じ小学校の子が、心臓疾患で外国に行って移植手術を受けています。
 富岡町のそれも半径3キロぐらいの狭い範囲で、3人の子どもが白血病、うちの息子が悪性リンパ腫で、1人が心臓疾患。これはどういうことでしょうか?


kd002-1174-4.jpg




残りの人生かけて



 58年の人生で、57年間、原発の問題に気が付かず、去年の3・11まで、考えなかったことは、申し訳なかったと思います。でも、いろいろわかってきたら、黙っていられないんですね。
 娘は、「お母さん、そんなに頑張ったって、どうせこの国は原発を再稼働するんだよ。お母さんが頑張っても通じないよ」と言いながら、応援してくれています。友人は、「どうせ、都会の人は、関心を持たないよ。私たちが、どんなに言ったって駄目なんだよ。福島がこれだけのことになっても、わからない人はわからない」と言っています。
 でも、「50代以上の人間で、絶対に、原発にケリをつけてやる。これにケリをつけないと死ねないぞ」と思ってやっています。
 それに、福島で起こったことを、福島の人間が伝えなければ、福島の犠牲は報われません。
 原発は、必ず止まります。それは、第二、第三のフクシマが起きたときか、人間の知恵と理性で止めたときです。
 電力会社のみなさん、政治家のみなさん、マスコミのみなさん、国民のみなさん、あなたはどっちを選びますか?
 たしかに、まだ小さい運動かもしれませんけれど、みなさん、毎週金曜日の東京に来て下さい。首相官邸前に集まって下さい。 (了)







テーマ:東北関東大震災 - ジャンル:ブログ

  1. 2012/07/07(土) 04:18:53|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:30

原発収束作業の現場から     ある運動家の報告

f010-600.jpg
(車両のサーベイを受けている。サーベイに当っているのは、中国電力から応援にきた放射線管理員。Jヴィレッジ・除染場)





 反貧困の社会運動に長年とり組んできた大西さん(仮名)が、現在、福島第一原発と第二原発の事故収束作業に従事している。
 その大西さんから、昨年末から今年2月にかけて、お話を聞いた。
〔インタビューはいわき市内。掲載に当たって、特定を避けるための配慮をした。〕

 お話が多岐にわたる中で、編集上、4つの章に整理した。
 【Ⅰ】【Ⅱ】【Ⅲ】では、高線量を浴びる現場で、放射線管理員として作業に携わっている状況の報告。被ばく労働、雇用や就労、地域との関係などの実態が語られている。
 【Ⅳ】では、原発労働者の立場から、反原発・脱原発の運動の現状にたいして、鋭角的な問題提起が行われている。

 事故収束作業に従事する労働者へのインタビューや、ライター自身が中に入るという形で書かれたルポはある。しかし、原発に反対する立場から、「『反対運動を継続してこなかった』という自己批判」として、現場に入ったのは、恐らくこの人だけだろう。
 それだけに、突きつけられるものがある。
 大西さんのとり組みは現在も進行中だ。
 


【Ⅰ】 被ばくすることが仕事
 


3・11の衝撃


―― まず、どうして原発労働に入ろうと考えたのですか?


大西: 社会運動をずっとやってきたのですけど、3・11と原発事故という事態に衝撃を受けたということです。
 もともと、反原発・脱原発の運動には、チェルノブイリ事故(1986年)あたりまでしか関わっていませんでした。3・11が起こって、「反対運動を継続してこなかった」という自己批判ですね。そして、「自分が関わるとしたら、中途半端には関われないな」という気持ちからです。
 また、反原発運動をやる場合、やっぱり原発労働の実態を知らないのはおかしいのではないか。現場に実際に入らないとわからないことがたくさんあるだろう。隠されていることがいっぱいあるだろう。これはもう、働くしかないな。働いている中で調べるしかないな――ということから、原発労働に従事することを決意しました。
 さらに言えば、1F〔福島第一原発〕の事故収束から廃炉作業には、これから、数十万人、百万人単位の人が必要になる。そのとき確実に言えるのは、新たな原発労働者の層は、プレカリアート〔※〕といわれている人びと、貧困に陥った若年労働者になります。この人たちが危険な現場に入ったらどうなるのか。僕は、労働運動をやっているので、その観点で、少しでも現場を見ておかなければならないと思って入りました。

〔※プレカリアート:新自由主義の下で、就労も生活も心境も不安定な状況にさらされている労働者の層を指す造語。〕



放射線管理員として


f120.jpg
(靴の裏までサーベイを受ける。靴の裏は放射性物質を持ち込みやすい箇所)


―― 大西さんの入った会社の業務内容は?


大西: 人夫出しです。
 原発労働の中でもいろんな仕事があります。道路を整備する人もいるし、鳶さんもいるし、配管工もいる。一生懸命サーベイ〔survey 放射線測定〕している人もいます。
 その上で、一応、会社にも色があって、土木系に強いとか、鳶系に強いとか、配管系に強いみたいに、ある程度、専門分野があって、それに見合った元請けに付きます。
 

―― 大西さんの仕事は?


大西: 放管(ほうかん)です。放射線管理員。
 現場から戻ってきた作業員や車両のサーベイと除染、それから作業現場のサーベイ。大体、こういう仕事です。
 簡単にいうと、そこら中が汚染状態なので、免震重要棟〔対策本部がある〕とかJヴィレッジ〔20キロ圏の境にある出撃拠点〕に、汚染物質をいれないために配置されています。
 これは、異常事態ですね。今は、建物の中だけが安全で、あとはすべて放射線管理区域の状態ですから。
 昔は原発の建屋の中がとにかく危険で、それが拡散しないように、放管が配置されてサーベイをしていた。
 今は逆です。全てが放射線管理区域の状態で、この建物の中に、汚染物質を入れないために配置されているんですね。もちろん免震棟も線量は高いんですけど、外は全て危険だから、建物の中だけでもなんとか守り切る。最後の砦を守る仕事です。


―― 放射線管理員とはどういう資格ですか?


大西: 一応、放射線作業従事者に当るので、その教育を必ず受けなくてはいけないです。 僕の会社は、20年間、放管をやってきた人がいたので、詳しくいろいろ教わりました。 今がどれだけ異常事態かっていうことについても、毎回、毎回、説明してくれました。
 ただ、今は、そういう教育受けてない人も放管をやっています。だから、数値の意味を知らないという人もいますね。


f030.jpg
(湯本の旅館。『歓迎 日立プラント御一行様』の看板が)


―― 生活していた場所は?


大西: 湯本(いわき市)の旅館ですね。
 元々は温泉街だけど、今は、一般客はほとんど泊めていない。あらゆる企業が飯場代りに使っているんです。だから雰囲気が違ってしまっています。


―― 朝は何時に起きるのですか?


大西: 朝は4時半ぐらい。5時位に出発してます。
 車は、会社の車だったり、元請けの車だったり。東電のバスで通勤するところもある。
 朝6時に二つ沼公園〔Jヴィレッジ直近、東芝などの作業拠点になっている〕に着きます。
 そこで、乗り換えて、30分くらいで1F・2F〔福島第二原発〕の中に入って、作業の開始です。



f020.jpg 
(朝7時前、国道6号線は原発に出勤する車で渋滞する。久之浜・波立海岸)


―― 現場に到着すると?


大西: 交代制ですから、班ごとに、どういうローテーションで、何をやっていくのか、みんなで打ち合わせをします。
 まず、どういう交代で、どういう休憩のとり方をするのかというのが一番大きい。
 あとは、当日の作業内容の打ち合わせを綿密に。
 現場の作業に出ると必ず線量を浴びるので、浴びる前にあらかじめ、「これをこうして、こうして」ということを、あらかじめ事前に想定して、みんなで話し合いをします。実際の作業以上にシュミレーションに時間をかけます。
 そうしないと、現場でモタモタしたら、それだけ被ばくしてしまうからです。
 現場に着いたら、サッと持ち場に着いて、ビュッと仕事をまとめて、サッと現場を出るという形です。


―― その指示をする人は?


大西: それぞれ一つの作業について、チームリーダー、グループリーダーがいるので、その人の判断で最終的に決まります。例えば、「今日は、ここは線量が高いから、この作業については中止だ」といった判断です。


―― 放管は、「線量が高そうだ」というところに、最初に行くということですね?


大西: そうです。「ここはこれだけの線量がある」ということを、事前に把握して、「今日は向こうの方はだめだから」とか、「今日はここだけだったらいいですよ」ということを作業者に伝えます。
 あとは、パトロールって言ってるんですけど、どれだけ放射線があるかっていうのを、隅々まで測っています。



f220.jpg 
(二つ沼公園が作業員用の駐車場になっている)



着替えが仕事


―― 作業時の服装は?


大西: 1Fのときは、Jヴィレッジの中でタイベックに着替えます。
 2Fの場合は、着替えないでそのまま入ります。2Fは、比較の問題ですが、「安全」ですから。


―― 2Fに行くときは着替えないのですか?


大西: これがですね、全くひどい話なんですけど。
 もともと管理区域というのは、私物はパンツ一丁以外、一切身に付けてはいけないんです。しかし、今は、2Fは、もう自分の服でそのまま作業してますよ。
 1Fも、自分の服はとりあえず脱ぐけど、作業服はそのまんま着て、その上にタイベックを着てマスクしてという感じです。 
 あれだけの人数と放射線量、それにあれだけの交代制の中で、追いつかなくなっています。服についても、3・11以前と以後では、ほんとに感覚がおかしくなっています。


―― というと3・11以前は?


大西: 原発労働に入って一番最初に何を言われたかというと、「原発労働は服を着るということ自身が仕事だよ」と。服を着替えること自体が、もうすでに仕事の一環に組み入れられているという特殊な仕事という意味です。
 3・11以前の話も聞かされました。
服を何回も何回も着替えて、着替えるごとに、だんだん危険な区域のレベルが上がって行く。黄服、青服、赤服と着替えて、A区域、B区域、C区域、D区域という形で、炉心近くに行く。
 そのレベルが上がる度に、その前の服を脱いで、危険なところに行くための新しい装備に着替えますが、放管は、その人がそのレベルに見合った装備をしているのかをチェックするのです。
 とくに炉心に向かう赤装備のときは、補助員が必要です。補助員が、服や靴下やゴム手袋を順番に装着し、密封するために桃色のテープをぐるぐる巻いて、マスクをはめてやります。

f070.jpg 

(写真上はJヴィレッジの全景。写真下はサッカー施設として使われていた当時の案内板。Jヴィレッジは、90年代に、東京電力が、福島県にたいして寄贈したもの。プルサーマル受け入れを期待し、その見返りだった)

f090.jpg 


大西: 逆に脱ぐときも、補助員が、マスクを取って、ヘルメットを取って、アノラックを取って、キムタオル〔紙製のタオル〕で拭いてあげて、手袋も取ってあげて、それから、ようやく自分で脱げるようになったら、自分で脱いでいきます。
 こうしてようやく赤服だった作業員と補助員が、同格の汚染レベルになります。そうすると今度は、作業員と補助員が次の区域に行って、そこにも補助の人がいてという具合。これを3回繰り返してようやく表に出ることができます。
 装備を最高レベルにするために1時間近くかかります。だから「服を着ること自体が労働」というのです。手袋をはめるのも労働です。手袋だって、綿手袋をして、その上にゴム手袋を2枚します。
 また、例えば、汗が出ても拭いちゃだめなんです。放管教育では、眼が一番、被ばくしやすいと教わります。だから、汗は拭けません。安全な場所に行って、補助員が、顔をキムタオルで拭いてあげるのです。


―― まるで宇宙空間に送り出していくような感じですね。


大西: そう、本来、そういう世界のはずですよね。
 それが、いまや全域が、炉心付近の状況になっています。例えば、1Fの1号機、2号機、3号機の周辺がもう完全に炉心と同じレベル。
 2Fに至っては、もう私服ですから。私服といってもそれぞれの会社の服ですけど。汚染物質が付着した作業服を、家に持って帰って洗わなくちゃいけない状況は異常ですね。


―― 3・11以降は、そういう基準が崩れているということですか?


大西: そう、崩れています。
 パチンコ屋で、「ああ~、青靴下はいてるよ。いいのかよ」とか、タイベックを着たままコンビニに行くみたいなことがあります。
 普通に、装備が持ち出されてしまっているのです。Jヴィレッジで着替えをしてますから、仕様がないですよね。
 タイベックは、放射性物質が付いても、これは捨てるから、ということで着ているんですよね。外の人に迷惑かけないためです。だけど、それを着てそのままコンビニに行ったら、何の意味もないです。

 
―― どうしてそういうことが起こっているのでしょうか?


大西: 管理することを、東電が投げていると思います。
 これだけ膨大な人が、炉心での作業と同じような状態で、働いているわけです。
 今までなら、一人を炉心に送り出すのに、宇宙飛行士を送り出すようにやっていたけど、今、その基準でやったら、どれだけの人がいるのか、という問題になって、「もう無理、管理しきれない」と、完全に感覚が麻痺してしまっているように思います。


24時間の稼働


f080.jpg 



―― 仕事は24時間体制ですか?


大西: 1Fも2Fも24時間、動いてますから。
 とにかく稼動している冷却システムに、24時間、人を配置し続けていないと、また大変な事態になってしまいます。
 原発の正常運転時でも24時間ですけど、今は、悪化させないために、とにかく人が入り続けないといけない構造になっています。
 生産性のない労働なんですけど、それがないと収束もしないという状況なのです。
 もしかすると人類初めての作業かもしれないですね。チェルノブイリとはまた違うと思います。


―― チェルノブイリと違うとは?


大西: チェルノブイリの場合は、石棺にしました。しかも作業員が死ぬことを前提に人を投入ました。ソ連という体制もあったと思いますけど。
 日本は、いまのところ、石棺という道を選んでいないので、あらゆる手立てを尽くして、冷やして、冷やして、最終的に、30年後、40年後に、核燃料を回収するという壮大な世代を超えた仕事に取りかかっているのです。


―― 現場が24時間稼働だと勤務は?


大西: いまの原発作業は、3交代と2交代と、おおまかに2つのシステムがあります。
 放管の作業も、3交代の部分と2交代の部分があります。だいたい14~5時間、現場に拘束されます。もしくは3交代の人は10時間拘束されます。
 ただ実働時間はすごく短いです。


―― 実働は短いと。それ以外の時間は?


大西: 待機。休みます。


―― それは被ばく線量との関係で?


大西: そうです。
 14時間の拘束であっても、実働が4時間ぐらい。あとは休むのが仕事。服を着るのと同じで、その場所にいること自体も仕事なんです。
 要するに、原発労働では、いくつものグループがあって、それが順番に同じ作業をやっていきます。交代制をとるのは、被ばく量を平準化するためです。そのために、たくさんのスペアを用意しながら、人を回転させていくのです。
 あと、もし何かあったとき、緊急的に対処できる要員という意味合いもあります。実際3・11のときもそうなりました。
「大きな事故があったら、それなりの対処をしてもらう代わりに、何もないときは労働時間は短いけど、普通の人と同じ給料を払いますよ」、ということです。そういうリスクを背負いながらするのが原発労働です。 


f100.jpg 
(1FおよびJヴィレッジ周辺のサーベイ結果が連日、張り出される)



車両の汚染 1~2万カウント


―― 汚染の状況はどうですか?


 大西: ます、1Fの作業に入っている車の被曝量がすごくて、問題になっています。
 事故前は、カウント数(cpm=counts per minute 1分間当たりに計数した放射線の個数)で、2,000とか2,500位が基準。いまは、もう6,000が基準。
 車の被ばくが、10,000とか20,000ある。
それを、6,000まで下げるのが大変。ふきまくって除染します。
 だけど、実は肝心なところを計測してないのです。ラジエーターまわり。あと車の裏。
 車が埃を舞いあげて、それをラジエーターで吸気しています。だからほんとはそこを一番やりたいんだけど。それは無理ですよね。
 通勤している人は、とにかく終わったら早く帰りたいから、「少し高いんで、ちょっと待って下さい」と言うと、「何やってんだ」と怒鳴られて、ケンカになるなんてしょっちゅうあります。
 そういうケンカを防ぐために、徐染をやっている人も、7,000くらいだったら、「まあ、いいや」という風にやっていますね。


f110-600.jpg
(現場から戻ったダンプカーを放管がサーベイしている。汚染が高ければ、その場で高圧洗浄を行う。1F周辺のガレキ撤去作業に使う車両の汚染は激しい。除染しても線量が下がらないため、外に出せない車両がJヴィレッジ付近にごろごろしている)


―― 車両のサーベイと除染はどこで?


大西: 2Fは、構内でやっています。
 1Fの場合は、Jヴィレッジの脇の除染場です。そこに一番線量の高いところから車が出てきます。
 まずサーベイして、高いところがあったら、とにかく水を掛けたり、拭いたりして、除染します。
 

―― 除染に使った水は?


大西: 流します、結局。世間では除染と言ってますが、僕らは、笑って「移染だよね」といっています。


―― 汚染水はプールしていると思っていたけど、排水溝から海へ?


大西: それ以外ないでしょう。


―― アレバ社の汚染水処理装置は?


大西: あれはもっと超高濃度の汚染水の話です。そっちは、配管で循環させる装置が稼働しています。それは、炉心にあった水をやっているだけなのです。
 それ以外は、流して、最終的には海に行くのです。



被ばくすることが仕事


―― 作業員の被ばくの方は、どういう状況ですか?


大西: 1Fでの被ばく量が、とにかくすごいです。
 1Fでは、免震重要棟の外の仮設に、サーベイの拠点があります。
 Jヴィレッジで着替えてから、車で30分ぐらいで、この仮設に着きます。ここで、APD〔Alarm Pocket Dosimeter 警報付きポケット線量計〕を受け取ったりして、現場に向かいます。そして、現場から戻ってきた作業員をここでサーベイします。
 そうすると、だいたい、水処理関係〔冷却水の循環装置など〕やタービン建屋、ガレキ撤去の作業などが、ものすごく浴びています。
 1日、2~3時間の作業で、0・5から1ミリシーベルトです。これが1日の積算の被ばく量です。
 さらに、水漏れなどが起こると、その修繕作業で、汚染者が続出します。
 タービン建屋なんかに入ったら、1日20分ぐらいで、5ミリシーベルトも浴びてしまいます。
 平常時だったら、20ミリシーベルトを浴びたら、東電管内では、仕事はできなくなります。1日で1ミリシーベルトだったら、20日も働いたらおしまい。1日で5ミリシーベルトなら、4日で終わりです。


◇1シーベルトも


大西: タバコ部屋というのがあって、そこは、東電の社員も含めてみんなが一緒に使うところがあります。そこで、ときたま出るのは、「誰々は1シーベルト〔1シーベルトは1000ミリシーベルト〕浴びたよ」とか、「600ミリシーベルト浴びたよ」とか。
1ミリではないですよ。1シーベルトですからね。急性障害が出てもおかしくない数字です。
 放管が、全身サーベイをやると、身なりがきれいな東電社員で、そんな危険な作業をしてないはずなのに、ピューと上がるんですよ。内部被ばくで、相当高くふれているのです。おそらく直後の収束作業で内部被ばくしているのでしょう。「歩く放射性物質」になっているわけです。
先日も、2人の東電社員が、原子炉建屋に入りました。現場を見てくる必要があったのでしょう。1人は30代、もう1人は50代でした。それは、もう命がけですよね。
帰ってきた2人にたいしてサーベイをしたんですが、本当に心を込めてサーベイしました。


◇サーベイでも被ばく


大西: 先ほど言ったように、車両の汚染がひどいのですが、その汚染車両の除染作業で、1日1ミリシーベルトも浴びてしまう状況です。
 そもそも、Jヴィレッジから1Fに通勤するだけで、被ばくしています。バスで片道30分ですが、往復すると14から16マイクロシーベルトは浴びます。
 放管が、1Fでは一番、安全なのですが、それでも1日で0・1から0・2ミリシーベルトです。
 たしかに作業している時間は短いですが、被ばく量が高いために、それしかできないのです。
 だから、原発労働は、「線量を浴びることが仕事」ということなのです。


◇「ご安全に」


大西: こういう現場ですから、1Fに向かう車の中では、みんな、緊張していますね。そのため、心持ち多弁になります。全面マスクなので、よく聞き取れないんですが。
 そして、現場では、「ご安全に」とあいさつします。「いってらっしゃい」という意味で使うのですが、実は、この言葉は、炭坑労働者が使っていた言葉です。危険な現場に行くという意味で、それが引き継がれているのですね。


f130.jpg
(身体のサーベイを受ける。Jヴィレッジ・除染場)



放射能焼け


―― 被ばくの影響はありませんか?


大西: 放管ですから、全ての人の顔を見ます。そうすると、結構、「放射能焼け」で、顔が真っ赤な人いっぱいいます。
 放射能焼けとは、ベータ線熱傷〔※〕なんですけど、ちょっとずつ被ばくすると、皮膚が攻撃を受け続けるわけですから、弱くなって、赤くなるのです。
それから、ラテックスアレルギー〔※〕でも赤くなります。ゴム手袋を日に何回も変えるのですが、それに付いている粉で、手とか顔をやられています。

〔※ベータ線熱傷: 放射線皮膚障害の一種。皮膚および皮膚の細胞組織が破壊され、火傷に似た症状を発する。
 ※ラテックスアレルギー: 天然ゴムに含まれる、ラテックスと呼ばれるたんぱく質が抗原となって、引き起こされるアレルギー反応〕


―― 健康診断とかホールボディーカウンターとかは受けています?


大西: 受けてます。1Fと2Fとでは待遇に差があって、1Fの人は1カ月毎に、ホールボディカウンターと電離検診〔電離放射線障害防止規則にもとづく健康診断〕を受けています。2Fの人は、3カ月に1回です。法定は6カ月毎ですが。
 眼と指先が被ばくしていないかを、医者がチェックしています。


―― なぜ眼と指先を?


大西: これも法定〔放射線障害防止法〕なのですが、眼を診るのは、放射線で焼けて、角膜が白濁するからです。マスクをしても、ゴーグルをつけても、眼については、放射線を防ぐことができないのです。眼は一番弱く、痛みも感じないですからね。
 あとは、指先にケロイドがあるかどうかを見ています。指先は、汚染物質に一番近いからです。手袋を介していますが、ガンマ線は、手袋を透過してモロにくるからです。



放射線管理手帳


―― 放射線管理手帳〔※〕は?


大西: 持っていますよ。ただ、この手帳は、運転免許証みたいに自分で持っているわけはなく、会社が管理しています。
 しかも、作るのも会社ですよ。


―― 公的な機関ではないのですか?


大西: 違います。私の場合、申請企業は千代田テクノル〔※〕ですね。
 放射線影響協会〔※〕というのがありますが、実際は企業です。
しかも、手帳つくるのに1万5千円ぐらいかかります。
 放射線影響協会が、それでお金を回しているのです。労働者のためになっていない団体ということです。

〔※ 放射線管理手帳には、作業員の被ばく歴、健康診断などが記載されている。この手帳で、どこの原発で働いても被ばく量が一元管理されるとされている。
 ※ 放射線影響協会は、文科省所管の財団法人。「原子力の利用を促進」と目的に明記。同協会の下に放射線管理手帳を一元管理する「中央登録センター」がある。
 放射線管理手帳の実際の発行手続きをするのは、「放射線管理手帳発効機関」。これは、電力会社、電機産業、プラント企業、原子力専門企業など。上述の千代田テクノルも。
※ 千代田テクノルは、放射線関連の専門商社。原子力産業そのもの。除染でも専門技術を持っている。〕


◇行方不明の真相


大西: この手帳をめぐっては、次のような話があります。
 3.11以降、原発労働者が行方不明だとかで、問題になりましたよね。死んだとか、行方不明だとかいわれていますが、違うんです。
 最初は偽名で入る。次に本名で。また偽名で。同じ人が別名で、2回、3回と働いているということです。別人になると、放射線被ばく量がゼロから始まりますからね。
 それで、行方不明ということになるわけです。地元にいないとこの感覚が分からないでしょう。原子力村の末端では、こういうことになっているわけです。



【Ⅱ】 中抜きとピンハネ



f140.jpg
(いわき市久之浜大久地区にある作業員宿舎。鹿島建設の下請けの作業員が入っている)


―― 大西さんの会社は何次下請けですか?


大西: 3次です。
 一番上の発注者が東電。その次が元請け。元請け会社は、東電工業とか、東芝、日立とか、鹿島建設、清水建設などの大手。その次が1次下請け。さらに2次下請・3次下請けは、ほぼ地元の企業。大熊工業とか、双葉企画みたいな名前で、原発周辺でだいたい組をつくっています。組というのは、いわゆる人夫出しですね。
 「原発ジプシー」という言い方もありますが、原発労働者は、大部分が、定期点検で全国各地の原発を渡り歩くんですけど、日雇い労働者だけではなくて、それぞれの地元の住民です。
 福島や新潟や福井の原発周辺の住民が、原発労働で全国を巡り歩いているのです。そうやって巡り歩く労働者を受け入れる先が、1次・2次の下請け企業です。さらに1次・2次の下請けが抱え切れないというか、すぐに雇用できて、すぐに使い捨てできるような形の3次・4次の下請け会社がたくさんあります。
 一番の末端では、親方が2~3人を連れて、現場を移動していく形になっています。福島の中でも移動していくし、定期点検で人が足りなくなったら全国の原発に人を出していく。ということをやっていますね。


―― 大西さんの会社の規模は?


大西: うちの組は10人ぐらいですね。社長も含めて親方が3人です。親方が寄り集まって会社をつくっているんで。それ以外の人たちは、入れ替わり立ち替わりという形です。


―― 組とは?


大西: 親方がいるところを組といいます。
 班というのもあります。小さな会社が、別の3次・4次の下に入ったとき、会社自体が、「なんとか班」と呼ばれたりします。
 結構、複雑です。東電の現地採用の人、元請けの現地採用の人、さらに下請けの会社の人。みんな学校の同級生なのです。地元の人で、顔見知りなのです。
 そういう関係で、仕事を回し合うのです。上になったり下になったり、仕事がなかったら回してという具合に。だから、複雑になるわけです。


f24.jpg
(久之浜の作業員宿舎は、プレハブ2階建ての宿舎が12棟。バスでの送迎があり、大きな食堂もある)
 

―― 人夫出しだと、私が知る範囲では地元の暴力団とかですが?


大西: 組というけど、暴力団ではないです。
 僕の友人のいた会社の上は、たしかに暴力団が経営する人夫出しでしたが。


―― 下請けが3次4次5次と行くと、抜かれ方も酷いのでは?


大西: そうです。間に入れば入るほど、どんどん中抜きされていきます。建設労働はみんなそうなんですけど、原発労働はそれ以上。
 例えば、東電が、「1人、1日、10万」で出したら、末端では1万5千円になるっていうぐらいの計算ですね。


―― 親方というのは待遇が違うのですか?


大西: それは「抜ける」ということです。親方になったら。
 だから僕は親方になるのがいやなのです。
 私の友人は、僕よりつらい仕事をやっても、日給8千円。僕よりも賃金は安かったんです。間に2人ぐらい抜く人がいたから。正式には3次かも知れないけど、実質的には5次みたいな会社だったようです。


―― 大西さんはいくらだったのですか?


大西: 9千円~1万円ですね。正規に3次でそうなります。
 1次・2次がボコッと抜いているし、自分の親方もとっていますから。


―― そのことをめぐるいざこざは?


大西: ありますよ。あっちこっちで。刺したり、刺されたり。「危険なことだけやらせやがって」と。
 ジプシーって言われるのは、そういうことも含めて、あちこちに移っていくからです。あそこがだめだったら次へと。



f160.jpg 

【取材コラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 良く行く飲み屋で、久之浜の作業員宿舎にいるAさんと、何度か会話をした。
 Aさんは30代前半、北海道から、仲間と一緒に来ている。
仕事は、1Fの3号機のそば。作業用の道路を造り、配線などを敷設する作業。重機のオペレーターをしているという。
 1日、1時間半ぐらいで終わり。「楽だよ」と言うが、線量が高いため。
 日当は、1万2千円、プラス3~4万円の危険手当。
 それでも、5次請けだから、「ハネて、ハネて」という感じだという。
 ただ、Aさんの現在の被ばく量が35ミリシーベルト。たいていの人は、2カ月ぐらいで50ミリシーベルトに達して、それ以上、仕事ができなくなる。
 Aさんも、もうすぐ終わりだ。そうしたら、今度は、10キロ圏内の除染作業の方に行こうと思っているという。
 Aさんは、「東電さんはよくやっているよ」「いまの待遇に満足している」と、東電や鹿島を弁護していた。
 ただ、「いまの被ばく量が35ミリと言われても、それが良いのか悪いのか。どう考えたらいいのかがわからないんだ」と、不安な気持ちを吐露していた。
 Aさんは、北海道に彼女を残してきている。「この仕事が終わったら、帰って彼女とドライブに行くんだ」と話していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

f170.jpg
(久之浜の作業員宿舎)


―― 労働基準法に照らして現場はどうですか?


大西: すべてダメです。一番最初の段階からダメですね。労働契約書は交わさないですから。人間関係だけで仕事がはじまります。
 だから、賃金を払う段になって、何とかを引いて、何とかを引いてと。そうなると、「おい、それは聞いてないよ」ということが起こります。
 例えば、東電は、泊まる人には食費を支給しています。だけどその食費をなぜか引かれてしまっています。
 東電は、メシと風呂と寝ることに関しては「なし」(=会社持ち)としています。さらに、早出で朝飯が食えないとか、夜遅く帰ってくるから晩飯が食えないというときは、「その飯代も支給しますよ」となっています。
 だから東電から元請けに食費としてお金が入って、それが1次下請け・2次下請けにいくんですけど、その段階で何故か消えてるんですよね。「あれ~?」って。それで大もめにもめてる人もいました。
 それから交通費も。湯本から往復で100キロです。ガソリン代で千円から2千円が一日で飛んでしまいます。 だけどその交通費が込みになっていたりします。
ひどい話ですけど、それは、そもそも労働契約書を交わしてない時点に問題があるわけです。



悪徳企業


大西: でも、ちょっと次元の違う意味で酷いところがあります。企業名を言うと、アトックス(ATOX)という会社。
 元の名前がすごいです。「原子力代行」。代行というのは、「原発における諸雑務、一番下の仕事に人夫出しをしますよ」ということです。
 カタカナとかローマ字になっているからごまかされるけど、一番ひどい会社です。ある意味、東電以上。
 樋口健二さんの写真集に、「雑巾掛けが一番あぶないんだぞ」という話が出てきますが、その作業をやっているのはアトックス。


―― どういう点が酷いのですか?


大西: 僕ら放管が、作業員をサーベイしていると、とにかく一番無防備で、危険な作業しているのが、アトックス。作業員の線量が一番高いのです。
 知っている人は、みんな元請けがアトックスと聞いたら、その会社には行かない。アトックスの人に関しては、地元の人はいないです。
 知らない人がアトックスに行く。東京のプレカリアート層になる。
 普通に「寮付で、飯が食えますよ」と、雑誌とかホームページに出ている。
 もちろん、危険な作業への従事についてなど、一言も書いていない。
 たしかに、アトックスでは、技術は必要ないです。いまだに、雑巾掛けですから。
 しかも、アトックスは、タイベックも着せないで、低レベルの放射性廃棄物を扱わせたりとかしていている。僕らだったら、危険作業に従事していることをわかっているから、低レベルでも放射性廃棄物を扱うときは、タイベックを着て、ゴム手袋を二重にはめて作業をするけど、アトックスの人は、綿の手袋だけで、タイベックも着ない。そういうことを知らない。もしくは、下手するとゴム手袋とかタイベックを着ることを禁止されてるかもしれない。分からないけど。
 だから、放管として、一番気をつけているのは、アトックスの作業員。
 他の作業員は、タイベックを着ているから、それを脱いだら、そんなに線量は高くない。だから、そんなに詳しくはやらない。だけど、アトックスの作業員だけは、どの放管も、とにかく、袖口とか、一番汚れやすいところを厳しくやって、すぐに水で洗うようにとか、アドバイスをしています。


f180.jpg
(いわき市内にあるアトックスの「福島復興本部」)


◇労働条件引き下げの先兵


大西: 原発専門で人夫出しをしたら儲かるということで、1980年代の派遣法改正のときに、真っ先にそれに目を付けたのがアトックス。それがいまや、日本では一番大きい人夫出し業者。全国区で展開している。
 発注元が東電だとすると、元請けが東芝とか日立とかで、その下の1次下請けになる。1次下請けの立場で、全ての業務をこれから抑えようとしている。
 人をシステマティックに集めるノウハウを持っているからですね。
 ヤクザなんかとかは違う。数年前に問題になった人材派遣会社のグッドウィルみたいな感じと言えば、イメージが浮かぶのでは。
 とにかく労賃がむちゃくちゃ安い。そして、元請け企業には、格安で受注しています。タイベックスを着なければ、それで経費が浮きますから。
 実は、原発労働者の労賃が、すごくディスカウントしているけど。アトックスの影響がものすごく大きい。
 あらゆる元請けに、アトックスが入り込もうとしているので、そのおかげで、どんどん労賃が下がり続けている。除染作業は、アトックスがほぼ独占しようかという勢い。
 だから、除染というと、単価の話になって、安ければ安いほど良いかもしれないけど、実は、それが原発の被ばく労働の単価をどんどん押し下げている。
 結局、アトックスが、賃金の面でも防護策の面でも、労働基準法や放射線障害防止法の壁を取っ払う役割を果たしている。
 冷血ですよね。次から次へと供給できるから、労働者を使い捨てにしている。アトックスの働かせ方は、危険だと感じています。


―― アトックスに雇われている人たちは都市の若年層ですか?


大西: そうですね。一番若いです。ほぼ全員二十歳代。
 現代の縮図みたいです。
 地元の人はほとんどいない。
 現場でも、アトックスの人だけ孤立してますね。かわいそうですよ。
 しかも、他の下請けに行ったら、しばらくいればある程度の技術なりが身につくでしょうけど、アトックスにいたら技術も身につかないですから。何年やってもふき掃除、何年やってもごみ片付けです。


―― アトックスの実態はマスメディアには知られてない?


大西: 知られてないでしょう。


――労働運動では?


大西: 多分、僕しか知らない可能性が。原発労働者の間では有名ですよ。アトックスって言ったらもう「あんな危険なことさせてるよ」とか「あそこの除染作業をあんなダンピングの価格で請け負っちまって、おれらどうすりゃいいんだよ」とかね。



【Ⅲ】 地元労働者と新たな貧困層



f050.jpg
(湯本の温泉街。人通りはまばらだ)


―― 先ほども少し出ましたが、収束作業に携わっている人たちはどういう人ですか?


大西: 原発労働者の出身は、ほとんどが原発立地周辺の市町村です。いまも収束作業をやっているのは、泊、福島、柏崎、福井、浜岡などの人たちです。
 僕の今の実感としては、8~9割ぐらいかなと思うくらい。
なぜそうなっているかというと、自分の地元だから何とかしないと、という気持ちがあります。それから、それで食ってきたから、それ以外の仕事ができない、ということもあります。二重の意味で、閉鎖的な環境で作業が行われているのです。
 東京・首都圏という電力の消費地が、福島や新潟のような地方を、ある種の植民地にしたような状況にあると言えると思います。経済的に見ても、歴史的に見ても、東北というのは、低開発になるようにずっと強いられてきた。そういうところに、「雇用を生み出しますよ」という形で提示されたのが原発ということなのでしょう。


◇地元のつながり


大西: 現場にいて感じるのは、現場の労働者が、どの会社にいようと、東電であろうと、みんな顔見知りなのです。
 小学校が一緒、中学校や高校が一緒、町が一緒という形で、みんなそこに住んでいる住民。だから、「あいつ同級生、あいつ後輩」という感じです。
 東電についても同じです。地元採用枠というのがあって、一生、本社に出ることはなく、出世とは一切関係なく、地元の原発を動かしながら一生を終えるために採用される人です。
 危険要員という面もあるでしょう。実際、東電の社員という一括りに非難するけど、いま一番危険な作業を行っているのは、実は地元採用の東電社員かもしれません。
 危険な作業というのは、下請けだけではないのです。僕は、東電社員と一括りには、ちょっとできないなと思います。だって、「親戚の息子が東電」「知り合いの兄さんが東電」という具合ですから。
 だから、現場では、同じ東電でも、地元採用の東電社員にたいする視線と、東京にいて指令を下すだけの東電社員にたいする視線は違います。


――現場で地元採用の東電社員は?


大西: 以前は、東電の社員というのは、ふんぞり返るのが仕事。作業はしない。地元採用でもそうでした。
 地元採用の東電社員は、高校で一番とか、生徒会長をやったという人でしょう。現場で作業するのは、同級生でも「落ちこぼれ」の人という感じです。
 いまでこそ、東電の社員も、僕らみたいな協力会社の社員にも、頭を下げて挨拶するようになりました。以前は、「おはようございます」と言っても、無視するのが当たり前だったのに。いまは、向こうから頭を下げて、「おはようございます」と言うんですよね。


f200.jpg
(Jヴィレッジ直近のコンビニエンスストア。作業関係者で繁盛している)


◇新たな貧困層


―― 原発立地周辺の人以外だとどういう人たちですか?

大西: 後のことはどうなってもいいという人たちがいます。そういう人たちが、1カ月に何十ミリシーベルトも浴びても構わないという風になっています。
 その人たちは、そうなった事情があって、借金を背負ったりで、「一攫千金を得たい」と。千金はもらえないんですがね。それでも、「普通の仕事の倍は稼ぎたい」という人です。
 「危険だ。危険だ」と言われながら、その危険がどういうものかという知識を持っていない人、知らせられていない人たちです。
 3・11以降、1Fを中心に、そういう新しい層が、危険も知らないで、飛び込んで来ています。
 1Fの収束・廃炉の作業には、これから、数十万人、百万人単位の人が必要になります。そのとき、確実に言えるのは、新たな原発労働者の層は、プレカリアートといわれている人びと、貧困に陥った若年労働者になるでしょう。



【Ⅳ】 原発労働の現場と反原発運動とのかい離




f190.jpg
(二つ沼公園で待機する2F行きの送迎バス)


―― 原発の現場に入って、労働者の命と権利を守るための方向は見えましたか?


大西: むしろ簡単ではないことが分かりました。
 東電から元請けに発注し、その元請の労働者クラスが、自分の同級生だったりするというムラ社会です。そのようなムラ社会の中に、労働運動をもちこむことの難しさがあります。
 危険な状況にあるのは確かだけど、声を挙げたら一生食えなくなる、もしくはムラ社会から外されてしまうという道を選べないと思います。


―― 原発事故という形でこの社会の根幹を揺らいでいます。そういう事態の中で、住民運動・市民運動・農民運動などが大きく動き始めています。その全体の前進の力で、原発労働の厳しい現実をも跳ね返す空間を作っていくということではないかと考えますが?
 

大西: 僕も、いまそういうことも考えています。
ただ、現状だと、それを一緒に作っていくという方向に、反原発運動の側が向いていない。逆に原発労働者が孤立化させるように、運動の側が、世論を形成しているように感じられます。
 

――それはどういうことでしょうか?


大西: 「東電社員の賃金なんかカットしろ」といったことを運動の側がいいますよね。もちろん東電は悪いですよ。
 だけど、そうすると何がカットされるかといったら、東電社員の賃金もカットされますが、作業員の賃金もカットされるのです。
 本当にひどい構造なんですよ。運動とか世論がそういう風に利用されてしまっているのです。
例えば、「東電を解体しろ」と言う。そこら辺までは分かります。
 でも、東電や協力企業を全て潰してしまったら、実は、原発が動かないという次元の問題ではなくて、収束や廃炉の作業ができなくなってしまうんですよ。



f210.jpg 
(二つ沼公園に設置された東芝の作業拠点)



まもなく作業員が枯渇


―― 作業ができなくなるとは?


大西: 実は、原発労働者が足りなくっています。
放射線管理手帳をもっている労働者は約8万人。意外と少ないんです。しかも、その内の3万5千人が、もういっぱいまで浴びています。9カ月で半分に減っちゃったんです。
たぶん今のペースで行くと(2012年)夏ぐらいには、原発労働者の人数が枯渇するんです。
そうすると1Fの収束作業ももちろん、他の原発の冷温停止を維持することさえもできなくなる危険があるんですよね。
 まして廃炉というのは、1Fの作業で分かる通り、人数がものすごくいる。54機全部を廃炉にするというなら、数百万の労働者が必要です。


――そういう問題として受けとめていませんでした。 


大西: 収束とか廃炉とかの作業を、原発労働者がやっているという感覚を運動の側が持っていない、身近なものとして感じていないという気がします。
 「廃炉にしろ」と、東京の運動が盛り上がっているんですけど、語弊を恐れずいえば、特定の原発労働者、8万人弱の原発労働者に、「死ね、死ね」って言っているのと同じなんですよね。「高線量浴びて死ね」と。自分たちは安全な場所で「廃炉にしろ」と言っているわけですから。
 原発労働者を犠牲に差し出すみたいな構造が、反原発運動に見られると思います。
 そういう乖離した状況があるので、福島現地や原発労働者の人と、東京の人が同じ意識に立って反原発・脱原発の方向になることが簡単ではないと感じています。


―― 廃炉というテーマに、自らの問題として向き合う必要があると。


大西: そうですね。廃炉という問題にたいして、みんなが少しずつ浴びてでも作業をするのか、「いや、原発反対なんだから作業もしないよ」というのか。「被ばく労働なんてごめんだ」といってしまうと、では廃炉の作業はどうするのか。東北の人に押しつけるという意味でしかないですね。
 希望的理想的に言えば、1人が100ミリシーベルトを浴びるんじゃなくて、100人で1ミリシーベルトを浴びようよと。
 しかし、現実的には、みんなが、そういう気持ちになるというわけはいかないと思います。
 とすると、2つ道があります。
 1つは、原発労働に従事するからには、被ばくするわけだから、「健康の問題について、一生、見ます。もし何かあったときは補償もします。賃金も高遇します」という風にするべきです。もちろん中抜きはありませんよ。準国家公務員みたいな形で雇ってね。
 もしくは、2つ目は、徴兵制みたいに、「何月何日生まれの何歳以上の人は、ここで1週間、被ばく作業をして下さい」みたいに強制的にやるか。
後者は、すごくいやなんですけど、でも僕が、実際に原発労働をして思ったのは、これは、反原発運動をやっている人は、全員やったほうがいいんじゃないかなということです。
 反原発だけではなくても、もしそこで原発の電気で恩恵をこうむっているんだったら、やるべきなのでないかという気持ちになっています。



東京と福島


―― 東京と福島の関係についても問題を提起されてますね。


大西: そうですね。東京の人びとは、一方的に電力を享受してきた立場で、福島・新潟っていうのは一方的に作って送り続けていく側。福島の人は、一切、東電の電気を使っていません。
そこで問題なのが、圧倒的多数者の東京・首都圏の人たちが、少数の福島・新潟などの原発立地周辺の人びとにたいして、ある種の帝国主義による植民地支配のような眼差しをもっていることです。それは、権力を持っている者、為政者と全く変わらない眼差し・同じような意識です。
それは、運動の側でもそういう眼差し・意識に立っています。それがものすごくこわい。このことに思いが至らなかったら、たぶん反原発運動はおしまいじゃないか。


◇沖縄問題に通底


―― これは、沖縄の側から米軍基地問題で提起されていることと通底しているのでは?


大西: 全くその通りです。僕も、そこにつなげようと思っています。
 琉球民族の土地に基地を押し付けるというのはまさに植民地問題なんです。


―― 「基地を東京へ持って帰れ」と、沖縄の人たちが言います。それにたいして、本土の運動の側が、激甚に反発します。


大西: そうなんです。
 琉球民族の人口が、だいたい日本民族の百分の一ですね。多数決で言ったら沖縄は一方的に蹂躙される側です。
 そういう関係の中で、本土の側は、体制側であろうと反体制側であろうと、沖縄の米軍基地を引き取ろうとは絶対しないです。
 そういう意味では、為政者・体制と同じ眼差しで琉球民族を支配してます。
 それと同じ構造が、今度は、首都圏が福島や新潟にたいして行っています。


―― そういうことが、無自覚に進められる意識構造が、近代日本の基本構造なのでは?


大西: そうですね。沖縄と東北地方に矛盾を押し付けることで、帝国日本が成り立ってきたわけです。その問題が、こんな形でだけども、ようやく見え始めてきました。
 この切り口をどうやって、これまでの運動の本当に反省と転換ということに持っていけるだろうか。それができなかったら、本当にもう大変なことになるなという気持ちです。


f040.jpg
(夜の湯本も、灯りはまばら。作業員は、金も時間もないので、あまり外には出てこないという)



「ガレキ受け入れ反対」への異議


―― 全国で、「ガレキ受け入れ反対」が運動化していますが。


大西: 東京や神奈川・千葉で、反原発運動が盛んですよね。
 だけど、たとえば、松戸市や流山市は、降り注いだ放射性物質が濃縮された下水の汚泥やコミの焼却灰を、秋田に捨てていたんです。
 もともと、首都圏は、産業廃棄物を東北地方に捨ててきた。東北地方は、首都圏のゴミ捨て場。そういう構造になっていました。
 松戸市や流山市は、その汚泥や焼却灰が高濃度の汚染物質だということは分かっていたんです。分かっていたけど、国が発表する前に、秋田などに黙って送っていたという問題です。
 だけど、松戸や流山の運動は、このことを問題にしていませんね。


―― たしかに、ガレキ問題は、放射能問題を考え始める契機としてあると思いますが、なぜ東京に電力を供給する原発が福島にあったのかとか、汚染と被ばくに苦しむ福島の住民や被ばく労働を担う原発労働者の存在といったことに思いをはせるということがないと、先ほど言われていた「為政者と同じ眼差し」になって行きますね。


大西: そうです。
 福島の方に、クソをずーっと貯め続けていて、そのクソが飛び散ってしまった。
 東京の人は、「クソが飛んできたじゃないか!」って文句を言っているけど。
 「それ、あんたが流したクソでしょ」って。
 自分のクソの処理ぐらい自分でやんないと。せめて「いっしょに掃除しましょうよ」というふうになりたいんですけどね。反原発であろうと推進派であろうとね。
 ところが、反原発運動をやっている人は、自分たちは被害者で、まったく罪はないという風に思っていますね。


―― たしかに、反原発の人でも、加害の問題を提起すると反発しますね。


大西: そうですね。そこにどうアプローチするか。
 「原発を、消極的であれ、積極的であれ、推進してきた側と同じ歩調でいたんだよ」ということを、分かってもらうためにはどうしたらいいのか。
 難しいと思うけど。


―― 逆の側からですが、原発も汚染土も東京に持って帰れという憤りが、福島の人びとも心の底にありますね。


大西: もしもですが、「これから第一原発がまき散らした放射能を、全部、東京湾に埋めるんで、東京の人は、気を付けてくださいね」ということをやったら、果たして受け入れるでしょうか、という話ですが、ありえないですよね。
でも、東京の人は、その逆のことを、いとも簡単にやっているのです。傲慢な力を行使していることにすら気づいていないのです。
 ところで、『月刊 政経東北』という月刊誌が、福島にあります。その昨年11月号の「巻頭言」で、次のように呼びかけています。
「・・・霞が関の関心は、大震災・原発事故から年金制度改革やTPPなどに移りつつある。補償も除染も震災復興も不十分な中、抗議の意味を込めて、汚染土を国と東電に返す運動を進めたい。送り先は次の通り。・・・」


―― 知っています。実際、この呼びかけに答えてなのか、環境省に土が送られましたね。


大西: そう。だからこういう意識は絶対にありますよ。ダンプに積んで永田町や霞ヶ関かに土をお返しするんだという話は、そこここでされています。
それを弾圧できるのか。それを弾圧するとなると、「そもそも放射性物質をまいた人は弾圧されないのか。おかしいぞ」という問題提起ができるわけです。


◇被害者意識から加害の自覚へ


―― 被害意識から運動が始まるとしても、その意識をどう発展させられるかですね。


大西: そうですね。最初の意識は、被害者であっても構わないと思います。
 被害者の自覚も大事です。ただ、そこから、自分は加害者でもあったんだということへの気付きが大事です。
被害者意識に留まったら限界になります。
 被害者意識から始まって、加害性に気づいていくのですけれども、実は、さらに、そのあとが重要ではないかと思っています。
 昔あったような総ざんげに陥ったら、今度は、責任を不在にしてしまうんですね。
 本当の次の段階というのは、「自分たちにも加害責任があるんだ」と気づいたら、「では何をしたらいいのか」というときに、本当に戦争犯罪人を自らの手で裁くことだったはずです。
 

―― そう。東京裁判ではなく人民裁判。これができなかったのが戦後の敗北の原点。


大西: そうなんです。人民裁判なんです。
 一人ひとりと対話して問いかけていけば、「自分たちも共犯者だったんだ」という意識にはなると思います。
だけど、「では誰が悪いんだろう?」ということで、本当の原発推進派が、結局、曖昧にされてしまうということになりかねない。
 そこで、3段階目。被害者意識が第1段階、加害者性の自覚が第2段階だとすれば、そこから国民総懺悔ではなくて、「本当の犯罪者をきっちりと人民の手で裁きましょうよ」という動きにもってかなくちゃいけないと思います。
 今は、まだ、第一段階の「自分達は被害者だ。ああ、東電ひどい」という形で進んでいる状況です。


―― その点で、運動的にいうと、全国各地の運動は、福島との実体的な交流がまだ弱いという気がします。


大西: そうですね。
 福島のひとたちの顔や、原発労働者の顔を思い浮かべて運動をしたら、東京の運動は、被害意識に留まっていることはできないはずです。
 同じことですが、廃炉というスローガンが、観念・抽象の世界にどんどん進んでいくなあっという感じがしますね。


―― 東京の現場の人たちと、この問題での討論は?


大西: 僕と意識を共有している人もいます。
 その人は頭を抱えていますね。運動が、「ガレキ受け入れ反対、受け入れ反対」と、だんだん感情的になっていることに、「ちょっと違うんだけど」と言っています。


―― そこで運動にかかわっている中心的な人たちの意識や大衆的な論議が重要では?


大西: そうですね。
 可能性はあると思っています。
そもそもこれまでの労働運動のあり方自身がそもそも壁があったわけで。そういう壁を突破していく意味でも、この議論は必要ですね。



以上









テーマ:東北関東大震災 - ジャンル:ブログ

  1. 2012/03/01(木) 11:42:55|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:7
  4. | コメント:46

俺たちは使い捨て  原発労働者が実状を語る


 遠藤俊一さん(仮名)、南相馬市在住、41歳。福島第一原発事故の1年前まで、合計で約15年間、福島を中心に、全国の原発作業に従事していた元原発労働者。
 遠藤さんは、原発内の過酷な作業と被ばく労働の実態、下請けいじめと労災隠しが常態化する現状、そして今回の事故原因にもかかわる欠陥隠蔽と報告書改竄という事実を、赤裸々に語ってくれた。
 遠藤さんの話からは、「俺たちは使い捨てにされている」という深い憤りと、同じ働く仲間を思う気持ちが伝わってくる。
 インタビューの後半には、津波と放射能の被害で苦しむ南相馬市の復興への思いにも話は及んだ。


CIMG2673_convert_20110917143045.jpg


 4時間近くのインタビューを、できるだけ再現するように努めた。やや長いが、是非、読んでいただきたい。
 なお、東京電力による圧力などを鑑み、仮名を使用し、素顔の撮影は避けた。
〔インタビューは、9月上旬 南相馬市内〕


【Ⅰ】 被ばく労働の実態
【Ⅱ】 下請けいじめと労災隠し
【Ⅲ】 欠陥の隠蔽と原子炉の破損
【Ⅳ】 東電の腐敗と恐怖支配
【Ⅴ】 南相馬の復興のために

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 
【Ⅰ】 被ばく労働の実態




「線量部隊」


――原発ではどういう仕事を?

 仕事は、だいたい3種類やった。検査業務、それから、機械のメンテナンス、あとは計装配管(原子炉内の温度や圧力の測定や制御にかんする配管)。
 検査業務は、非破壊検査というヤツ。レントゲンや超音波で、配管の溶接部の亀裂を見つける検査。定期検査のときの仕事で、放射線量の高い場所ばっかりだった。

――線量の高いところとは?

 原発の中でも、線量の高い場所、低い場所といろいろある。
 原子炉から、直接出ている配管がある。再循環系とか、緊急冷却系とか。その配管と原子炉の付け根。ここは線量が高い。
 原子炉の本体は、あの形でつくって、持ってくる。そして、それから先の配管は、現場でつける。その配管の根元は、一応、遮蔽体があって、被せてあるから、ある程度、線量は落ちるけど、どうしても検査するときは遮蔽体を開けなければならない。そこ(遮蔽体)を開けると、原子炉の鉄板が、直接見える状態で、結構、線量が高い。
 それと、復水器系。原子炉で湧かした蒸気でタービンを回して、それを復水器(下図参照)に入れ、今度は、冷却水という海水を汲み上げて、冷やす装置がある。その復水器というのも、やっぱり原子炉系の蒸気が通っているので、すごい線量の高いところ。
 俺たち作業員の間では、高線量地域に行く人間のことを、「線量部隊」といっていた。
 メーカーにも、原子炉メーカーとかタービンメーカーとかいろいろあるけど、シュラウド(下図参照)とか、本当の中枢の原子炉メーカーはIHI(石川島播磨重工)。IHIの仕事をする人間は、結構線量の高いところに行く。
 検査業務も、そう。一日の線量当量が0・8ミリシーベルト。一番高いレベルのアラームメーターを持って作業に行くけど、15秒で終わったことがある。
 その場所の「雰囲気線量」(空間線量)を放射線管理員がまず行って測る。そうすると時間的に何秒いられるかが計算できる。0・8ミリシーベルトだと何秒間。0・8ミリシーベルトを超しちゃうと法令違反になってしまうんで、それを超さないレベルで、15秒で終わりということもある。1日の仕事がね。


繧キ繝・繝ゥ繧ヲ繝・2_convert_20110917161041
(シュラウドの位置と系統略図。
 シュラウドは、原子炉圧力容器の中にあり、内部には、燃料集合体や制御棒がある)



――15秒で何ができる?

 PT検査(染色浸透探傷検査)というのがある。
 溶接してある場所に、浸透液という赤い液体を塗る。傷があったら、10分ぐらいで傷の中に液が浸透していく。それで、余計なものを洗浄液で拭き取って、その後に現像液という白い粉のスプレーを吹きかけると、傷の中に染み込んだ浸透液が粉に染み出してきて、傷があると赤く見える。そういう検査がある。
 赤い液を塗る人、傷以外の所を拭き取る人、現像液をかける人、判定をする人、写真を撮る人。これらを全部、決めておく。
 線量の低い場所に待機していて、そこから線量の高い現場にサッと行って、サッと帰る。15秒だと、そんな感じ。

――走って行く?

 走って行けるような場所ではない。ものすごい狭い場所。いろんな突起物があっちこっちに出ているし、配管も走っているし、潜り込んで行くという感じ。だから、行き帰りの時間も計算すると、現場に行ってできる作業は、ウェスでスーッと拭いて終わりみたいな。本当に3、4秒かな。
 遠くからストップウォッチを持っていて、「時間だよ」と叫ぶ。そうすると、自分の与えられた仕事が途中だろうが何であろうが出てきて、「ここまでしかできなかった」と。そしてまた違う人が行く。で1回行った人はそれで終わり。

――人数がたくさんいる?

 そう。例えば、高線量の所に行く場合には、一箇所の検査をやるのに、10人なり、15人なりが必要になる。
 線量のないところでやれば、判定まで一人で30分あればできる。
 ところが、高線量の作業では、1日の日当分の人件費をみんなに出さないといけない。たとえ何秒かしか働いてなくても。それが15人とかになると、一箇所の検査費用というのがものすごい莫大な金額になる。

樋口02
(1977年、敦賀原発の定期点検の作業。樋口健二著『環境破壊の衝撃 1966-2007』)



原子炉の雑巾がけ


 シュラウドの交換という作業がある。
 シュラウドを交換するには、まず古いシュラウドを出さないといけない。古いシュラウドは、相当の線量がある。いくら水を抜いて除染をしたといっても。
 その除染をやるのは、初めて見る人ばっかり。ヤクザに連れてこられたとか、そういう人たち。金がいいからというのもいるだろうし。そういう人が、結局、高濃度の汚染状態のシュラウドに入って、まず除染作業をする。
 それである程度、線量を下げて、それでもまだ高いんだけど、それから技術者が入っていく。

――遠藤さんは、技術者の方になる?

 そう。俺らの前の人たちがいるわけ。 
 福井でも、たぶん除染に連れて行かれて、病気になったという人が大阪にたくさんいるらしいけど。そういう人たちが福島にもいた。
 要は掃除機だ。ウェスを持って、洗浄液を持って。
 まずは放射線管理員というのが測りに行くけど。「そこら辺、放射線高いから、あの辺を重点的に拭いて」とか。
要は雑巾がけ。非常に原始的な作業。手作業に頼らないとできない。シュラウドは、原子炉の中心部分で巨大な構造物。それを機械で洗おうといったって無理。
 もっとも、ある程度、時代が経っていると、化学除染といって、薬品で除染するという方法が出てきた。その化学除染というのが出てきてからは、放射線はかなり低くはなった。被ばくする人間も減った。
 定期検査だとなると、まず、化学除染が入る。全体的な放射線を落として、それから一般の作業員が入っていって、工事に入っている。
 化学除染は、俺も良くわかんないけど、水が通っている配管の中に、化学薬品を通して、放射性物質を流し出して、回収するというのが化学除染だと思う。実際にやっているところは見たことがない。

――被ばくは?

 シュラウドに限って言えば、ものすごい線量を浴びてしまうんで、そんなに長い時間はいられない。
 年間線量当量というのも決まっていて、年間50ミリ、5年間で100ミリ。たぶんあまり長くない時間で50ミリ近くは行くと思う。
 ある程度、そこに近づいてくると、危ないから入るなって言われる。それこそ法律違反になってしまうんで。

――作業の環境は?

 すごい作業はしづらい。フル装備なんで。合羽を着て、全面マスクで、時期によると、空調の点検まで入っちゃうと、空調が利かなくてすごく暑くなる。
 夏場は必ず何人か救急車で運ばれるね。救急車の音が聞こえると、「あー誰か倒れたな」って、それが驚くことではない。 
 冬場でも、例えば一番暑かったのはケーブル処理室というのがあって、所内に引き込んでいるケーブルと中操(中央操作室)を結ぶ―そこにすべてのケーブルが中操に集まっているけど―その真下にケーブルを処理する部屋がある。そこに電気が通っていると、発熱するわけ。真冬、外がマイナスという気温でも、中が40何度ある。これは体調を崩す。
 楽な現場ではない。
 逆に寒いぐらいのときもある。運転が止まっているときは、電気がほとんど通っていないのですごく寒い。
 でも、ああいう場所なので、寒いからって、自分のジャンバーをもっていって着るとかできない。寒いときには、みんなガタガタ震えながら。暑いときにはみんな汗だくになりながら。



原子炉水に潜る外国人作業員


――外国人がいるという話が・・・

 いるね。それは日本の法律より基準が高いから。日本人ではできない仕事を、外国人に任せる。
 ダイバーもいた。ダイバーというのは原子炉水に潜る。原子炉には、水が張ってある。あの中に潜っていく。
 その人がその後どうなったかまでは知らないけど、俺的には自殺行為だね。

――何のために潜る?

 原子炉の中にもたくさんパイプが出ている。また、シュラウドのひび割れのも問題もある。その検査や修理なんだけど、燃料を全部抜いて、水も全部抜いて、除染をしてからとなったら、莫大な金額がかかる。
 だから、潜ってくれる人がいて、例えば、「ここの面が溶接面だからずっと潜って下まで見てくれ」ということをやってくれたら、安くつく。日当を例えば50万円を払っても、その方が安い。
 おれは頼まれてもいやだね。日本人はやらないというか、法律上やれない。だから、どこの原発でも、定期的にそういう外国人が入っているはず。

――外国人とは?

 アメリカ人。ただ黒人であるとは限らない。黒人でも白人でも。
 たんぶん、原子炉メーカーのGEの下請けとか、そういう人だと思う。
 技術は必要ないね。潜水の技術ぐらい。 
 放射線の知識もそんなにいらない。放射線の知識をいくら持っていても、浴びる線量は変わらないんで。
 まあ俺たちがやっていたことは、大体、毎日のルーティンだから、それほど危ないなあということはない。
 だけど、他人がやっていることで、自分が想像もつかないことをやっているとなると、「うわー、あの人たち大丈夫なのかなあ」と思う。


繝€繧、繝舌・01_convert_20110917145500
(アメリカには、原発のダイバー潜水を専門に行っている企業がある)

 

「気をつけなさい」と言われても


――被ばく量はどういう風に計算しているのか?

 基本的にガラスバッジ(特殊なガラス素材を使用した線量計。個人が受けた積算の放射線量を計る)で、1カ月つけて。
 あとはアラームメーター。1日の線量当量を設定しておいて、それを超えるとアラームが鳴る。あと9時間半を超えるとアラームが鳴る。
 そのアラームメーターをもって、それもアルファ線用、ベータ線用、ガンマ線用と分かれるんだけど、それを区域によって、わけて持っていく。それで自分でも液晶で見られるので、たまに見ながら。

――1カ月では?1年では?

 いやー、放射線管理手帳を見ないとねえ。会社にいる間は預けっぱなし。まず見ることはない。まあ見せてっていえば見せてくれるだろうけど。
 1年でどれくらいとかは、あんまりに気にしていない。
 今日1日でどれくらい浴びたかという線量が頭に入っていれば、なんとなく分かる。

――では1日で最高は?

 最高だと、1・4ミリシーベツト/日かな。
 一日の線量当量というのが決められて、予定表にかかれる。
 一番、低くて0・3ミリシーベルト/日。その上が0/5ミリシーベルト/日。さらに0・8ミリシーベルト/日。それ以上になると放射線の特別教育というのを受けて、1ミリシーベルト/日から一番高いところで2・5ミリシーベルト/日。
 全部1日の線量当量。結構すごい数字。俺も特別管理になったんだけど。

――放射線防護は、厳しくやっていた?

 厳しい。C区域に立ち入った場合、ここが境界線だとしたら、この境界線を超えて、B区域に手を出すこともできない。境界線上で物を受け取るときに、ハイってわたすことはできても、境界線の外にいる人に触ることはできない。それくらい厳格にやっていた。

――どういう格好で入るのか? 

基本的に、全部、着替えて入る。自分の持ち物はパンツだけ。長袖と長ズボンの肌着みたいなのがあって、その上に管理区域用のツナギを着る。
 管理区域には、B区域、C区域、D区域というのがある。B服は青い服、C服は赤い服。
 C服は、みんな赤服(あかふく)といっている。ただ、赤い服で行ける場所と、さらに汚染の濃度が高い場所になると、赤服の上にさらにタイベック(デュポン社製の防護服)を来て、フードマスクや全面マスクで入っていく。汚染があるといっても、いまの警戒区域のように汚染はしていない。それでもそういう格好で入っていく。
 作業が終わったら、チェンジングプレイスという着替え場所に入る。ここまでがC区域で、ここからがB区域というところ。C区域の中で着ていたものは全部脱ぐ。
 脱ぎ方もある。ゴム手袋も2枚していて、まず1枚目を取りなさい。次に汚染していないゴム手袋で服を脱ぎなさい。普通なら、こうやって袖がめくれないように脱ぐけど、そうじゃなくて、必ず裏返しにしながら、内側に汚染を巻き込んでいくように脱ぎなさいと。いろいろそういう脱ぎ方まで決まっている。
 
――それは内部被ばく対策か?

 内部被ばくもあるが、身体汚染を避けるためということがある。
 汚染は、服を着ているから肌につかないとは限らない。汚染物質は、ものすごく粒子が細かいので、服を着ていても、こすりつけたりしたら、そこに汚染物質がつく。水に流せば落ちると思うかも知れないけど、そうではない。
 ひどいのになると、洗剤をつけてタワシで、ガサガサ、ガサガサと擦って、また測ってもらって、まだ落ちてないと、またやって。本当に真っ赤っかに腫れ上がるぐらい擦らないと落ちない場合もある。


マスク03
(福島第一原発の事故処理にあたる作業員の姿)


――タイベックの効果は?

 タイベックで防げるのはアルファ線だけ。
 みんな勘違いしている部分があって、まず、放射線のレベルと汚染のレベルというのは全く考え方が違う。
 汚染がなくても放射線がある場所もある。例えば配管の中に、高濃度の汚染物質があったとすれば、配管の外にも放射線は出てくる。
 でも配管を触っても自分は汚染しない。中に閉じ込められているから。
 汚染が低くても、線量の高い場所というのはB区域で、 汚染はほどんとない。でもそこにはあまり長い時間はいられない。線量が高いから。
 よく、タイベックを着ると放射線を防げるんだと勘違いしているけど、あれは汚染物質が自分の体につくのを防ぐというだけ。
 それに、みんなタイベックの運用方法を間違っている。タイベックを着て、汚染区域に入って、そのまま車に乗ってこっちに帰ってくるでしょ。あれはおかしい。
 車の中というのは、汚染はされていない状況にしておかないと。入るときは着ていってもいい。でも帰るときに、あらかじめ汚染の低い場所に車を置いて、乗る前に着替えないと。

――汚染水を浴びることは?

水というのは、埃よりも、もっと厳しく管理していて、水に触るのは本当にタブー。
 現場の中で水に触る作業というのは、きれいな水を使う配管の耐圧試験。配管を工事で新しくしたときとか、必ず耐圧試験をやる。水圧ポンプを持っていって、水を外から入れる。その水は水道水だから触っても大丈夫。
 だけど、その水がこぼれたとか、下で作業している人にかぶってしまったとか、これはもう大騒ぎ。「それは耐圧用の水だから大丈夫だよ」といっても、必ず放射線管理員が何人も来て、「どこの水か、本当にこの水か」って測っていた。

――原子炉の真下の計器類の作業などは?

 CRD(制御棒駆動機構)といって、制御棒を上げたり下げたりする装置がある。俺たちは、ペレスタル(圧力容器の下の台座)といっていた場所。
 CRDも、時々交換しないといけない。放射線の高いレベルにさらされるし、劣化もするんで、計器類も校正しないといけない。一回外して、汚染のない場所に移動して、そこで検査するという作業がある。
 そのときに水は落ちてくる。そこに入る人は、アノラックというビニールの雨合羽で、頭まで被って、全面マスクをして、開口部という開口部は全部、ガムテープで止めて、袖も裾も、というやり方でやっている。
 キチッとやっていれば、雨合羽は濡れるけど、直接、自分の皮膚が濡れることはない。

――トイレが大変では?

 昔はトイレも現場の中にはなかった。いまはトイレはある。
 もちろん原子炉の中にはないけど、管理区域の中にはある。トイレが何カ所かあって、そこに行って用は足せるようになっている。
 そんなに大変ではない。B区域ではツナギ1枚なんで。C区域の場合は、一回、B区域にでないといけない。一回、着替えて。B服に着替えて、トイレに行って、もう一回、C服に着替えてC区域に入る。
 C区域で小便をしてきたというのは昔の話。C区域で服を脱いだらどういうことになるのかということは、みんなある程度分かっているから。

――健康診断は?

 電離検診(※)と一般検診。
 電離検診は半年に1回、一般検診は、昔は半年に1回だけど、基準が変わって、1年に1回なった。あまり気にしてなかったからどうだったか。
 検査の内容は、採血して血液検査、あと胸部レントゲン、心電図、あと尿検査ぐらいだったと思うけど。
 これとは別に、ホールボディーカウンターは3カ月に1回。電離則(電離放射線障害防止規則)で決まっている。

(※電離放射線健康診断: 管理区域に入る労働者に、6カ月ごとに実施を定められた健康診断。被ばく歴の有無の検査、白血球数及び白血球百分率の検査、赤血球数及び血色素料又はヘマトクリット値の検査、白内障に関する目の検査、皮膚(爪を含む)の検査)

――引っかかったことは?

 一般検診で、血液中の脂肪が多いとかはあったけど。
 ただ、「白血球の数がちょっと多いから、気をつけなさい」という人はいた。

――「気をつける」とは?作業内容の変更の指示があるのか?

 病院の先生は、そこまで指示はしない。町医者だから。ただ「白血球が多いから気をつけなさい」と。漠然としているけど。
 であまりにも白血球の数が多くて、「要注意だよ」となると、産業医がいるんで、それと相談して、作業内容も、「もう少し、こういうところにして下さい」と。

――産業医は?

 産業医は、東芝には東芝でいる。
 たとえば、「君、どういう仕事してんだ?」って聞かれて、「ドライウエル(格納容器本体)の中に入って、線量が高いところ」みたいな話をすると、「じゃ、なるべく線量の低いところにね。そっちにいって働くように会社に言っとくから」。一応、産業医から報告書みたいのが提出される。
 また、血圧があんまり高い人の場合。C区域で倒れると、そこから搬出するのに、着替えとか、汚染を検査しないと外に出せないということがあり、そうやっている間に、あんまり重傷だと、死んじゃう。だから、体の調子が悪い人はC区域には入れないで、C区域の外でサポートに回るということがある。
 一旦、C区域の中に入ってしまうと、ドライバー1本取りに行くだけでも、一々着替えないとならない。だから外に一人、置いておく。調子の悪い人には、「そっち回れ」って、みんなで工夫してやっていた。




【Ⅱ】 下請けいじめと労災隠し


菴懈・ュ蜩。03_convert_20110917163217
(Jビレッジから第一原発に向かうバスに乗り込む作業員)


――1日のタイムスケジュールは?

 8時に出勤して、朝礼やって、ラジオ体操。
 それから、「今日はこの内容で作業します」というのをやる。
 あとはKY(危険予知)とTBM(ツール・ボックス・ミーティング)。班長さんが「今日の役割分担、君は何をやる、君は何をやる」。それから注意事項。「こういう計器を扱うんで、これはすごい大切な物だから、強い衝撃を与えないように」とか、「そこにそういう配管が通っているから、そこには近づかないように」とか。
 で段取りをして、現場に入って、作業に入る。
 あとは人それぞれ。1日、5分もやると、終わってしまう人もいる。そうしたら事務所にあがってきて、待機であったり、書類の整理であったりとか。
 管理区域内の作業は、国の法律で1日10時間と決められている。東電の管理では9時間半。その9時間半いっぱいになるまで働くというのもたくさんいるし、おれも危うく9時間半を超す寸前のときもあった。

――作業が押している?

 そう。定期検査の期間をなるべく短くしようとしているから。
 定検の期間を短くしてしまうと、中に詰め込まれている工事の工程も短くされてしまう。与えられた仕事量が多ければ、朝礼が終わったらすぐに現場に行って、毎日、残業して、休日も出勤して。 
 作業にかなり無理が生じる。ある程度、技術を持っている人間ならいいけど、まだ技術が甘い人間だと、時間内に納めなければならないということで、手抜きをしたり、そういうのがたくさんあった。
 こに配管を通さないといけないのに、面倒くさいから、こっちにしておこうかとかインチキをする業者もいた。



下請けに矛盾を強いる構造


 6次下請け、7次下請けまでいる。東京電力は、「3次下請けまでしかいない」っていっているけど。実際、何次なんだかわかんないのがいっぱいいる。
 例えば、俺がいた東芝からいうと、大元の東芝があって、その下に東芝プラントシステムというのがあった。
 その下に電気業務、計装業務、機械業務などをやる会社がいっぱい入っている。そこが3次下請け。
 俺のところは、地元の会社で、4次下請け。だけど、3次下請けの名前の社員として、ある一定の期間だけ、登録する。
 さらに、ウチの会社にも下請けがいる。例えば、今回の定検で、ウチの会社の作業量では、100人が必要だとなる。けど、ウチには15人しか人がいない。となれば下請けを使う。
 4次下請けの下請けだから、5次下請けになる。5次の会社でも100人も集められない。となれば、そこからさらに下請け、下請けとなる。とすると6次、7次、8次と増えていく。
 6次、7次、8次となると、ほとんど地元。△△工業とか、▽▽システムとか、適当な名前がついた会社。
 着ている作業服もバラバラ。会社の名前が入っていたり、いなかったりで、みんな違う作業服を着ているから、一目瞭然、3次下請けのわけがない。
 それは東京電力の社員が見ても明らか。でも東京電力は「3次までしかない」といっている。建前上は。派遣法に引っかかるから。
 東京電力が言うように、「3次下請けまでしか絶対に雇わない」となれば、3次下請けがものすごい人数を社員として確保していなければならなくなる。そこに払う給料を考えると、とても3次下請けは原発から発注があっても受けられない。それなりの金額を払わなければならないわけだから。
 例えば定期検査がない時期も、そういう人たちを雇っておかなければならない。その人たちに払う給料分まで全部面倒を見てくれないと、その会社はやっていけない。となると必然的に下請け、下請けになる。
 構造的にそうしないと、運営できない状態なんだ。分かっていて、こういう構造にしている。

――除染に動員される作業員はどこから?

 東京電力の子会社がある。東電工業、東京電気工務所、関電工、アトックス。そういうところが雇い入れている。除染業務はたぶんアトックスがやる。
 その下請けのさらに下請けという人間が地元のヤクザで、それに集めさせる。書類上は3次下請けの社員となっている。
 いま問題になっている、身元が分からないのがたくさんいて、ホールボディカウンターを受けられないという話が出ているけど、たんぶんそういう人間だと思う。
 偽名を使って入っていくるのもいる。

――そういう人たちの放射線管理手帳は?

 必ずつくらなければいけないから、つくるけど、何から何まで、偽名で住所もウソをついてということでつくれないこともないんで。できてしまう。



労災隠しが日常茶飯事


 労働災害を起こしたとする。そうすると、東京電力にものすごく問いつめられる。ものすごいお叱りも受ける。本人だけでなくて、下請け会社そのものが責めれる。そして来年度の発注はなくなるという状況になる。となると、労災が起きても、隠せるものは全部隠す。そういう経験は、何回もある。
 例えば、この辺(手の甲を指す)をちょっと傷がついた。絆創膏を貼ればいい程の物でも、「必ず報告しなさい」と言われている。それも一応労災なんで。普通のところですりむいたというのであれば、どうってことはないけど、管理区域の中なんで、内部被ばくが問題になる。
 だけど報告したら終わり。
 俺の知り合いだと、グラインダーで、ここ(手の平を指す)をザックリと切った。骨まで見えるぐらい。そこら中、血まみれになるぐらいケガしたけど、それも隠した。
 それがバレてしまうと、会社そのものが来年度の発注がなくなるから。そういうペナルティーがあるので。
東京電力の人間に見られない内に、周りでみんな片づけて隠す。
 骨折しようが何しようが、平気な顔で(管理区域を)出ていく。管理区域から出ていって、一応、会社の事務所では、「こういうケガをした。バレてないから大丈夫」と報告する。

――治療費や休業補償は?

 3次下請けの会社で、労災がバレてしまうと、何カ月間の営業停止だとか、発注停止という処分が来る。そうなったら何十億円の損害になる。
 であれば、その人間に休業補償なり、治療費なりをちょっと高めに出しても、黙っていてもらった方が得。「もしばれてないんだったら、とりあえずすぐ帰って病院に行け。金は全部やるから。休んでいる間の金も全部払うから。黙ってろ」となる。
 使い捨てとういうこと。例えば、さっきのグラインダーで切ってしまったという話が東京電力にバレたとすると、その人間は仕事にはもう来れない。会社そのものも、ものすごいペナルティを受ける。

――どういう理由でペナルティなのか?

 それは東京電力に聞いてもらわないと。なにせ、バレたらクビなので。大きな災害は。
 手の骨を折ったなんていうのは、もう二度と行けない。現場で労災だとなればね。
 「ウチで階段から落ちました」という報告ならオッケーだけど。

――そういう報告をするわけ?

 例えば、顔に傷をつくったときも、家でころんだとか。犬の散歩で、犬に突然引っ張られたとか。適当な言い訳を考えて。
 運悪く見つかったのはしようがない。隠しようもないのもあるからね。倒れて意識がないはどうにもならないから。そのときは正直に言うしかない。そういうこともあった。
 例えば、管理区域の現場の中で意識を失ってしまったとか、あるね。そういう人間にバレないように出ていけっていっても無理だから。そうなれば、すぐに東京電力に連絡して、「こうこうこういうわけで意識を失っている人がいます」と「救急車の手配をお願いします」と、正当な手順を踏んで、やっていくしかない。それはほんとに最後の最後。

――被ばく危険もあるが、労災問題も大きいということ?

 俺たちが気にするのは、労災問題の方だね。
 放射線管理というのは、国で管理していることだから大丈夫だろうという意識がある。それに自分で線量計を持って、自分で確認できるし、それほど心配はしていない。内部被ばくの可能性も、3カ月に1回、ホールボディーカウンターを受けている。



東京電力は傷つかない構造


譚ア莠ャ髮サ蜉・1_convert_20110917163536


――労災問題を何とかするには?

 いまの体制ではムリではないか。
 原子力発電が一番コストが安いとか言ってきた。もちろん、事故が起きたらこれだけのコストがかかる。それは今回初めて分かったこと。それに、事故が起きる前、廃炉まで考えれば、そんなにコストは安くなかった。しかし、ふだんの運転中のコストが一番安いというのは、結局、俺らみたいな労働者に、それほど金を払わなければ、安く済むよねということなんだ。
 労災を、俺たちが全部正直に言ってたら、たぶん新聞がいっぱいになる。新聞を1面、増やさないといけないくらい。それくらい日常茶飯事。
 言われるのよ。同じ会社の中で、労災事故が3件あったら、ペナルティで来年の発注はなくなるって。だから労災はできるだけ隠す。
 一年間の発注といったら、少ないところでも何億、多いところだと何十億。会社の存続が問題になってしまう。そういう風に脅かされるんで、労災は隠す。
 隠すということは、隠した会社の責任になる。だから、もしバレても、東京電力は「知らなかった」で終わり。
 東京電力には傷が付かないようにできている。ヒドイ会社だよね。
 そういう意味で、俺ら使い捨てなんだよ。何かあったら切られる。責任は全部そこになすりつけられる。「あいつが勝手にやったことだから」と。「われわれは報告を受けていないからわからない」。
 マスコミとかからは、管理体制が不十分だったんではないかとかいわれるけど、それは、「どうも申し訳ありません」って頭を下げれば済む。あいつら痛くも痒くもないね。



人間扱いではない


 こういう体質が、嫌になったというのもあるね、原発の仕事を辞めた理由には。「結局、使い捨てか。どんなに頑張っても報われることはないな」って。
 あの体質が本当に嫌になった。
 例えば、いくら頑張っても、成果を残しても、「当然だ」と。「それが当たり前。なんかすごいことやったの?」。でもちょっとした労災を起こしただけで、東京電力に、「何やってんだ。ふざんけんな。どんだけ人に迷惑をかけんだ」ってぐらい、それこそ、部屋に閉じ込められて、「事情聴取だ」、なんだかんだって夜中までやられて。見つかればね。
 そういう係が東京電力にいる。本当に取り調べ。
 事故の大きさにもよるけど、警察が来たりとか、消防が来たりとか、労働基準監督署が来たりとか、その辺の対応とかにずいぶん人間を裂かれる。
 そうすると、事故を起こした人間は、ケガして痛くても、夜中までそこに縛りつけられている。「まず病院に行かしたらいいじゃん」「かわいそうにな」と思う。本当に人間扱いではない。

――労基署は?

 表向き監督していることにはなっている。
 だけど、「検査に行きます」って、連絡が来る。「何月何日の何時頃、『抜き打ち』で」って。全然、抜き打ちではない。
 そうすると、「書類を労基署に出すように、まとめておけ」。危ない作業があるときは、「違う日に回せ」。という感じで全部隠してしまう。
 労基署も「いついつ行くよ」と言ってくるわけだから、全部、隠されているのは分かっている。でも、本当に抜き打ちでやっちゃうと、出入り業者がみんな営業停止処分になるぐらいのことをやっている。そうすると、原発が止まっちゃう。
 行政も、国も、マスコミも、全部グル。

――労働組合は?

 東京電力にはあるけど。俺らのことを心配するような組合では、全くない。
 もし、下請けの人間が組合をつくって東京電力にタテをついたら、二度と出入り禁止。 
 下請けから見たら、東京電力は神様だから。東京電力から見たら、俺らみたいな作業員は使い捨てだから。




【Ⅲ】 欠陥の隠蔽と原子炉の破損



・托シヲ01_convert_20110917155201
(6月に東京電力が撮影した、事故後の第一原発4号機の建屋内)


――原子炉の破損は津波以前?

 そう。地震の直後、津波が来る前に第一原発から避難した作業員が、その後も第一原発には入っていないのに、ホールボディーカウンターで何千カウントとか、何万カウントという値が出た。そういうことを考えると、地震のときに、相当量の放射性物質が漏れていたんだろうなと、推測ができる。

――あの事故は想定外か、想定内か?

 想定内だと思う。
 ただ、いきなり4発も爆発するとは思っていなかったけど。
 ある程度、原子炉が壊れて、ちょっとした放射能漏れがあるとか、そういうことは当たり前にあると思っていたから。
 検査業務をやっているときにも、だいぶん改竄した書類をだしているんで。

――とうして改竄を?

 東京電力からの命令。
 欠陥があった部分について、東京電力は全部知っている。全部報告しているし、正確な書類も提出している。でも、通産省(当時)に提出する書類は、欠陥がなかったことになっている。

――欠陥とは?

 溶接面のクラック。ヒビだね。溶接した場所というのは、応力がかかる。捻れとか、揺れとかの力。溶接面は、熱も加わっているから材質も変わっている。真っ平らになるわけではない。配管の内側の溶接リードが盛り上がる。そうするとそこの水流が乱れて、溶接面の付近が掘られたりする。その水流の乱れでガタガタ揺れる。そうすると揺れの力というのは、応力に変わって、溶接したリードに一番かかる。そうするとそこにヒビ割れが出てくる。
 定期検査でそういうのを探している。で、すぐに直せるものは、すぐにやる。ちょこっと切断して、新しい配管をぽんとつけられば終わりというのはすぐやる。
 でも、その回の定期検査中に間に合わないもの、例えばその配管を切るためには、原子炉の中の燃料をどかさないとならないとか、水をぬかなければならないという作業が関わってくると、その工事だけで何億円、何十億円とかかってしまう。原子炉が止っている期間も延びる。であれば、隠した方が安くあがる。
 ものすごい重要な部分でもある。冷却水を通す配管なんかでも。そういうところの方が多い。直せないから。それをやるとなったら、大規模な工事になってしまうから。
 いつでもパイプをスポッと切って直せるような所はすぐにやってしまう。メーカー(東芝や日立)もやっぱりお金になった方がいいから。だから、「これは直した方がいいです」という。で、工事に入れば、メーカーの収入になるから。メーカーは進んで直すようにする。
 ただ、東京電力側のコストが問題になって、「そこまで予算がないから、これは今回はやらない」となれば、メーカーはもうなにも言えない。
 メーカーと東京電力との関係はそういうもの。そこから金をもらっているわけだから。
 俺ら(メーカーの下請けの作業員)は、東電さんといわずに「お客さん」といっていた。雇い主と社員の関係ではない。発注者とメーカー。だから余計、強いよね、向こうは。

――改竄とは具体的には?

 修復した物に関しても、「欠陥があって、こういう風な修復をしました」と報告するよりも、最初から「欠陥がありませんでした」と報告した方が楽。修復した物についてもね。
 通産省に一々「こういう欠陥がありました」「なぜこういう欠陥が起きたか」という報告書まで添えて出さないいけない。それをやるんであれば、修復した後に、「何もありませんでした」という書類を出した方が楽なんだ。東京電力にとっては。
 まったく欠陥がなかったというのもあんまりにもウソ過ぎるので、ある程度、あまり重要ではないところを出しておく。で重要な部分は出さない。
 報告といったら自治体にも報告しないといけないわけだから、「原発は危ないよね」となったら困るんでね。
 それから、なぜこういう欠陥が出たのかという原因究明の書類を出すのも面倒臭いので、東京電力には、「欠陥がありましたよ」という書類は出すけれども、それ以上(通産省)には「欠陥がなかったよ」という書類になる。
 そういう書類もずいぶん書いた。2つの書類をつくらされるということ。俺の方は仕事量が増えるだけ。

――もし遠藤さんがバラしたりしたら大変では?

 でも証拠がないからね。手元に書類があるわけではないから。2つの書類を書いているという証言をしても、俺はそれを証明しようがない。そこでビデオを撮っていたわけでもないし、その書類をコピーして取っているわけでもないから。
 いざバレたとなれば、メーカー側がやったことになる。東京電力は「私たちにはこういう書類しかあがってきていません」。
 その書類を書いているのは、メーカーだから。「東京電力の指示でやりました」と言わない限り、「メーカーがやったことです」で終わり。
 その代わり、罪を被ってもらう代わりに、来年は東京電力からメーカーに「もう少し多く発注を出すから」「単価をあげていいから」。その程度だと思う。

――書類の改竄は誰から?

 会社の上司から。「この前、検査したヤツあっぺ。そいつ、こうこう、こういう風に書いてなあ」って。「はい、はーい」って普通に。
そのときは、俺もまだ若かったんで、「おかしいよな。これこの間、書いた書類だよな」って思いながら、従うしかなかったし、そのときは、そこまで深くは考えなかった。
 ちゃんと図面まで書いてね。最初に出すときは、「こういう配管があって、ここに欠陥があって」と書くんだけど、それを全部「欠陥はなかった」という図面にしてしまう。
 そういう書類は山ほど書いた。だから、そんなもの何千件、何万件もあると思う。全国の原発で、山ほどある。
 
――地震の衝撃で配管が破断したということか?

 そう。何年か前に震度5強の揺れがあったときも、結構のダメージがあった。新潟の地震でも、あっちこっちがやられた。
 配管を支えているサポートは、アンカーを打ってネジで留めている。地震の揺れで、アンカーごとぬけちゃったとか、配管が揺れて、サポートごと持って行かれちゃったとか。そういうのはたくさんあった。震度5強ぐらいで。
 そのあと、結構、修理に入ったから。壁にヒビが入っていたとか、ヒビはそこら中にたくさんあった。
 だから、今回の震度6強だったら、相当、やられちゃうだろうなと思った。揺れている時間も長かったし。
 「揺れで原子炉のどっかがやられたんだぞ」という話を聞いて、「あー、それは、おかしくはないな」と。データ的なことがどうのこうではなくて、現場の状況としてね。
 だって、地震のときに、津波が来る前に逃げちゃった人だって、みんな体内に放射性物質が大量に入っているということは、どっかしらが壊れて、漏れ出さないと、そんなことはありえない。

 自分に与えられた仕事を責任を持ってきっちりとやるというやっぱり責任感もあって、誇りもあって、やっていたから、自分の仕事が直接、事故に結びついたかというのは、俺はそうは思わないけど、ただ、全体で考えると、事故に結びつくような状態だったんだろうなと思う。




【Ⅳ】東電の腐敗と恐怖支配


繝倥Ν繝。繝・ヨ03_convert_20110917171456
(08年、民主党の国会議員が福島第二原発を視察。写真中央が、後に経済産業大臣になる直嶋議員)

 
ヘルメットを被せてあげる


 東京電力の闇というか恥部を見てきたね。とくに検査は恥部を見ちゃう仕事。
 それから、見ていて一番、見苦しかったのは、通産省の役人が、立ち会いに来たとき。
 「こちらにどうぞ」って椅子に座らせる。
 東京電力の社員が、3人も4人も寄ってたかって、おろし立てのピッカピッカのヘルメットを「失礼いたします」って、被せてあげて、顎ひもまで締めてあげる。
 そして「失礼いたします」って靴も脱がせて、新しい靴を履かせるあげる。
 本当に重要な部分に、役人でもエライさんが来るときね。
 殿様、殿様以上だね。だってこうやって座っていればいいんだから。そうすると、東京電力の社員が「失礼いたします」って。
 「おめえ、靴もはけねえのか」って、俺らは、冷ややかに見ている。
 原子力のことを何も分からない役人が、「これは、こうなんですね」と東京電力の適当な説明を受けて、「あー、オッケー、オッケー」。
 俺らは、「ほんとに?それでいいの?何にも見てないじゃん」
 まあ、あとは、仕事が終わってから接待。電力さんに連れられて。
 それも見ていたら、本当に嫌になるね。そこで働いている自分のことが情けなくなってくる。
 電気をつくるとということがメインで、それには、誇りもあった。だけど、ああいう人たちのために、俺たちが、こうやってヒドイ思いをしているのかと思うと、ほんとに情けない。



ヤクザが幼稚園児に見えるくらい怖い 



 俺の名前が出ちゃうとマズイね、やっぱり。ものすごい圧力が来るだろうから。東京電力はおっかない会社なんで。 
 実際、消させる人間もいるからね。自殺に見せかけて。どう考えても状況的におかしいだろうというのがあるからね。すべてがグルだから。人が殺されようが、何しようが刑事事件になんないから。
 そういう中で、みんな暮らしているし、会話するにしても、何するにしても、そういうのが、心の縛りになっている。
 怖いよ。その辺のヤクザが幼稚園児に見えるくらい、怖い。
 なんせ、電力会社、国、ヤクザ、銀行。一体のものだから。そこに狙われたら、もう勝ち目はない。
 殺されないまでも、何かあったら、逃げられない。
 佐藤栄佐久知事も逃げられなかった。プルサーマルを容認しなかっただけ。それで抹殺された。からんだ会社が水谷建設。発電所の建設には必ず水谷建設がからんでいる。
 町全体にはそんなに恐怖感はないけど、原発に携わっている人間が恐怖感を持っている。そして、原発に携わっている人間がたくさんいる。
 いまでも電力会社に勤務している人間は、へたなことを言ったら、自分の生活がなくなる。殺されるまでは行かないけど、仕事がなくなって、生活ができなくなる。となると言えない。
 俺のように、これだけ話すのはまれ。いまも仕事をしている人は、こういう話をするのは無理。もしばれたら、大変なことになる。
 俺だって、ずっとこうやって話し続けたら、脅迫とか、それなりのことはあるんじゃないかと、想像をする。
 普通の会社で、内部告発をして、どっかに飛ばされるというレベルではない。
 この支配をうち破っていくことは相当に難しいと思う。
 それを変えようと思ったら、国民全員で騒がないと。それくらいのことがないと、かわらないんじゃないかと思う。



 
【Ⅴ】南相馬の復興ために


CIMG2671_convert_20110917164311.jpg


――原発に批判的なったのは?

 それは、事故後のこと。
 政府とか、原子力保安院の対応とか、東京電力の対応とか、マスコミで流れる情報だけでなく、自分自身で電話をして、「あれはどうなの?」と聞いても、全然、誠意ある答えが帰ってこなかった。
 ホールボディーカウンターの問題。俺は、3月、4月の段階で受けておかないと、将来、補償問題になったとき、証拠が残らないなと思って、まず福島大学に問い合わせたら、「受け付けていません」。県の放射線にかんする窓口に相談すると、あっちこっちの病院の名前を教えてくれる。そこに全部かけても全部断られる。
 「なんでホールボディーカウンターを受け付けてくれないんですか」って聞いたら、「いま、ここに住んでいる住民は内部被ばくの可能性はないから、検査する必要がない」、全部の病院・機関が、口をそろえて同じことを言う。
 「なんか根拠あるの」と聞いても、「いやその可能性はないので」。
 その後、福島第1原発近くに自宅があり、事故後に家族の避難などのために帰宅したり、福島第1、第2両原発から他原発に移った作業員が、何千人も内部被ばくしていたという報道があった。それが出てからもう一度、同じ所に電話をかけまくった。
 「何日間とか何時間しかいなかった人間があれだけ内部被ばくしているのに、何で俺らはしていないと言い切れるのか」
 そしたら、「さあ、そういう情報があるんですか」と、保安院がいってたからね。発表したのも保安院の委員長だったんだけど。
 あの対応で、「ああ、もう信じられない」と思った。その前から体質はわかっていたけど、あそこまでヒドイとは。


保安院01
(会見を行う原子力安全保安院・西山審議官・当時)


――原発はこれからどうしたらいいと?

 極左的なことを言っちゃうと、「いますぐ全原発を止めて廃炉にしろ」という論議もあるよね。でも、それは現実的には無理だろうと思う。
 原発の代わりになる代替エネルギーというのを、国会でどんどん進めてもらって、研究者にも、代替エネルギーというのをもっと効率のいい物にしてもらう。そういう中で、これくらいの物ができたら、じゃあ原子炉を何基、壊せるからと、順次廃炉にしていく。そういうやり方が一番いいと思う。

――南相馬については? 

 仲間内で、遊びの話で盛り上がっても、結局、最後は、こういう話になって、まいったなあという話になる。
 普通にこう話をしていても、家に帰れない人がいるわけ。20キロ圏内で。ふざけた話をしていても長続きがしない。どっかで引っかかっていて、心の底から笑えない。

――この間で前向きに動いたことは?

 うーん。
 「自分たちでやっていこう」となってきたことかな。
 それまでは、ただ「どうしよう、どうしよう」という感じ。「国が方針を示してくれないと動きようがない」とか言っているだけだった。
 そうじゃなくて、「自分でやっていくしかないよ」と思い始めた。
 これは、一番、前向きな話。
 「国は当てにならない」、「市もあてにならない」、「東京電力もあてにならない」。
 それで一旦は諦めた。これは一歩後退。
 でも、そこからもう一度、「自分たちでなんとかしないと」という気持ちを持った。これは一歩か二歩前進。
 総体としては、差し引きゼロではなく、プラス、前進になっている。
 ただ、目の前のことをどうするということだけで、まだ、将来、こうしていこうなんてビジョンは描けない状況。
 俺は、とにかく、ここに住み続けようと思う。どんなに声をあげようが、余所にいたら、説得力はないので。オリの外からほえてもね。オリの中にいないと。
 俺自身の一番の望みは、この地域を復興させて、以前よりいい町にしたいということ。「そのために、みんな帰ってきてください」とは言えないけど。危険性もわかっているんで。その危険性を取り除くことをみんなでやっていかなきゃなと思う。
 危険でなくなれば、みんな自ずと帰ってくれるから。ちゃんと情報を出してね。正確な情報を出して。御用学者に頼るんではなくて、もっと正確な情報を出せば、みんな、「まだ危ないんだなあ」というのもわかるし、「もう安全なんだなあ」というのもわかる。

――県外の人たちへ一言

 この間、テレビのインタビューを受けた。「これから、被災地にどういう支援を望みますか」って質問をされた。
 たしかに食糧や水をもって来てくれたこととか、ガレキ撤去に来てくれていることとか、すごくありがたい。
 ただ、こういうこともある。
 南相馬市民が、どんなに一致団結して騒いだって、たかだか何万人。
 全国の人間が、一斉に声をあげてくれないと国は動かない。「その声をあげてくれることが一番の復興の近道だと思います」ということを言った。
 例えば、除染に関しても、俺たちだけが、「除染して下さい」と騒いでも、「しません」と言われて終わり。でも全国から、「あそこの汚染地域に人が住んでいるだから、除染をしてあげるべきだ」とみんなが騒いでくれたら、国も黙っていられないと思う。国を動かす力を国民は持っている。
 そういう声をたくさんあげてほしい。それが俺たちにとって、助けになることだから。         
 物資支援やガレキ撤去もあるが、それよりも、国を動かしてもらう、それに力を貸してもらえる、というのが、被災地にとっては、一番、復興への力になるのかなと思う。(了)

テーマ:東北関東大震災 - ジャンル:ブログ

  1. 2011/09/19(月) 12:45:57|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:10

原発には負けられない 息子の白血病死を告発する母

 91年、中部電力浜岡原発の作業員だった嶋橋伸之さんが、白血病で亡くなった。享年29歳。
 母・美智子さん(74)は、それまで原発に疑問を抱くことなどなかったが、伸之さんの死を契機に、国と電力会社の責任を告発する闘いに立ち上がった。

 嶋橋美智子さんを迎えて、8月18日、郡山市内で、「嶋橋美智子さんのお話しを聞くつどい」が開催された。(主催は、実行委員会)
 美智子さんは、放射能に苦しめられている福島の子どもたちを守るために力になりたいと申し出て、この夏、郡山から北海道へのサマースクールに参加している。その出発を前に、郡山において講演を行った。

 以下は、18日の講演を中心に、関連報道を加えてまとめた。




白血病の宣告、壮絶な闘病から死まで 



孫受け会社で「核計装」


 嶋橋伸之さんは、81年春、横須賀市内の工業高校を卒業後に中部電力の下にある孫請け会社に就職した。
 中部電力の原発や火発の保守・点検を行う元請け会社が中部火力工事。その下請けが中部プラントサービス。さらにその下請け会社が伸之さんの就職した会社。

浜岡原発01
(中部電力 浜岡原子力発電所)


 伸之さんの仕事は、「核計装」(=原子炉内の中性子の密度を監視する計測装置)の保守・点検。浜岡原発の場合、核計装は、炉の下から挿入している。そのため、原子炉の定期検査のときは、原子炉の下にもぐり、装置を取り外して調べる。
 その作業は、頭から原子炉の水をかぶりながらやることになる。もちろん原子炉の水は高濃度の汚染水だ。だから被ばくしないわけにはいかない。
 伸之さんの累積被ばく線量は8年10カ月間で50・63ミリシーベルトだった。

嶋橋・中国p01
(原子炉の真下で計器類を点検する 浜岡原発)




白血病ってどんな病気ですか?


 美智子さんは、伸之さんが白血病だとわかるまでの経緯と、そのときの驚きと戸惑いを次のように話した。

 伸之さんは以前から、「だるい」「風邪を引きやすい」などの不調を訴えていた。
 しかし、原発労働者に義務付けられている定期の健康診断(電離放射線健康診断)では「異常なし」。だから、伸之さんは、自身の体調を、「独身で、酒を飲んだり、徹夜で麻雀をしたりしいるからだろう」と解釈していたという。とにかく、「医者が診て『異常なし』なんだから、おれは大丈夫」と思いこんでいた。

 たまたま美智子さんが風邪気味で町立浜岡病院に行く際、ついでにという感じで伸之さんも診てもらうことになった。
 すると、伸之さんだけが、「もうちょっと検査が必要」となった。紹介された浜松医科大医学部付属病院へ行くことに。
 医大で検査は受けたものの、伸之さんは、その結果を自分では聞きに行こうとしなかった。伸之さんとしては、「会社の健康診断で『異常なし』なんだから、大丈夫に決まっている」ということだった。
 代わりに、美智子さんが、検査結果を聞きに行った。

IMGP0708_convert_20110901181831.jpg
(嶋橋美智子さん 8月18日 郡山市内)
 
 「そこで、『白血病です』っていわれたの。
 だけど、『へ? 白血病ってどんな病気ですか? でもガンじゃないんでしょう。ガンならガンってつくでしょう。違う病気でしょ』って立ち上がっちゃった。
 そしたら『いえ違います。血液のガンです』と。
 そう言われてもピンと来ない。『なに? 夏目雅子さんと同じ病気? 』ぐらいしかわからない。どういう治療法があるのか、静養したらいいのか、手術をしたらいいのか。何もわからない」。
 


膨らむ疑問


 白血病とわかってから、伸之さんは、最初の1年間、浜松医大病院に通院した。通院には、2時間半かかった。
 ところが、伸之さんは、通院の際いつも、年休をとっていた。
 美智子さんは、「ちょっと変だねえ。職場でケガをしたら、労災でしょう。白血病もそういうことではないのかしら」。
 美智子さんの疑問はそういうところから始まった。
 さらに、美智子さんの疑問は膨らむ。
「でも変ねえ。原発に勤めていて白血病になるというは、チェルノブイリに似ているねえ」。



卑劣な隠蔽工作
 

 疑問が膨らむ中、美智子さんは、伸之さんには言わないで、会社に、「息子は白血病ですけど」と告げた。
 すると、会社の態度は、「もう一を聞いて十を知るで、『これは大変だ』」と。
 さらに、美智子さんが、労災のことに触れると、会社は、それは困るという態度だった。そして、「入院費は会社で払います」とか、自分の骨髄の移植をするというやり方があるという話を会社にすると、「会社と病院が通じていて、あっという間に、400万もする器材も買って、担当の医者も決めるという素早さ」。
 会社は、伸之さんが、原発内の作業で被ばくし白血病になったということをなんとか隠そうとしていたのだ。



骨髄が採れない


 伸之さんは、自分の骨髄の移植という治療をやろうとして入院したが、すでに脾臓が腫れていて、骨髄をとれる状態ではなかった。
 そこで、やむなく血液を抜いて保存することだけを行った。それは、白血病が、血液の病気で、大量に出血するからだった。
 「本人は、骨髄を抜いたと思っていて、いつか骨髄液で治療してもらおうと希望をもっていたんだろうね。それができない理由は、家族の私たちだけは知っていたけど…」
 すでに手遅れで、抜本的な治療ができない状態だった。そして、日に日に状態は悪くなっていった。



80キロから50キロ


 血液の病気のため、全身のどこでも腫れてしまう。
 「顔の片側が腫れていたの。私は、『どうしたの? ケンカしたの? こんなに腫れて』と訊いてしまった。
 本人は『ケンカなんかしてないよ』という。
 『どうしたの? って訊いたりして、白血病のことを知らないからね。あとで考えたらかわいそうなことを訊いていた」。
 全身が痛くてたまらない状態。ベッドに触れだけで、振動で痛がった。
 歯茎からの出血も止まらない。ふいてもふいてもあふれてくる。血がにじんだ脱脂綿の袋がいくつもできた。そして、血のにじんだ脱脂綿の重さを量って、その分を輸血するということを繰り返した。
 伸之さんは、入院半年で、80キロあった体重は50キロ台に激減。

IMGP0715_convert_20110901182331.jpg

 「私に甘えず、世話を焼くと怒っていた伸之が、亡くなる数時間前、ぎゅっと私の手を握ったんです。そして私の顔のマスクを一生懸命ずらそうとする。無菌室だからと元に戻しても、マスクをずらすのをやめなかった。最期に私の顔が見たかったんでしょうか…」 
 91年10月20日、白血病発症から2年で、伸之さんは亡くなった。享年29歳。




だんだん腹が立ってきて



医者も会社と一体


 あとでわかったことだが、白血病と診断される1年半前、会社の健康診断で、白血球数が1万3800個/ミリ立方メートルという数字を記録していた。
 成人の白血球の正常値は4千~8千個/ミリ立方メートル。異常に高い数字だ。
 現場作業員には、定期的な健康診断が行われる。白血球数に異常があれば、医者は、「異常あり」と判定しなければならない。そして、ただちに現場作業から外れ、治療を受けるような措置がとられなければならない。
 ところが伸之さんの健康診断の結果の判定は「異常なし」。そしてその判定のために、伸之さんは、体調不良を訴えながら、働かせ続けられた。
 医者が、会社と一体となっていたのだ。



労災にはしないでくれ


 伸之さんの葬儀の翌週から、会社が交渉にやってきた。
 「『労災に見合った同じような計算方法で2700万円になるから、あとプラス300万円で、3000万円をお宅にあげる。だから、労災はしないでくれ。労災なんていうのはめったに下りるもんじゃないから』と。
 『お金をくれ』ともいわないのに、向こうから『お金をあげる』というわけ」
 それで周囲に相談したら、「孫請け会社で金を出すというのだから、もらった方がいいよって」。
 美智子さんは、伸之さんが亡くなってから2カ月後の12月には、「はい、わかりました。受けとります」とサインをした。

 美智子さんは、サインした覚書に目を通した。
 「『甲が…、乙が…』と書いてある書類を読むと、結局、『労災はもらわないけど、3千万もらったから、もう労災はしないで、一切、文句はいわない、3千万を受け取ってこれで終わりにしてくれ』ということが書いてある。
 それを守っていた。
 だけど寂しい。『ああ、息子の命って、3千万円だったのか…』って泣いて。
 それに『一切の文句を言ってはいけない』とあるけど、どんな文句があるんだろう―とも考えた。
 まだわからないわけですよ。反原発でもないし、現場の仕事を知っているわけでもないし」。
 
 いろいろ思い悩む内に、美智子さんは、会社の黒い意図を見抜いていった。
 「会社が言っていることは、結局、『息子さんは、そんな放射線を浴びたわけではない。放射線を浴びたから白血病になったわけではない。だけど長男が亡くなってかわいそうだから、《みなし》で認めてあげましょう。労災とおなじような額をあげますよ』というここと。
 会社としては、労災を申請されたら、会社のボロとか、悪いことがばれてしまうから、それでお金で解決ということでしょ。それで3000万円をくれたわけ」。

IMGP0694_convert_20110901182849.jpg



労災制度は労働者のためにある


 美智子さんは、息子さんの死、一人の人間の命を、こんなに簡単に、金で始末をつけてしまおうとする会社のやり方にやり切れない思いが募り、やがて労災申請の闘いに立ち上がっていく。

 「私がお金くれって言ったわけではないのに3千万くれて、でも3千万って人の命かとか考えて、たんだんと寂しくなって…。
 それで、私は考えたの。
 会社の仕事をやって死んだのだったら、会社からお金をもらって当然だと。
 だけど、労災制度というのは、労働者のためにあるものなんだから、労災をもらう方が正規なんではないか。会社からそのお金をもらう理由は、なんいじゃないかなと」。

美智子さんは、伸之さんの死後、会社の同僚や友人らに、伸之さんのことを尋ねて回っいた。しかし、やり切れない気持ちが収まるような話はなかなか聞けなかった。そういう中で、平井憲夫さん(原発の被ばく労働を告発した現場労働者 故人)を知り、さらに平井さんから、藤田祐幸さん(慶応大助教授 当時)を紹介される。
「『先生、原発っていうのはどういうところが危ないんですか? どんな風にして電気をつくっているんですか?』って、イロハのイの字から訊いた。本をくれるから、それを読んで、普通のおばさんには、わかないんだけど。
 それから、藤田先生に、『会社の仕事で死んだんだから、労災をもらうべきではないか』と訊いたら、先生は、『当然、そうだ』と。
 そして、平井さんに、『放射線管理手帳をもらいなさい』と言われて、そうかって」。



ウソが書かれていた放射線管理手帳


 美智子さんが、放射線管理手帳の返還を求めたら、なかなか返そうとしない。問い合わせてみると…。
 「『被ばく労働者って、手帳があるはずだからそれを返してくれ』っていったら、『いまちょっと訂正中だから』って言う。『訂正って、どういうこと? 言葉の間違い?』。
 そしたら本当に訂正中だった。東京に天下りのビルがあってそこで」。

 伸之さんの放射線管理手帳は、中部電力の下請け会社・中部プラントサービスが発行、その下請けだった伸之さんの会社で、在職中は保管されていた。ところが、伸之さんが亡くなってから、「放射線従事者中央登録センター」(東京都千代田区)に送られているという。
放射線業務に従事する者には、全国各地にある放射線管理手帳発効機関から放射線管理手帳が発行される。作業者は、この手帳を持参して、原子力施設で放射線業務に従事する。この手帳には、全国共通の中央登録番号が付番され、個人を識別する項目、被ばく歴、健康診断、放射線防護教育歴等が記載されている。
 原子力施設で放射線業務に従事した後は、その原子力施設から被ばく線量などが、放射線従事者中央登録センターの電算機に登録され、管理される。
 ―制度としては、こういうことになっている。

 伸之さんが亡くなってから半年後、漸く放射線管理手帳が戻ってきた。
 「はじめは全然わからなかったけど、読んでいるうちに、息子が10月20日に死んだけど、訂正が10月21日に7カ所もある。『なんで、死んだ次の日に訂正してあるの?』って」
 訂正は、赤字や印鑑で行われ、30カ所以上も被ばく線量などが訂正されていた。
「Yという印を消して、Nに訂正している。
 Yは、現場に行っていい。Nはダメ。
 息子は病気だから現場に行ってはいけないはず。Nにしなければならないのに、最初に書かれているのはY。それを死んでから、Nに訂正している。
 あるいは、『安全教育を受けた』と書いているのを消して、『受けてない』に訂正している。39度、40度の熱で苦しんでいるときに、浜岡で安全教育を受けたという判子が押してある。
 『どういうこと?』って思った。
 分からないながらも、分かる部分を見ていると、だんだん腹が立ってきて…」
 この杜撰さと不正に美智子さんは憤り覚える。
「本人は生きるか死ぬか、毎日、病院で苦しんでいるのに、放射線管理手帳の上では、元気な人間として扱われ、死ぬその日まで会社で働いていたことになっていた。
 その手帳は、本人も私たちにも見せないで、会社が保管している。
 本当は、自動車免許のように自分がもってなければいけないのに。
 会社の事務員が預かっているという形になって、本人や家族には、そんなものがあるということもあんまり知らせない」。

嶋橋さんの放管手帳
(伸之さんの放射線管理手帳。
 YがNに書き換えられている)

 美智子さんは、抗議の行動に立ち上がる。
 「中部電力に、藤田先生たちとねじ込みに行った。
 村上労働大臣(当時)のところにも。『なんでこんなインチキをやるんだ』って。弁護士の海渡先生(海渡雄一 各地の原発関係の訴訟にかかわっている)と追及に行った。
 静岡の新聞では1面だけど、東京ではほんの2、3行。みんな隠されていた」。


 
克明な記録を残したノート


 伸之さんが亡くなって半年後、会社にあった遺品が、両親の下に届けられた。伸之さんの使っていた机の引き出しにあった、歯ブラシやタバコの残り、封を切った給料袋など。
 そんな中に、黄ばんだノートがあった。伸之さんは、生前、浜岡原発での作業の様子を書き留めていた。2冊は研修ノート、3冊は1988~90年の間の作業日誌。
「会社の日誌ではなく、自分の作業のことをメモにしていた。
 短い文章だけど、『こうやったけど動かなかった』とか、『今度はこうしてみた』とか。『何々交換をした』というのも、難しい言葉だけど、『こうしたものを何々交換と言う』と勉強して解説をしている。
 会社はそんな大事なものだと思っていないから、歯ブラシやタバコといっしょに返してきた」。

 美智子さんは、このノートを藤田佑幸さんに見てもらった。
 藤田さんは、そのときの驚きをマスコミに次のように語っている。
 「あれほど詳細な記録は見たことがなかった。言葉も出なかった。研修ノートには作業内容や装置の説明、用語集もあり、作業日誌には、いつ、どこで、どんな仕事をしていたか克明に書かれていた。
 それらの資料を突き合わせ、半年ほど分析に費やした。すると、何日もかけて装置の微調整を繰り返すなど、現場の状況がありありと浮かんできた。
 原発は、コントロール室からコンピューターですべて制御している印象を、私自身も持っていた。でも実際は、最も大切な整備や検査は、伸之さんのような下請け作業員の手に頼っている。そうしなければ、原発は動かない。
 自分の責任を果たすため、誇りを持って働いている人が、被ばくし続けている」



それならはっきりさせよう 



 美智子さんは、93年5月、磐田労働基準監督署(静岡県磐田市)に労災認定を申請した。
 労災申請を心に決めたときの心境を、美智子さんは次のように語った。
 「会社と交わした覚書に、『3千万もらったのに、また労災を申請したら、2つもらうことになるから、3千万は返してもらう』という条件が書いてある。
 私は、2つももらいたくてやるんじゃない。それなら、労災で、イェスかノーかがはっきりさせようと。本当に職場で病気になって死んだのなら労災が認められるし、そうじゃなかったなら労災は降りないのだから。
 それで、藤田先生と海渡先生、私と主人で、労災書類を出した。
 署名運動もはじまった。40万筆。リアカーで運んだ」。



法定限度と労災基準の乖離

 
 伸之さんの累積被ばく線量は8年10カ月間で50・63ミリシーベルト。
 年間にすると、約5・75ミリシーベルト。会社は、そんなに浴びせてないから会社の責任ではないという。

 藤田祐幸さんは、伸之さんの被ばく歴と、浜岡原発の運転状況を比べてみた。
 放射線管理手帳には、月ごとに被ばく線量が記されている。高い被ばく線量が記録されている月と、原子炉の定期検査時期とが重なっていた。
 原発は、原子炉を止めて、数カ月がかりで定期検査をする。定期検査の間の被ばく線量が跳ね上がっていた。年間被ばく線量は、入社5年目から5ミリシーベルトを超えて増加し、87年度の年間9・8ミリシーベルトがピーク。

 法令で定められた放射線作業従事者の年間被ばく限度50ミリシーベルト。それに比べれば、たしかに伸之さんの被ばく線量はかなり低い。
 しかし、労災申請を支援した海渡雄一弁護士は、「8年10カ月の作業、計50・63ミリシーベルトの被ばく線量は、労災の認定基準を満たしている。認められる自信はあった」。
 放射線被ばく者にたいする白血病の労災認定基準は、76年に労働基準局長通達として出された。①相当量の被ばく、②被ばく開始後少なくとも1年を超える期間を経ての発病、③骨髄性白血病またはリンパ性白血病であること―の3要件を定めている。相当量の被ばくは、「5ミリシーベルト×従事年数」と解説で明記している。
 伸之さんの場合、8年10カ月の作業なので、相当量の被ばくとは、約44ミリシーベルト。実際の被ばく量は、約6ミリシーベルト上回っていた。

 94年7月末、磐田労基署は申請を認め、「原発での被ばくと病気に因果関係があるとみられる」と判断した。
 しかし、この認定にたいして、中部電力は、「法定の年間被ばく限度50ミリシーベルト以下で、認定は、被ばくと病気に直接的な因果関係があることを意味していない」との見解を繰り返した。
 法定の年間被ばく限度50ミリシーベルトとは、会社の側の論理であり、殺人的な基準なのだ。そして法定限度と労災認定基準のダブルスタンダードに労働者は苦しめられているのだ。
 


原発に負けてはいられない

IMGP0700_convert_20110901183719.jpg

 最後に、美智子さんは、福島第一原発事故によって放射能がまき散らされている現実に怒り、そして原発に負けてはならないと敵愾心を強く訴えて、講演を締めくくった。
「自然災害は、月日をかけて人間が頑張ったら復興できる。
 しかし放射能は、下手をすると人間が負けてしまうかも知れない。
 私はこういう辛い思いをしたから、もう苦しければ苦しいほど、原発に負けれてはいられないと思う。
 この辛い思いは、必ずどこかで取り返す。
 こんなところで人間は負けていられない。そのファイトということを言いたく、今日はきたんです」。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
★嶋橋美智子さんの著書

     『息子はなぜ白血病で死んだのか』

                 1999年2月刊  技術と人間

 










第一原発で白血病死



 嶋橋美智子さんの講演をブログにアップする直前に以下のような報道があった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<急性白血病> 福島第1原発作業員が死亡 東電が発表

             毎日新聞 8月30日(火)13時00分配信

 東京電力は30日、福島第1原発で作業に携わっていた40代の男性作業員が急性白血病で死亡したと発表した。外部被ばく量が0・5ミリシーベルト、内部被ばく量は0ミリシーベルトで、松本純一原子力・立地本部長代理は「医師の診断で、福島での作業との因果関係はない」と説明した。

 東電によると、男性は関連会社の作業員で8月上旬に約1週間、休憩所でドアの開閉や放射線管理に携わった。体調を崩して医師の診察を受け急性白血病と診断され、入院先で亡くなったという。東電は16日に元請け企業から報告を受けた。事前の健康診断で白血球数の異常はなく、今回以外の原発での作業歴は不明という。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 危惧されていたことがついに起こったと言うことではないのか。まともに調査もしていないのに、なぜ即座に、「福島での作業との因果関係はない」などと言えるのか。
 情報が統制されて、これ以上、知ることができないが、このひとりの労働者の死を見過ごすことはできない。



テーマ:東北関東大震災 - ジャンル:ブログ

  1. 2011/09/01(木) 18:49:21|
  2. 収束作業/原発労働者
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。